所有者不明土地とは?社会的問題と個人への影響
「隣の土地の所有者が分からない」「相続した土地を放置してしまっている」という状況は、決して他人事ではありません。
この記事では、所有者不明土地の定義・発生原因・社会的問題、2024年から始まった相続登記義務化と新制度を、国土交通省・法務省の公式情報を元に解説します。
自分の土地を不明化させないための対策も具体的に提示します。
この記事のポイント
- 所有者不明土地は国土の約22%、2040年には720万ha(九州の面積超)に達する見込み
- 発生原因は相続登記の放置、住所変更未登記、共有者多数化等
- 2024年4月施行の相続登記義務化により、相続を知った日から3年以内に登記が義務、過去の相続も2027年3月31日までに要登記
- 新制度として所有者不明土地管理制度、相続土地国庫帰属制度、2026年から住所変更登記の義務化が開始
- 自分の土地を不明化させないため、相続登記の実施、住所変更登記、遺言作成が重要
所有者不明土地とは?定義と現状
所有者不明土地は、不動産登記簿を確認しても所有者が分からない、または所有者は判明しているが所在が不明で連絡がつかない土地です。
国土交通省によると、所有者不明土地は国土の約22%を占め、2040年には720万ha(九州の面積超)に達する見込みです。
なぜ所有者が分からなくなるのか
所有者不明土地が発生する主な原因は以下の通りです。
- 相続登記の放置: 相続が発生しても登記を怠り、世代を経るごとに相続人が増加・散逸
- 住所変更未登記: 所有者が転居しても住所変更登記を怠り、連絡がつかなくなる
- 共有者多数化: 相続を繰り返すことで共有者が数十人に増加し、全員の所在確認が困難になる
所有者不明土地が引き起こす社会的問題
所有者不明土地は、個人だけでなく社会全体に影響を及ぼします。
公共事業の遅延
道路・ダム等の公共事業で用地買収が必要な際、所有者が不明だと交渉ができず、事業が遅延します。国土交通省の調査では、公共事業の約2割で所有者不明土地が障害となっています。
土地の管理不全
所有者不明土地は管理されず、雑草・ゴミの放置、建物の老朽化等が発生します。周辺住民の生活環境を悪化させるだけでなく、防災・防犯上のリスクにもなります。
固定資産税徴収困難
所有者が不明だと、市町村が固定資産税を徴収できません。税収減少により、公共サービスの維持に支障が出る可能性があります。
2024年施行の相続登記義務化|3年以内の登記が必須
所有者不明土地の発生を防ぐため、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
義務の内容と罰則
法務省によると、以下の通りです。
- 相続を知った日から3年以内に登記が義務
- 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料
過去の相続も対象
相続登記義務化は過去の相続にも遡及適用されます。2024年4月1日以前の相続でも、2027年3月31日までに登記しないと過料が科されるリスクがあります。
例えば、1980年に父親から相続した土地を放置している場合、2027年3月31日までに登記する必要があります。
相続人申告登記(簡易な手続き)
相続人全員で遺産分割協議がまとまらない場合、「相続人申告登記」という簡易な手続きで義務を果たすことができます。自分が相続人であることを申告し、登記簿に氏名・住所を記載する制度です。
新制度:所有者不明土地管理制度と相続土地国庫帰属制度
所有者不明土地の利用・管理を促進するため、2023年に新制度が施行されました。
所有者不明土地管理制度(2023年4月1日施行)
裁判所が不明土地に管理者を選任し、管理・売却を可能にする制度です。利害関係人(隣地所有者等)が申立可能ですが、予納金負担が必要です。
相続土地国庫帰属制度(2023年4月27日施行)
相続で取得した土地を国庫に帰属(手放す)できる制度です。審査手数料(1.4万円/筆)と負担金(原則20万円/筆)が必要です。
ただし、要件が厳格で以下の場合は対象外です。
- 建物がある土地
- 担保権が設定されている土地
- 境界が明らかでない土地
- 所有権を争いのある土地
住所変更登記の義務化(2026年4月1日施行予定)
所有者が転居した際、2年以内に住所変更登記が義務となります。正当な理由なく怠ると5万円以下の過料です。所有者不明化の予防措置として重要です。
自分の土地を不明化させないための対策
所有者不明土地にしないためには、以下の対策が有効です。
①相続登記の実施(3年以内)
相続が発生したら、3年以内に相続登記を実施してください。遺産分割協議がまとまらない場合は、相続人申告登記で義務を果たすことができます。
②住所変更登記(2026年から義務化)
転居した際は、2年以内に住所変更登記を行ってください。2026年4月1日から義務化されます。
③遺言作成(相続人の負担を減らす)
遺言を作成しておくことで、相続人が遺産分割協議で揉めるリスクを減らせます。公正証書遺言が確実です。
④相続土地国庫帰属制度の活用(利用価値がない土地)
相続した土地が利用価値がなく、管理負担が重い場合は、相続土地国庫帰属制度の活用を検討してください。要件が厳格なため、事前に法務局に相談することをおすすめします。
隣地が不明土地の場合の対処法
隣地が所有者不明土地の場合、以下の手続きで対処できます。
所有者不明土地管理制度の申立
裁判所に所有者不明土地管理制度の申立を行い、管理者を選任してもらいます。管理者が選任されれば、隣地の管理・売却が可能になります。
ただし、申立人が予納金(数十万円~数百万円)を負担する必要があり、利用や売却のハードルは依然として高いです。
市町村の空き地対策条例
市町村によっては、空き地対策条例で所有者不明土地の管理を市町村が代行する場合があります。市町村の都市計画課に相談してください。
まとめ|相続登記義務化で所有者不明土地を防ぐ
所有者不明土地は国土の約22%を占め、2040年には720万haに達する見込みです。発生原因は相続登記の放置、住所変更未登記、共有者多数化等です。
2024年4月施行の相続登記義務化により、相続を知った日から3年以内に登記が義務となりました。過去の相続も2027年3月31日までに登記する必要があります。
新制度として所有者不明土地管理制度、相続土地国庫帰属制度、2026年から住所変更登記の義務化が開始されます。
自分の土地を不明化させないため、相続登記の実施、住所変更登記、遺言作成を行ってください。不明点は法務局や司法書士に相談しましょう。
