不動産所得の確定申告とは:誰が何を申告するのか
賃貸物件のオーナーになったものの、「確定申告の書き方が分からない」「青色申告と白色申告の違いは何か」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、不動産所得の確定申告に必要な書類、青色申告と白色申告の違い、収支内訳書・青色申告決算書の記入方法を、国税庁の公式情報を元に解説します。
初めて確定申告をする方でも、必要な書類を準備し、正確に記入できるようになります。
この記事のポイント
- 不動産所得は総収入金額-必要経費で計算され、年間20万円超で確定申告が必要
- 青色申告は事前申請により最大65万円控除、赤字の3年繰越等のメリットがあるが、複式簿記が必要
- 白色申告は簡易な帳簿で可能だが、特別控除や家族給与の全額経費化は不可
- 収支内訳書(白色申告)と青色申告決算書(不動産所得用)の記入手順をステップ形式で理解することが重要
青色申告と白色申告の違い:どちらを選ぶべきか
青色申告と白色申告は、特別控除額・家族給与の経費化・帳簿の複雑さで大きく異なります。
青色申告のメリット(最大65万円控除、赤字繰越、家族給与)
青色申告の3つの大きなメリットは以下の通りです。
① 最大65万円の特別控除
- 事業的規模(アパート10室以上または戸建て5棟以上)で複式簿記・e-Tax利用の場合: 65万円控除
- 事業的規模だが複式簿記なし、またはe-Tax未利用の場合: 55万円控除
- 事業的規模でない場合: 10万円控除
② 赤字の3年間繰越
- 不動産所得が赤字の場合、翌年以降3年間にわたり黒字と相殺可能
- ただし土地取得の負債利子は損益通算の対象外(重要な注意点)
③ 家族給与の全額経費化
- 青色事業専従者給与の届出をすれば、家族への給与を全額経費化可能
- 白色申告では専従者控除として配偶者86万円、他の親族50万円までが上限
白色申告の特徴と適用条件
白色申告は青色申告の承認を受けていない納税者の申告方式です。
特徴
- 簡易な帳簿で可能(現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳)
- 特別控除なし
- 専従者控除は配偶者86万円、他の親族50万円まで
適用条件
- 青色申告の承認を受けていない
- 事業的規模でない場合は、青色申告より手続きが簡単
事業的規模の判断基準(10室または5棟)
事業的規模の判断基準は、アパート10室以上または戸建て5棟以上が目安です。
| 事業的規模 | 青色申告特別控除 | 専従者給与 |
|---|---|---|
| あり(10室または5棟以上) | 最大65万円 | 全額経費化可 |
| なし | 最大10万円 | 適用不可 |
事業的規模でない場合は、青色申告特別控除が10万円までに制限され、専従者控除も適用不可となります。
青色申告承認申請書の提出期限は、新規事業の場合は開始日から2か月以内、既存事業の場合は青色申告を受けたい年の3月15日までです。期限を過ぎると翌年からの適用となるため、早めに税務署へ提出してください。
確定申告に必要な書類と準備
必要書類を3つのカテゴリーに整理します。
収入関係の書類(賃貸契約書、家賃入金記録)
① 賃貸契約書
- 賃貸借契約書のコピー(賃料・契約期間・敷金礼金の記載を確認)
② 家賃の入金記録
- 銀行通帳のコピー(家賃振込の記録)
- 現金受領の場合は領収書
③ 礼金・更新料の領収書
- 礼金・更新料・共益費等の受領額を証明する書類
経費関係の書類(領収書、固定資産税通知書、修繕費見積書)
① 固定資産税通知書
- 市区町村から送付される固定資産税・都市計画税の通知書
② 修繕費・管理費の領収書
- 修繕費・管理費・清掃費等の支出を証明する領収書
③ 減価償却資産の取得明細
- 建物の取得価額・取得時期・構造(木造・鉄筋コンクリート等)を確認できる書類
その他の書類(借入金返済予定表、マイナンバーカード等)
① 借入金の返済予定表
- 金融機関から送付される返済予定表(元金・利息の内訳を確認)
② マイナンバーカード
- e-Taxでの提出に必要(ICカードリーダーまたはスマホで認証)
③ 源泉徴収票(給与所得者の場合)
- 給与所得と不動産所得を合算して申告
書類の保管期間は、青色申告7年、白色申告5年です。領収書・契約書等は期間内に適切に保管してください。
収入と必要経費の範囲:何が含まれるか
不動産所得は、総収入金額-必要経費で計算されます。国税庁によると、計算式は以下の通りです。
不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費
総収入金額に含まれるもの(家賃、礼金、更新料、駐車場代等)
総収入金額に含まれるものは以下の通りです。
- 家賃(月額賃料)
- 礼金(返還不要な部分)
- 更新料
- 共益費・管理費
- 駐車場代
- 敷金・保証金のうち返還不要な部分
敷金・保証金は、返還不要な部分(敷引き・償却分)のみが収入となります。返還する部分は預かり金のため収入に含まれません。
必要経費に含まれるもの(固定資産税、修繕費、減価償却費等)
国税庁によると、必要経費として認められるものは以下の通りです。
- 固定資産税・都市計画税
- 火災保険料・地震保険料
- 修繕費(外壁塗装・屋根修理等)
- 減価償却費(建物の取得価額を耐用年数で按分)
- 管理費・清掃費
- 水道光熱費(共用部分)
- 借入金利子(建物取得分のみ)
- 広告宣伝費(入居者募集の費用)
経費に含められないもの(家事費、土地取得の負債利子)
重要な注意点として、以下は経費に含められません。
① 家事上の経費
- 家事上の経費と明確に区分できないものは認められない
- 水道光熱費は共用部分のみが経費
② 土地取得の負債利子
- 不動産所得が赤字の場合、土地取得の負債利子は損益通算の対象外
- 建物取得の負債利子は経費として認められる
この点は非常に重要で、見落とすと税務署から指摘を受ける可能性があります。
収支内訳書(白色申告)の書き方
収支内訳書(不動産所得用)の記入手順をステップ形式で解説します。国税庁の令和6年分記入手順書を参照してください。
賃貸料・礼金の記入方法
ステップ1: 賃貸料欄
- 家賃収入の月別・年間合計を記入
- 共益費・管理費も含める
ステップ2: 礼金・更新料欄
- 受領時期と金額を記入
- 返還不要な敷金・保証金も含める
減価償却費の計算と記入
ステップ3: 減価償却費
建物の取得価額を耐用年数で按分します。
| 構造 | 耐用年数 |
|---|---|
| 木造 | 22年 |
| 鉄骨造(4mm超) | 34年 |
| 鉄筋コンクリート造 | 47年 |
計算方法は定額法が一般的です。
計算例:
- 木造住宅の取得価額: 2200万円
- 耐用年数: 22年
- 減価償却費: 2200万円÷22年 = 100万円/年
賃借人情報の記載
ステップ4: 賃借人情報
- 賃借人の氏名(法人の場合は法人名)
- 物件の所在地
- 月額賃料
国税庁の記入例(令和6年分)を参考に、正確に記入してください。
青色申告決算書(不動産所得用)の書き方
青色申告決算書(不動産所得用)は、収支内訳書よりも詳細な記載が必要です。
損益計算書の記入(収入・経費の詳細)
収入
- 賃貸料、礼金、更新料、駐車場代等を月別に記入
経費
- 固定資産税、修繕費、減価償却費、管理費、水道光熱費、借入金利子等を月別に記入
貸借対照表の記入(複式簿記が必要)
資産
- 建物、預金、未収金等を記載
負債
- 借入金、未払金等を記載
資本
- 元入金(事業開始時の資本)、青色申告特別控除前の所得金額
複式簿記が必要なため、会計ソフト(freee、弥生、マネーフォワード等)の活用を推奨します。
青色申告特別控除額の記入(10万円または65万円)
控除額
- 事業的規模で複式簿記・e-Tax利用: 65万円
- 事業的規模で複式簿記・e-Tax未利用: 55万円
- 事業的規模でない、または簡易簿記: 10万円
控除額を「青色申告特別控除額」欄に記入します。
確定申告書Bの記入とe-Taxでの提出
確定申告書Bの「不動産所得」欄の記入
ステップ1: 不動産所得欄
- 収支内訳書または青色申告決算書で計算した不動産所得の金額を転記
ステップ2: 所得控除欄
- 社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除等を記入
ステップ3: 税額計算
- 所得税額を計算し、源泉徴収税額との差額を納付または還付
e-Taxでの提出方法(マイナンバーカード方式)
e-Taxでの提出方法は以下の通りです。
準備
- マイナンバーカードとICカードリーダーまたはスマホ
- 利用者識別番号の取得(初回のみ)
提出手順
- 国税庁の確定申告書等作成コーナーにアクセス
- マイナンバーカードで認証
- 収支内訳書または青色申告決算書、確定申告書Bを入力
- 送信
提出期限は翌年2月16日~3月15日です。期限を過ぎると延滞税が発生するため、早めに準備してください。
まとめ:確定申告をスムーズに進めるポイント
不動産所得の確定申告をスムーズに進めるポイントを再確認します。
①早めに書類を準備し、収入・経費の記録を日常的に整理すること、②青色申告のメリット(最大65万円控除、赤字の3年繰越、家族給与の全額経費化)を活用するため、事前申請(3月15日まで)を忘れないこと、③会計ソフトやe-Taxで効率化すること、④複雑な場合は税理士に相談すべきです。
特に土地取得の負債利子は、不動産所得が赤字の場合に損益通算の対象外となる重要な注意点を理解してください。
次のアクションとして、青色申告承認申請書の提出(新規事業は開始日から2か月以内、既存事業は3月15日まで)、会計ソフトの導入検討、税務署または税理士への相談を提示します。
信頼できる税理士と相談しながら、正確な確定申告を行いましょう。
