不動産鑑定評価基準とは?評価方法の3つの手法と活用

公開日: 2025/10/27

不動産鑑定評価基準とは|国土交通省が定める統一基準

不動産の売却、相続、M&A等を検討する際、「この不動産の適正価格はいくらなのか」と悩む方は少なくありません。

この記事では、不動産鑑定評価基準の3つの評価手法(原価法・取引事例比較法・収益還元法)、鑑定評価が必要な場面、費用相場を、国土交通省の公式情報を元に詳しく解説します。

初めて不動産鑑定評価を依頼する方でも、評価方法の仕組みと活用シーンを正確に理解できるようになります。

この記事のポイント

  • 不動産鑑定評価基準は国土交通省が定める統一基準で、不動産鑑定士が遵守
  • 3つの評価手法: 原価法(建物)、取引事例比較法(土地・中古マンション)、収益還元法(賃貸・投資用不動産)
  • 鑑定評価が必要な場面: 相続・贈与、M&A、裁判、担保評価、公共事業等
  • 費用相場は20~50万円程度(物件規模・難易度により変動)
  • 簡易査定(不動産業者)と鑑定評価の違いを理解して使い分けることが重要

不動産鑑定評価の定義と不動産鑑定士の役割

国土交通省の不動産鑑定評価ポータルサイトによると、不動産鑑定評価とは「不動産の経済価値を判定し、その結果を価額で表示すること」です。

不動産鑑定評価の特徴:

  • 国家資格を持つ不動産鑑定士のみが業として行える
  • 不動産鑑定評価基準(令和6年5月1日一部改正版)に基づいて評価
  • 鑑定評価額は適正価格の判定であり、実際の売買価格とは異なる場合がある

不動産鑑定士の役割

不動産鑑定士は、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に従い、客観的かつ公正に不動産の価値を評価します。鑑定評価書は公的・法的な場面で証明資料として使用できるため、相続税申告、裁判、M&A等で求められます。

簡易査定との違い

不動産業者が提供する無料査定(簡易査定)は、売却目安の価格を提示するものであり、法的効力はありません。一方、不動産鑑定士による鑑定評価書は、公的機関や裁判所に提出できる正式な証明資料です。

項目 不動産鑑定評価 簡易査定(不動産業者)
実施者 不動産鑑定士(国家資格) 不動産業者
費用 20~50万円程度 無料
法的効力 あり(公的・法的に使用可) なし(売却目安)
用途 相続、M&A、裁判、担保評価等 売却活動の参考

3つの評価手法|原価法・取引事例比較法・収益還元法

日本不動産研究所の解説によると、不動産鑑定評価には3つの基本的な手法があります。

原価法:再調達原価から減価修正(建物評価)

原価法は、同じ建物を現時点で新築する場合の費用(再調達原価)から、経年劣化や耐用年数を考慮して減価修正を行う手法です。主に建物の評価に使用されます。

計算式:

再調達原価 - 減価修正 = 建物の評価額

具体例:

  • 木造住宅(築10年)を評価する場合
  • 再調達原価(同じ建物を新築する費用): 2,000万円
  • 耐用年数: 22年
  • 経過年数: 10年
  • 減価修正: 2,000万円 × (10年 ÷ 22年) = 約909万円
  • 建物の評価額: 2,000万円 - 909万円 = 約1,091万円

原価法は、建物の現在価値を客観的に算出できるため、担保評価や相続税評価で広く使われます。

取引事例比較法:類似物件の取引事例を比較(土地・中古マンション)

取引事例比較法は、類似する物件の取引事例を収集し、立地・築年数・面積等の条件差を調整して価格を算出する手法です。主に土地や中古マンションの評価に使用されます。

評価のステップ:

  1. 類似物件の取引事例を収集
  2. 取引時期の補正(物価変動、市況変化を調整)
  3. 事例修正(売り急ぎ、買い急ぎ等の特殊事情を調整)
  4. 地域要因・個別要因の比較(立地、面積、形状等の違いを調整)

具体例:

  • 評価対象: 住宅地の土地(面積100㎡、駅徒歩10分)
  • 取引事例: 近隣の土地(面積120㎡、駅徒歩8分)が3,600万円で取引
  • 面積補正: 3,600万円 × (100㎡ ÷ 120㎡) = 3,000万円
  • 駅距離補正: 3,000万円 × 0.95(徒歩10分は徒歩8分より5%低い) = 2,850万円
  • 評価額: 約2,850万円

取引事例比較法は、市場の実態を反映した評価ができるため、最も一般的な手法です。

収益還元法:将来の収益を現在価値に換算(賃貸・投資用不動産)

収益還元法は、不動産が将来生み出す収益を現在価値に換算する手法です。主に賃貸物件や投資用不動産の評価に使用されます。

2つの方法:

直接還元法: 1年間の純収益を還元利回りで割る

評価額 = 年間純収益 ÷ 還元利回り

DCF法(Discounted Cash Flow法): 将来の予想収益を割引率で現在価値に換算

具体例(直接還元法):

  • 賃貸マンション(年間家賃収入1,200万円)
  • 年間経費(管理費、修繕費、固定資産税等): 300万円
  • 年間純収益: 1,200万円 - 300万円 = 900万円
  • 還元利回り: 5%
  • 評価額: 900万円 ÷ 0.05 = 1億8,000万円

DCF法は、将来の収益見込みを詳細に評価できるため、長期投資用不動産の評価に適しています。

鑑定評価が必要な場面|相続・M&A・裁判・担保評価等

近鉄不動産の解説によると、不動産鑑定評価が必要な主な場面は以下の通りです。

相続・贈与時の財産評価

相続税や贈与税の申告時、不動産の評価額が必要です。基本的には路線価(または固定資産税評価額)で評価しますが、以下のケースでは鑑定評価を利用することで適正な評価額を申告でき、税額を抑えられる可能性があります。

  • 市街地山林、不整形地等、路線価が実態とかけ離れている場合
  • 相続人間で評価額に争いがある場合
  • 税務署から評価根拠の説明を求められた場合

鑑定評価書を添付することで、客観的な根拠を示せます。

M&A時の資産評価

会社法では、M&A(企業の合併・買収)時に資産の適正な評価が求められる場合があります。特に不動産が資産の大部分を占める企業では、不動産鑑定評価が必須となります。

裁判・調停での財産分与

離婚や相続争い等で裁判・調停を行う場合、不動産の評価額を客観的に示す必要があります。鑑定評価書は裁判所に提出できる正式な証明資料として認められます。

金融機関の担保評価

融資を受ける際、不動産を担保に提供する場合、金融機関は担保価値を評価します。鑑定評価書があることで、融資審査がスムーズに進む場合があります。

公共事業の用地買収

道路拡張、再開発等の公共事業で用地買収が必要な場合、適正な補償額を算定するために不動産鑑定評価が行われます。

鑑定評価の費用相場|20~50万円程度、物件規模・難易度による

HOME4Uの費用相場解説によると、2025年時点で不動産鑑定評価の費用相場は以下の通りです。

正式な鑑定評価書:20~30万円

一般的な住宅(土地・建物)の場合、正式な鑑定評価書の費用は20~30万円程度が目安です。評価額が高い場合や物件規模が大きい場合は、以下のように費用が変動します。

評価額 費用目安
5,000万円以下 20~25万円
5,000万円~1億円 25~40万円
1億円以上 40~70万円

簡易鑑定(調査報告書):正式版より15~20%安

株式会社よつば不動産鑑定の料金表によると、簡易鑑定(調査報告書)は正式な鑑定評価書より15~20%程度安く依頼できます。ただし、裁判や税務申告等では正式な鑑定評価書が求められる場合が多いため、用途を確認してから依頼しましょう。

評価額・物件規模による変動

費用は評価額だけでなく、以下の要因でも変動します。

  • 物件の所在地(都市部か地方か)
  • 物件の種類(土地のみ、建物付き、賃貸マンション等)
  • 評価の難易度(不整形地、権利関係が複雑等)
  • 納期(急ぎの場合は追加料金)

複数の不動産鑑定士事務所に見積もりを依頼し、費用・実績を比較することをおすすめします。

簡易査定との違い|公的・法的に使える鑑定評価と売却目安の簡易査定

不動産鑑定士による鑑定評価と、不動産業者の無料査定(簡易査定)の違いを理解し、用途に応じて使い分けることが重要です。

鑑定評価を使うべき場面:

  • 相続税・贈与税の申告
  • M&A時の資産評価
  • 裁判・調停での財産分与
  • 金融機関の担保評価
  • 公共事業の用地買収

簡易査定を使うべき場面:

  • 不動産の売却を検討する際の目安価格の確認
  • 売却活動前の価格設定の参考
  • 複数の不動産業者の査定額を比較

簡易査定は無料で手軽に利用できるため、売却を検討する際の第一歩として活用し、公的・法的な場面では鑑定評価を依頼するという使い分けが効果的です。

まとめ|鑑定評価の3つの手法と活用シーンを理解しよう

不動産鑑定評価基準は国土交通省が定める統一基準で、不動産鑑定士のみが遵守して業務を行います。3つの評価手法(原価法、取引事例比較法、収益還元法)は、不動産の種類や用途により使い分けられます。

鑑定評価が必要な場面として、相続・贈与時の財産評価、M&A時の資産評価、裁判・調停での財産分与、金融機関の担保評価、公共事業の用地買収等があります。費用は20~50万円程度ですが、公的・法的に使える価値があります。

簡易査定(不動産業者の無料査定)は売却目安の価格を知るには便利ですが、法的効力はありません。用途に応じて、鑑定評価と簡易査定を使い分けることをおすすめします。

不動産鑑定士を探す際は、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会のWebサイトで都道府県別に検索できます。複数の鑑定士事務所に見積もりを依頼し、費用・実績を比較しながら、信頼できる専門家を選びましょう。

よくある質問

Q1鑑定評価額と実際の売買価格はなぜ異なるのですか?

A1鑑定評価額は不動産鑑定士が国土交通省の基準に基づいて算出した適正価格です。一方、実際の売買価格は需給バランス、売り急ぎ・買い急ぎ等の事情、交渉力により変動します。鑑定評価額を参考に売買価格が決まることが多いですが、市況や個別の事情により10~20%程度乖離する場合もあります。鑑定評価額は客観的な価値の判定であり、市場価格を保証するものではありません。

Q2相続税の申告に不動産鑑定評価は必要ですか?

A2基本的には路線価(または固定資産税評価額)で評価しますが、市街地山林、不整形地、権利関係が複雑な不動産等、路線価が実態とかけ離れている場合は、鑑定評価を利用することで適正な評価額を申告でき、相続税を抑えられる可能性があります。鑑定評価書を添付することで客観的な根拠を示せるため、税務署からの問い合わせにも対応しやすくなります。詳細は税理士に相談することをおすすめします。

Q3不動産鑑定士はどこで探せますか?

A3公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会のWebサイト(https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/)で、都道府県別に不動産鑑定士を検索できます。複数の鑑定士事務所に見積もりを依頼し、費用・実績・対応エリアを比較することをおすすめします。また、鑑定評価の目的(相続、M&A、裁判等)を明確に伝えることで、適切な評価手法と費用を提案してもらえます。

Q4DCF法とは何ですか?

A4DCF法(Discounted Cash Flow法)は、収益還元法の一種で、不動産が将来生み出す予想収益を割引率で現在価値に換算する手法です。賃貸物件や投資用不動産の評価に使われ、5年後、10年後の収益見込みを詳細に評価できます。直接還元法(1年間の純収益を還元利回りで割る)よりも精緻な評価が可能ですが、計算が複雑になります。長期的な収益見込みを重視する投資用不動産の評価に適しています。

Q5鑑定評価を依頼する際の注意点は?

A5①複数の鑑定士事務所に見積もりを依頼し、費用・実績を比較する、②鑑定評価の目的(相続、M&A、裁判等)を明確に伝える、③依頼前に報酬体系(評価額による変動、追加料金の有無)を確認する、④不動産鑑定士の資格保持者か確認する、⑤納期を確認する(急ぎの場合は追加料金が発生する場合がある)、ことが重要です。また、鑑定評価書の用途(税務申告、裁判等)により必要な記載事項が異なるため、事前に確認しましょう。