土地賃貸借契約書とは何か、なぜひな形が必要なのか
土地の貸主・借主として賃貸借契約を結ぶ際、「どのような内容を契約書に記載すべきか」「ひな形はどこで入手できるのか」と悩む方は少なくありません。
この記事では、土地賃貸借契約書のひな形と記載すべき重要事項を、法務省等の公式情報を元に解説します。
借地権の種類(普通借地権・定期借地権・事業用定期借地権)による契約書の違い、必須記載事項、作成時の注意点を具体的に説明しますので、契約書作成の参考にしてください。
この記事のポイント
- 土地賃貸借契約書は、土地の貸主と借主が締結する契約書で、後々のトラブル防止のため書面化が必須
- 借地権には普通借地権(更新可能)と定期借地権(更新なし、公正証書必須)があり、契約書の形式が異なる
- 契約書には当事者情報、土地の所在・地積、賃料・存続期間、建物制限、中途解約条件等の必須記載事項がある
- 定期借地権の設定には公正証書作成が法律で義務付けられており、書面がないと無効
- ひな形をそのまま使えるわけではなく、個別事情に応じた調整が必要で、弁護士・司法書士への相談が推奨される
借地権の種類と契約書の違い
土地賃貸借契約を結ぶ際、まず理解すべきは「借地権の種類」です。借地権とは、建物所有を目的とする地上権または土地賃借権のことで(借地借家法第2条第1号)、種類によって契約書の形式が異なります。
普通借地権の契約書(更新可能、借主保護が強い)
特徴:
- 更新可能な借地権
- 存続期間30年以上(初回)、更新後は20年以上(2回目以降は10年以上)
- 地主は正当な理由がない限り更新を拒絶できない
- 借主保護が強く、長期間安定して土地を利用できる
契約書の形式: 書面が推奨されるが、公正証書は不要
定期借地権の契約書(更新なし、公正証書が必須)
一般定期借地権:
- 存続期間50年以上
- 更新なし、期間満了で確実に土地が返還される
- 公正証書による契約が法律で義務付けられている
事業用定期借地権:
- 存続期間10-50年未満
- 事業用(店舗・事務所等)に限定
- 公正証書による契約が法律で義務付けられている
国土交通省によると、定期借地権は期間満了時に確実に土地が返還されるため、地主にとってメリットが大きい制度です。
2022年改正: 法務省により、定期借地権の契約書作成の電子化が認められ、電磁的記録(PDF等)でも公正証書を作成できるようになりました。
土地賃貸借契約書の必須記載事項
契約書に記載すべき事項を分類して解説します。
当事者情報と土地の特定(貸主借主、所在地番、地積)
貸主・借主の情報:
- 氏名(法人の場合は商号)
- 住所(法人の場合は本店所在地)
- 連絡先
土地の特定:
- 所在(〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地)
- 地番
- 地目(宅地・畑・山林等)
- 地積(〇〇平方メートル)
土地の情報は登記事項証明書の記載に従って正確に記入してください。
賃貸借の条件(用途、存続期間、賃料、更新料)
賃貸借の目的(用途):
- 居住用(住宅を建てるため)
- 事業用(店舗・事務所を建てるため)
- 駐車場用
用途を明確にすることで、後々のトラブルを防げます。
存続期間:
- 普通借地権: 30年以上
- 一般定期借地権: 50年以上
- 事業用定期借地権: 10-50年未満
賃料:
- 月額賃料(例: 月額10万円)
- 支払時期(例: 毎月末日までに翌月分を支払う)
- 支払方法(例: 貸主指定の銀行口座に振込)
権利金・更新料:
- 権利金の有無と金額
- 更新料の有無と金額(普通借地権の場合)
更新料は法律で定められておらず、当事者間の合意があれば支払義務が発生します。契約書に明記されていない場合は支払義務はありません。
建物制限と原状回復・中途解約条件
建物の種類・構造制限:
- 木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造等の制限
- 階数制限(例: 2階建てまで)
- 建物の用途制限(例: 住宅専用)
原状回復義務:
- 契約終了時に建物を取り壊し、更地にして返還する義務の有無
- 定期借地権の場合は原則として原状回復義務あり
中途解約条件:
- 普通借地権: 貸主からの中途解約は原則不可(正当事由が必要)、借主からは可能
- 定期借地権: 原則中途解約不可、特約で定める場合のみ可能
土地賃貸借契約書のひな形(記載例)
ひな形は複数の入手先があります。
主な入手先:
- 弁護士法人 顧問弁護士.jp等の法律事務所のテンプレート(PDF・Word形式)
- 日本弁護士連合会・各地の弁護士会
- 自治体の相談窓口
- 不動産業界団体
ひな形の構成は以下の通りです。
標準的な構成:
- 前文(当事者の確認)
- 第1条: 賃貸借の目的物(土地の所在・地積)
- 第2条: 賃貸借の目的(用途)
- 第3条: 存続期間
- 第4条: 賃料・支払方法
- 第5条: 権利金・更新料
- 第6条: 建物の種類・構造制限
- 第7条: 中途解約
- 第8条: 原状回復義務
- 第9条: 特約事項
- 後文(契約書の作成部数・署名押印)
普通借地権と定期借地権のひな形の違い:
- 普通借地権: 更新条項あり、公正証書不要
- 定期借地権: 更新なしの明記、公正証書必須、原状回復義務の明記
重要な注意点: ひな形をそのまま使えるわけではなく、個別の事情(土地の用途、当事者の合意内容、地域慣習等)に応じて調整が必要です。専門家(弁護士・司法書士)への相談を推奨します。
土地賃貸借契約書作成時の注意点
収入印紙の貼付義務(2025年時点の印紙税法)
土地賃貸借契約書は「地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書」に該当し、印紙税法により収入印紙の貼付が必要です。
印紙税額:
- 契約金額の記載なし: 200円
- 契約金額の記載あり: 金額に応じて1,000円〜60,000円
契約金額は「権利金」を指し、月額賃料は含みません。権利金の記載がない場合は200円です。
公正証書の作成と借地権の登記(対抗要件)
定期借地権の公正証書作成: 一般定期借地権と事業用定期借地権は、公正証書による契約が法律で義務付けられています。公証役場で公証人に作成を依頼してください(手数料: 数万円程度)。
借地権の対抗要件: 借地権を第三者に主張するには、借地権の登記または建物保存登記が必要です。借地権の登記には地主の協力が必要なため、実務上は建物保存登記で対抗要件を具備することが一般的です。
2020年民法改正による変更点
法務省によると、2020年4月1日施行の民法改正により、賃貸借契約に関するルールが変更されました。
主な変更点:
- 賃借人の原状回復義務の明確化(通常損耗・経年変化は含まれない)
- 敷金の返還ルールの明確化
- 賃貸人の修繕義務の明確化
土地賃貸借契約にも影響があるため、最新の法律を反映した契約書を作成してください。
まとめ:土地賃貸借契約書は専門家に相談しながら作成を
土地賃貸借契約書は、借地権の種類(普通借地権・定期借地権・事業用定期借地権)によって契約書の形式が異なります。
定期借地権は公正証書が必須で、書面がないと無効です。また、契約書には当事者情報、土地の所在・地積、賃料・存続期間、建物制限、中途解約条件等の必須記載事項があります。
ひな形を参考にしつつも、個別事情に応じた調整が必須です。ひな形をそのまま使うと、後々のトラブルの原因になることがあります。
次のアクションとして、借地権の種類を決定し、ひな形を入手して内容を確認し、弁護士・司法書士に相談しながら契約書を作成することをおすすめします。定期借地権の場合は公証役場での公正証書作成も必要です。
