土地の境界線トラブルを防ぐ|確認方法・測量費用

公開日: 2025/10/27

土地の境界線トラブルを防ぐために知っておくべきこと

土地購入や相続、売却を検討する際、「境界線がはっきりしない」「隣地とトラブルにならないか心配」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、土地の境界線の種類(筆界と所有権界)、確認方法、測量費用、トラブル解決策を、法務省の公式情報を元に詳しく解説します。

境界線を正しく理解し、適切に対処することで、後々のトラブルを防止できます。

この記事のポイント

  • 境界線には「筆界(登記上の境界)」と「所有権界(実際の所有範囲)」の2種類がある
  • 境界確認には、法務局での地積測量図取得、現地での境界標確認、隣地所有者との境界確認書取り交わしが必要
  • 境界確定測量の費用は30-80万円程度(土地の形状・面積による)
  • トラブル解決には、筆界特定制度(法務局)または境界確定訴訟(裁判所)が利用できる

筆界と所有権界の違い

境界線には2種類あり、それぞれ性格が異なります。

筆界(登記上の境界)とは

**筆界(ひっかい)**は、登記簿上の境界であり、公法上の境界とも呼ばれます。一筆の土地の外縁を示す線で、明治時代の地租改正時に定められました。

重要な特徴

  • 所有者間の合意では変更不可: 筆界は公的に定められた境界のため、隣地所有者と合意しても勝手に変更できません
  • 変更には分筆・合筆登記が必要: 筆界を変更するには、法務局で分筆登記または合筆登記を行う必要があります
  • 地積測量図に記載: 法務局で保管されている地積測量図に記載されています

所有権界(実際の所有範囲)とは

所有権界は、実際の所有範囲を示す私法上の境界です。通常は筆界と一致しますが、時効取得や長年の慣習により異なる場合があります。

筆界と所有権界が異なる例

  • 時効取得: 隣地の一部を20年以上占有し続けた場合、所有権を取得できる(民法第162条)
  • 長年の慣習: 隣地所有者との合意により、実際の使用範囲が筆界と異なる
  • 境界標の移動: 境界標が移動し、実際の使用範囲がずれた

境界が不一致になる原因

境界が不一致になる主な原因は以下の通りです。

  • 境界標の滅失・移動: 古い境界標が紛失、または災害・工事で移動
  • 測量技術の進歩: 明治時代の測量と現代の測量で精度が異なる
  • 長年の慣習: 隣地所有者との合意により、実際の使用範囲が変化

土地の境界線を確認する方法

境界線を確認するには、以下の3つのステップを踏むことが推奨されます。

法務局で地積測量図・公図を取得

地積測量図とは

地積測量図は、土地の面積・形状・境界点の座標を記載した図面で、法務局で保管されています。分筆・合筆登記、または地積更正登記の際に作成されます。

取得方法

  1. 法務局の窓口またはオンライン(登記情報提供サービス)で申請
  2. 手数料: 窓口450円、オンライン365円
  3. 地積測量図がない場合、公図(旧土地台帳付属地図)を取得

注意点

  • 古い土地(昭和以前に登記)は地積測量図がない場合が多い
  • 公図は精度が低く、現況と大きく異なる場合がある

現地で境界標を確認

境界標の種類

境界標は、境界の位置を現地で示す標識です。日本土地家屋調査士会連合会によると、以下の種類があります。

種類 特徴
コンクリート杭 最も一般的。15cm角程度の白色コンクリート製
石杭 古い土地に多い。御影石等の自然石
金属標(鋲) 道路境界等に使用。アスファルトに埋め込み
プラスチック杭 安価で設置しやすいが、経年劣化しやすい

境界標の設置義務

民法上、境界標の設置義務は明文化されていませんが、不動産売買時は境界明示義務があります(宅地建物取引業法)。

隣地所有者と境界確認書を取り交わす

境界確認書とは

境界確認書は、隣地所有者と境界の位置を合意したことを証明する書面です。土地家屋調査士が立ち会い、測量結果を基に作成します。

取り交わしの流れ

  1. 土地家屋調査士に依頼し、測量を実施
  2. 隣地所有者と現地で立ち会い、境界点を確認
  3. 境界確認書に署名・押印
  4. 境界標を設置

境界確認書があれば、後々のトラブルを防止できます。

境界確定測量の費用相場と手順

境界を確定するには、土地家屋調査士による測量が必要です。

現況測量と確定測量の違い

測量の種類 内容 費用相場 隣地立会
現況測量 既存の境界標を基に測量 10-30万円 不要
確定測量 隣地所有者と境界を確定 30-80万円 必要

現況測量の用途

  • 土地の面積・形状をおおまかに把握
  • 建築計画の参考

確定測量の用途

  • 土地売買時の境界明示
  • 分筆・合筆登記
  • 隣地との境界トラブル解決

測量費用の相場と変動要因

アガルート土地家屋調査士によると、確定測量の費用は以下の要因で変動します。

費用が変動する要因

  • 土地の面積: 広いほど高額(100㎡以下: 30-50万円、100-200㎡: 50-80万円)
  • 隣地の数: 隣地が多いほど立会回数が増え、高額化
  • 境界標の有無: 境界標が紛失している場合、復元測量が必要で高額
  • 官民査定の有要: 道路境界(官民境界)の確定が必要な場合、市区町村との立会で高額化

測量の流れ

  1. 現地調査: 既存の境界標、地積測量図を確認
  2. 隣地立会: 隣地所有者と現地で境界を確認
  3. 測量図作成: GPS・トータルステーション等で精密測量
  4. 境界確認書: 隣地所有者と署名・押印
  5. 境界標設置: コンクリート杭等を設置

境界トラブルの解決方法

隣地所有者と境界で争いがある場合、以下の解決手段があります。

筆界特定制度(法務局による公的判断)

筆界特定制度とは

法務省の筆界特定制度は、法務局が境界の位置を公的に判断する制度です(平成17年施行)。

メリット

  • 費用が安い: 数万円程度(土地の面積により異なる)
  • 期間が短い: 6-12ヶ月程度
  • 裁判より早く安価: 境界確定訴訟より負担が少ない

デメリット

  • 判決ではない: 公的な判断だが、法的拘束力はない
  • 不服申立可: 不服がある場合、境界確定訴訟を提起できる

申請方法

  1. 所轄の法務局(筆界特定登記官)に申請
  2. 手数料納付(800円 + 土地の価額に応じた額)
  3. 現地調査・測量
  4. 筆界特定書の交付

境界確定訴訟(裁判所による判決)

境界確定訴訟とは

境界確定訴訟は、裁判所が境界の位置を判決で確定する手続きです。筆界特定制度より時間・費用がかかりますが、法的拘束力があります。

メリット

  • 法的拘束力あり: 判決は確定すると変更不可
  • 強制執行可能: 相手方が応じない場合、強制執行できる

デメリット

  • 費用が高い: 弁護士費用・測量費用で数十万円~
  • 期間が長い: 1-2年以上かかる場合がある

利用を検討すべき場合

  • 筆界特定制度で解決できなかった
  • 相手方が全く応じない
  • 確実に法的拘束力のある結論が欲しい

土地家屋調査士への依頼

境界トラブルが生じた場合、まずは土地家屋調査士に相談することを推奨します。土地家屋調査士は、測量・境界確定業務の独占資格(土地家屋調査士法)を持ち、以下の業務を行えます。

  • 境界確定測量
  • 筆界特定制度の申請代理
  • 境界確定訴訟の資料作成(測量図等)

アガルート土地家屋調査士によると、相談費用は無料~1万円程度です。

まとめ:境界確定は土地取引の必須事項

土地の境界線には「筆界(登記上の境界)」と「所有権界(実際の所有範囲)」の2種類があり、通常は一致しますが、時効取得等で異なる場合もあります。

土地購入・売却時は必ず境界確定測量を実施し、隣地所有者と境界確認書を取り交わすことを強く推奨します。境界標の無断移動は犯罪(境界損壊罪:刑法第262条の2、5年以下の懲役または50万円以下の罰金)であるため、絶対に行わないでください。

境界トラブルが生じた場合は、法務省の筆界特定制度や境界確定訴訟を活用し、専門家(土地家屋調査士・弁護士)に相談しながら解決を図りましょう。

よくある質問

Q1境界標が見つからない場合はどうすればいいですか?

A1土地家屋調査士に依頼し、法務局の地積測量図・公図を基に復元測量を実施します。隣地所有者と立ち会いの上、境界点を確認し、新たな境界標を設置します。費用は通常の確定測量よりやや高額(40-100万円程度)になる場合があります。古い土地では境界標が紛失していることが多いため、早めの対応が重要です。

Q2筆界特定制度と境界確定訴訟の違いは?

A2筆界特定制度は法務局による公的判断(費用数万円、期間6-12ヶ月)ですが、判決ではないため法的拘束力はありません。不服がある場合は境界確定訴訟を提起できます。境界確定訴訟は裁判所による判決(費用数十万円~、期間1-2年以上)で、法的拘束力があります。まずは筆界特定制度を利用し、解決できない場合に境界確定訴訟を検討するのが一般的です。

Q3境界標を勝手に動かすと違法ですか?

A3違法です。境界損壊罪(刑法第262条の2)に該当し、5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。隣地所有者との合意があっても、筆界(登記上の境界)は変更できません。境界を変更するには、法務局で分筆・合筆登記を行う必要があります。境界標の移動が必要な場合は、必ず土地家屋調査士に相談してください。

Q4土地購入時に境界が未確定の場合は買わない方がいいですか?

A4リスクが高いため、購入前に売主に境界確定測量を依頼し、境界確認書を取り交わすことを強く推奨します。境界が未確定のまま購入すると、後々隣地所有者とトラブルになり、測量費用(30-80万円)を自己負担する可能性があります。不動産売買契約では、売主に境界明示義務があるため、境界確定を条件に購入することが一般的です。