相続した土地を売却するときにかかる税金とは
親から相続した土地を売却する際、「相続税を払ったのにまた税金がかかるのか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、相続した土地の売却時にかかる税金(譲渡所得税・住民税)の仕組み、「空き家3000万円特別控除」と「相続税の取得費加算特例」という2つの主要な節税制度を、国税庁・法務省の公式情報を元に解説します。
相続した土地の売却で税負担を軽減する方法を理解できるようになります。
この記事のポイント
- 相続した土地の売却時には譲渡所得税と住民税が課税され、税率は長期譲渡所得(所有期間5年超)で20.315%、短期譲渡所得(5年以下)で39.63%
 - 空き家3000万円特別控除は昭和56年5月31日以前の建物を耐震基準に適合させて3年以内に売却する場合に適用され、譲渡所得から最高3000万円を控除
 - 相続税の取得費加算特例は相続税申告期限から3年10ヶ月以内に売却すると支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得を減らせる
 - 2つの特別控除を同一年に併用する場合は合計3000万円までしか控除できないため、どちらを優先すべきか事前に計算が必要
 - 相続登記を3年以内に完了しないと10万円以下の過料が科されるため、売却前に相続登記が必須
 
相続した土地を売却するときにかかる税金
相続した土地を売却すると、譲渡所得税と住民税が課税されます。相続税とは別に発生する税金で、売却益(譲渡所得)に対して課税されます。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得は以下の計算式で求めます。
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除
- 売却価格: 土地を売った金額
 - 取得費: 被相続人(親など)が土地を購入した時の金額。不明な場合は概算取得費(売却価格の5%)
 - 譲渡費用: 仲介手数料、測量費、解体費など売却のためにかかった費用
 - 特別控除: 空き家3000万円控除、取得費加算特例など
 
長期譲渡所得と短期譲渡所得
国税庁によると、相続した土地の所有期間は被相続人(親など)の所有期間を引き継ぎます。
| 所有期間 | 区分 | 税率(所得税+住民税) | 
|---|---|---|
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) | 
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 39.63%(所得税30.63%+住民税9%) | 
親が30年前に購入した土地を相続して売却する場合、長期譲渡所得(20.315%)が適用されます。短期譲渡所得の税率は約2倍高いため、所有期間の確認が重要です。
税負担を軽減する2つの特別控除
空き家3000万円特別控除とは
国税庁によると、空き家3000万円特別控除(被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)は、昭和56年5月31日以前に建築された被相続人の居住用家屋を相続し、耐震基準を満たした上で相続開始から3年以内に売却した場合、譲渡所得から最高3000万円を控除できる特例です(租税特別措置法第35条第3項)。
主な適用要件:
- 昭和56年5月31日以前の建築(旧耐震基準)
 - 耐震基準に適合または建物を取り壊して売却
 - 相続開始から3年以内の売却
 - 売却価格1億円以下
 - 被相続人が相続開始直前まで居住(老人ホーム入居も可)
 
相続税の取得費加算特例とは
国税庁によると、相続税の申告期限から3年10ヶ月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例です(租税特別措置法第39条)。
計算式: 取得費に加算する相続税額 = 相続税額 × (売却した土地の相続税評価額 ÷ 相続財産の合計額)
相続税を200万円支払い、土地の相続税評価額が相続財産の50%を占める場合、200万円 × 50% = 100万円を取得費に加算できます。
2つの特別控除の併用制限
税理士法人チェスターによると、空き家3000万円控除と取得費加算特例を同一年に併用する場合は、合計3000万円までしか控除できません。
どちらを優先すべきかは個別の状況により異なるため、税理士に試算を依頼して有利な方を選ぶことを推奨します。
空き家3000万円特別控除の適用要件チェックリスト
空き家3000万円控除の適用要件は非常に厳格で、1つでも満たさないと適用不可になります。以下のチェックリストで確認してください。
建物の要件(築年数・耐震基準)
- 昭和56年5月31日以前の建築: 登記事項証明書で建築年月日を確認
 - 耐震基準適合: 建築士による耐震基準適合証明書を取得、または建物を取り壊して更地で売却
 - 区分所有建物(マンション)でないこと: 戸建て住宅のみ対象
 
相続・売却の要件(期限・価格)
- 相続開始から3年以内の売却: 相続開始日(被相続人の死亡日)を起算日とする
 - 売却価格1億円以下: 複数回に分けて売却する場合は合計額で判定
 - 売却先が親族でないこと: 配偶者・直系血族への売却は対象外
 
被相続人の要件(居住実態)
- 相続開始直前まで居住: 被相続人が1人で居住していたこと
 - 老人ホーム入居も可: 介護保険法の規定による施設等への入居は居住とみなされる
 - 相続人が居住していないこと: 相続後に相続人が住むと適用不可
 
各要件の確認方法は複雑なため、税理士に相談することを推奨します。
具体例で見る税負担の比較
前提条件
- 売却価格: 3,500万円
 - 取得費: 不明(概算取得費 = 3,500万円 × 5% = 175万円)
 - 譲渡費用: 仲介手数料等で125万円
 - 相続税: 200万円支払済
 - 所有期間: 30年(長期譲渡所得)
 
特別控除を使わない場合
- 譲渡所得: 3,500万円 - 175万円 - 125万円 = 3,200万円
 - 税額: 3,200万円 × 20.315% = 約650万円
 
空き家3000万円控除を使う場合
- 譲渡所得: 3,500万円 - 175万円 - 125万円 - 3,000万円 = 200万円
 - 税額: 200万円 × 20.315% = 約41万円
 
節税額: 650万円 - 41万円 = 約609万円
取得費加算特例を使う場合
相続税200万円のうち、土地の相続税評価額が相続財産の50%を占めると仮定すると、取得費に加算できる相続税は100万円。
- 譲渡所得: 3,500万円 - (175万円 + 100万円) - 125万円 = 3,100万円
 - 税額: 3,100万円 × 20.315% = 約630万円
 
節税額: 650万円 - 630万円 = 約20万円
この例では、空き家3000万円控除の方が大幅に有利となります。ただし、個別の状況により異なるため、税理士に試算を依頼することが重要です。
土地売却前に必要な手続きと期限
相続登記の義務化(2024年4月施行)
法務省によると、2024年4月から相続登記が義務化されました。相続を知ってから3年以内に登記しないと、正当な理由がない場合は10万円以下の過料が科されます。
売却前に相続登記が必須のため、早期の手続き開始が重要です。登記手続きには被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要で、転籍がある場合は取得に時間がかかります。
遺産分割協議の重要性
遺産分割協議が長引くと、取得費加算特例の適用期限(相続税申告期限から3年10ヶ月)を過ぎるリスクがあります。相続人間でトラブルがある場合は、早期に弁護士へ相談すべきです。
売却のタイムライン
- 相続開始: 被相続人の死亡
 - 3ヶ月以内: 相続放棄の期限(家庭裁判所)
 - 10ヶ月以内: 相続税の申告・納税(税務署)
 - 3年以内: 相続登記の期限(法務局)
 - 相続開始から3年以内: 空き家3000万円控除の適用期限
 - 相続税申告期限から3年10ヶ月以内: 取得費加算特例の適用期限
 - 売却の翌年2-3月: 譲渡所得の確定申告
 
複数の期限が絡むため、早期に全体のスケジュールを立てることが重要です。
税理士への相談が必要なケースとまとめ
税理士への相談が必要なケース
青山財産ネットワークスによると、以下のケースでは税理士への相談が必要です。
- 取得費が不明: 概算取得費(売却価格の5%)しか使えず税負担が大きい場合、被相続人の購入時の契約書を探すか、公示地価から推計する方法を検討
 - 複数の特別控除の併用可否を判断: どちらの控除を優先すべきか試算が必要
 - 遺産分割協議が難航: 弁護士と連携した対応が必要
 
確定申告は必須
特別控除を適用して税額が0円になる場合でも、確定申告は必須です。申告しないと控除が認められず、本来不要な税金を払う羽目になります。売却した年の翌年2月16日~3月15日に税務署へ申告が必要です。
まとめ
相続した土地の売却時には譲渡所得税と住民税が課税されますが、空き家3000万円特別控除や相続税の取得費加算特例を活用することで、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
空き家3000万円控除は適用要件が厳格なため、チェックリスト形式で適用可否を確認し、取得費加算特例は相続税申告期限から3年10ヶ月という期限があるため、早期の売却検討が重要です。
2024年4月施行の相続登記義務化により、相続を知ってから3年以内の登記が必須となりました。売却前の必須手続きを時系列で整理し、まずは適用要件の確認、次に専門家への相談という次のアクションを取りましょう。
信頼できる税理士や不動産会社に相談しながら、最適な売却計画を立ててください。
