個人間の不動産売買とは|仲介業者を介さない取引の実態
不動産売買を検討する際、「仲介業者を使わずに取引できないか」「仲介手数料を節約したい」と考える方は少なくありません。特に親族・知人間での売買では、個人間取引の可能性を検討することがあります。
この記事では、個人間の不動産売買の仕組み、メリット・デメリット、手続きの流れ、必要な専門家への依頼について、法務省や国税庁の公式情報を元に解説します。
仲介手数料の節約方法だけでなく、リスクと注意点も正しく理解し、安全な取引を進められるようになります。
この記事のポイント
- 個人間売買は仲介手数料(物件価格の3%+6万円+税)が不要
 - ただし司法書士費用(契約書3-5万円+登記5-10万円)や登録免許税は必要
 - 重要事項説明書がないため住宅ローン審査が非常に厳しい(現金決済が基本)
 - 時価より著しく低い価格(時価の80%以下)で売買すると贈与税が課税される
 - 契約書作成・登記手続きは司法書士等の専門家への依頼が推奨される
 
個人間売買のメリット|仲介手数料の節約と柔軟な条件交渉
個人間売買の主要なメリットは3つあります。
仲介手数料が不要(数十万円から数百万円の節約)
仲介業者を介さないため、仲介手数料が不要になります。仲介手数料の上限額は宅地建物取引業法で「(売買価格×3%+6万円)+消費税」と定められており、物件価格が高額になるほど大きな節約になります。
仲介手数料の例
| 物件価格 | 仲介手数料上限(税込) | 
|---|---|
| 3,000万円 | 105.6万円 | 
| 5,000万円 | 171.6万円 | 
| 8,000万円 | 271.92万円 | 
(出典: 国土交通省)
例えば5,000万円の物件なら、仲介手数料約172万円を節約できる可能性があります。
売買条件を柔軟に決められる(価格・時期・引渡し条件)
仲介業者を介さないため、売買価格や引渡し時期、設備の取り扱いなどを当事者間で自由に決められます。親族間・知人間での取引では、相手の事情を考慮した柔軟な条件設定が可能です。
親族・知人間で話し合いながら進められる
信頼関係がある相手との取引では、疑問点や不安点を直接話し合いながら進められる安心感があります。仲介業者を介さない分、意思疎通が円滑になる場合があります。
個人間売買のデメリット・リスク|専門知識不足によるトラブル
個人間売買には大きなメリットがある一方で、以下のリスクも存在します。
重要事項説明書がない(宅建業者のみ作成可能)
重要事項説明書は宅地建物取引士のみが作成できる書類で、物件の権利関係・法令制限・設備状況などを詳細に説明するものです。個人間売買では作成義務がないため、買主が重要な情報を知らないまま取引してしまうリスクがあります。
また、住宅ローン審査では金融機関が重要事項説明書の提出を義務付けることが多く、個人間売買では住宅ローンが利用できない場合があります。
契約不適合責任の範囲が不明確(瑕疵の発見時)
民法改正により導入された契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)は、売買後に物件の欠陥が判明した場合の売主の責任範囲を定めるものです。個人間売買では、売買契約書でこの責任範囲を明確にしないと、後日トラブルになる可能性があります。
例えば、雨漏り・シロアリ被害・設備の故障などが後から発見された場合、誰が修理費用を負担するのか、契約書に明記しておく必要があります。
住宅ローン審査が非常に厳しい(現金決済が前提)
親族間売買は、金融機関が融資を渋るケースが多いです。理由は以下の通りです。
- 重要事項説明書がないため、物件の状態を銀行が確認できない
 - 親族間の不正利用(贈与税逃れ等)を警戒される
 - 適正価格での取引かどうか判断しにくい
 
そのため、個人間売買では現金決済が基本となります。住宅ローン利用を希望する場合は、事前に金融機関に相談することが必須です。
贈与税リスク(時価の80%以下での売買)
国税庁の公式情報によれば、時価より著しく低い価格(時価の80%以下が目安)で売買すると、差額が贈与とみなされ、買主に贈与税が課税されます。
贈与税が発生する例
- 物件の時価:3,000万円
 - 売買価格:2,000万円(時価の約67%)
 - 差額1,000万円が贈与とみなされ、買主に贈与税が課税
 
贈与税の税率は金額により異なりますが、基礎控除110万円を超える部分に10~55%の税率が適用されるため、数百万円の税負担が発生する可能性があります。
適正価格は、不動産鑑定士や近隣の取引事例を参考に設定することが推奨されます。
個人間売買の手続きの流れ|契約から登記まで
個人間売買の手続きは、以下の4つのステップで進めます。
ステップ1:売買価格の決定(不動産鑑定士等の活用)
まず売買価格を決定します。前述の通り、時価より著しく低い価格で売買すると贈与税が課税されるため、適正価格を設定することが重要です。
適正価格の算定方法:
- 不動産鑑定士に依頼(数万円~)
 - 近隣の取引事例を参考にする
 - 固定資産税評価額を参考にする(時価の70%程度が目安)
 
ステップ2:売買契約書の作成(司法書士または行政書士に依頼)
売買契約書は法律上、当事者が自分で作成することも可能です。しかし、契約不適合責任の範囲や特約事項の記載不備でトラブルになるリスクが高いため、司法書士または行政書士に依頼(3-5万円)することが推奨されます。
売買契約書に記載すべき主な項目
- 物件の表示(所在地・地番・地目・面積等)
 - 売買価格・支払方法・支払時期
 - 所有権移転時期
 - 契約不適合責任の範囲と期間
 - 公租公課の分担
 - 特約事項
 
ステップ3:代金決済と所有権移転(同時履行の原則)
代金決済と所有権移転は同時履行が原則です。先に代金を支払うと、所有権移転登記がされずに取引が終わらないリスクがあります。
安全な決済方法:
- 金融機関で決済を行う(振込確認後に登記書類を引き渡す)
 - 司法書士立会いのもとで決済を行う
 
ステップ4:所有権移転登記(法務局への申請)
代金決済後、法務局に所有権移転登記を申請します。登記申請は自分で行うことも可能ですが、手続きが複雑なため、司法書士に依頼(5-10万円)することが安全です。
登記に必要な主な書類
- 登記申請書
 - 売買契約書
 - 登記済証または登記識別情報
 - 印鑑証明書(売主・買主)
 - 固定資産評価証明書
 
登録免許税
所有権移転登記には登録免許税(固定資産税評価額の2%、軽減措置適用時は0.3-1.5%)が必要です。
個人間売買で必要な専門家|司法書士・行政書士への依頼
個人間売買では「仲介業者不要」と誤認されがちですが、契約書作成と登記手続きは専門家への依頼が推奨されます。
売買契約書の作成(司法書士3-5万円、行政書士も可)
売買契約書は司法書士または行政書士が作成可能です。費用は3-5万円程度が相場です。専門家に依頼することで、契約不適合責任の範囲や特約事項を適切に記載でき、後日のトラブルを防げます。
所有権移転登記(司法書士5-10万円)
所有権移転登記は司法書士の専門業務です。自分で申請することも可能ですが、手続きが複雑で書類不備による補正が多いため、司法書士に依頼(5-10万円)することが安全です。
不動産鑑定士(価格査定)
適正価格の算定は不動産鑑定士に依頼可能です。費用は数万円~ですが、贈与税リスクを回避するために重要です。
個人間売買にかかる費用|仲介手数料以外の実費
仲介手数料は不要ですが、以下の実費は必要です。
登録免許税(固定資産税評価額の2%)
所有権移転登記には登録免許税(固定資産税評価額の2%、軽減措置適用時は0.3-1.5%)が必要です。
登録免許税の例
- 固定資産税評価額2,000万円の物件:2,000万円×2%=40万円
 
印紙税(売買契約書に貼付、金額により変動)
売買契約書には印紙税が必要です。金額は契約書に記載された金額により変動します。
| 契約金額 | 印紙税 | 
|---|---|
| 1,000万円超~5,000万円以下 | 1万円 | 
| 5,000万円超~1億円以下 | 3万円 | 
司法書士費用(契約書3-5万円+登記5-10万円)
司法書士費用は合計で10-20万円程度が相場です。仲介手数料(3,000万円の物件なら約106万円)と比べると大幅に安くなります。
不動産取得税(買主負担、固定資産税評価額の3-4%)
買主は不動産取得税(固定資産税評価額の3-4%、軽減措置適用時は0-3%)を納付します。
まとめ|個人間売買は専門家の助けを借りて進めることが重要
個人間売買は仲介手数料を節約できるメリットが大きいですが、契約書作成・登記手続き・贈与税リスク等の専門知識が必要です。
司法書士等の専門家に依頼(合計10-20万円程度)することで、安全に取引を進められます。親族間・知人間での取引は慎重に進め、適正価格での売買と契約書の整備が必須です。
住宅ローン利用を希望する場合は、事前に金融機関に相談し、現金決済が必要かどうか確認してください。信頼できる専門家に相談しながら、安心して不動産取引を進めましょう。
