住宅ローン繰上げ返済と控除の関係とは
住宅ローンの繰上げ返済を検討する際、「今繰上げると控除が減って損するのでは?」「控除期間中は繰上げない方がいいの?」と悩む方は多いです。
この記事では、繰上げ返済による利息軽減効果と、住宅ローン控除(年末残高の0.7%)による減税効果の比較、金利水準別の損益分岐点、繰上げ推奨タイミングを、国税庁・全国銀行協会などの公式情報を元に解説します。
住宅ローン返済中の方が、自分の状況に合わせて繰上げ返済と控除のバランスを判断できるようになります。
この記事のポイント
- 金利0.7%が損益分岐点。金利が0.7%以上なら繰上げ返済、未満なら控除優先が基本
- 繰上げ返済すると年末残高が減り控除額も減少する。返済期間が10年を切ると控除対象外になる
- 繰上げ推奨タイミングは①控除期間終了後、②金利1.0%超、③返済期間10年以上を維持できる場合
- 年末ギリギリではなく年明けに繰上げ返済すると、1年分の控除を満額受けられる
- 手元資金を使い切るリスク、繰上返済手数料、団信保険期間短縮への注意が必要
住宅ローン控除の基本ルールと繰上返済の影響
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、年末時点の住宅ローン残高の0.7%(2022年以降入居)を所得税・住民税から控除できる制度です。控除期間は新築13年、中古10年です。
住宅ローン控除の仕組み(年末残高×0.7%)
例えば、年末時点のローン残高が3000万円の場合、3000万円×0.7%=21万円が控除額となります。この控除額が所得税・住民税から差し引かれます。
(出典: 国税庁)
繰上返済すると控除額はどう変わるか
繰上返済すると年末残高が減るため、控除額も減少します。例えば、年末に500万円を繰上返済すると、年末残高が2500万円に減り、控除額は17.5万円(500万円×0.7%=3.5万円の減少)となります。
返済期間が10年を切ると控除対象外になる
住宅ローン控除の適用要件の一つに「返済期間が10年以上であること」があります。繰上返済(特に期間短縮型)により返済期間が10年未満になると、控除自体が打ち切られます。
国税庁によると、当初契約の返済開始月から最終返済月までが10年以上であることが要件です。繰上返済により返済期間を短縮する場合は、10年以上を維持するよう注意が必要です。
金利別の損益分岐点:繰上げすべきか控除優先か
住宅ローンの金利と控除率(0.7%)の比較が、繰上返済と控除のどちらを優先すべきかの判断基準です。
| 金利 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 0.5% | 控除優先 | 金利<0.7%のため、控除の減税効果が上回る |
| 1.0% | ほぼ同等 | 金利≒0.7%のため、どちらを選んでも大きな差なし |
| 1.5%以上 | 繰上返済優先 | 金利>0.7%のため、利息軽減効果が上回る |
(出典: 全国銀行協会)
金利0.5%の場合:控除優先が有利
金利0.5%の場合、100万円の繰上返済で年間5,000円の利息軽減となります。一方、控除は年末残高100万円減少により7,000円の減税効果が失われます。差し引き2,000円の損失となるため、控除を受け続ける方が有利です。
金利1.0%の場合:ほぼ同等
金利1.0%の場合、100万円の繰上返済で年間1万円の利息軽減となり、控除による減税効果7,000円とほぼ同等です。この場合、個人のライフプランや資金繰りにより判断すべきです。
金利1.5%以上の場合:繰上返済が有利
金利1.5%の場合、100万円の繰上返済で年間1.5万円の利息軽減となり、控除による減税効果7,000円を上回ります。差し引き8,000円の利益となるため、繰上返済が有利です。
繰上返済の推奨タイミングと実行方法
繰上返済のタイミングは、控除期間、金利水準、返済期間により判断します。
控除期間終了後(新築13年後、中古10年後)
控除期間終了後は、控除による減税効果がなくなるため、繰上返済による利息軽減効果が直接的に得られます。金利が0.5%以上であれば、積極的に繰上返済を検討すべきです。
年末ではなく年明けに実行すべき理由
年末ギリギリに繰上返済すると、年末残高が減少し、その年の控除額が減ります。年明け(1月)に実行すれば、前年の年末残高は減らず、1年分の控除を満額受けられます。
例えば、12月に500万円を繰上返済すると、その年の控除額が3.5万円減少します。1月に実行すれば、前年の控除額は満額受けられ、翌年から繰上返済後の残高で控除を受けることになります。
期間短縮型と返済額軽減型の選び方
繰上返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。
期間短縮型は、毎月の返済額を変えず、返済期間を短縮する方法です。総利息軽減効果が大きいですが、団体信用生命保険(団信)の保険期間も短縮されるため、万一の保障期間が減少します。
返済額軽減型は、返済期間を変えず、毎月の返済額を減らす方法です。家計の負担軽減には有効ですが、利息軽減効果は期間短縮型より小さいです。
(出典: 住宅金融支援機構)
繰上返済の注意点とリスク
繰上返済には、いくつかの注意点とリスクがあります。
手元資金を使い切るリスク
手元資金を使い切ると、緊急時(病気、失業等)に対応できなくなります。最低6ヶ月分の生活費は手元に残すべきです。
三井住友銀行によると、繰上返済は計画的に行い、緊急資金は確保することが推奨されています。
繰上返済手数料で手数料負けする可能性
金融機関により、繰上返済手数料が1回数万円かかる場合があります。小額の繰上返済では、手数料により利息軽減効果が相殺される可能性があります。
インターネットバンキングでの繰上返済は手数料無料の金融機関が多いため、手数料を確認してから実行することが重要です。
団信保険期間が短縮される影響
期間短縮型の繰上返済は、団信の保険期間も短縮されます。債務者が死亡・高度障害時に残債が保険金で完済される保障ですが、期間短縮により保障期間が減少します。
万一の保障を重視する場合は、返済額軽減型を選択するか、繰上返済の時期を慎重に判断する必要があります。
まとめ:損しない繰上返済の判断基準
金利0.7%が損益分岐点です。金利が0.7%以上なら繰上返済による利息軽減効果が上回り、未満なら控除を受け続ける方が有利です。
ただし、返済期間10年以上の維持、手元資金の確保(最低6ヶ月分の生活費)、年明け実行(年末残高を減らさない)など複数の条件を総合的に判断することが重要です。
自分のローン金利と控除状況を確認し、金融機関に相談しながら計画的に実行することで、最大の利益を得られます。
信頼できる金融機関やFPに相談しながら、無理のない返済計画を立てましょう。
