住宅ローンの年収目安は手取りで見るべき?
マイホーム購入を検討する際、「住宅ローンはいくらまで借りられるのか」「年収の何倍が妥当なのか」と悩む方は多いでしょう。特に「手取りで考えるべきか、総支給額で考えるべきか」は重要な判断ポイントです。
この記事では、金融機関の審査基準と実際の家計管理の両面から、住宅ローンの適正な借入額と返済比率を解説します。金融庁や住宅金融支援機構の公式情報を元に、無理のない返済計画を立てる方法をご紹介します。
この記事のポイント
- 金融機関の審査は総支給額ベースだが、実際の返済は手取りから行うため「ギャップ」がある
 - 理想的な返済比率は手取り年収の20-25%(金融機関の審査基準30-35%は最大値)
 - 手取り年収は総支給額の75-80%程度(税金・社会保険料で約20-25%引かれる)
 - 共働き世帯は片方の退職・休職リスクを考慮し、主収入者のみで返済可能な額に抑えるべき
 - 変動金利の上昇リスク、住宅ローン以外の維持費、ライフステージの変化を考慮した総合的な判断が必要
 
手取りと総支給の違いとは?
住宅ローンを検討する際、まず理解すべきは「総支給額(額面年収)」と「手取り年収」の違いです。この2つを混同すると、実際の家計負担を正確に把握できません。
総支給額(額面年収)の構成
総支給額とは、基本給、賞与、各種手当(残業手当、通勤手当、住宅手当など)を合計した金額です。金融機関の住宅ローン審査では、この総支給額を基準に借入可能額を算定します。
手取り年収の計算方法(税金・社会保険料の控除)
手取り年収は、総支給額から以下を差し引いた実際の受取額です。
- 所得税:累進課税(5-45%)
 - 住民税:一律約10%
 - 健康保険料:約5%
 - 厚生年金保険料:約9%
 - 雇用保険料:約0.6%
 
これらの控除により、一般的に手取り年収は総支給額の75-80%程度となります。
年収別の手取り額シミュレーション
具体的な年収別の手取り額は以下の通りです。
| 総支給額(年収) | 手取り年収(目安) | 差額(控除額) | 
|---|---|---|
| 400万円 | 約320万円 | 約80万円 | 
| 500万円 | 約400万円 | 約100万円 | 
| 600万円 | 約480万円 | 約120万円 | 
| 700万円 | 約560万円 | 約140万円 | 
| 800万円 | 約640万円 | 約160万円 | 
※扶養家族の有無、社会保険料率により変動します
このように、総支給額で計算すると手取りベースで赤字になるリスクがあります。返済計画は手取りベースで考えることを強く推奨します。
金融機関の審査基準と返済比率
住宅ローンの審査では、金融機関が「返済比率(返済負担率)」を重視します。ただし、この審査基準は「滞りなく返済できるか」の最大値であり、余裕のある生活を保証するものではありません。
年収別の審査基準(30%と35%の境界)
住宅金融支援機構(フラット35)によると、返済負担率の基準は以下の通りです。
| 年収 | 返済負担率の上限 | 
|---|---|
| 400万円未満 | 30%以下 | 
| 400万円以上 | 35%以下 | 
民間金融機関も同様の基準を採用しています。例えば年収500万円の場合、年間返済額が175万円(月約14.6万円)まで認められる計算です。
フラット35の返済負担率基準
フラット35は公的住宅ローンとして、明確な返済負担率基準を公表しています。ただし、この基準に通ったからといって、実際の生活が無理なくできるとは限りません。
審査金利とは?(実際の金利との違い)
金融機関は審査時に「審査金利」を使用します。これは実際の借入金利(例:変動金利0.5%)よりも高い3-4%程度の金利で、将来の金利上昇リスクに備えた基準です。
例えば、実際の金利が0.5%でも、審査では3.5%で計算されるため、借入可能額は実際よりも少なく算定されます。これは金融機関が借主の返済能力を慎重に見極めるための措置です。
年収以外の審査項目(勤続年数・雇用形態など)
国土交通省の調査によると、金融機関が重視する審査項目は以下の通りです。
- 完済時年齢(80歳未満が一般的)
 - 健康状態(団体信用生命保険への加入が条件)
 - 勤続年数(1年以上、できれば3年以上が望ましい)
 - 年収(安定性が重視される)
 - 雇用形態(正社員が有利、契約社員・派遣社員は厳しい)
 
審査に通ったからといって、無理のない返済とは限りません。次のセクションでは、実際に無理なく返済できる比率を解説します。
理想的な返済比率は手取りの20-25%
金融機関の審査基準(30-35%)は最大値であり、余裕のある生活を送るには**手取り年収の20-25%**が理想です。
具体的な年収別シミュレーション(年収400万・500万・600万)
年収別の理想的な返済額を見てみましょう。
| 総支給額 | 手取り年収 | 理想的な年間返済額(手取りの20-25%) | 月々の返済額 | 
|---|---|---|---|
| 400万円 | 約320万円 | 64-80万円 | 約5.3-6.7万円 | 
| 500万円 | 約400万円 | 80-100万円 | 約6.7-8.3万円 | 
| 600万円 | 約480万円 | 96-120万円 | 約8.0-10.0万円 | 
| 700万円 | 約560万円 | 112-140万円 | 約9.3-11.7万円 | 
| 800万円 | 約640万円 | 128-160万円 | 約10.7-13.3万円 | 
※金利1.0%、返済期間35年で試算
例えば手取り年収400万円の場合、月々の返済額は6.7-8.3万円が目安です。これを超えると、家計に余裕がなくなるリスクが高まります。
住宅ローン以外の維持費を考慮する(固定資産税・管理費など)
住宅ローンの返済額だけでなく、以下の維持費も考慮する必要があります。
- 固定資産税:年間10-20万円程度
 - 火災保険料:年間2-3万円程度
 - マンション管理費・修繕積立金(マンション):月1-3万円程度
 - 修繕費(戸建て):10-15年ごとに100-200万円程度
 
これらの維持費を考慮せずに予算を組むと、想定以上の支出で家計が圧迫されます。
共働き世帯の収入合算と注意点
共働き世帯は夫婦の収入を合算して住宅ローンを組むことが可能です。ただし、収入合算にはリスクも伴います。
ペアローンと連帯債務の違い
収入合算の方法は主に2種類あります。
| 方式 | 債務者 | 住宅ローン控除 | 団信 | 
|---|---|---|---|
| ペアローン | 各自が債務者 | 各自で控除可能 | 各自で加入 | 
| 連帯債務 | 主債務者+連帯債務者 | 主債務者のみ(または条件付きで両者) | 主債務者のみ | 
ペアローンは各自が独立した契約を結ぶため、住宅ローン控除を両者で受けられるメリットがあります。一方、連帯債務は主債務者が中心となり、連帯債務者は補完的な位置づけです。
片方が退職・休職した場合のリスク
共働きで収入合算する際の最大のリスクは、片方が退職・休職・育休となった場合に返済困難に陥ることです。
- 妊娠・出産による休職
 - 親の介護による離職
 - 転職・失業
 - 病気・事故による休職
 
これらのリスクを考慮し、両者の収入を前提にせず、主収入者のみで返済可能な額に抑えることが理想です。
将来のリスクを考慮した返済計画の立て方
住宅ローンは30-35年の長期返済となるため、将来のリスクを考慮した計画が不可欠です。
変動金利の上昇リスク(日銀のマイナス金利解除)
2025年3月に日銀がマイナス金利を解除し、今後の金利上昇局面で返済額が増加する可能性があります。変動金利で借りる場合は、審査金利(3-4%)程度での試算を行い、金利上昇時も返済可能か確認しましょう。
例えば、3,000万円を変動金利0.5%で借りた場合の月々返済額は約7.8万円ですが、金利が3.0%に上昇すると約11.5万円となり、約3.7万円の増加です。
家族構成・ライフステージの変化(教育費・介護費・老後資金)
住宅ローン返済中には、以下のようなライフステージの変化があります。
- 教育費:子ども1人あたり大学まで1,000-2,000万円
 - 親の介護費用:月5-15万円程度
 - 老後資金:夫婦で2,000-3,000万円
 
これらの費用を見込まずに返済計画を立てると、将来的に返済負担率が上昇し生活が苦しくなります。余裕を持った返済計画を推奨します。
まとめ
住宅ローンの年収目安は、金融機関の審査は総支給額ベースですが、実際の返済は手取りから行うため、**手取り年収の20-25%**を目安にすることが重要です。
審査基準(30-35%)に通ったからといって無理のない返済とは限りません。住宅ローン以外の維持費、将来の収入変動リスク、金利上昇リスク、ライフステージの変化を考慮した総合的な判断が必要です。
次のステップとして、金融機関の返済シミュレーションツールを活用し、具体的な借入額を試算してみましょう。不安な場合は、ファイナンシャルプランナー(FP)や住宅ローンアドバイザーに相談することをおすすめします。
