事業用不動産とは?居住用不動産との違いを理解しよう
事業を営む経営者や投資家にとって、「事業用不動産を購入すべきか、賃貸にすべきか」「居住用不動産とどう違うのか」という疑問は重要な経営判断です。
この記事では、事業用不動産の種類と特徴、購入・賃貸それぞれのメリット・デメリット、税制上の扱い(減価償却、消費税等)を、国税庁や国土交通省の公式情報を元に解説します。
事業用不動産の取得を検討している方が、税制優遇や立地選定のポイントを正確に把握し、最適な意思決定ができるようになります。
この記事のポイント
- 事業用不動産とは、オフィス・店舗・倉庫・工場など事業に使用する不動産全般を指す
- 居住用不動産との違いは、用途地域・税制・融資条件・契約形態・賃料相場の5点
- 購入のメリットは減価償却による節税効果・資産形成、デメリットは初期投資大・売却困難
- 賃貸のメリットは初期費用抑制・移転容易、デメリットは賃料負担継続・原状回復義務
- 立地選定は業種により異なり(オフィスは駅近、店舗は人通り、倉庫は幹線道路沿い等)、税理士・不動産鑑定士への相談を推奨
事業用不動産の定義と種類
事業用不動産とは、事業に使用する不動産全般を指します。
主な種類は以下の通りです。
- オフィス: 事務所、本社ビル、コワーキングスペース等
- 店舗: 小売店、飲食店、美容室、コンビニエンスストア等
- 倉庫: 物流倉庫、配送センター、貸倉庫等
- 工場: 製造工場、加工場、作業場等
- その他: ホテル、駐車場、医療施設等
これらは居住用不動産(住宅・マンション等)とは異なる法規制や税制が適用されます。
居住用不動産との5つの違い
事業用不動産と居住用不動産には、以下の5つの重要な違いがあります。
1. 用途地域による制限
都市計画法により、土地の用途地域(商業地域・工業地域等)によって建築できる建物の種類が制限されます。
- 商業地域: オフィス・店舗の建築が可能
- 工業地域: 工場・倉庫の建築が可能
- 住居地域: 事業用建物の建築が制限される場合がある
事業用不動産を取得する際は、用途地域を必ず確認する必要があります。
2. 税制の違い
事業用不動産と居住用不動産では、税制が大きく異なります。
減価償却費の損金算入
事業用不動産の建物部分は、減価償却費として経費計上できます。
国税庁によると、建物の取得費用を耐用年数にわたって損金算入することで、法人税・所得税の節税効果があります。
消費税の取扱い
国税庁によると、事業用不動産の売買・賃貸では以下のように消費税が課税されます。
| 項目 | 居住用不動産 | 事業用不動産 | 
|---|---|---|
| 土地の売買 | 非課税 | 非課税 | 
| 建物の売買 | 非課税 | 課税 | 
| 賃料 | 非課税 | 課税 | 
課税事業者(前々年の課税売上が1,000万円超)の場合、建物の購入価格や賃料に消費税が加算されます。
3. 融資条件の違い
事業用不動産の購入には、事業用ローンが必要です。
- 金利: 居住用住宅ローンより高い(年2~5%程度)
- 審査: 事業の収益性・返済能力が厳しく審査される
- 頭金: 物件価格の20~30%程度が必要な場合が多い
金融機関によって条件が大きく異なるため、複数社に相談することを推奨します。
4. 契約形態の違い
事業用不動産の賃貸では、定期借家契約が多く用いられます。
国土交通省によると、事業用定期借地権は以下の特徴があります。
- 契約期間: 10年以上50年未満
- 契約更新: なし(期間満了で終了)
- 建物買取請求権: なし
- 公正証書の作成: 必須
居住用不動産の普通借家契約(更新あり、借主保護が強い)とは異なり、契約期間が明確で、貸主側のリスクが低い契約形態です。
5. 賃料相場の違い
事業用不動産の賃料は、立地・業種により大きく異なります(不動産業界調査)。
- オフィス(東京都心): 坪単価2万~5万円/月
- 店舗(駅前商店街): 坪単価1.5万~4万円/月
- 倉庫(郊外): 坪単価3,000~8,000円/月
居住用不動産と比較して、立地による価格差が非常に大きいのが特徴です。
事業用不動産購入のメリット・デメリット
購入のメリット
減価償却による節税効果
建物の取得費用を耐用年数にわたって損金算入できるため、法人税・所得税を軽減できます。
耐用年数の例:
- RC造(鉄筋コンクリート造): 47年
- 鉄骨造: 34年
- 木造: 22年
毎年、取得費用 ÷ 耐用年数 を経費計上できます。
ただし、ローン元本返済額が減価償却費を上回る「デッドクロス」が発生すると、帳簿上黒字でもキャッシュフローが悪化するため注意が必要です。
資産形成
不動産は長期的な資産として、企業の財務基盤を強化します。
CRE(企業不動産)戦略として、所有不動産を経営資源に活用する取り組みも注目されています。
賃料負担なし
購入後はローン返済のみとなり、完済後は賃料負担がなくなります。
購入のデメリット
初期投資が大きい
頭金(物件価格の20~30%)や登記費用、不動産取得税等の初期費用が数百万~数千万円に達します。
売却が困難
事業用不動産は居住用不動産と比較して流動性が低く、売却に時間がかかる場合があります。
固定費負担
固定資産税、都市計画税、修繕費、管理費等の固定費が毎年発生します。
事業用不動産賃貸のメリット・デメリット
賃貸のメリット
初期費用を抑制
敷金・礼金・仲介手数料のみで済むため、初期費用を数十万~数百万円に抑えられます。
移転が容易
事業の拡大・縮小に応じて、柔軟に移転できます。
経費算入
賃料は全額経費として損金算入でき、節税効果があります。
賃貸のデメリット
賃料負担が継続
毎月の賃料支払いが固定費として発生し続けます。
原状回復義務
退去時に内装を元に戻す義務があり、費用は借主負担となる場合が多いです。
契約更新リスク
定期借家契約の場合、契約期間満了で退去を求められる可能性があります。
税制上の優遇措置
事業用不動産の取得には、以下の税制優遇措置があります。
中小企業経営強化税制
国税庁によると、中小企業が認定経営力向上計画に基づき設備投資した場合、以下の優遇が受けられます。
- 即時償却: 取得価額の全額を初年度に損金算入
- 税額控除: 取得価額の7~10%を法人税額から控除
2025年度改正で、一部建物も対象に含まれる予定です。
事業用資産の買換え特例
国税庁によると、事業用不動産を買い換えた場合、譲渡益の一部を繰り延べることができます。
条件や手続きは複雑なため、税理士に相談することを推奨します。
立地選定のポイント
事業用不動産の立地選定は、業種により異なります。
オフィス:駅近が重要
従業員の通勤利便性や取引先へのアクセスを考慮し、駅から徒歩5分以内の物件が好まれます。
店舗:人通りが最重要
飲食店・小売店では、人通りの多い駅前や商店街が適しています。
視認性(道路からの見えやすさ)も重要な要素です。
倉庫:幹線道路沿いが便利
物流倉庫では、高速道路のインターチェンジや幹線道路沿いの物件が、配送効率の観点から適しています。
工場:用途地域の確認が必須
工場は工業地域・準工業地域でのみ建築可能です。
周辺住民への騒音・振動の影響も考慮する必要があります。
購入時の注意点
よくあるトラブル
国土交通省の不動産トラブル事例データベースによると、以下のトラブルが多く報告されています。
- 用途地域の確認不足: 購入後に希望する事業ができないと判明
- 重要事項説明義務違反: 瑕疵や制限が説明されていなかった
- 修繕費の過小見積もり: 購入後に大規模修繕が必要と判明
対策
以下の対策を推奨します。
- 不動産鑑定士への相談: 物件の適正価格や瑕疵を専門家に評価してもらう
- 税理士への相談: 税制優遇措置の適用条件や節税効果を確認
- 弁護士への相談: 契約書の内容や法的リスクをチェック
2025年の事業用不動産市場トレンド
大手不動産コンサルによると、2025年の事業用不動産市場では以下のトレンドが注目されています。
オフィス回帰
リモートワークから対面勤務への回帰により、オフィス需要が回復傾向にあります。
AIとデータセンター需要
AI技術の普及により、データセンター用地の需要が急増しています。
物流施設の需要拡大
Eコマースの成長により、物流倉庫の需要が継続して拡大しています。
これらのトレンドを踏まえ、長期的な視点で投資判断を行うことが重要です。
まとめ:事業用不動産は専門家に相談しながら慎重に検討
事業用不動産は、オフィス・店舗・倉庫・工場など事業に使用する不動産全般を指し、居住用不動産とは用途地域・税制・融資条件・契約形態・賃料相場が異なります。
購入のメリットは減価償却による節税効果・資産形成・賃料負担なしですが、初期投資大・売却困難・固定費負担がデメリットです。賃貸のメリットは初期費用抑制・移転容易・経費算入ですが、賃料負担継続・原状回復義務・契約更新リスクがデメリットです。
立地選定は業種により異なり、オフィスは駅近、店舗は人通り、倉庫は幹線道路沿い等が重要です。税制優遇措置(中小企業経営強化税制、事業用資産の買換え特例等)を活用することで、税負担を軽減できる可能性があります。
事業用不動産の取得は大きな経営判断であり、税理士・不動産鑑定士・弁護士等の専門家に相談しながら、慎重に検討することを強く推奨します。
