事業用不動産とは?購入・賃貸のメリットと投資時の注意点

公開日: 2025/10/27

事業用不動産とは?居住用不動産との違いを理解しよう

事業を営む経営者や投資家にとって、「事業用不動産を購入すべきか、賃貸にすべきか」「居住用不動産とどう違うのか」という疑問は重要な経営判断です。

この記事では、事業用不動産の種類と特徴、購入・賃貸それぞれのメリット・デメリット、税制上の扱い(減価償却、消費税等)を、国税庁国土交通省の公式情報を元に解説します。

事業用不動産の取得を検討している方が、税制優遇や立地選定のポイントを正確に把握し、最適な意思決定ができるようになります。

この記事のポイント

  • 事業用不動産とは、オフィス・店舗・倉庫・工場など事業に使用する不動産全般を指す
  • 居住用不動産との違いは、用途地域・税制・融資条件・契約形態・賃料相場の5点
  • 購入のメリットは減価償却による節税効果・資産形成、デメリットは初期投資大・売却困難
  • 賃貸のメリットは初期費用抑制・移転容易、デメリットは賃料負担継続・原状回復義務
  • 立地選定は業種により異なり(オフィスは駅近、店舗は人通り、倉庫は幹線道路沿い等)、税理士・不動産鑑定士への相談を推奨

事業用不動産の定義と種類

事業用不動産とは、事業に使用する不動産全般を指します。

主な種類は以下の通りです。

  • オフィス: 事務所、本社ビル、コワーキングスペース等
  • 店舗: 小売店、飲食店、美容室、コンビニエンスストア等
  • 倉庫: 物流倉庫、配送センター、貸倉庫等
  • 工場: 製造工場、加工場、作業場等
  • その他: ホテル、駐車場、医療施設等

これらは居住用不動産(住宅・マンション等)とは異なる法規制や税制が適用されます。

居住用不動産との5つの違い

事業用不動産と居住用不動産には、以下の5つの重要な違いがあります。

1. 用途地域による制限

都市計画法により、土地の用途地域(商業地域・工業地域等)によって建築できる建物の種類が制限されます。

  • 商業地域: オフィス・店舗の建築が可能
  • 工業地域: 工場・倉庫の建築が可能
  • 住居地域: 事業用建物の建築が制限される場合がある

事業用不動産を取得する際は、用途地域を必ず確認する必要があります。

2. 税制の違い

事業用不動産と居住用不動産では、税制が大きく異なります。

減価償却費の損金算入

事業用不動産の建物部分は、減価償却費として経費計上できます。

国税庁によると、建物の取得費用を耐用年数にわたって損金算入することで、法人税・所得税の節税効果があります。

消費税の取扱い

国税庁によると、事業用不動産の売買・賃貸では以下のように消費税が課税されます。

項目 居住用不動産 事業用不動産
土地の売買 非課税 非課税
建物の売買 非課税 課税
賃料 非課税 課税

課税事業者(前々年の課税売上が1,000万円超)の場合、建物の購入価格や賃料に消費税が加算されます。

3. 融資条件の違い

事業用不動産の購入には、事業用ローンが必要です。

  • 金利: 居住用住宅ローンより高い(年2~5%程度)
  • 審査: 事業の収益性・返済能力が厳しく審査される
  • 頭金: 物件価格の20~30%程度が必要な場合が多い

金融機関によって条件が大きく異なるため、複数社に相談することを推奨します。

4. 契約形態の違い

事業用不動産の賃貸では、定期借家契約が多く用いられます。

国土交通省によると、事業用定期借地権は以下の特徴があります。

  • 契約期間: 10年以上50年未満
  • 契約更新: なし(期間満了で終了)
  • 建物買取請求権: なし
  • 公正証書の作成: 必須

居住用不動産の普通借家契約(更新あり、借主保護が強い)とは異なり、契約期間が明確で、貸主側のリスクが低い契約形態です。

5. 賃料相場の違い

事業用不動産の賃料は、立地・業種により大きく異なります(不動産業界調査)。

  • オフィス(東京都心): 坪単価2万~5万円/月
  • 店舗(駅前商店街): 坪単価1.5万~4万円/月
  • 倉庫(郊外): 坪単価3,000~8,000円/月

居住用不動産と比較して、立地による価格差が非常に大きいのが特徴です。

事業用不動産購入のメリット・デメリット

購入のメリット

減価償却による節税効果

建物の取得費用を耐用年数にわたって損金算入できるため、法人税・所得税を軽減できます。

耐用年数の例:

  • RC造(鉄筋コンクリート造): 47年
  • 鉄骨造: 34年
  • 木造: 22年

毎年、取得費用 ÷ 耐用年数 を経費計上できます。

ただし、ローン元本返済額が減価償却費を上回る「デッドクロス」が発生すると、帳簿上黒字でもキャッシュフローが悪化するため注意が必要です。

資産形成

不動産は長期的な資産として、企業の財務基盤を強化します。

CRE(企業不動産)戦略として、所有不動産を経営資源に活用する取り組みも注目されています。

賃料負担なし

購入後はローン返済のみとなり、完済後は賃料負担がなくなります。

購入のデメリット

初期投資が大きい

頭金(物件価格の20~30%)や登記費用、不動産取得税等の初期費用が数百万~数千万円に達します。

売却が困難

事業用不動産は居住用不動産と比較して流動性が低く、売却に時間がかかる場合があります。

固定費負担

固定資産税、都市計画税、修繕費、管理費等の固定費が毎年発生します。

事業用不動産賃貸のメリット・デメリット

賃貸のメリット

初期費用を抑制

敷金・礼金・仲介手数料のみで済むため、初期費用を数十万~数百万円に抑えられます。

移転が容易

事業の拡大・縮小に応じて、柔軟に移転できます。

経費算入

賃料は全額経費として損金算入でき、節税効果があります。

賃貸のデメリット

賃料負担が継続

毎月の賃料支払いが固定費として発生し続けます。

原状回復義務

退去時に内装を元に戻す義務があり、費用は借主負担となる場合が多いです。

契約更新リスク

定期借家契約の場合、契約期間満了で退去を求められる可能性があります。

税制上の優遇措置

事業用不動産の取得には、以下の税制優遇措置があります。

中小企業経営強化税制

国税庁によると、中小企業が認定経営力向上計画に基づき設備投資した場合、以下の優遇が受けられます。

  • 即時償却: 取得価額の全額を初年度に損金算入
  • 税額控除: 取得価額の7~10%を法人税額から控除

2025年度改正で、一部建物も対象に含まれる予定です。

事業用資産の買換え特例

国税庁によると、事業用不動産を買い換えた場合、譲渡益の一部を繰り延べることができます。

条件や手続きは複雑なため、税理士に相談することを推奨します。

立地選定のポイント

事業用不動産の立地選定は、業種により異なります。

オフィス:駅近が重要

従業員の通勤利便性や取引先へのアクセスを考慮し、駅から徒歩5分以内の物件が好まれます。

店舗:人通りが最重要

飲食店・小売店では、人通りの多い駅前や商店街が適しています。

視認性(道路からの見えやすさ)も重要な要素です。

倉庫:幹線道路沿いが便利

物流倉庫では、高速道路のインターチェンジや幹線道路沿いの物件が、配送効率の観点から適しています。

工場:用途地域の確認が必須

工場は工業地域・準工業地域でのみ建築可能です。

周辺住民への騒音・振動の影響も考慮する必要があります。

購入時の注意点

よくあるトラブル

国土交通省の不動産トラブル事例データベースによると、以下のトラブルが多く報告されています。

  • 用途地域の確認不足: 購入後に希望する事業ができないと判明
  • 重要事項説明義務違反: 瑕疵や制限が説明されていなかった
  • 修繕費の過小見積もり: 購入後に大規模修繕が必要と判明

対策

以下の対策を推奨します。

  • 不動産鑑定士への相談: 物件の適正価格や瑕疵を専門家に評価してもらう
  • 税理士への相談: 税制優遇措置の適用条件や節税効果を確認
  • 弁護士への相談: 契約書の内容や法的リスクをチェック

2025年の事業用不動産市場トレンド

大手不動産コンサルによると、2025年の事業用不動産市場では以下のトレンドが注目されています。

オフィス回帰

リモートワークから対面勤務への回帰により、オフィス需要が回復傾向にあります。

AIとデータセンター需要

AI技術の普及により、データセンター用地の需要が急増しています。

物流施設の需要拡大

Eコマースの成長により、物流倉庫の需要が継続して拡大しています。

これらのトレンドを踏まえ、長期的な視点で投資判断を行うことが重要です。

まとめ:事業用不動産は専門家に相談しながら慎重に検討

事業用不動産は、オフィス・店舗・倉庫・工場など事業に使用する不動産全般を指し、居住用不動産とは用途地域・税制・融資条件・契約形態・賃料相場が異なります。

購入のメリットは減価償却による節税効果・資産形成・賃料負担なしですが、初期投資大・売却困難・固定費負担がデメリットです。賃貸のメリットは初期費用抑制・移転容易・経費算入ですが、賃料負担継続・原状回復義務・契約更新リスクがデメリットです。

立地選定は業種により異なり、オフィスは駅近、店舗は人通り、倉庫は幹線道路沿い等が重要です。税制優遇措置(中小企業経営強化税制、事業用資産の買換え特例等)を活用することで、税負担を軽減できる可能性があります。

事業用不動産の取得は大きな経営判断であり、税理士・不動産鑑定士・弁護士等の専門家に相談しながら、慎重に検討することを強く推奨します。

よくある質問

Q1事業用不動産の減価償却はどのように計算しますか?

A1建物の取得費用を耐用年数(RC造47年、鉄骨造34年、木造22年等)で割り、毎年経費計上します。例えば、RC造の建物を4,700万円で取得した場合、毎年100万円(4,700万円÷47年)を減価償却費として損金算入できます。ただし、土地は減価償却の対象外です。詳細な計算方法や適用条件については、税理士に相談することを推奨します。

Q2事業用不動産の売買に消費税はかかりますか?

A2土地の売買は非課税ですが、建物の売買には消費税が課税されます。課税事業者(前々年の課税売上が1,000万円超)が売主の場合、建物価格に10%の消費税が加算されます。例えば、建物価格3,000万円の物件を購入する場合、消費税300万円が別途必要です。賃料にも消費税が課税されるため、事業計画に消費税を織り込む必要があります。

Q3事業用定期借地権とは何ですか?

A3専ら事業用建物の所有を目的に設定される借地権で、契約期間は10年以上50年未満です。契約更新がなく、期間満了で終了し、建物買取請求権もありません。公正証書での作成が必須です。貸主側は期間満了で確実に土地が返還されるため、普通借地権より安心して貸し出せます。借主側は長期的な事業計画が立てやすい一方、契約終了時に退去が必要な点に注意が必要です。

Q4中小企業経営強化税制はどのような制度ですか?

A4中小企業が認定経営力向上計画に基づき設備投資した場合、即時償却(取得価額の全額を初年度に損金算入)または税額控除(取得価額の7~10%を法人税額から控除)を選択できる制度です。2025年度改正で一部建物も対象に含まれる予定です。適用には申請が必要で、条件や手続きが複雑なため、税理士に相談することを強く推奨します。