親の土地に家を建てる場合、親が亡くなったら家はどうなる?
親の土地に家を建てる際、「親が亡くなったら家はどうなるのか」「他の兄弟とトラブルにならないか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、親の土地に家を建てる際の法律関係、相続時の扱い、トラブル回避策を、民法・国税庁の公式情報を元に解説します。
親の土地に家を建てることを検討中または既に建てた方にとって、将来のリスクを理解し、適切な対策を立てられるようになります。
この記事のポイント
- 建物は建てた人の所有物となるが、土地の権利(使用貸借・賃貸借・贈与)を明確にする必要がある
- 親が亡くなると土地は相続人全員の共有となり、他の相続人から地代請求や立ち退き要求されるリスクがある
- 使用貸借は相続時に終了するため、他の相続人と再契約が必要(賃貸借は相続人に承継される)
- 生前贈与・遺言・相続時精算課税制度を活用すれば、トラブルを回避し土地を確実に取得できる
親の土地に家を建てる際の法律関係|土地と建物は別の財産
民法では、土地と建物は別個の不動産として扱われます。親の土地に家を建てた場合、建物は建てた人の所有物となりますが、土地の権利が明確でないとトラブルの原因となります。
建物は建てた人の所有物
家を建てた人が建築費用を負担した場合、建物の所有権は建てた人に帰属します。親の土地に建てたとしても、建物自体は子の財産となります。
土地の権利:使用貸借・賃貸借・贈与の3パターン
親の土地を利用する法律関係には、以下の3つがあります。
| 権利の種類 | 地代の有無 | 契約の形式 | 相続時の扱い |
|---|---|---|---|
| 使用貸借 | なし(無償) | 口約束でも成立 | 使用貸借は終了、再契約が必要 |
| 賃貸借 | あり(有償) | 賃貸借契約書を作成 | 賃貸借権は相続人に承継される |
| 贈与 | - | 贈与契約書、所有権移転登記 | 既に子の所有なので問題なし |
実務上、多くのケースで「使用貸借」(無償で土地を使わせてもらう)の形が取られています。
親が亡くなったら何が起こる?相続時の3つのリスク
親が亡くなると、土地は相続人全員の共有財産となります。この時点で以下のリスクが発生します。
リスク1:使用貸借は相続時に終了する
民法第599条は借主の死亡による終了を定めていますが、貸主の死亡についても判例上、使用貸借は終了するとされています。親が亡くなると、土地を使う法的根拠がなくなります。
他の相続人(兄弟姉妹)と新たに使用貸借契約を結ぶか、土地を相続する必要があります。
リスク2:他の相続人から地代請求や立ち退き要求されるリスク
土地が相続人全員の共有となった場合、他の相続人から以下の要求をされる可能性があります。
- 地代の支払い請求:「土地を使っているなら地代を払え」
- 立ち退き要求:「土地を売りたいから家を撤去して出て行け」
- 共有物分割請求:「土地を分割して私の分をよこせ」
法的には、共有者の過半数の同意がなければ土地の処分はできませんが、トラブルの原因となります。
リスク3:建物だけ残して土地を失う可能性
最悪のケースでは、建物の所有権は維持できても、土地の権利を失い、以下の事態に陥る可能性があります。
- 地代を払い続けなければならない
- 土地が第三者に売却され、立ち退きを迫られる
- 建物を解体して土地を返還しなければならない
トラブル回避策1:生前贈与で土地を確実に取得
親が生きているうちに、土地を贈与してもらう方法です。
贈与税の計算方法
土地の評価額(相続税評価額)から基礎控除110万円を差し引いた金額に、贈与税がかかります。
贈与税の税率(一般税率):
- 200万円以下:10%
- 400万円以下:15%
- 600万円以下:20%
- 1000万円以下:30%
- 1000万円超:45%(控除額265万円)
例:評価額2000万円の土地を贈与された場合
- 課税価格 = 2000万円 - 110万円 = 1890万円
- 贈与税 = 1890万円 × 45% - 265万円 = 585.5万円
相続時精算課税制度を活用すれば2500万円まで非課税
国税庁の相続時精算課税制度を利用すれば、2500万円まで贈与税がかかりません。
メリット:
- 2500万円まで非課税で贈与可能
- 相続時に贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算
デメリット:
- 一度選択すると、その親からの贈与は全て相続時精算課税が適用される
- 相続時に相続税が発生する可能性がある
トラブル回避策2:遺言で土地を確実に相続
親に遺言を書いてもらい、「土地を◯◯に相続させる」と明記してもらう方法です。
遺言の種類と作成方法
| 遺言の種類 | 作成方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 全文を自筆、日付、署名、押印 | 費用がかからない | 紛失・改ざんのリスク |
| 公正証書遺言 | 公証役場で公証人が作成 | 紛失・改ざんのリスクなし | 費用がかかる(数万円) |
公正証書遺言の方が確実で、後のトラブルを避けやすいです。
遺留分に注意
民法第1042条により、他の相続人には遺留分(法定相続分の1/2)があります。遺言で土地を全て一人に相続させた場合、他の相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
遺留分に相当する現金等を用意しておくか、他の相続人と事前に話し合っておくことが重要です。
トラブル回避策3:使用貸借契約書を作成
生前贈与や遺言が難しい場合、最低限、使用貸借契約書を作成しておくことが推奨されます。
契約書に明記すべき内容
- 土地の所在地・地番・面積
- 使用目的(住宅建築・居住)
- 使用期間(無期限または◯年間)
- 地代の有無(無償)
- 相続時の扱い(相続人に承継されるか)
口約束だけでは、後で「そんな約束はしていない」と言われるリスクがあります。契約書を作成し、親と子の双方が署名・押印することで、証拠として残ります。
賃貸借契約に変更する選択肢
地代を支払う賃貸借契約に変更すれば、賃貸借権は相続人に承継されます(民法第896条)。他の相続人との再契約が不要となり、安定した土地利用が可能です。
ただし、地代を支払う必要があり、親に不動産所得が発生するため、確定申告が必要になります。親子間の賃貸借契約では、地代が固定資産税相当額以上であることが税務上求められます。個別の判断は税理士に相談してください。
実際のトラブル事例と教訓
事例1:使用貸借で建てたが、親の死後に兄弟から立ち退き要求
長男が親の土地に家を建て、口約束で無償使用。親が亡くなった後、次男から「土地を売りたいから家を撤去しろ」と要求された。長男は建物を解体し、土地を返還せざるを得なくなった。
教訓:使用貸借契約書を作成し、相続時の扱いを明記すべきだった。または生前贈与・遺言で土地を取得すべきだった。
事例2:遺言で土地を相続したが、遺留分請求でトラブル
遺言で土地を全て長男が相続。次男・三男から遺留分侵害額請求をされ、各々500万円を支払う羽目になった。
教訓:遺留分に相当する現金を用意しておくか、他の相続人と事前に話し合っておくべきだった。
まとめ|親の土地に家を建てるなら事前対策が必須
親の土地に家を建てる場合、建物は建てた人の所有物となりますが、土地の権利を明確にしないと、親が亡くなった後にトラブルになる可能性があります。
使用貸借は相続時に終了するため、他の相続人との再契約が必要です。生前贈与・遺言・相続時精算課税制度を活用すれば、土地を確実に取得でき、トラブルを回避できます。
親が元気なうちに、土地の権利関係を整理し、契約書・遺言等の準備をすることが重要です。個別具体的な相談は、弁護士や税理士に相談することをおすすめします。
