投資用戸建て売却の査定方法|収益評価・税金・利回り完全ガイド

公開日: 2025/10/20

投資用戸建て売却で知っておくべき査定の基本

投資用戸建ての売却では、居住用物件とは異なる評価軸が重要になります。収益性を重視した査定手法、オーナーチェンジと空室渡しの選択、売却時の税金計算など、投資用物件特有のポイントを理解しなければ、適正価格での売却は困難です。本記事では、国土交通省や国税庁の公的データに基づき、投資用戸建て売却における査定方法と実務上の注意点を解説します。

この記事のポイント:

  • 投資用物件の査定は収益還元法が基本(直接還元法・DCF法)
  • オーナーチェンジと空室渡しで買い手層が異なる
  • 所有期間5年が税率の境界(短期39.63%、長期20.315%)
  • 減価償却で帳簿価額が下がると売却益が増える
  • 査定書では収益性(利回り・キャッシュフロー)の説明が重要

1. 投資用戸建ての査定方法

投資用戸建ての査定では、収益還元法が基本となります。国土交通省の「不動産鑑定評価基準」でも、投資用不動産の評価には収益還元法の適用が推奨されています。これは、物件が将来生み出す賃料収入を現在価値に換算して価格を算出する手法です。

(1) 収益還元法による評価

収益還元法は、不動産投資の本質である「収益を生み出す資産」としての価値を評価する手法です。

基本式:

物件価格 = 年間純収益 ÷ 還元利回り

たとえば、年間純収益が150万円、還元利回りを6%と設定した場合、物件価格は2,500万円(150万円 ÷ 0.06)となります。投資家が求める利回り水準は地域や物件タイプにより異なるため、査定業者は市場データから適切な利回りを設定します。

(2) DCF法と直接還元法

収益還元法には主に2つの手法があります。

評価方法 特徴 適用場面
直接還元法 単年度の純収益を利回りで割る 安定収益物件・実務的な簡易評価
DCF法 将来収益を現在価値に割引 大型物件・長期保有を前提

直接還元法はシンプルで実務的ですが、将来の収益変動は考慮しません。DCF法(Discounted Cash Flow法)は、複数年の賃料予測と最終的な売却価格を現在価値に割り引いて算出するため、より精緻な評価が可能です。一般的な投資用戸建ての査定では、直接還元法が使われることが多い傾向があります。

2. 投資用戸建ての売却査定を自分で確認する方法

査定業者の提示額が妥当かどうか、自分で確認することも可能です。公的データを活用すれば、客観的な相場感を把握できます。

(1) 国の取引価格情報の使い方

国土交通省の「不動産取引価格情報検索」では、実際の取引価格データを無料で閲覧できます。以下の情報が確認可能です。

  • 取引時期・物件種別
  • 所在地(町名まで)・最寄り駅
  • 取引価格・土地面積・建物面積
  • 建築年・用途地域

売却予定の物件と類似した条件(築年数・立地・面積)の取引事例を検索し、直近の成約価格を参照することで、査定額の妥当性を判断できます。

(2) 利回りからの逆算確認

現在の賃料収入から、査定額の妥当性を逆算で確認できます。

確認手順:

  1. 年間家賃収入を確認(例:月額10万円 → 年間120万円)
  2. 年間経費を差し引く(管理費・税金・修繕費等で約30% → 純収益84万円)
  3. 地域の還元利回り相場を調査(戸建て投資では6〜8%が一般的)
  4. 逆算価格を計算(84万円 ÷ 0.07 = 1,200万円)

査定額がこの逆算価格と大きく乖離している場合、査定業者に根拠を確認することをおすすめします。

3. オーナーチェンジ物件としての売却

投資用戸建ての売却では、「オーナーチェンジ」と「空室渡し」の2つの選択肢があります。それぞれメリット・デメリットが異なります。

(1) 賃貸借契約の引き継ぎ

オーナーチェンジ物件とは、入居者がいる状態で売却し、賃貸借契約も買主に引き継ぐ方式です。国土交通省のガイドでは、以下の点が重要とされています。

オーナーチェンジのメリット:

  • 売却後も賃料収入が継続(買主にとって魅力)
  • 入居中のため内見不要(プライバシー保護)
  • 投資家向けに訴求しやすい

オーナーチェンジのデメリット:

  • 買主が投資家に限定される(実需層は対象外)
  • 賃料が相場より安いと査定額が下がる
  • 賃貸借契約の条件が買主に引き継がれる

宅地建物取引業法では、オーナーチェンジ物件の売買時に賃貸借契約の内容を買主に説明する義務があります。賃料・契約期間・敷金などの詳細を事前に整理しておきましょう。

(2) 空室渡しとの査定額比較

空室渡しは、入居者に退去してもらってから売却する方式です。

項目 オーナーチェンジ 空室渡し
買い手 投資家のみ 投資家+実需層
査定の基準 現在の賃料・利回り 市場賃料・将来利回り
売却価格 賃料次第 幅広い層で競争

オーナーチェンジが有利になるのは、現在の賃料が市場相場と同等以上の場合です。一方、賃料が相場より低い場合は、空室渡しにして買主が自由に賃料設定できる状態にした方が高く売れる可能性があります。

4. 投資用不動産売却時の税金

投資用戸建ての売却では、譲渡所得税が発生します。国税庁の規定では、所有期間により税率が大きく異なります。

(1) 短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い

所有期間による区分:

  • 短期譲渡所得: 所有期間5年以内の売却
  • 長期譲渡所得: 所有期間5年超の売却

判定日の注意点:

所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で計算します。たとえば2020年7月に購入した物件を2025年8月に売却する場合、2025年1月1日時点では所有期間4年6か月となり、短期譲渡所得に該当します。

(2) 税率の差(5年が境界)

区分 所得税 住民税 合計税率
短期譲渡所得 30.63% 9% 39.63%
長期譲渡所得 15.315% 5% 20.315%

※所得税には復興特別所得税(2.1%)が含まれています。

税額シミュレーション:

譲渡所得1,000万円の場合:

  • 短期譲渡所得:約396万円
  • 長期譲渡所得:約203万円
  • 税額差:約193万円

5年の境界で税負担が約2倍になるため、売却タイミングは慎重に検討する必要があります。可能であれば、5年超まで保有してから売却することで、手取り額を大きく増やせます。

5. 投資用不動産の譲渡所得の計算

投資用戸建ての売却益は、減価償却により帳簿価額が下がっているため、購入価格よりも高い譲渡所得になることがあります。

(1) 減価償却と帳簿価額

国税庁の「減価償却資産の耐用年数」では、木造建物の耐用年数は22年、RC造は47年と定められています。投資用不動産では、毎年の減価償却費を経費計上できますが、その分だけ帳簿価額が低下します。

減価償却の計算例(木造戸建て):

  • 建物取得価額:2,000万円
  • 耐用年数:22年
  • 年間償却額:約91万円(定額法)
  • 10年後の帳簿価額:2,000万円 - 910万円 = 1,090万円

(2) 譲渡所得の計算式

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

取得費は以下のように計算します。

取得費 = 土地取得価額 + (建物取得価額 - 減価償却累計額)

計算例:

  • 売却価格:2,500万円
  • 土地取得価額:1,000万円
  • 建物取得価額:2,000万円
  • 減価償却累計額:910万円(10年分)
  • 譲渡費用:100万円(仲介手数料等)

譲渡所得の計算:

取得費 = 1,000万円 + (2,000万円 - 910万円) = 2,090万円

譲渡所得 = 2,500万円 - 2,090万円 - 100万円 = 310万円

減価償却により建物の帳簿価額が下がっているため、購入時の総額3,000万円より安く売却しても、譲渡所得は310万円発生します。この譲渡所得に対して、短期・長期の税率が適用されます。

6. 投資用物件の査定書の見方

投資用戸建ての査定書には、居住用物件とは異なる項目が記載されます。

(1) 法律で定められた説明義務

宅地建物取引業法では、不動産業者が査定書を提示する際、以下の事項を説明する義務があります。

  • 査定の根拠となる評価方法
  • 周辺の取引事例
  • 物件の特性(築年数・立地・設備)
  • 市場動向

投資用物件の場合、これらに加えて収益性の説明が重要になります。

(2) 収益性の説明項目

投資用物件の査定書では、以下の収益性指標を確認しましょう。

確認すべき項目:

項目 内容 確認ポイント
想定賃料 月額・年額の賃料収入 周辺相場と比較して妥当か
表面利回り 年間賃料 ÷ 物件価格 地域平均と比較
実質利回り 純収益 ÷ 物件価格 経費控除後の実質収益
還元利回り 収益還元法で使用した利回り 設定根拠を確認
想定空室率 年間の空室期間見込み 過去実績を参照

これらの数値が周辺相場や過去の実績と乖離している場合、査定業者に根拠を確認することが重要です。複数の業者に査定を依頼し、収益性の評価方法を比較することをおすすめします。

まとめ:投資用戸建て売却の査定で失敗しないために

投資用戸建ての売却では、収益還元法による査定が基本となります。オーナーチェンジと空室渡しのどちらを選ぶかは、現在の賃料水準と買い手層を考慮して判断しましょう。国土交通省の取引価格データや、利回りからの逆算により、査定額の妥当性を自分で確認することも可能です。

税金面では、所有期間5年が重要な境界です。売却した年の1月1日時点で5年超となるタイミングで売却すれば、税率が39.63%から20.315%に下がり、手取り額を大きく増やせます。減価償却により帳簿価額が下がっている点も考慮し、譲渡所得を正確に計算しましょう。

査定書では、収益性の説明項目(想定賃料・利回り・空室率)を必ず確認してください。複数の業者に査定を依頼し、評価方法と根拠を比較することで、適正価格での売却が実現できます。

よくある質問

Q1オーナーチェンジと空室渡し、どちらが高く売れますか?

A1一概には言えません。オーナーチェンジは投資家向けで、現在の賃料と利回りで評価されます。空室渡しは投資家だけでなく実需層も対象となり、幅広い買い手が競争するため、場合によっては高値が付くこともあります。現在の賃料が市場相場より高ければオーナーチェンジが有利、相場より低ければ空室渡しを検討する価値があります。

Q25年以内に売却すると税金が高いのですか?

A2その通りです。所有期間5年以内の売却は短期譲渡所得となり、税率は39.63%(所得税30.63%+住民税9%)です。一方、所有期間5年超の売却は長期譲渡所得となり、税率は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)と約半分になります。判定は売却した年の1月1日時点で行われるため、タイミングには注意が必要です。

Q3減価償却をたくさん取っていると売却時の税金が増えますか?

A3その通りです。減価償却により建物の帳簿価額が下がるため、譲渡所得(売却価格−取得費)が大きくなり、税金も増えます。ただし、減価償却費は保有期間中に経費として所得税を節税しているため、総合的には有利になるケースが多いです。売却時の税金も含めたトータルのキャッシュフローで判断することが重要です。

Q4投資用物件の査定は無料ですか?

A4不動産会社による査定は通常無料です。複数社に依頼して比較することも可能です。ただし、収益還元法による詳細な評価や、DCF法を用いた精緻な鑑定が必要な場合、不動産鑑定士に依頼すると有料となります。鑑定費用は物件規模により異なりますが、数万円から数十万円程度が一般的です。

Q5査定額と実際の売却価格に差が出ることはありますか?

A5査定額はあくまで目安であり、実際の売却価格は市場の需給バランスや買主との交渉で決まります。投資用物件の場合、買主が求める利回り水準や、融資の可否によっても価格が変動します。査定額より高く売れることもあれば、低くなることもあるため、余裕を持った資金計画を立てることをおすすめします。

関連記事