不動産取引で印紙代が重要な理由
不動産売買契約を結ぶ際、「印紙代はいくらかかるのか」「誰が負担するのか」と疑問に感じる方は多いのではないでしょうか。
この記事では、不動産売買契約書の印紙税額、売主・買主の負担割合、電子契約を活用した節約方法を、国税庁の公式情報を元に解説します。
印紙税は契約金額により400円〜60万円と幅があり、軽減税率の適用期限(2027年3月31日まで)や電子契約の活用により、コストを抑えることが可能です。不動産取引の諸費用を正確に把握し、無駄なく取引を進めるための参考にしてください。
この記事のポイント
- 不動産売買契約書の印紙税額は契約金額により異なり、軽減税率適用後は1万円〜48万円(2027年3月31日まで)
- 実務上は契約書を2通作成し、売主・買主が各自1通分の印紙代を負担するケースが一般的
- 電子契約を利用すれば印紙税は不要(節税方法として注目)
- 税抜表示を活用すれば、消費税分を除いた金額が印紙税額の基準となる
- 印紙を貼らなかった場合や消印をしなかった場合、過怠税(本来の税額の3倍)が課される
印紙税の基礎知識(課税文書・税率・軽減措置)
(1) 印紙税とは(課税文書と収入印紙)
印紙税は、契約書や領収書などの課税文書に対して課される税金です。不動産売買契約書は「不動産の譲渡に関する契約書」として課税文書に該当します。
印紙税の納付方法:
- 契約書に収入印紙を貼り付ける
- 収入印紙と契約書にまたがって消印を押す(再使用防止のため)
収入印紙は郵便局や法務局で購入できます。コンビニでは主に200円印紙のみの取り扱いとなるため、高額の印紙が必要な場合は郵便局や法務局での購入を推奨します。
(出典: 国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」)
(2) 軽減税率の適用期間(2027年3月31日まで)
不動産売買契約書の印紙税には、軽減税率が適用されています。
軽減措置の概要(2025年時点):
- 適用期間: 平成26年4月1日〜令和9年(2027年)3月31日
- 対象: 記載金額10万円超の不動産譲渡契約書
- 軽減内容: 本則税率の約1/2〜1/3に軽減
(出典: 国税庁「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」)
重要: 軽減措置の期限は2027年3月31日までです。期限後は本来の税率に戻る可能性があるため、契約時期を確認することを推奨します。
(3) 消印の方法と過怠税のリスク
収入印紙を貼っただけでは納税が完了しません。消印(収入印紙と契約書にまたがって印鑑やサインを押すこと)が必須です。
過怠税のリスク:
- 印紙を貼らなかった場合: 本来の税額の3倍の過怠税
- 消印をしなかった場合: 本来の税額と同額の過怠税
(出典: 国税庁「不動産の譲渡・建設工事の請負に関する契約書の印紙税の軽減措置パンフレット(令和6年4月改訂)」)
契約時には必ず印紙を貼り、消印を忘れないよう注意してください。
不動産売買契約書の印紙税額一覧表
(1) 契約金額別の印紙税額(軽減税率適用後)
不動産売買契約書の印紙税額は、契約金額により以下のように定められています(2025年時点、軽減税率適用後)。
| 契約金額 | 本則税率 | 軽減税率(2027年3月31日まで) |
|---|---|---|
| 10万円以下 | 200円 | 200円(軽減なし) |
| 50万円以下 | 400円 | 200円 |
| 100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
| 500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
| 1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
| 5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
| 1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
| 5億円以下 | 100,000円 | 60,000円 |
| 10億円以下 | 200,000円 | 160,000円 |
| 50億円以下 | 400,000円 | 320,000円 |
| 50億円超 | 600,000円 | 480,000円 |
(出典: 三井のリハウス「印紙税|2025年(令和7年)度税金の手引き」)
(2) 具体例(1,000万円・3,000万円・5,000万円・1億円)
例1: 契約金額1,000万円の場合
- 軽減税率適用: 5,000円
- 本則税率: 10,000円
例2: 契約金額3,000万円の場合
- 軽減税率適用: 10,000円(5,000万円以下)
- 本則税率: 20,000円
例3: 契約金額5,000万円の場合
- 軽減税率適用: 10,000円
- 本則税率: 20,000円
例4: 契約金額1億円の場合
- 軽減税率適用: 30,000円
- 本則税率: 60,000円
軽減税率の適用により、印紙税額が半分になります。
(3) 建設工事請負契約書の印紙税
不動産売買契約書と同様に、建設工事請負契約書にも軽減税率が適用されます(2027年3月31日まで)。
新築住宅を建てる際の工事請負契約書も、同じ税額表が適用されます。
(出典: 国税庁「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」)
売主・買主の負担割合と実務上の慣行
(1) 法律上の負担者(連帯納税義務)
印紙税法上、契約書に署名・押印した者全員が連帯して納税義務を負います。つまり、売主と買主の両方が連帯して納税義務を負うことになります。
(出典: 国税庁)
重要: 法律上は「売主が全額負担」「買主が全額負担」といった明確な決まりはありません。
(2) 実務上の負担慣行(契約書2通作成の場合)
実務上は、以下のような取り扱いが一般的です。
契約書を2通作成する場合:
- 売主用の契約書1通(売主が印紙代を負担)
- 買主用の契約書1通(買主が印紙代を負担)
この場合、売主・買主が各自1通分の印紙代を負担するため、負担は半々となります。
契約金額3,000万円の場合の負担例:
- 印紙税額: 10,000円(軽減税率適用後)
- 売主負担: 10,000円(1通分)
- 買主負担: 10,000円(1通分)
- 合計: 20,000円
(3) 契約書1通作成の場合の取り扱い
契約書を1通のみ作成し、一方が原本を保管し、もう一方が写し(コピー)を保管する場合もあります。
契約書1通+写し1部の場合:
- 原本: 印紙税が課される
- 写し(単なる控え): 印紙税は課されない
この場合、原本を保管する側のみが印紙代を負担します。ただし、写しに契約当事者の署名・押印があると課税文書となるため注意が必要です。
(出典: マネーフォワード クラウド契約「不動産売買契約書に印紙は必要?どちらが負担する?金額や貼り方を解説」)
負担割合は契約内容により異なるため、契約前に不動産会社や宅建士に確認することを推奨します。
印紙税の節約方法(電子契約・税抜表示・契約書写し)
(1) 電子契約による印紙税非課税化
電子契約を利用すれば、印紙税は不要です。
理由:
- 印紙税法は「紙の文書」に対して課税
- 電子契約は「文書の作成」に該当しない
節税効果の例(契約金額3,000万円の場合):
- 紙の契約書(2通): 20,000円
- 電子契約: 0円
- 節税額: 20,000円
(出典: ノムコム「不動産売買契約書は印紙が必要?必要金額や電子契約の場合なども解説」)
注意点: 宅地建物取引業法では、重要事項説明書や契約書の「書面交付義務」が定められています。電子契約を利用する場合は、宅建業法上の要件を満たしているか確認することを推奨します。
(2) 税抜表示による印紙税額の削減
契約金額を税抜表示にすることで、印紙税額を削減できる場合があります。
仕組み:
- 消費税額を明らかに記載した場合、税抜金額が印紙税額の基準となる
例(物件価格5,000万円、消費税500万円の場合):
- 税込表示(5,500万円): 印紙税30,000円(1億円以下)
- 税抜表示(5,000万円+消費税500万円): 印紙税10,000円(5,000万円以下)
- 節税額: 20,000円
(出典: 国税庁)
注意: 契約書に「物件価格5,000万円(税抜)、消費税500万円、合計5,500万円」と明記する必要があります。詳細は税理士等の専門家にご相談ください。
(3) 契約書の写しを控えとする方法
前述の通り、契約書を1通のみ作成し、写し(単なる控え)を保管する方法でも節約できます。
節税効果の例(契約金額3,000万円の場合):
- 契約書2通: 20,000円
- 契約書1通+写し1部: 10,000円
- 節税額: 10,000円
注意: 写しに署名・押印があると課税文書となるため、単なるコピーとして保管してください。
(4) 収入印紙の購入場所(郵便局・法務局)
収入印紙は以下の場所で購入できます。
- 郵便局: 全額面の印紙が購入可能
- 法務局: 全額面の印紙が購入可能
- コンビニ: 主に200円印紙のみ
高額の印紙(10,000円以上)が必要な場合は、郵便局や法務局での購入を推奨します。
(出典: 東急リバブル「印紙税とは?印紙税の一覧や印紙税額について」)
まとめ:印紙税の注意点と手続きの流れ
不動産売買契約書の印紙税額は、契約金額により異なります(軽減税率適用後は1万円〜48万円)。実務上は契約書を2通作成し、売主・買主が各自1通分の印紙代を負担するケースが一般的です。
電子契約を利用すれば印紙税は不要となり、税抜表示や契約書の写し保管により節約も可能です。ただし、印紙を貼らなかった場合や消印をしなかった場合、過怠税(本来の税額の3倍)が課されるため注意が必要です。
軽減税率の適用期限は2027年3月31日までです。契約前に印紙税額を確認し、不動産会社や税理士等の専門家に相談しながら、無駄なく取引を進めましょう。最新の税率や軽減措置の詳細は、国税庁の公式サイトでご確認ください。
