不動産管理に資格は必要か
不動産管理業界でキャリアを積む際、「どの資格が必要なのか」「資格がなくても働けるのか」と疑問に感じる方は多いのではないでしょうか。
この記事では、不動産管理に役立つ主要資格の種類・難易度、取得メリット、資格選びのポイントを、公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会や試験実施団体の公式情報を元に解説します。
不動産管理業への転職・キャリアアップを目指す方が、自分に合った資格を選択できるようになります。
この記事のポイント
- 賃貸管理業を開業する場合、各事業所に業務管理者(宅建士または賃貸不動産経営管理士)の配置が法律で義務付けられている
- 主要資格は宅建士、賃貸不動産経営管理士、マンション管理士、管理業務主任者、不動産実務検定の5つ
- 宅建士の合格率は約15%、賃貸不動産経営管理士は約28%で、難易度と勉強時間が異なる
- 複数の資格を取得することで「四冠資格」として評価が高まり、就職・転職・独立に有利
- 資格取得は段階的に進めるのが効率的で、まず宅建士、次に賃貸不動産経営管理士・管理業務主任者の順が一般的
(1) 賃貸管理業における業務管理者の要件
賃貸管理業を営む場合、各事業所に業務管理者を配置する義務があります。業務管理者とは、宅地建物取引士(宅建士)または賃貸不動産経営管理士のいずれかの資格を持ち、一定の実務経験を有する者を指します。
公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会によると、賃貸住宅管理業者登録制度において業務管理者の配置が法的に求められています。
一方、自己所有物件を自主管理する場合や、不動産管理業務の従業員として働く場合は、必ずしも資格が必須ではありません。
(2) 資格取得がキャリアに与える影響
資格取得は以下のようなキャリア面でのメリットがあります。
- 就職・転職: 不動産管理会社への応募時に評価される
- 昇進・昇給: 資格手当が支給される企業が多い
- 独立開業: 業務管理者として自社で賃貸管理業を開業可能
- 実務能力の証明: 体系的な知識を持っていることを客観的に示せる
不動産管理に役立つ主要資格一覧
不動産管理業界で役立つ主要資格は以下の5つです。それぞれ役割・活用場面が異なります。
| 資格名 | 種類 | 主な役割 | 活用場面 |
|---|---|---|---|
| 宅地建物取引士(宅建士) | 国家資格 | 不動産取引の専門家 | 売買仲介、賃貸仲介、管理業 |
| 賃貸不動産経営管理士 | 国家資格 | 賃貸住宅管理の専門家 | 賃貸管理業、業務管理者 |
| マンション管理士 | 国家資格 | マンション管理組合の支援 | 管理組合のコンサルティング |
| 管理業務主任者 | 国家資格 | マンション管理業者に必置 | マンション管理会社 |
| 不動産実務検定 | 民間資格 | 賃貸経営の実務知識 | 自主管理、賃貸経営 |
(出典: 賃貸不動産経営管理士公式サイト、各試験実施団体の公式情報)
(1) 宅地建物取引士(宅建士)
**宅地建物取引士(宅建士)**は、不動産業界で最も基本的かつ汎用性の高い国家資格です。
主な特徴:
- 不動産業者は従業員5人に1人の割合で宅建士の設置義務がある
- 重要事項説明、契約書への記名・押印など、独占業務が存在
- 不動産業界全般(売買仲介、賃貸仲介、管理業)で活用可能
賃貸管理業における業務管理者の要件の1つでもあり、不動産管理業界を目指すなら取得を最優先に検討すべき資格です。
(2) 賃貸不動産経営管理士(2021年国家資格化)
賃貸不動産経営管理士は、2021年4月に国家資格化された賃貸住宅管理の専門家資格です。
主な特徴:
- 賃貸管理業の業務管理者として認定される(宅建士と同等の扱い)
- 賃貸住宅の管理受託契約、入居者募集、賃料設定、原状回復など、賃貸経営全般の知識をカバー
- 賃貸不動産経営管理士公式サイトによると、2025年の試験には31,803人が受験し、注目度が上昇中
国家資格化により難易度が上昇傾向にありますが、賃貸管理業界でのキャリアアップに直結する資格です。
(3) マンション管理士
マンション管理士は、マンション管理組合の運営支援や助言を行う専門家の国家資格です。
主な特徴:
- 管理組合の理事会・総会運営、大規模修繕計画、管理規約の見直しなどをサポート
- マンション管理業者への就職だけでなく、独立してコンサルティング業務も可能
- 管理業務主任者との試験範囲の重複が多く、同時期に学習すると効率的
(4) 管理業務主任者
管理業務主任者は、マンション管理業者に必置の国家資格です。
主な特徴:
- マンション管理業者は、管理組合30組合ごとに1人以上の管理業務主任者の設置義務がある
- 管理組合への重要事項説明、管理受託契約書への記名・押印など、独占業務が存在
- マンション管理士との試験範囲が類似しており、ダブル取得が一般的
マンション管理会社への就職を目指す場合は、取得を強く推奨します。
(5) 不動産実務検定(3級・2級・1級)
不動産実務検定は、賃貸不動産の実務知識を体系的に学べる民間資格です。
主な特徴:
- 3級(基礎)、2級(応用)、1級(上級)の3段階
- 賃貸経営の収支計算、税務、リフォーム、空室対策など実践的な内容
- 合格率は約45%で、他の国家資格より難易度が低く取得しやすい
自己所有物件の自主管理や、賃貸経営の実践力を身につけたい方に適しています。
各資格の難易度・合格率と試験内容
資格の難易度と必要な勉強時間は以下の通りです。
| 資格名 | 合格率 | 勉強時間の目安(初学者) | 試験形式 |
|---|---|---|---|
| 宅建士 | 約15% | 300-600時間 | 四肢択一50問 |
| 賃貸不動産経営管理士 | 約28% | 100-250時間 | 四肢択一40問 |
| マンション管理士 | 約8-9% | 500時間以上 | 四肢択一50問 |
| 管理業務主任者 | 約20% | 300時間程度 | 四肢択一50問 |
| 不動産実務検定 | 約45% | 50-100時間(2級) | 四肢択一 |
(出典: 各試験実施団体の公式データ、予備校の学習時間目安)
(1) 宅建士(合格率約15%、勉強時間300-600時間)
宅建士試験は、民法、宅建業法、法令上の制限、税・その他の4分野から出題されます。
試験の特徴:
- 毎年10月の第3日曜日に実施(年1回)
- 合格ラインは例年31-38点(50点満点)で変動する相対評価
- 民法の理解が難関で、初学者は300-600時間の勉強が必要
不動産業界未経験者でも、計画的に学習すれば独学での合格も可能です。
(2) 賃貸不動産経営管理士(合格率約28%、勉強時間100-250時間)
賃貸不動産経営管理士試験は、賃貸管理の実務に特化した内容です。
試験の特徴:
- 毎年11月に実施(年1回)
- 2021年の国家資格化以降、合格率が減少傾向(2020年約29.8% → 2024年約28.2%)
- 宅建士との試験範囲の重複が多く、宅建士取得者は効率的に学習できる
賃貸管理業界を目指す場合、宅建士取得後に受験するのが効率的です。
(3) マンション管理士・管理業務主任者
マンション管理士と管理業務主任者は、試験範囲が約7割重複しています。
試験の特徴:
- マンション管理士(11月実施)、管理業務主任者(12月実施)で、同じ年に両方受験可能
- 管理業務主任者の方が合格率が高く(約20%)、先に取得して自信をつけるのが一般的
- ダブル取得により、マンション管理業界での評価が大幅に向上
(4) 不動産実務検定(合格率約45%)
不動産実務検定は、賃貸経営の実務に直結する民間資格です。
試験の特徴:
- 2級は年2回、1級は年1回実施
- 合格率約45%で、国家資格より難易度が低い
- 収支計算、税務、リフォーム、空室対策など実践的な内容
自己所有物件の管理や賃貸経営を学びたい方に最適です。
資格取得のメリット
不動産管理資格を取得することで、以下のようなメリットがあります。
(1) 就職・転職での優位性
不動産管理会社の求人では、宅建士や賃貸不動産経営管理士の保有者を優遇する企業が多くあります。
- 未経験でも資格保有者は書類選考で有利
- 資格を条件に挙げる求人も存在
- 複数資格保有者は更に評価が高い
(2) 昇進・昇給への影響
資格手当を支給する企業が多く、昇進の条件に資格取得を掲げる企業もあります。
- 宅建士: 月1-3万円の資格手当
- 賃貸不動産経営管理士: 月5千円-2万円の資格手当
- 管理職登用の条件に資格取得を設定する企業も
(3) 独立開業の要件(業務管理者の配置義務)
賃貸管理業を開業する場合、各事業所に業務管理者(宅建士または賃貸不動産経営管理士)を配置する義務があります。
自分自身が業務管理者になることで、人件費を抑えて開業できます。
(4) 四冠資格による評価向上
四冠資格とは、宅建士、マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士の4つの国家資格をすべて取得した状態を指します。
- 不動産業界での信頼性が大幅に向上
- 独立開業時の顧客獲得に有利
- 幅広い分野(売買・賃貸・マンション管理)に対応可能
(5) 実務知識の体系的習得
資格試験の学習を通じて、不動産取引・管理の法律・税務・実務を体系的に習得できます。
資格選びのポイントと取得順序
不動産管理資格は複数ありますが、目的と状況に応じて優先順位をつけることが重要です。
(1) 目的別の推奨資格(賃貸管理・マンション管理・売買仲介)
賃貸管理業を目指す場合:
- 必須: 宅建士または賃貸不動産経営管理士(業務管理者の要件)
- 推奨: 両方取得することで業務の幅が広がる
マンション管理業を目指す場合:
- 必須: 管理業務主任者
- 推奨: マンション管理士(ダブル取得で評価向上)
売買仲介を目指す場合:
- 必須: 宅建士
自己所有物件の賃貸経営:
- 推奨: 不動産実務検定、賃貸不動産経営管理士
(2) おすすめの取得順序(宅建士→賃貸不動産経営管理士・管理業務主任者)
資格取得は段階的に進めるのが効率的です。
推奨順序:
- 宅建士(最優先): 不動産業界全般で必須、他資格との試験範囲の重複が多い
- 賃貸不動産経営管理士または管理業務主任者: 宅建士の知識を活かして効率的に学習可能
- マンション管理士: 管理業務主任者取得後に受験すると試験範囲の重複で有利
LEC東京リーガルマインドによると、宅建士を軸に他資格を取得していく学習プランが推奨されています。
(3) ダブルライセンス・複数資格取得の効果
関連性の高い資格を組み合わせることで、試験範囲の重複を活かして効率的に学習できます。
推奨の組み合わせ:
- 宅建士 + 賃貸不動産経営管理士: 賃貸管理業での活躍の幅が広がる
- マンション管理士 + 管理業務主任者: 試験範囲が約7割重複、同じ年に両方受験可能
- 四冠資格: 業界での評価が最大化
(4) 勉強方法(独学・通信講座・予備校)
資格取得の勉強方法は大きく3つあります。
| 方法 | メリット | デメリット | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 独学 | 費用が安い(テキスト代のみ) | 質問できない、計画管理が難しい | 自己管理能力が高い人 |
| 通信講座 | 自分のペースで学習可能 | 質問対応に時間がかかる | 仕事と両立したい人 |
| 予備校 | 質問しやすい、モチベーション維持 | 費用が高い、通学の手間 | 短期間で確実に合格したい人 |
初学者は通信講座または予備校を活用することで、効率的に合格を目指せます。
まとめ:不動産管理資格を活かすポイント
不動産管理に役立つ主要資格は、宅建士、賃貸不動産経営管理士、マンション管理士、管理業務主任者、不動産実務検定の5つです。
自分の目的(賃貸管理・マンション管理・売買仲介・自主管理)に応じて資格を選び、計画的に学習を進めましょう。
