不動産の手付金とは
不動産の売買契約を結ぶ際、「手付金はいくら必要なのか?」「返金されるのか?」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、不動産の手付金の仕組み、相場、支払い時期、返還・没収のルールを法律に基づいて解説します。契約解除時の手付金の扱いや、トラブルを避けるための注意点も具体的に説明します。
初めて不動産を購入する方でも、手付金のルールを正しく理解し、安心して契約を進められるようになります。
この記事のポイント
- 手付金の相場は売買代金の5~10%が一般的(新築物件は5%程度、中古物件は10%程度が目安)
- 契約時に現金または銀行振込で支払う必要があり、住宅ローンには組み込めない
- 手付解除は「契約の履行に着手するまで」が期限(買主は手付放棄、売主は手付倍返し)
- 住宅ローン特約を設定すれば、融資不承認時に手付金が全額返還される
不動産の手付金とは何か
手付金の定義と役割
手付金とは、売買契約成立時に買主が売主に支払う金銭です。
手付金には以下の3つの役割があります。
- 契約成立の証拠:契約が成立したことを示す
- 解約権の留保:一定期間、契約を解除できる権利を持つ
- 違約金としての性質:債務不履行時に違約金として機能する
手付金は、契約の履行が完了すれば売買代金の一部に充当されます。
手付金と内金の違い
手付金と内金は、以下のように異なります。
| 項目 | 手付金 | 内金 |
|---|---|---|
| 性質 | 解約権を持つ | 単なる代金の一部前払い |
| 返還 | 手付解除時は買主が放棄、売主は倍返し | 売買代金に充当 |
| 法的効力 | 証約手付・解約手付・違約手付の3種類 | 解約権留保の意味はない |
手付金と内金を混同すると、契約解除時にトラブルになる可能性があるため、契約書で明確に区別されます。
手付金が必要な理由
手付金が必要な理由は、以下の通りです。
- 契約の履行を担保:買主・売主の双方に契約履行の意思を示す
- 安易な契約解除を防止:手付放棄または倍返しというペナルティを設けることで、契約の安定性を保つ
- 契約成立の証拠:口頭契約ではなく、金銭の授受により契約を明確化
全日本不動産協会によると、手付金は不動産取引の慣習として広く活用されています。
手付金の種類と違い:証約手付・解約手付・違約手付
証約手付(契約成立の証拠)
証約手付とは、契約成立の証拠としての性質を持つ手付金です。
契約が成立したことを示すだけで、契約解除の効力は伴いません。
解約手付(解約権の留保)
解約手付とは、買主は手付金を放棄、売主は手付金の倍額を返還することで契約解除できる手付金です。
民法第557条により、日本の取引では特約がなければ手付金は「解約手付」とみなされます。
解約手付の条件:
- 買主の場合:手付金を放棄すれば契約解除可能
- 売主の場合:手付金の倍額を返還すれば契約解除可能
- 期限:「契約の履行に着手するまで」が原則
違約手付(違約金としての性質)
違約手付とは、債務不履行時に違約金として没収される性質を持つ手付金です。
契約書に「違約手付」と明記された場合、債務不履行があれば手付金が違約金として没収される可能性があります。
日本の取引では解約手付が原則・一般的
フォーサイトの解説によると、日本の不動産取引では「解約手付」が原則・一般的です。
特約がなければ、手付金は自動的に解約手付とみなされるため、契約書で手付金の性質を確認することが重要です。
手付金の相場と金額設定のポイント
一般的な相場は売買代金の5~10%
手付金の相場は、売買代金の5~10%が一般的です。
例えば、3,000万円の物件であれば、手付金は150万円~300万円が目安となります。
新築物件は5%程度、中古物件は10%程度が目安
HOME4Uによると、手付金の相場は物件の種類により異なります。
- 新築物件:5%程度
- 中古物件:10%程度
新築物件は価格が明確で、契約解除リスクが低いため、手付金が少なめに設定される傾向があります。
売主が不動産会社の場合は20%が上限(宅地建物取引業法第39条)
売主が不動産会社(宅地建物取引業者)の場合、手付金は売買代金の20%が上限と定められています(宅地建物取引業法第39条)。
これを超える手付金を要求された場合、法律違反となるため、注意が必要です。
手付金の支払い時期と方法
契約時に現金または銀行振込で支払う
手付金は、売買契約締結時に現金または銀行振込で支払う必要があります。
契約書に署名・捺印する際に、手付金を授受するのが一般的です。
住宅ローンには組み込めない
手付金は、住宅ローンに組み込むことができません。
契約時に現金で用意する必要があるため、資金計画を事前に確認しておくことが重要です。
決済時(ローン実行時)に売買代金に充当
手付金は、契約が履行されれば売買代金の一部に充当されます。
例えば、3,000万円の物件で手付金200万円を支払った場合、決済時(ローン実行時)に残金2,800万円を支払います。
手付金の返還・没収のルール
手付解除の条件(契約の履行に着手するまで)
手付解除ができる期限は、「契約の履行に着手するまで」が原則です(民法第557条)。
契約の履行に着手した例:
- 物件の引き渡し準備を開始
- 代金の一部を支払い
- リフォーム工事の発注
契約書で期限を明記する場合が多いため、確認が必要です。
買主による手付放棄、売主による手付倍返し
手付解除の方法は、以下の通りです。
| 解除者 | 方法 | 金額 |
|---|---|---|
| 買主 | 手付金を放棄 | 手付金をそのまま没収 |
| 売主 | 手付金の倍額を返還 | 手付金×2倍を買主に返還 |
例えば、手付金200万円の場合、買主は200万円を放棄すれば解除でき、売主は400万円を返還すれば解除できます。
住宅ローン特約による全額返還
住宅ローン特約とは、住宅ローンの融資が不承認となった場合、契約を白紙解除して手付金を全額返還する特約です。
SUUMOの解説によると、住宅ローン特約は多くの契約で設定されており、融資不承認時に手付金を失うリスクを回避できます。
契約違反時の手付金返還+違約金
契約違反(債務不履行)があった場合、手付金とは別に違約金が発生する場合があります。
例:
- 売主が契約に違反した場合:手付金の倍返し + 違約金
- 買主が契約に違反した場合:手付金没収 + 違約金
違約金の金額は契約書に明記されるため、事前に確認しておくことが重要です。
まとめ:手付金トラブルを避けるための注意点
契約書の手付金条項を必ず確認
手付金の性質(証約手付・解約手付・違約手付)、返還条件、解除期限は契約書に明記されます。
契約書を必ず確認し、不明点があれば宅地建物取引士や弁護士に相談することを推奨します。
手付金の保全措置(銀行保証、保険等)の有無を確認
不動産会社が倒産するリスクに備え、手付金の保全措置(銀行保証、保険等)の有無を確認しましょう。
宅地建物取引業法では、一定額以上の手付金について保全措置が義務付けられています。
宅建士等の専門家への相談を推奨
手付金のトラブルは高額になる場合があるため、契約前に宅地建物取引士や弁護士に相談することを推奨します。
契約内容を正しく理解し、安心して不動産取引を進めましょう。
