不動産契約書とは何か|取引で必要な理由
不動産の売買や賃貸では、契約書が必ず作成されます。この書面は、取引内容を明確にし、後々のトラブルを防ぐための法的根拠となります。
この記事では、不動産契約書の種類、記載事項、確認すべきチェックポイントを、全国宅地建物取引業協会連合会の標準契約書や宅建業法の規定を元に解説します。
初めて不動産取引をする方でも、契約書の見方と注意点を正確に理解できるようになります。
この記事のポイント
- 不動産契約書は売買代金、引渡し時期、契約解除条件などを記載し、法的トラブルを防ぐ役割がある
- 重要事項説明書は宅地建物取引士による説明が義務付けられており、契約前に物件の重要情報を開示する書面
- 境界確定、手付解除の期限、ローン特約の条件は契約前に必ず確認すべき重要ポイント
- 印紙税の貼付漏れは過怠税(本来の3倍)が課されるため、売買代金に応じた正しい金額を確認
- 不動産取引トラブルの40%以上が契約欠陥に起因しており、契約前に宅地建物取引士や弁護士への相談を推奨
(1) 不動産契約書の法的役割
不動産契約書は、売主と買主(または貸主と借主)の間で締結される法的文書です。売買代金、支払時期、物件の所在・面積、引渡し時期、契約解除条件などを記載し、取引内容を明確化します。
契約書がない場合、口約束だけでは「言った・言わない」のトラブルが発生しやすく、裁判になっても証拠が不足します。不動産は高額な取引であるため、書面による記録が不可欠です。
(2) 契約書がない場合のリスク
契約書を作成せず口頭だけで取引を進めると、以下のようなリスクがあります。
- 支払条件の不一致: 「手付金を払ったのに契約解除された」など、支払時期や金額で紛争になる
- 物件状態の誤解: 「欠陥があると聞いていない」と主張されても、証拠がなければ売主の責任を追及できない
- 引渡し遅延: 「いつ引き渡すか決めていない」と主張され、買主が入居できない
不動産取引では、弁護士法人ポートの調査によると、契約欠陥や重要事項の記載漏れに起因するトラブルが全体の40%以上を占めています。
(3) 宅建業法による規制
宅地建物取引業法(宅建業法)では、不動産業者が仲介する場合、以下の義務が課されています。
- 契約書の作成: 売買契約書を作成し、売主・買主双方に交付
- 重要事項説明: 宅地建物取引士が、契約前に重要事項説明書を用いて物件の重要情報を説明
- 37条書面の交付: 契約成立後、遅滞なく契約書面(37条書面)を交付
業者が入らない個人間売買では、これらの義務は適用されません。ただし、法律知識が不足すると、必要条項の漏れや民法違反のリスクがあるため、司法書士や弁護士への相談を推奨します。
不動産契約書の種類と重要事項説明書
不動産契約書には、売買契約書と賃貸借契約書があります。また、契約前に交付される重要事項説明書も、取引の透明性を確保する重要書類です。
(1) 売買契約書と賃貸借契約書の違い
| 契約書の種類 | 内容 | 主な記載事項 |
|---|---|---|
| 売買契約書 | 不動産の所有権を移転する契約 | 売買代金、支払時期、引渡し時期、手付金、契約解除条件 |
| 賃貸借契約書 | 不動産を一定期間貸し借りする契約 | 賃料、支払時期、契約期間、更新条件、敷金・礼金 |
売買契約は所有権の移転を目的とし、通常は一度きりの取引です。一方、賃貸借契約は一定期間の利用を目的とし、契約期間満了後は更新または解約となります。
(2) 重要事項説明書の役割と記載内容
重要事項説明書は、宅地建物取引士が買主(または借主)に対して、契約前に物件の重要事項を説明する書面です。全国宅地建物取引業協会連合会の標準書式では、以下の内容が記載されます。
- 登記記録: 所有者、抵当権の有無、面積など
- 法令上の制限: 都市計画法、建築基準法による用途制限、建ぺい率・容積率
- インフラ整備状況: 水道、電気、ガス、下水道の整備状況
- 契約条件: 手付金、ローン特約、契約解除条件
重要事項説明書は、契約書よりも詳細に物件の状態や法的制限を開示するため、契約前に内容を十分に理解することが重要です。
(3) 宅地建物取引士による説明義務
宅建業法第35条では、不動産業者が仲介する場合、宅地建物取引士が重要事項説明を行うことが義務付けられています。説明時には、宅地建物取引士証を提示し、買主が内容を理解できるまで説明する必要があります。
説明義務違反があった場合、業者は行政処分や損害賠償請求のリスクを負います。買主は、説明内容に不明点があれば、その場で質問し、納得してから契約に進むべきです。
不動産売買契約書の記載事項と構成
売買契約書には、取引の詳細を記載する必須事項があります。JACMO(一般社団法人不動産証券化協会)が提供する2020年民法改正対応のひな形では、以下の構成が標準的です。
(1) 必須記載事項(売買代金・物件情報・当事者情報)
売買契約書に必ず記載すべき事項は以下の通りです。
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 売買代金 | 物件の売買価格(税込) |
| 物件の所在・地番 | 登記簿謄本に記載された正確な所在地 |
| 物件の面積 | 土地面積、建物延床面積(実測または登記簿による) |
| 当事者情報 | 売主・買主の氏名、住所、連絡先 |
| 引渡し時期 | 物件の引渡し日(通常は残代金決済日と同日) |
これらの情報が不正確だと、後で「契約と違う物件が引き渡された」として契約不適合責任を追及されるリスクがあります。
(2) 支払条件と引渡し時期
売買代金の支払条件は、以下のように分割されることが一般的です。
- 手付金: 契約時に支払う(売買代金の5-10%程度)
- 中間金: 契約から引渡しまでの間に支払う(任意)
- 残代金: 引渡し時に支払う(売買代金から手付金・中間金を差し引いた額)
引渡し時期は、残代金決済日と同日に設定されることが多く、契約書に「令和〇年〇月〇日」と具体的に記載します。
(3) 手付金の金額と性質
手付金は、契約の成立を証明し、契約解除の際の違約金としても機能します。手付金には以下の3種類があります。
| 手付金の種類 | 内容 |
|---|---|
| 証約手付 | 契約成立の証拠として交付 |
| 解約手付 | 買主は手付金を放棄、売主は倍返しで契約解除可能 |
| 違約手付 | 契約違反時の違約金として没収 |
通常の売買契約では、解約手付として扱われます。手付解除の期限は契約書で定められており(通常は契約から1-2週間)、期限後は違約金が発生します。
(4) 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)
2020年の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変更されました。売主が引き渡した物件が契約内容に適合しない場合、買主は以下を請求できます。
- 追完請求: 修繕、代替物の引渡し、不足分の引渡し
- 代金減額請求: 修繕費用相当額の減額
- 損害賠償請求: 契約不適合により生じた損害の賠償
- 契約解除: 重大な不適合の場合、契約を解除
契約書には、売主の責任範囲(築年数、対象箇所、責任期間)を明記することが重要です。個人間売買では「現状有姿」(現在の状態のまま引き渡す)とする特約が多く見られますが、この場合も買主が知らされていなかった重大な欠陥は責任を問われる可能性があります。
契約前に確認すべき重要チェックポイント
契約書にサインする前に、以下のポイントを必ず確認してください。確認漏れがあると、後でトラブルになるリスクが高まります。
(1) 境界確定の有無と隣地トラブル防止
土地を売買する場合、隣地との境界が確定しているかを確認します。境界が未確定の場合、以下のリスクがあります。
- 隣地所有者との紛争: 「境界はここではない」と主張され、測量・訴訟費用が発生
- 面積の相違: 実測面積が登記簿面積と異なり、売買代金の調整が必要
境界確定には、確定測量(30-100万円程度)が必要です。売主が費用を負担するか、買主が負担するかは契約書で定めます。
(2) 手付解除の期限と条件
手付解除の期限は、契約書に「令和〇年〇月〇日まで」と明記されます。期限を過ぎると、買主が手付金を放棄しても解除できず、違約金(売買代金の10-20%)を支払う必要があります。
売主側も、手付金の倍額を返還すれば期限内は解除できますが、期限後は解除できません。期限を正確に把握し、慎重に判断することが重要です。
(3) ローン特約(融資利用の特約)の確認
買主が住宅ローンを利用する場合、ローン特約を契約書に記載することが推奨されます。ローン特約があれば、以下の条件で契約を無条件解除できます。
- 融資承認が得られない場合: 金融機関の審査で否決された場合
- 融資額が不足する場合: 希望額より少ない融資額しか承認されなかった場合
ローン特約の期限は、通常は契約から2-3週間です。期限までに融資承認が得られない場合、買主は手付金を全額返還され、違約金も発生しません。
ローン特約がない場合、融資が得られなくても契約解除できず、手付金を没収されるリスクがあります。
(4) 契約解除条件と違約金
契約書には、どのような場合に契約を解除できるか、違約金はいくらかが記載されます。
| 解除条件 | 買主の違約金 | 売主の違約金 |
|---|---|---|
| 手付解除(期限内) | 手付金放棄 | 手付金の倍返し |
| ローン特約(融資否決) | なし | なし |
| 契約違反(期限後の解除等) | 売買代金の10-20% | 売買代金の10-20% |
違約金の割合は、契約書で定めます。宅建業法では、業者が売主の場合、違約金の上限は売買代金の20%と定められています。
(5) 印紙税の金額と貼付方法
不動産売買契約書には、収入印紙を貼付し、消印する必要があります。印紙税の金額は、売買代金により以下のように異なります。
| 売買代金 | 印紙税額 |
|---|---|
| 100万円超500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 1万円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 1万円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 3万円 |
| 1億円超5億円以下 | 6万円 |
印紙の貼付漏れ・消印漏れがあると、過怠税(本来の印紙税の3倍)が課されます。売主・買主双方が1通ずつ保管する場合、各自が印紙を貼付します。
契約書作成から締結までの流れと必要書類
契約書の作成から締結までの流れと、売主・買主それぞれの必要書類を解説します。
(1) 契約書は誰が作成するか(業者・個人間売買)
不動産業者が仲介する場合:
- 業者が契約書を作成し、売主・買主双方に交付します。宅地建物取引士による重要事項説明も行われます。
個人間売買の場合:
- 当事者が契約書を作成します。JACMOや全国宅地建物取引業協会連合会が提供するひな形を使用できますが、法律知識が不足すると、必要条項の漏れや民法違反のリスクがあります。司法書士や弁護士への依頼を推奨します。
(2) 売主・買主それぞれの必要書類
売主と買主が用意すべき書類は以下の通りです。
売主の必要書類:
- 登記簿謄本(登記事項証明書)
- 登記識別情報(または登記済権利証)
- 印鑑証明書(3か月以内)
- 固定資産税評価証明書
- 境界確認書・確定測量図(土地の場合)
- 建築確認済証・検査済証(建物の場合)
買主の必要書類:
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)
- 印鑑証明書(3か月以内、住宅ローン利用時)
- 住民票(住宅ローン利用時)
- 収入証明書(住宅ローン利用時)
(3) 契約締結時の署名・押印・印紙貼付
契約書の締結時には、以下の手順で進めます。
- 重要事項説明: 宅地建物取引士が重要事項説明書を用いて説明(業者仲介の場合)
- 契約書の読み合わせ: 売主・買主双方が契約書の内容を確認
- 署名・押印: 売主・買主が署名し、実印を押印
- 印紙貼付・消印: 収入印紙を貼付し、売主・買主双方が消印
- 手付金の授受: 買主が売主に手付金を支払う
- 契約書の交付: 売主・買主それぞれが1通ずつ保管
(4) 電子契約の活用と注意点
近年、不動産売買契約でも電子契約が普及しています。電子契約の場合、収入印紙は不要ですが、以下の点に注意が必要です。
- 重要事項説明: 宅建業法では、原則として対面または電子書面交付による説明が必要(IT重説も可能ですが、事前に合意が必要)
- 電子署名: 電子署名法に基づく認証局の電子証明書が必要
- 保存: 契約書のデータを安全に保存し、改ざんを防ぐ
電子契約を利用する場合は、業者または専門家に相談し、適切な方法で進めることを推奨します。
まとめ|安全な不動産取引のために
不動産契約書は、売買代金、引渡し時期、契約解除条件などを記載し、法的トラブルを防ぐ重要書類です。契約前に境界確定、手付解除の期限、ローン特約の条件を確認し、不明点は宅地建物取引士や弁護士に相談することが重要です。
不動産取引トラブルの40%以上が契約欠陥に起因しているため、契約書の内容を十分に理解し、慎重に判断することが求められます。
信頼できる不動産業者や専門家に相談しながら、安全な不動産取引を進めましょう。
