不動産査定書とは?売却の第一歩を理解する
不動産会社から査定書を受け取ったものの、記載内容の意味や査定額の妥当性が分からず、どう活用すればよいか迷っている方は少なくありません。
この記事では、不動産査定書の見方、記載項目の解説、査定額の根拠を読み解く方法、複数社の査定書を比較する際の注意点を、国土交通省などの公式情報をもとに解説します。
この記事のポイント
- 不動産査定書は不動産会社が無料で作成する売却価格の目安書類(法的効力なし)
- 不動産鑑定評価書は不動産鑑定士が有料(15万~30万円)で作成し、法的効力がある
- 査定書には物件概要・査定額・査定根拠・類似物件の取引事例・手取り予想額が記載される
- 不動産会社によって査定額に数百万~数千万円の差が出るため、複数社に依頼して比較することが重要
- 高額査定を提示する会社が必ずしも良い会社ではなく、媒介契約を取るための過大査定の可能性がある
(1) 不動産査定書の定義と目的
不動産査定書とは、不動産会社が作成する売却価格の目安を記載した書類です。法的効力はなく、あくまで参考価格として提示されます。
売却を検討する際の第一歩として、複数の不動産会社に査定を依頼し、査定書を比較することが推奨されます。
(2) 査定は無料、誰でも依頼できる
不動産会社による査定は無料で、誰でも依頼できます。複数社に依頼して査定額を比較することで、数百万~数千万円の差が出ることもあります。
査定を依頼する際は、机上査定(物件情報のみで査定)と訪問査定(実際に物件を訪問して査定)の2種類から選べます。
不動産査定書と鑑定評価書の違い:無料と有料の使い分け
(1) 査定書:不動産会社による無料の価格目安
不動産査定書は不動産会社が無料で作成します。売却価格の目安を知りたい場合や、複数社を比較したい場合に利用します。
法的効力がないため、裁判所や税務署への提出には使用できません。
(2) 鑑定評価書:不動産鑑定士による有料の正式鑑定(15万~30万円)
不動産鑑定評価書は、不動産鑑定士が国土交通省の「不動産鑑定評価基準」に基づいて作成する正式な鑑定書です。費用は15万~30万円で、法的効力があります。
裁判所・税務署への提出や、相続・離婚時の財産分与など、公的な証拠資料として使用できます。
(出典: 国土交通省「不動産鑑定評価基準」平成26年改正版)
(3) どちらを選ぶべきか(用途による使い分け)
以下の表で使い分けの目安を示します。
| 用途 | 推奨書類 | 理由 |
|---|---|---|
| 売却価格の目安を知りたい | 査定書 | 無料で複数社に依頼可能 |
| 複数社を比較したい | 査定書 | 無料で複数社に依頼可能 |
| 裁判所・税務署への提出 | 鑑定評価書 | 法的効力が必要 |
| 相続・離婚時の財産分与 | 鑑定評価書 | 公的な証拠資料として必要 |
(出典: 三井のリハウス「不動産鑑定とは?査定との違い」)
不動産査定書の記載項目と見方のポイント
(1) 物件概要(所在地・築年数・面積・構造)
査定書には以下の物件概要が記載されます。
- 所在地: 住所・最寄駅からの距離
- 築年数: 建築年月日・経過年数
- 面積: 土地面積・建物面積
- 構造: 木造・鉄筋コンクリート造等
これらの情報は査定額に直接影響するため、正確に記載されているか確認しましょう。
(2) 査定額と査定根拠
査定額は不動産会社が算出する売却価格の目安です。査定根拠として、以下が記載されます。
- 類似物件の取引事例: 査定対象物件と条件が近い物件の過去の成約価格
- 市場動向: 地域の不動産市場の需給状況
- 適切な取引時期: いつ売却すべきかの目安
査定根拠が明確に記載されているかを確認することが重要です。
(3) 類似物件の取引事例
類似物件の取引事例は、査定額算出の根拠となる重要な情報です。以下を確認しましょう。
- 成約価格: 実際に売買が成立した価格
- 築年数: 査定対象物件と近い築年数か
- 立地: 最寄駅からの距離・周辺環境が類似しているか
国土交通省「不動産情報ライブラリ」では、約547万件の不動産取引価格情報が公開されており、自分で類似物件の取引事例を調べることもできます。
(4) 手取り予想額(仲介手数料等を差し引いた金額)
手取り予想額は、売却価格から仲介手数料・税金・諸費用を差し引いた売主の手取り金額です。
実際に売却した際にいくら手元に残るかを把握するために、手取り予想額が記載されているかを確認しましょう。
(出典: 三井のリハウス「不動産査定書とは?記載内容や、見るべきポイント」)
査定額の根拠を読み解く:類似物件取引事例の見方
(1) 築年数と資産価値の関係(2024年データ)
築年数は資産価値に大きく影響します。2024年4〜6月の首都圏における中古マンションの築年数別平均成約価格は以下の通りです。
| 築年数 | 平均成約価格 |
|---|---|
| 築5年以下 | 8,170万円 |
| 築6〜10年 | 6,540万円 |
| 築11〜15年 | 5,480万円 |
| 築16〜20年 | 4,320万円 |
| 築21〜25年 | 3,610万円 |
| 築26〜30年 | 2,980万円 |
| 築30年以上 | 2,439万円 |
築年数が古いほど価格は下がりますが、リフォームやリノベーションで資産価値を維持できる場合もあります。
(出典: HOME4U「家の査定にはコツがある!種類から注意点まで」)
(2) 立地・周辺環境の評価
立地・周辺環境は査定額に大きく影響します。以下を確認しましょう。
- 最寄駅からの距離: 徒歩5分以内は高評価
- 周辺施設: スーパー・学校・病院の充実度
- 治安: 犯罪率・街灯の有無
- 騒音・日照: 道路や隣接建物の影響
(3) 市場動向と適切な取引時期
査定書には、いつ売却すべきかの目安(適切な取引時期)が記載されることがあります。市場動向を踏まえた売却タイミングの提案があるかを確認しましょう。
不動産市場は景気や金利の影響を受けるため、売却時期によって数百万円の差が出ることもあります。
複数社の査定書を比較する際の注意点
(1) 査定額に数百万~数千万円の差が出る理由
不動産会社によって査定額に数百万~数千万円の差が出る理由は以下の通りです。
- 査定方法の違い: 類似物件の取引事例の選び方が異なる
- 市場動向の見方: 需給状況の判断が異なる
- 売却実績の違い: 会社の実績やネットワークにより評価が異なる
複数社に依頼して査定額を比較することで、適正な相場を把握できます。
(2) 高額査定の落とし穴(過大査定のリスク)
高額な査定を提示する会社が必ずしも良い会社ではありません。媒介契約を取るための過大査定の可能性があります。
過大査定のリスク:
- 売却期間が長期化: 相場より高い売出価格では買い手がつかない
- 値下げ交渉: 最終的に大幅な値下げを迫られる
- 機会損失: 売却タイミングを逃す
査定額だけでなく、査定根拠が明確に記載されているかを確認することが重要です。
(3) 査定書の信頼性を見極めるポイント
査定書の信頼性を見極めるポイントは以下の通りです。
- 査定根拠が明確: 類似物件の取引事例が具体的に記載されているか
- 適切な取引時期が示されている: いつ売却すべきかの提案があるか
- 売却リスクが記載されている: 市場動向や売却期間の見込みが記載されているか
- 手取り予想額が記載されている: 仲介手数料等を差し引いた金額が明示されているか
複数社の査定書を比較し、これらのポイントが記載されている会社を選ぶことを推奨します。
(出典: HOME4U「不動産査定書とは?作り方と査定時に必要な6つの書類」)
まとめ:査定書を活用して適切な売却価格を決める
不動産査定書は、不動産会社が無料で作成する売却価格の目安書類です。法的効力はありませんが、売却を検討する際の第一歩として重要な役割を果たします。
査定書には物件概要・査定額・査定根拠・類似物件の取引事例・手取り予想額が記載され、これらを確認することで査定額の妥当性を判断できます。不動産会社によって査定額に数百万~数千万円の差が出るため、複数社に依頼して比較することが重要です。
高額査定を提示する会社が必ずしも良い会社ではなく、媒介契約を取るための過大査定の可能性があります。査定根拠が明確に記載されているか、適切な取引時期が示されているか、売却リスクが記載されているかを確認し、信頼できる不動産会社を選びましょう。
裁判所・税務署への提出や相続・離婚時の財産分与には、不動産鑑定士による鑑定評価書(有料15万~30万円)が必要です。用途に応じて査定書と鑑定評価書を使い分け、適切な売却価格を決めることを推奨します。
詳細は不動産鑑定士や宅建士にご相談ください。
