固定資産税が「おかしい」と感じたら確認すべきポイント
固定資産税の納税通知書を見て「金額が高すぎる」「計算が間違っているのでは」と感じる方は少なくありません。実際、総務省の調査では97%の自治体で誤課税があり、2018年の東京23区と20政令市だけで7.18億円(14万4500件)が還付されたという報告もあります。
この記事では、固定資産税が「おかしい」と感じる理由、評価額と計算方法の確認手順、課税ミスの発見方法、異議申し立ての方法を、総務省や国税庁などの公式情報をもとに解説します。
納税者自身で評価額の妥当性や軽減措置の適用状況を確認できるようになります。
この記事のポイント
- 固定資産税が高く感じる理由は、建築費高騰による建物評価額の上昇、住宅用地特例の未適用、新築軽減措置の期間終了、負担調整措置による段階的増額などがある
- 課税明細書(評価明細書)で評価額と軽減措置の適用状況を確認することで、誤課税を発見できる可能性がある
- 評価額に不服がある場合は、納税通知書の交付を受けた日後3か月以内に固定資産評価審査委員会に「審査の申出」を行う
- 総務省調査では97%の自治体で誤課税があり、典型的なミスは建物増築・用途変更時の軽減措置の更新漏れなど
固定資産税が「おかしい」と感じる理由
固定資産税が高く感じる理由は、必ずしも課税ミスとは限りません。まずは制度上の理由と、実際のミスの違いを理解しましょう。
建築費高騰で建物評価額が下がらない
築年数が経過しても、建物の固定資産税が下がらないケースがあります。これは建築費の高騰により、再建築価格が上昇しているためです。
固定資産税の建物評価額は「再建築価格×経年減点補正率」で計算されます。古い建物は経年減点補正率により評価額が下がるはずですが、再建築価格自体が上昇していると、評価額が横ばいまたは上昇する場合があります。
住宅用地特例の適用漏れ
住宅用地は、固定資産税の課税標準額が大幅に軽減されます。
| 区分 | 軽減率 |
|---|---|
| 小規模住宅用地(200㎡以下の部分) | 1/6 |
| 一般住宅用地(200㎡超の部分) | 1/3 |
この特例が適用されていない場合、税額が最大6倍になります。新築時や用途変更時に申告が漏れると、特例が適用されない場合があります。
軽減措置の適用期間終了
新築住宅は、一定期間固定資産税が1/2に減額されます。
| 構造 | 軽減期間 |
|---|---|
| 一般住宅 | 3年間 |
| 耐火・準耐火構造(マンション等) | 5年間 |
軽減期間が終了すると、税額が2倍になるため「固定資産税が急に高くなった」と感じることがあります。これは制度上正しい動きです。
(参考:国土交通省の軽減措置情報)
負担調整措置の影響
評価額が下がっても、税額が急激に下がらないよう段階的に調整する「負担調整措置」があります。このため、地価が下落しても固定資産税が横ばいになることがあります。
固定資産税の仕組みと計算方法
固定資産税の計算の基本を理解することで、納税通知書の内容が正しいかどうかを判断しやすくなります。
固定資産税の基本(標準税率1.4%)
固定資産税は、毎年1月1日時点で土地・建物等の固定資産を所有している人が、その資産価値に応じて市区町村に納める地方税です。
計算式:
固定資産税額 = 課税標準額 × 税率(標準1.4%)
評価額の決定方法(3年ごとの評価替え)
固定資産税評価額は、市区町村が3年ごとに見直します(評価替え)。次回は令和9年度(2027年度)です。
- 土地:路線価や固定資産税路線価をもとに評価
- 建物:再建築価格×経年減点補正率で評価
住宅用地の特例(1/6または1/3に軽減)
住宅用地は、課税標準額が大幅に軽減されます。
例(200㎡の住宅用地、評価額3,000万円の場合):
| 項目 | 特例なし | 特例あり |
|---|---|---|
| 課税標準額 | 3,000万円 | 500万円(1/6) |
| 固定資産税額 | 42万円 | 7万円 |
この特例が適用されないと、税額が6倍になります。
新築住宅の軽減措置(3年間または5年間1/2)
新築住宅は、以下の要件を満たすと一定期間固定資産税が1/2に減額されます。
要件(2025年時点):
- 床面積50㎡以上280㎡以下
- 令和8年3月31日(2026年3月31日)までに新築された住宅
(出典:国土交通省「固定資産税・都市計画税の軽減措置」)
よくある「おかしい」と感じるケース
固定資産税が高く感じる理由は、制度の理解不足の場合と、実際のミスの場合があります。
古い家なのに固定資産税が下がらない理由
建築費の高騰により、築年数が経過しても評価額が下がらないケースがあります。これは制度上の動きであり、課税ミスではありません。
確認方法:
- 課税明細書で「再建築価格」と「経年減点補正率」を確認
- 前年度と比較して評価額の推移を確認
住宅用地特例が適用されないケース
以下のケースでは、住宅用地特例が適用されません。
- 特定空家・管理不全空家に指定:倒壊の危険性がある、衛生上有害、景観を著しく損なうなどの状態の空き家
- 店舗専用地:住宅として使用されていない土地
- 申告漏れ:新築時や用途変更時に必要な申告が漏れている
新築軽減措置の期間終了による増額
新築住宅の軽減措置は3年間(または5年間)で終了します。期間終了後は税額が2倍になるため、「急に高くなった」と感じますが、これは正常な動きです。
確認方法:
- 新築年を確認し、軽減期間を計算
- 課税明細書で「軽減適用」欄を確認
空き家の税額が6倍になるケース
2025年問題(団塊世代の後期高齢者化)により空き家が増加しています。適切な管理がないと「特定空家」「管理不全空家」に指定され、住宅用地特例が適用外となり税額が最大6倍になります。
評価額・計算の確認方法
固定資産税が正しく計算されているかを確認する手順を解説します。
納税通知書の読み方
納税通知書には以下の情報が記載されています。
- 課税標準額
- 税率
- 税額
- 納期限
課税明細書(評価明細書)の確認ポイント
課税明細書(評価明細書)には、評価額や軽減措置の適用状況が記載されています。
確認すべき項目:
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 土地の評価額 | 路線価や近隣の評価額と比較 |
| 建物の評価額 | 再建築価格×経年減点補正率で計算 |
| 住宅用地特例 | 「課税標準額」が評価額の1/6または1/3か |
| 新築軽減措置 | 適用期間内か、1/2に減額されているか |
市区町村の税務課への問い合わせ方法
評価額の根拠や計算方法がわからない場合は、市区町村の税務課・資産税課に問い合わせができます。
問い合わせ時に準備するもの:
- 納税通知書
- 課税明細書
- 本人確認書類
質問例:
- 「土地の評価額の算定根拠を教えてください」
- 「住宅用地特例が適用されているか確認したい」
- 「建物の減価補正率の計算方法を教えてください」
住宅用地特例の適用状況確認
住宅用地特例が適用されているかは、課税明細書の「課税標準額」欄で確認できます。
確認方法:
課税標準額 ≒ 評価額 × 1/6(または1/3)
この計算が合わない場合は、特例が適用されていない可能性があります。
課税ミスの事例と不服申立ての方法
課税ミスは実際に多く発生しています。ミスのパターンと対処法を確認しましょう。
総務省調査の結果(97%の自治体で誤課税)
総務省の調査では、97%の自治体で固定資産税の誤課税があったことが報告されています。誤課税は自治体側のミスであり、納税者の責任ではありません。
2018年の還付総額7.18億円(14万4500件)
2018年の東京23区と20政令市では、7.18億円(14万4500件)の還付が行われました。誤課税が判明すれば還付を受けられますが、自分で確認しない限り発見できません。
典型的な課税ミスのパターン
以下のケースで課税ミスが発生しやすいとされています。
| ミスのパターン | 内容 |
|---|---|
| 建物増築時 | 増築部分に新築軽減措置が適用されない |
| 二世帯住宅への変更 | 住宅用地特例の適用面積が更新されない |
| 店舗併用住宅 | 住宅部分の特例が適用されない |
| 店舗の住宅転用 | 用途変更後も店舗として課税される |
| アパート駐車場 | 住宅用地特例が適用されるべき駐車場が非適用 |
| 路線価の誤り | 近隣の路線価が誤って適用される |
| 減価補正率の未適用 | 建物の経年劣化が評価額に反映されない |
(参考:税理士法人チェスターの調査資料)
審査の申出(固定資産評価審査委員会)
固定資産税の評価額に不服がある場合は、固定資産評価審査委員会に「審査の申出」を行います。
申出できる人:
- 納税義務者本人
- 代理人(委任状が必要)
申出方法:
- 書面で提出(市区町村の税務課または固定資産評価審査委員会事務局)
- 必要書類:審査申出書、納税通知書のコピー、評価額が不当である根拠資料
(参考:東京都主税局「固定資産評価審査委員会」)
申出期間(納税通知書交付後3か月以内)
審査の申出には期限があります。
期限:納税通知書の交付を受けた日後3か月以内
この期限を過ぎると、申出ができなくなります。早めの対応が重要です。
注意点:
- 審査の申出を行っても、納期限は延長されない
- 納期限までに納付しないと滞納扱いになり、延滞金が発生
- 減額決定された場合は、差額が還付される
専門家への相談(税理士、弁護士等)
評価額の妥当性を判断するには専門的な知識が必要です。以下のケースでは専門家への相談を推奨します。
- 評価額が周辺相場と大きく異なる
- 軽減措置の適用状況が複雑(店舗併用住宅、二世帯住宅等)
- 審査の申出を行う際の根拠資料の作成
相談先:
- 税理士:固定資産税の計算、税制の適用、審査の申出のサポート
- 不動産鑑定士:評価額の妥当性の判定
- 弁護士:法的手続きのサポート
まとめ:固定資産税の確認チェックリスト
固定資産税が「おかしい」と感じたら、以下のチェックリストで確認しましょう。
評価額の妥当性確認項目
- 課税明細書で土地・建物の評価額を確認
- 近隣の評価額や路線価と比較
- 建物の再建築価格と経年減点補正率を確認
軽減措置の適用確認項目
- 住宅用地特例が適用されているか(課税標準額が評価額の1/6または1/3か)
- 新築軽減措置の適用期間内か
- 建物増築・用途変更時に軽減措置が更新されているか
課税ミスの発見ポイント
- 建物増築・二世帯住宅への変更・店舗併用住宅・店舗の住宅転用・アパート駐車場などのケースで誤課税が発生しやすい
- 疑問があれば市区町村の税務課に問い合わせ
- 評価額に不服がある場合は、納税通知書交付後3か月以内に審査の申出
固定資産税の評価額や計算方法は複雑ですが、納税者自身で確認することで誤課税を発見できる可能性があります。疑問を感じたら、まずは課税明細書を確認し、市区町村の税務課に問い合わせましょう。
専門的な判断が必要な場合は、税理士や不動産鑑定士への相談を推奨します。
