個人間不動産売買とは|仲介を介さない取引の基本
不動産の売買を検討している方の中には、「仲介手数料を節約するために個人間で売買できないか」「個人間売買の手続きやリスクを知りたい」と考える方もいるでしょう。
この記事では、個人間不動産売買の手続きの流れ、メリット・デメリット、リスクと対策を、国土交通省の土地総合情報システムや国税庁の公式情報を参考に解説します。
この記事のポイント
- 個人間売買は法的に可能だが、専門知識が必要でトラブルリスクが高い
- 最大のメリットは仲介手数料の節約(3000万円の物件で約105.6万円)
- デメリットは住宅ローン審査が厳しくなること、契約トラブルのリスク
- 親族間・知人間で信頼関係がある場合に向いている
- 司法書士等の専門家への相談は必須
個人間売買のメリット・デメリット
最大のメリット|仲介手数料の節約(約3%+6万円+税)
個人間売買の最大のメリットは、仲介手数料が不要になることです。不動産会社を通じて売買する場合、仲介手数料の上限は物件価格の3%+6万円+消費税(400万円超の場合)と定められています。
例えば、3000万円の物件を売買する場合、仲介手数料は約105.6万円(税込)になります。この金額を節約できることは大きなメリットです。
| 物件価格 | 仲介手数料(税込・上限) |
|---|---|
| 1000万円 | 約39.6万円 |
| 2000万円 | 約72.6万円 |
| 3000万円 | 約105.6万円 |
| 5000万円 | 約171.6万円 |
また、売主が個人の場合は消費税がかからないため、買主にとっても税金面でのメリットがあります。
デメリット|住宅ローン審査が厳しくなる
個人間売買の大きなデメリットは、住宅ローンの審査が厳しくなることです。多くの金融機関は、不動産会社が作成する重要事項説明書を融資審査の判断材料としています。
個人間売買ではこの書類がないため、審査を通過できない、または融資を受けられない金融機関もあります。現金で購入できる場合を除き、事前に金融機関へ相談することが必須です。
デメリット|トラブルリスクと解決費用
個人間売買では、以下のようなトラブルが発生するリスクがあります。
- 価格設定の不一致
- 契約書の不備による「言った・言わない」トラブル
- 購入後の瑕疵(欠陥)発覚
- 支払い遅延
- 権利関係の問題
トラブルが発生した場合の解決費用(弁護士費用等)が仲介手数料を上回るケースもあり、節約効果が帳消しになるリスクがあります。
個人間不動産売買の手続きの流れ
価格設定|国土交通省の土地総合情報システムの活用
個人間売買の第一歩は、適正な価格設定です。価格が市場価格から大きく乖離すると、国税庁によるみなし贈与税が課される可能性があります(特に親族間売買で注意)。
価格調査には、国土交通省の土地総合情報システムを活用できます。過去の取引価格データを無料で閲覧でき、周辺相場を把握する際の参考になります。
買主探しと売買条件の交渉
個人間売買は、基本的に売主と買主の間に信頼関係がある場合に行われます。親子間、相続に伴う親族間、知人間などが典型的なケースです。
売買条件(価格、引渡し時期、付帯設備の取り扱い等)は、双方が納得するまで交渉し、合意内容を書面で残すことが重要です。
契約書作成|記載すべき事項と注意点
不動産売買契約は口頭でも法的に成立しますが、トラブル防止のため必ず書面で契約書を作成してください。インターネットで無料テンプレートをダウンロードすることも可能ですが、個別の状況に応じた修正が必要です。
契約書に記載すべき主な事項は以下の通りです。
- 売主・買主の氏名・住所
- 物件の所在地・面積・構造
- 売買代金と支払い方法・時期
- 引渡し時期と条件
- 契約不適合責任(瑕疵担保責任)の範囲と期間
- 契約解除の条件
- 印紙税の負担
2025年時点で、1000万円の売買契約書には1万円の印紙税が必要です(軽減措置適用)。
引渡しと所有権移転登記
契約締結後、代金の支払いと引渡しを行い、法務局で所有権移転登記を行います。登記手続きは複雑なため、司法書士への依頼をおすすめします(費用は1〜3万円程度が相場)。
登記を怠ると、第三者に対抗できない(権利を主張できない)リスクがあるため、必ず行ってください。
個人間売買のリスクとトラブル事例
価格設定のトラブルとみなし贈与税リスク
個人間売買で最も注意が必要なのは、価格設定です。市場価格と著しく乖離した価格で取引すると、差額が贈与とみなされ、国税庁により贈与税が課される可能性があります。
特に親族間売買では、「安く譲りたい」という気持ちから市場価格を大きく下回る価格で取引してしまうケースがあります。適正価格の調査と、必要に応じて税理士への相談をおすすめします。
契約書の不備による「言った・言わない」トラブル
契約書の記載が不十分だと、後から「言った・言わない」のトラブルに発展することがあります。特に以下の事項は明確に記載しておく必要があります。
- 付帯設備(エアコン、照明器具等)の取り扱い
- 契約解除の条件と手付金の扱い
- 固定資産税・管理費の精算方法
- 引渡し後に発覚した瑕疵の責任範囲
瑕疵の発覚と契約不適合責任
購入後に雨漏り、シロアリ被害、土壌汚染、地中埋設物などの瑕疵が発覚するケースがあります。契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)の範囲と期間を契約書で明確にしておかないと、深刻なトラブルに発展する可能性があります。
隠れた瑕疵として、心理的瑕疵(事故物件等)や法令上の制限(建築制限、再建築不可等)もあるため、事前調査が重要です。
安全に個人間売買を行うための対策
司法書士への登記手続き依頼(費用1-3万円)
個人間売買でも、登記手続きは司法書士に依頼することを強くおすすめします。費用は1〜3万円程度ですが、権利関係の確認や書類作成を専門家に任せることで、トラブルリスクを大幅に軽減できます。
契約不適合責任の範囲・期間の明確化
契約書には、契約不適合責任の範囲と期間を明確に記載してください。例えば「引渡しから3ヶ月以内に発覚した雨漏り・シロアリ被害については売主が責任を負う」など、具体的に定めておくことが重要です。
親族間・知人間以外は仲介の利用を検討
個人間売買は、基本的に親族間・知人間で信頼関係がある場合に適しています。面識のない相手との取引や、不動産の知識がない場合は、仲介手数料を支払ってでも不動産会社を通じた取引を検討することをおすすめします。
トラブル発生時の解決費用や精神的負担を考えると、仲介手数料は「安心料」としての側面もあります。
まとめ|個人間売買を検討する際の判断ポイント
個人間不動産売買は法的に可能ですが、専門知識が必要でトラブルリスクが高い取引形態です。最大のメリットは仲介手数料の節約(3000万円の物件で約105.6万円)ですが、住宅ローン審査が厳しくなる点、契約トラブルのリスクには注意が必要です。
個人間売買が向いているのは、以下のような条件を満たす場合です。
- 親族間・知人間で信頼関係がある
- 不動産や法律の知識がある
- 現金決済が可能(または事前に金融機関と相談済み)
- 司法書士等の専門家に相談できる
これらの条件を満たさない場合は、仲介を利用した取引を検討することをおすすめします。不動産取引は高額な取引であり、トラブル発生時の影響も大きいため、必要に応じて司法書士、弁護士、税理士等の専門家に相談してください(2025年時点の情報)。
