住宅ローンを払えない人が増えている背景とは
住宅ローンを組んでいる方の中には、「最近、返済が苦しくなってきた」「周囲で住宅ローンを払えない話を聞くようになった」と不安を感じている方がいるかもしれません。
この記事では、住宅ローン返済困難者の実態、返済困難に陥る原因、滞納から競売までの流れ、早期対処法について、公的統計データを元に解説します。
返済に不安を抱えている方でも、早期相談により解決の道筋を見つけることができます。
この記事のポイント
- 住宅金融支援機構のデータではリスク管理債権が約3%、約33人に1人が返済困難
- 主な原因は病気・ケガ・失業による収入減と、2024年以降の金利上昇
- 滞納3ヶ月で個人信用情報に記録(ブラックリスト)、3~6ヶ月で一括返済請求
- 滞納する前の金融機関への早期相談が最重要
- 任意売却は競売より市場価格で売却でき、残債を大幅に減らせる可能性
住宅ローンを払えない人が増えている実態
(1) 統計データ:リスク管理債権が約3%、約33人に1人が返済困難
住宅ローンを払えない人は実際に増えているのでしょうか。
住宅金融支援機構のデータによると、リスク管理債権(滞納・破綻など返済に問題があると判断された債権)が約3%に達しています。これは約33人に1人が返済困難の状況にあることを意味します。
別の調査では、住宅ローン利用者の約4%が返済困難で、年間約25人に1人が破綻しているとの報告もあります。
(2) 2024~2025年の金利上昇が返済負担を増加
住宅金融支援機構の調査によると、2025年4月の調査で65.7%の利用者が金利上昇を予測しています。
2024年から2025年にかけて金利が上昇傾向にあり、変動金利で借りている方の返済負担が増加しています。例えば、3,000万円を35年ローンで借りた場合、金利が0.5%上昇すると月々の返済額が約1万円増加します。
この金利上昇が、返済困難者の増加につながっています。
返済困難に陥る主な原因
(1) 病気・ケガ・失業による収入減
返済困難に陥る最も多い原因は、病気・ケガ・失業による収入減です。
- 病気やケガで長期療養が必要になった
- 失業や転職で収入が大幅に減った
- 自営業の経営悪化
これらの事態は誰にでも起こり得ます。返済計画は安定収入を前提にしているため、収入が減ると途端に返済が厳しくなります。
(2) 金利上昇による返済額の増加
変動金利で借りている場合、市場金利の上昇により返済額が増加します。
2024年以降、日銀の利上げ政策により、住宅ローン金利が上昇傾向にあります。変動金利は半年ごとに見直されるため、金利上昇の影響を直接受けます。
借入時に低金利でも、将来の金利上昇リスクを考慮していないと、返済計画が破綻する可能性があります。
(3) コロナ禍の影響
コロナ禍の影響で収入減により返済困難に陥るケースが増加しています。
- 休業・時短勤務による収入減
- ボーナスカット
- 解雇・雇い止め
特にサービス業や観光業では、コロナ禍の影響が長期化し、収入回復が遅れているケースもあります。
住宅ローン滞納から競売までの流れ
(1) 滞納1~3ヶ月:督促状、個人信用情報への記録
滞納が始まると、金融機関から督促状が届きます。この時点では、まだ話し合いによる解決が可能です。
滞納が3ヶ月程度続くと、個人信用情報機関に金融事故の記録が登録されます(いわゆるブラックリスト)。
ブラックリストに載ると、新たなローンやクレジットカードの利用ができなくなります。
(2) 滞納3~6ヶ月:期限の利益喪失、一括返済請求
滞納が3~6ヶ月続くと、期限の利益を喪失します。これは、分割払いの権利を失い、一括返済を求められることを意味します。
HOME4Uによると、この段階で金融機関から一括返済請求の通知が届きます。
一括返済できない場合、次のステップに進みます。
(3) 滞納6~10ヶ月:代位弁済
一括返済できない場合、保証会社が債務者に代わってローンを一括返済します(代位弁済)。
これにより、債権が保証会社に移ります。保証会社は債権回収のため、不動産の競売を申し立てます。
(4) 滞納12~16ヶ月:競売入札開始
滞納から12~16ヶ月で、裁判所が競売手続きを開始します。
競売とは、裁判所が債権者の申立てにより不動産を強制的に売却する手続きです。
競売になると:
- 裁判所が自宅を調査に来る
- インターネットに物件情報が公開される
- 市場価格の6~7割で売却される
競売で売却されても残債が残る場合、引き続き返済義務が続きます。
返済が苦しくなった時の5つの対処法
(1) 金融機関への早期相談
返済が苦しくなったら、滞納する前に金融機関に相談することが最重要です。
金融機関は返済困難者を支援する仕組みを持っており、早期相談により以下の選択肢を検討できます。
- リスケジュール(返済条件変更)
- 一定期間の返済猶予
- 任意売却の相談
金融機関は、滞納されるよりも、相談して現実的な返済計画を立て直す方を好みます。
(2) リスケジュール(返済期間延長、減額、元金返済据置)
**リスケジュール(条件変更)**とは、返済条件を見直し、返済期間の延長や減額を行うことです。
みずほ銀行の公式サイトによると、以下の選択肢があります。
| リスケの種類 | 内容 |
|---|---|
| 返済期間の延長 | 35年→40年に延長し、月々の返済額を減らす |
| 一定期間の減額 | 最長1年間、返済額を減額 |
| 元金返済据置 | 一定期間、利息のみを支払い、元金返済を据置 |
注意点: 返済期間を延長すると総返済額が増え、退職後も返済が続く可能性があります。
(3) 借り換え検討
他の金融機関への借り換えにより、金利を下げられる可能性があります。
借り換えの条件:
- 返済遅延がないこと
- 安定した収入があること
- 個人信用情報に問題がないこと
すでに滞納している場合、借り換えは難しくなります。
(4) 団体信用生命保険の適用確認
**団体信用生命保険(団信)**は、住宅ローン契約者が死亡・高度障害状態になった場合に残債が保険金で弁済される保険です。
病気やケガで返済困難になった場合、団信の適用条件を確認してください。近年は、がん診断やその他の疾病でも適用される特約付き団信もあります。
(5) 任意売却の検討
返済継続が難しい場合、任意売却を検討します。任意売却については次のセクションで詳しく解説します。
任意売却と競売の違い:どちらを選ぶべきか
(1) 任意売却:市場相場で売却、プライバシー保護
任意売却とは、債権者(金融機関や保証会社)の承諾を得て、市場価格で不動産を売却することです。
任意売却のメリット:
- 市場相場で売却できる(競売より高値)
- プライバシーが守られる(インターネット公開なし)
- 残債を大幅に減らせる可能性
- 引っ越し時期を調整できる
SUMiTASによると、任意売却は競売と比べて高値で売却できるため、残債を大幅に減らせます。
(2) 競売:市場価格の6~7割、強制的な売却
一方、競売は裁判所が強制的に不動産を売却する手続きです。
競売のデメリット:
- 市場価格の6~7割で売却される
- インターネットに物件情報が公開される
- 裁判所の調査が入る
- 引っ越し時期を選べない
競売で売却されても残債が残る場合、引き続き返済義務が続きます。
(3) 滞納から6ヶ月以内に任意売却を決断すべき理由
任意売却は、滞納から6ヶ月以内に決断することが推奨されます。
理由:
- 代位弁済(滞納6~10ヶ月)前なら、金融機関と交渉しやすい
- 競売開始(滞納12~16ヶ月)前なら、時間的余裕がある
- 早期売却により、残債を少なくできる
滞納を放置すると、選択肢がなくなります。早期に専門家(弁護士、司法書士、不動産会社等)に相談してください。
まとめ:早期相談が解決の鍵
住宅ローンを払えない人は増えており、住宅金融支援機構のデータではリスク管理債権が約3%に達しています。主な原因は病気・ケガ・失業による収入減と、2024年以降の金利上昇です。
滞納すると、3ヶ月で個人信用情報に記録され(ブラックリスト)、3~6ヶ月で一括返済請求、12~16ヶ月で競売入札開始となります。
返済が苦しくなったら、滞納する前に金融機関に相談してください。リスケジュール、借り換え、任意売却などの選択肢があります。任意売却は競売より市場価格で売却でき、残債を大幅に減らせる可能性があります。
早期相談が解決の鍵です。法的手続きについては、弁護士・司法書士、不動産の専門家に相談することを推奨します。
