住宅ローンの年齢制限が気になる理由
住宅ローンを検討する際、「何歳まで組めるのか」「定年後も返済が続くのか」と不安に感じる方は少なくありません。
実際、住宅金融支援機構の2024年度フラット35利用者調査によると、借入時の平均年齢は44.5歳で、2014年の40.4歳から上昇傾向にあります。晩婚化や持ち家志向の変化により、40代以降で住宅ローンを組む方が増えているのが現状です。
この記事では、住宅ローンの年齢制限(借入時・完済時)、年齢別の注意点、高齢者向け住宅ローンの選択肢を、公的機関のデータを元に解説します。
この記事のポイント
- 申込可能年齢は18歳以上70歳未満、完済時年齢は80歳未満が一般的
- 理想的な完済年齢は65歳(定年時)。定年後も返済が残ると年金収入だけでは困難になるリスクが高い
- 44〜45歳が35年ローンを組める年齢上限(完済時80歳未満の場合)
- 60歳以上の場合は「リ・バース60」等の高齢者向け住宅ローンも選択肢の一つ
- 完済時年齢は国土交通省の調査で98.7%の金融機関が最重要審査項目としている
(1) 晩婚化・高齢化で借入年齢が上昇している現状
住宅金融支援機構の2024年度フラット35利用者調査によると、住宅ローン借入時の平均年齢は44.5歳で、10年前の40.4歳から4.1歳上昇しています。
年代別の利用割合は以下の通りです。
| 年代 | 利用割合 |
|---|---|
| 30代 | 29.2% |
| 40代 | 26.8% |
| 50代 | 18.7% |
| 60代以上 | 14.3% |
60代以上の借入割合が14.3%と、高齢化社会を反映して晩婚化・返済期間長期化が顕著になっています。
(2) 定年後も返済が続くリスクへの不安
平均借入年齢41.5歳で30年ローンを組むと、完済年齢は71.5歳になります。多くの企業で定年は60〜65歳のため、定年後も数年間返済が続く計算です。
定年後の再雇用では給与が減少するケースが多く(約70%の企業が再雇用制度を導入していますが、給与・役職は低下)、年金収入だけでは返済が困難になるリスクがあります。
住宅ローンの基本的な年齢制限
住宅ローンには「申込可能年齢」と「完済時年齢」の2つの年齢制限があります。
(1) 申込可能年齢は何歳まで?
多くの金融機関で、申込可能年齢は18歳以上70歳未満が一般的です。
フラット35では申込時年齢が満70歳未満と定められています。ただし、金融機関により基準は異なるため、複数の金融機関に相談することを推奨します。
(2) 完済時年齢の上限は何歳まで?
完済時年齢は80歳未満が一般的ですが、一部の金融機関では85歳まで延長可能な商品もあります。
国土交通省の令和4年度民間住宅ローンの実態に関する調査によると、完済時年齢は98.7%の金融機関が審査項目として最重視しています。
完済時年齢とは、住宅ローンを完済する年齢のことで、審査で最も重視される項目です。
(3) 35年ローンは何歳まで組める?
完済時年齢80歳未満の場合、35年ローンを組める年齢上限は44〜45歳です。
計算式:80歳 - 35年 = 45歳
一部金融機関では完済時年齢を85歳まで延長しているため、49〜50歳まで35年ローンを組める場合もあります。ただし、定年後も長期間返済が続くため、慎重な判断が必要です。
年齢別の住宅ローン組み方と注意点
年齢によって住宅ローンの組み方や注意点は異なります。
(1) 30代での借入:長期ローンのメリットと注意点
30代は長期ローン(35年)を組める最も有利な年代です。
メリット:
- 完済時年齢を65歳以下に設定しやすい
- 月々の返済額を抑えられる
- 繰上返済で柔軟に調整可能
注意点:
- 長期ローンは総支払利息が増える
- 転職・出産等のライフイベントで返済計画が変わる可能性
(2) 40代での借入:平均借入年齢と返済計画
40代は平均借入年齢(44.5歳)に近く、最も多い年代です。
ポイント:
- 35年ローンの場合、完済時年齢が80歳前後になるため注意
- 返済期間を30年以下に短縮し、完済時年齢を75歳以下に抑えることを推奨
- 頭金を多く用意し、借入額を減らすことで月々の負担を軽減
(3) 50代での借入:定年までの期間と繰上返済
50代では定年までの期間が短く、返済計画が重要になります。
対策:
- 返済期間を15〜20年に設定し、65歳までに完済する計画を立てる
- 退職金を繰上返済に充てる前提で計画する場合、退職金の減少トレンド(1997年2,871万円→2017年1,788万円)を考慮
- 繰上返済(返済期間短縮型)を活用し、定年前に完済を目指す
繰上返済とは、通常の返済とは別に元金の一部または全部を前倒しで返済することで、返済期間短縮型と返済額軽減型があります。
(4) 60代以上での借入:審査のハードルと対策
60歳以上での借入は可能ですが、審査が厳しくなります。
審査のポイント:
- 健康状態:団信(団体信用生命保険)への加入が困難になる可能性が高い
- 収入:年金収入や再雇用での給与が審査対象
- 頭金:頭金を多く用意することで審査通過率が向上
**団体信用生命保険(団信)**とは、住宅ローン契約者が死亡・高度障害状態になった場合に残債を保険金で返済する保険です。多くの金融機関で加入が融資条件となっており、高齢になるほど加入が困難になります。
完済時年齢と定年後の返済リスク
完済時年齢の設定は、定年後の生活設計に大きく影響します。
(1) 理想的な完済年齢は65歳の理由
理想的な完済年齢は**65歳(定年時)**です。
定年後の収入は年金が中心となり、現役時代より大幅に減少します。年金収入だけで住宅ローンを返済すると、生活費が圧迫されるリスクが高くなります。
(2) 60代・70代の住宅ローン残高の実態
りそな銀行の調査によると、60代の平均住宅ローン残高は920万円、70代以上でも816万円と高額です。
定年後も多額のローンが残ると、年金収入だけでは返済が困難になるケースが増えています。
(3) 退職金減少と定年後の返済困難
退職金は1997年の2,871万円から2017年には1,788万円へと大幅に減少しています。
退職金を住宅ローン返済に充てる計画を立てていた場合、予定額に届かず完済が困難になるリスクがあります。業種・勤続年数により退職金額は大きく異なるため、個別の状況に応じた返済計画が必要です。
(4) 団信加入と健康状態の関係
団信への加入には健康状態の告知が必要で、持病がある場合は加入を断られるケースもあります。
60歳以上では健康状態が審査に影響する可能性が高く、団信に加入できない場合は融資自体を受けられない金融機関もあります。
高齢者向け住宅ローンの選択肢
60歳以上で住宅ローンを組む場合、高齢者向けの商品を検討することも一つの選択肢です。
(1) リ・バース60の仕組みと条件
リ・バース60は、住宅金融支援機構が提供する満60歳以上向けの住宅ローンです。
特徴:
- 毎月利息のみ返済、元金は契約者死亡時に相続人が一括返済または担保物件売却で返済
- 融資限度額は担保評価額の50〜60%、最大8,000万円
- ノンリコース型(担保物件売却後に債務が残っても相続人に返済義務が生じない)とリコース型(不足分を相続人が返済)がある
リ・バース60は、毎月の返済負担を軽減できる一方、相続時に自宅を売却する必要があるため、相続人との事前相談が重要です。
(2) 親子リレー返済の活用方法
親子リレー返済とは、親が住宅ローンを借り、親の死亡後に子が返済を引き継ぐ仕組みです。
高齢での借入時に完済時年齢の制限を緩和できるメリットがありますが、子の収入や同居条件等の要件があります。
(3) 頭金増額による審査通過率向上
頭金を多く用意することで借入額を減らし、高齢での審査通過率を上げることが可能です。
一般的に物件価格の20〜30%の頭金があると、審査が通りやすくなります。
まとめ:年齢に応じた賢い住宅ローン選び
住宅ローンの年齢制限は、申込可能年齢が18歳以上70歳未満、完済時年齢が80歳未満が一般的です。ただし、金融機関により基準は異なります。
理想的な完済年齢は65歳(定年時)で、定年後も返済が残ると年金収入だけでは困難になるリスクが高くなります。60歳以上での借入は、リ・バース60等の高齢者向け住宅ローンや親子リレー返済の活用も選択肢の一つです。
年齢・健康状態・収入状況は個別に異なるため、複数の金融機関やファイナンシャルプランナーに相談しながら、無理のない返済計画を立てることを推奨します。
