なぜマンション修繕工事で談合が起きるのか
マンション管理組合が大規模修繕工事を検討する際、「見積もりが高すぎるのでは?」「談合されていないか?」と不安を感じる方は少なくありません。
マンション修繕工事における談合は、独占禁止法違反の重大な法令違反であり、工事費が不当につり上げられることで、修繕積立金の枯渇やマンションの資産価値低下につながります。2025年3月以降、公正取引委員会が約30社に立ち入り検査を実施し、業界で常態化している実態が明らかになりました。この記事では、談合の実態、見分け方、適正価格の判断基準、透明性のある業者選びを、公的機関の情報を元に解説します。
管理組合の理事や区分所有者が、談合リスクを理解し、自衛するための具体的な対策を把握できるようになります。
この記事のポイント
- 2025年3月以降、公正取引委員会が長谷工リフォーム等約30社に立ち入り検査を実施し、談合の実態が明らかに
- 談合によりバックマージン(工事費の10〜20%)が授受され、本来不要なコストが上乗せされる可能性がある
- 見積もりが横並び、コンサル費用が異常に低額、応募業者がコンサルの声がけのみの場合は要注意
- 複数業者からの相見積もり、管理組合主導の選定、第三者専門家への相談で談合を防ぐ可能性が高まる
談合の実態と2025年公取委の調査
(1) 2025年3月以降の立ち入り検査
2025年3月4日、公正取引委員会が長谷工リフォーム、大京穴吹建設など約20社に立ち入り検査を実施しました。4月23日には調査対象が約30社に拡大し、設計コンサルティング会社にも資料提供を要請しています。
これは、マンション修繕工事における談合が業界全体に広がっている可能性を示唆しています。
(2) 調査対象企業と規模
調査対象となった企業は、大手建設会社の関連会社や地域密着型の工事業者など多岐にわたります。設計コンサルティング会社も資料提供要請の対象となっており、コンサルと工事会社の癒着が疑われています。
(3) 業界で常態化している背景
専門家によると、業界では談合が常態化しており、公正取引委員会の調査以前から相談が寄せられていました。工事費を不当につり上げ、適切な間隔で修繕工事ができなくなるリスクが指摘されています。
横浜市も公式サイトで管理組合向けに注意喚起ページを公開しており、自治体レベルでも談合問題が重視されています。
(4) バックマージンの仕組み
バックマージンとは、工事費の一部(10〜20%程度)が裏金としてコンサルティング会社等に支払われる仕組みです。
例えば、本来5,000万円で施工できる工事が、バックマージンを上乗せして6,000万円で契約される場合、差額の1,000万円が不正に授受されます。この費用は最終的に管理組合が負担することになります。
談合を見分けるチェックポイント
(1) コンサルティング費用が異常に低額
コンサルティング費用が無料または相場より大幅に安い場合は要注意です。工事費にバックマージンが上乗せされている可能性があります。
通常、設計監理費用は工事費の10〜15%程度が相場です。異常に低額の場合は、費用の内訳を確認し、第三者の専門家に相談することを推奨します。
(2) 見積もりが3社とも横並びの金額
設計価格の83%〜100%の間で横並びの金額が出てくる場合は、談合の可能性があります。
正常な競争入札であれば、業者により工事内容や金額に一定の差が出るはずです。3社の見積もりが不自然に似ている場合は、複数の独立系業者からも見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。
(3) 応募業者がコンサルの声がけのみ
応募業者がコンサルティング会社の声がけした業者のみの場合は疑わしい状況です。
公募を行っているように見せかけて、実際にはコンサルと関係のある業者のみが応募し、受注者が事前に決まっている可能性があります。
(4) 見積り額と修繕積立金残額のバランスが絶妙
見積り額が修繕積立金の残額にちょうど収まる金額になっている場合も疑わしい状況です。
コンサルティング会社が修繕積立金の残高を把握した上で、その範囲内に収まるよう工事費を調整している可能性があります。
適正価格の見極め方と費用相場
(1) 2025年最新の費用相場
国土交通省の調査によると、2025年時点の大規模修繕費用の相場は1戸あたり90万〜130万円です。全体の工事総額は7,600万〜8,700万円に達します。
ただし、地域・マンション規模・築年数により大きく異なるため、複数業者から見積もりを取り比較することが重要です。
(2) マンション規模別の費用目安
| マンション規模 | 工事総額の目安 | 1戸あたりの費用 |
|---|---|---|
| 50戸 | 4,500万〜6,500万円 | 90万〜130万円 |
| 100戸 | 9,000万〜1億3,000万円 | 90万〜130万円 |
| 200戸 | 1億8,000万〜2億6,000万円 | 90万〜130万円 |
(3) 材料費・人件費の高騰傾向
2025年現在、材料費・人件費の高騰により大規模修繕費用は右肩上がりです。過去3年間で相場が上昇しているため、古いデータを参考にすると適正価格を見誤る可能性があります。
(4) 修繕積立金の適正価格と不足問題
国土交通省の調査では、修繕積立金の適正価格は290円/㎡・月(+機械式駐車場メンテナンス代)ですが、相場価格は181円/㎡・月と不足しています。
多くのマンションで修繕積立金が不足しており、談合で高額な工事費を請求されると修繕積立金が枯渇するリスクがあります。
透明性のある業者選びと発注プロセス
(1) 複数業者からの相見積もり
管理会社推薦の業者だけでなく、独立系の業者からも見積もりを取ることで、談合を防ぐ可能性が高まります。
最低3社以上から見積もりを取り、金額と工事内容を比較検討することが重要です。
(2) 管理組合主導での業者選定
管理組合が主導で工事会社を選定し、透明性のある入札制度を導入することで談合リスクを減らせます。
業者選定の過程を組合員に公開し、議事録を残すことで、不透明な判断を防ぐことができます。
(3) プロポーザル方式の導入
プロポーザル方式とは、金額と工事内容の両方を提案してもらい、総合的に評価して業者を選定する方式です。
金額だけでなく、工事内容、実績、アフターサポートも評価することで、談合を防ぎやすくなります。
(4) 第三者専門家へのセカンドオピニオン依頼
建築士、マンション管理士等の第三者専門家にセカンドオピニオンを依頼し、見積もり内容の妥当性を確認することを推奨します。
コンサルティング会社と利害関係のない専門家を選ぶことで、客観的な評価が得られます。
まとめ:管理組合ができる談合防止策
マンション修繕工事における談合は、独占禁止法違反の重大な法令違反であり、工事費が不当につり上げられることで、管理組合に深刻な損害を与えます。
2025年3月以降、公正取引委員会が約30社に立ち入り検査を実施し、業界で常態化している実態が明らかになりました。見積もりが横並び、コンサル費用が異常に低額、応募業者がコンサルの声がけのみの場合は要注意です。
談合を防ぐためには、複数業者からの相見積もり(独立系業者も含む)、管理組合主導での業者選定、プロポーザル方式の導入、第三者専門家へのセカンドオピニオン依頼が有効です。
談合を疑った場合は、公正取引委員会への情報提供、弁護士やマンション管理士等の専門家への相談を推奨します。独自判断での対応は避け、専門家の助言を得ることが重要です。
信頼できる専門家と相談しながら、透明性のある発注プロセスを構築し、マンションの資産価値を守りましょう。
