マンション修繕談合とは?住民が知るべき実態
マンションの大規模修繕工事を控えている管理組合の理事や役員の方の中には、「見積もり金額が高すぎるのではないか」「談合が行われているのではないか」と不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、マンション修繕談合の実態、最新の摘発動向、談合を見抜くチェックポイント、管理組合ができる防止策を、公正取引委員会や専門家の情報に基づき解説します。
管理組合が適正価格で信頼できる施工業者を選び、修繕積立金を守るための判断材料を提供します。
この記事のポイント
- 談合は複数の業者が事前に受注者や価格を調整する独占禁止法違反の行為
- 2025年3月、公取委が長谷工リフォームなど約30社に立ち入り検査を実施
- 談合により工事費が1~2割高くなり、修繕積立金が不当に消費される
- 見積もり金額が揃っている、設計監理費が極端に低いなどが談合の兆候
- 相見積もりを3~5社から取り、工事内容を統一して比較することが重要
マンション修繕談合とは?なぜ問題なのか
(1) 談合の定義と独占禁止法違反
談合とは、複数の事業者が入札や見積もりで事前に受注者や価格を調整する不正行為です。
独占禁止法では、事業者間で競争を制限する行為を禁止しており、談合はこれに違反します。
談合が行われると、本来競争によって適正化されるべき価格が不当に引き上げられ、発注者(マンション管理組合)が損害を被ります。
公正取引委員会(公取委)は、談合を行った事業者に対して課徴金や刑事罰を科す権限を持っており、悪質な場合は入札資格停止などの行政処分も行われます。
(2) マンション大規模修繕で談合が多発する背景
マンション大規模修繕では、設計監理方式が約8割で採用されています。
設計監理方式とは、設計コンサルタントが修繕工事の設計と施工管理を行う方式です。
この方式では、設計コンサルタントが施工業者を推薦する立場にあるため、設計コンサルタントと施工業者が癒着し、談合が行われやすいという構造的な問題があります。
さくら事務所によると、談合は数十年以上、業界全体に広がっている日常的な行為とされています。
設計コンサルタントは、工事業者からバックマージン(工事費の10~20%)を受け取る見返りに、特定の業者を推薦したり、見積もり金額を調整したりします。
このような癒着は、管理組合の利益を損ない、修繕積立金を不当に消費する原因となります。
(3) 修繕積立金への影響と将来リスク
談合により工事費が1~2割高くなると、修繕積立金が本来より多く使われることになります。
マンションの大規模修繕は12年周期で行われることが一般的ですが、1回の修繕で不当に高い費用を支払うと、次回の修繕時に資金不足に陥るリスクがあります。
修繕積立金が不足すると、追加の一時金徴収や修繕積立金の値上げが必要になり、住民の負担が増大します。
談合を防ぎ、適正価格で修繕工事を実施することは、マンションの資産価値を守り、住民の負担を軽減するために不可欠です。
談合の実態と最新の摘発動向(2025年)
(1) 公正取引委員会の立ち入り検査(2025年3月)
日経クロステックによると、2025年3月4日、公正取引委員会はマンション大規模修繕工事の談合の疑いで、長谷工リフォーム、大京穴吹建設など約30社に立ち入り検査を実施しました。
当初は約20社が対象でしたが、4月23日には追加で検査が行われ、対象企業は約30社に拡大しました。
これは、マンション修繕業界における談合が広範囲に及んでいることを示す大規模な調査です。
(2) 対象企業と業界の広がり
今回の調査対象には、長谷工リフォーム、大京穴吹建設といった大手企業が含まれています。
これらの企業は、マンション大規模修繕において高いシェアを持っており、業界全体に談合が蔓延している可能性が指摘されています。
日本経済新聞によると、全国で250億円超の不正請求があったとされており、被害は極めて大規模です。
また、管理組合の7割以上が見積もり選定で不信感を経験しているとの調査結果もあり、談合は業界全体の信頼性を損なう深刻な問題となっています。
(3) 設計監理方式が談合の温床となる理由
設計監理方式では、設計コンサルタントが以下の役割を担います。
- 修繕工事の設計
- 施工業者の推薦
- 工事の監理(施工状況のチェック)
この方式は、専門知識を持たない管理組合にとって便利な仕組みですが、設計コンサルタントが中立性を失うと、談合の温床となります。
具体的には、以下のような手口で談合が行われます。
- 設計コンサルタントが特定の施工業者を推薦
- 推薦された業者が高い見積もりを提出
- 他の業者も事前に調整され、同程度の見積もりを提出(競争が形骸化)
- 施工業者が工事費の一部をバックマージンとして設計コンサルタントに支払う
このような仕組みにより、設計コンサルタントは管理組合の利益ではなく、施工業者の利益を優先するようになります。
談合を見抜くチェックポイント
(1) 見積もり金額が揃っている
複数の業者から見積もりを取った際、見積もり金額が不自然に揃っている場合は談合の疑いがあります。
本来、業者ごとに施工方法、材料の仕入れルート、利益率が異なるため、見積もり金額にはある程度のばらつきが生じます。
しかし、談合が行われている場合、事前に金額が調整されているため、見積もりが数%以内の範囲に収まることがあります。
相見積もりを取った際は、金額だけでなく、工事内容の詳細も比較し、不自然な一致がないか確認しましょう。
(2) 設計監理費が極端に低い
ダイヤモンド・オンラインによると、設計監理費が極端に低い場合(数十万円程度)は要注意です。
設計コンサルタントが本来受け取るべき設計監理費を低く設定し、その代わりに施工業者からバックマージンを受け取っている可能性があります。
適正な設計監理費の目安は、工事費の10~15%程度とされています。これよりも大幅に低い場合は、癒着の疑いがあります。
(3) 応札業者が限定的、または辞退が多い
見積もりを依頼した際、応札業者が限定的だったり、辞退が多かったりする場合も談合の兆候です。
談合が行われている場合、受注予定業者以外の業者は、事前に調整されて辞退したり、形だけの見積もりを提出したりします。
複数の業者に見積もりを依頼したにもかかわらず、応札が1~2社しかない場合は、他の業者にも直接連絡を取り、辞退の理由を確認することを推奨します。
(4) 見積もり総額が修繕積立金残高に近い
見積もり総額が、修繕積立金の残高に不自然に近い場合も疑わしいです。
談合を行う業者は、管理組合が支払える上限額を見極め、その金額に合わせて見積もりを調整することがあります。
例えば、修繕積立金残高が5,000万円の場合、見積もりが4,900万円など、ギリギリの金額で提示されることがあります。
このような場合、他の業者にも見積もりを依頼し、適正価格を確認することが重要です。
談合により高くなる工事費と被害額
(1) 工事費が1~2割高くなる仕組み
日本経済新聞によると、談合により工事費が1~2割高くなるとされています。
例えば、適正価格が3,000万円の工事の場合、談合により300万~600万円も余分に支払うことになります。
この余分な費用は、施工業者の不当な利益や、設計コンサルタントへのバックマージンとして流れます。
(2) バックマージンの実態(工事費の10~20%)
さくら事務所によると、工事費の10~20%程度がバックマージンとして授受されています。
工事費が5,000万円の場合、500万~1,000万円がバックマージンとして、設計コンサルタントや仲介者に支払われることになります。
これは、本来であれば管理組合が支払う必要のない費用であり、修繕積立金の無駄遣いに他なりません。
(3) 全国で250億円超の不正請求
日本経済新聞によると、全国で250億円超の不正請求があったとされています。
これは、全国のマンション管理組合が、談合により不当に高い工事費を支払わされてきたことを示しています。
個別のマンションでは数百万円の損失でも、全国規模では数百億円の被害になるという深刻な実態が明らかになっています。
管理組合ができる談合防止策
(1) 相見積もりを3~5社から取る
談合を防ぐ最も基本的な対策は、3~5社から相見積もりを取ることです。
クラセルによると、複数の業者から見積もりを取ることで、価格や工事内容を比較し、不自然な点を発見しやすくなります。
相見積もりを取る際のポイント:
- 見積もり依頼時に工事内容を統一する
- 消費税込みで見積もりを取る
- 価格だけでなく、施工内容・実績も確認する
(2) コンサルに業者推薦を一任しない
ダイヤモンド・オンラインによると、設計コンサルタントに業者推薦を一任しないことが重要です。
設計コンサルタントが推薦する業者だけでなく、管理組合自らインターネットや業界団体を通じて業者を探し、入札に参加させることを推奨します。
これにより、設計コンサルタントと特定業者の癒着を防ぎ、競争環境を確保できます。
(3) 工事内容を統一して価格比較する
見積もりを取る際は、工事内容を統一することが不可欠です。
業者ごとに工事内容が異なると、価格比較が困難になり、談合を見抜けなくなります。
見積書には以下を明記させましょう。
- 施工方法(塗装の工程、材料の種類等)
- 施工範囲(どこまでが対象か)
- 使用材料の詳細(メーカー、型番等)
- 工期
- アフターサービスの内容
これらを統一した上で見積もりを比較することで、適正価格を見極めやすくなります。
(4) 公的機関(マンション管理センター等)への相談
談合の疑いがある場合や、適正価格に不安がある場合は、公的機関や専門家に相談することを推奨します。
相談先:
- 住宅リフォーム・紛争処理支援センター: 国土交通省所管の公的機関
- マンション管理センター: マンション管理に関する相談窓口
- マンション管理士: マンション管理の専門家資格
- 自治体の相談窓口: 横浜市など、自治体が談合に関する注意喚起や相談窓口を設けている
これらの機関は、中立的な立場から助言を提供してくれます。
まとめ:適正な修繕工事を実現するために
マンション修繕談合は、業界全体に広がる構造的な問題です。2025年3月には公正取引委員会が約30社に立ち入り検査を実施し、全国で250億円超の不正請求があったとされています。
談合により工事費が1~2割高くなると、修繕積立金が不当に消費され、将来的な資金不足のリスクが高まります。
管理組合ができる防止策は以下の通りです。
- 相見積もりを3~5社から取る
- 設計コンサルタントに業者推薦を一任しない
- 工事内容を統一して価格比較する
- 公的機関や専門家に相談する
談合を防ぐには、管理組合が積極的に関与し、「任せきり」にしないことが不可欠です。
見積もり金額が揃っている、設計監理費が極端に低い、応札業者が限定的といった兆候を見逃さず、疑わしい場合は専門家に相談しましょう。
適正価格で信頼できる施工業者を選ぶことで、修繕積立金を守り、マンションの資産価値を維持することができます。
