老朽化マンションの建て替え費用が払えない問題
老朽化マンションの建て替え費用が数百万〜数千万円に及ぶと知り、「払えない場合どうなるのか」と不安に感じる方は多いでしょう。
この記事では、老朽化マンションの建て替え費用の実態、費用が払えない場合の選択肢(売却・融資・反対・強制売却)、公的支援制度、区分所有法(マンション等の区分所有建物に関する法律)改正の影響を、国土交通省の公式情報やゴールドオンライン、AlbaLinkの調査データを元に解説します。
建て替え費用の負担に悩む方でも、具体的な対処法を正確に把握できるようになります。
この記事のポイント
- 建て替え費用は平均1,941万円/世帯で、修繕積立金は調査費用のみ使用可(本体工事費は別途必要)
- 費用が払えない場合、早期売却・高齢者向け融資・反対継続・強制売却の選択肢がある
- 建て替え決議は現行5分の4の賛成が必要だが、2026年4月以降は4分の3に緩和予定
- 築40年以上のマンションは約137万戸(2023年)で、10年後に2倍、20年後に3倍に増加見込み
- 補助金は解体費・共用部分の一部のみで、住民負担をゼロにはできない
2. マンション建て替え費用の実態(相場・負担額)
(1) 建て替え費用の平均額(1,941万円/世帯)
ダイヤモンド・オンラインによると、国土交通省調査(2017-2021年)での建て替え費用の平均額は1世帯あたり1,941万円です。
AlbaLinkによると、費用は1,500万円〜2,000万円の範囲が多く見られます。
(2) 費用の内訳(解体・建築・仮住まい等)
建て替え費用の主な内訳は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 解体費 | 既存建物の解体費用 |
| 建築費 | 新築建物の建築費用 |
| 仮住まい費用 | 工事期間中の仮住まい・引越し費用 |
| 設計費 | 設計・監理費用 |
| その他 | 登記費用、税金等 |
国土交通省のマニュアルによると、住民負担は引越し・仮住まい費用を含めると2,800万円程度になる場合もあります。
(3) 修繕積立金の使途制限(調査費用のみ)
国土交通省のマニュアルによると、修繕積立金は建て替え調査費用のみ使用可能で、解体費・建築費等の本体工事費には使えません。
そのため、建て替え本体費用は別途用意が必要です。
3. 費用が払えない場合の選択肢
(1) 専門業者への早期売却(費用負担回避)
AlbaLinkによると、建て替え決議が通る前に専門業者へ売却すれば、費用負担を回避し、売却代金を新居購入に充てることができます。
メリット:
- 費用負担を完全に回避できる
- 売却代金を新居購入に充てられる
デメリット:
- 建て替え後の新居に住めない
- 売却価格は築年数により低くなる可能性
(2) 高齢者向け特別融資(住宅金融支援機構)
AlbaLinkによると、60歳以上なら住宅金融支援機構の「まちづくり融資(高齢者向け特別償還)」を利用できます。
制度の特徴:
- 利息のみの支払いで、元金は死後に一括返済
- 高齢者でも借入可能
詳細は住宅金融支援機構の公式サイトでご確認ください。
(3) 建て替えに反対を続ける(決議要件)
AlbaLinkによると、建て替えに反対を続けることで、決議成立を阻止できる可能性があります。
現行法:
- 5分の4(80%)の賛成が必要
- 賛成が5分の4未満なら決議不成立
メリット:
- 決議が成立しなければ現状維持
デメリット:
- 決議が成立すれば強制売却
- 管理不全・スラム化のリスク
(4) 決議成立後の強制売却(売渡請求)
AlbaLinkによると、建て替え決議が成立した場合、反対派も売渡請求により強制的に売却を求められます。
売渡請求の内容:
- 市場価格で再開発組合へ売却
- 建て替えによる資産価値上昇分は受け取れない
4. 建て替え決議の法的要件と区分所有法改正
(1) 現行法の決議要件(5分の4の賛成)
国土交通省のマニュアルによると、現行法では建て替え決議に所有者・議決権の5分の4以上の賛成が必要です。
(2) 2026年4月施行予定の改正内容(4分の3に緩和)
東急リバブルのLnoteによると、区分所有法(マンション等の区分所有建物に関する法律)の改正が2024年中に予定されており、2026年4月施行見込みです。
改正内容:
- 決議要件:5分の4(80%)→ 4分の3(75%)に緩和
- 対象条件:耐震性、防火性、外壁、給排水設備、バリアフリーのいずれかに客観的な問題がある建物
(3) 所在不明者の除外ルール
改正後は、所在不明者(連絡が取れない所有者)を決議要件から除外できます。現行法では反対票扱いですが、改正後は除外されるため、決議が通りやすくなります。
5. 公的支援制度と補助金の活用
(1) 国の優良建築物等整備事業
東京都マンションポータルサイトによると、国の優良建築物等整備事業(市街地環境の整備改善に資する建て替えを支援する制度)では、一定要件を満たす建て替えに補助金を交付しています。
(2) 東京都・横浜市・大阪市の助成制度
自治体によっては、以下のような助成制度があります。
| 自治体 | 制度内容 |
|---|---|
| 東京都 | 都市居住再生促進事業で建築費の一部を補助 |
| 横浜市 | 検討費用補助(上限60万円、最大3回まで) |
| 大阪市 | 検討費用補助(上限60万円、最大3回まで) |
詳細は各自治体のホームページでご確認ください。
(3) 補助金の限界(住民負担ゼロにはできない)
東京都マンションポータルサイトによると、補助金は解体費・共用部分の一部のみで、住民負担をゼロにはできません。
容積率(敷地面積に対する建物の延床面積の割合)に余裕がある物件では、増床して新規住戸を売却することで住民負担を軽減できる場合があります。
6. まとめ:費用が払えない場合の対処法
老朽化マンションの建て替え費用は平均1,941万円/世帯で、修繕積立金は調査費用のみ使用可能です。本体工事費は別途用意が必要です。
費用が払えない場合、早期売却(費用負担回避)、高齢者向け融資(60歳以上)、反対継続(決議要件)、強制売却(決議成立後)の選択肢があります。
建て替え決議は現行5分の4の賛成が必要ですが、2026年4月以降は4分の3に緩和される予定です。補助金は解体費・共用部分の一部のみで、住民負担をゼロにはできません。
ゴールドオンラインによると、費用が払えず放置するとスラム化・管理不全・資産価値の急落のリスクがあります。早めに専門家(宅地建物取引士、税理士、マンション管理士)に相談しながら、最適な選択肢を検討しましょう。
