マンション管理士とは?資格の概要と役割
マンション管理士試験を受験しようと考えている方の中には、「難易度はどれくらいか」「合格率はどの程度か」「資格を取っても役に立たないのではないか」と不安を感じている方も多いでしょう。
この記事では、マンション管理士試験の概要、難易度、合格率、効果的な勉強方法、資格取得後のキャリアについて、公益財団法人マンション管理センターや国土交通省の公式情報を元に解説します。
「やめとけ」「役に立たない」と言われる理由も含め、公平に情報を提示します。
この記事のポイント
- マンション管理士は国家資格だが独占業務がなく、名称独占資格のみである
- 合格率は8-12%台で必要勉強時間は約500時間と難関資格
- 効果的な勉強法は過去問10年分の繰り返しと基本書の併用学習
- 平均年収は約450万円で、資格取得者の75.8%が「働いたことがない」と回答
- マンションの老朽化に伴い、将来的には需要増加の可能性がある
マンション管理士の定義と法的位置づけ
マンション管理士は、マンション管理適正化法に基づく国家資格です。管理組合や区分所有者(マンションの各住戸の所有者)へのコンサルティングを行う専門家として位置づけられています。
2022年末時点で日本の分譲マンションは約694.3万戸に達し、毎年約10万戸増加しています。マンションの維持管理や大規模修繕に関する専門知識の需要が高まっています。
名称独占資格であり独占業務がない
マンション管理士は「名称独占資格」であり、「独占業務」がありません。
- 名称独占資格: 資格を持たない者が「マンション管理士」の名称を使用できないが、業務自体は誰でも行える
- 独占業務: 資格を持つ者だけが行える業務(例:医師、弁護士等)
つまり、マンション管理士の資格がなくても、管理組合へのコンサルティング業務を行うことは可能です。このため、「役に立たない」と言われることがあります。
管理業務主任者との違い
マンション管理士と混同されやすい資格に「管理業務主任者」があります。両者の違いは以下の通りです。
| 項目 | マンション管理士 | 管理業務主任者 |
|---|---|---|
| 法的位置づけ | 名称独占資格 | 業務独占資格 |
| 独占業務 | なし | あり(管理受託契約の説明等) |
| 主な活動場所 | 管理組合側のコンサルタント | マンション管理会社 |
| 試験範囲 | 重複が多い | 重複が多い |
管理業務主任者はマンション管理会社で必須の資格で独占業務がありますが、マンション管理士は独占業務がありません。試験範囲が重複しているため、ダブル受験が効率的です。
マンション管理士の主な業務内容
マンション管理士の主な業務は以下の通りです。
- 管理規約の策定・改定: マンションの管理や使用に関するルールを定めた規約の作成・見直し
- 修繕計画の立案サポート: マンションの長期的な修繕・改修の計画策定
- 管理組合の運営サポート: 総会の運営、会計処理のアドバイス
- トラブル解決のコンサルティング: 住民間のトラブルや管理会社との紛争解決
ただし、実務経験がないと試験知識だけでコンサルティング業務を行うことは困難です。
マンション管理士試験の概要と難易度
2025年度の試験日程(11月30日)
国土交通省の発表によると、2025年度マンション管理士試験は以下の日程で実施されます。
- 試験日: 2025年11月30日(日)13:00-15:00
- 申込期間:
- 郵送: 2025年8月1日~8月29日
- インターネット: 2025年8月1日 10:00~9月30日 16:00
- 試験地: 札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡、那覇及びその周辺地域
申込期間と試験地
申込はインターネットと郵送の両方が可能です。インターネット申込の方が締切が遅く、9月30日まで受け付けています。
試験地は全国8都市とその周辺地域で実施されますが、受験者が多い場合は希望の試験地で受験できない可能性があるため、早めの申込が推奨されます。
出題範囲と問題数
試験は以下の範囲から50問(四肢択一)が出題されます。
- マンションの管理に関する法令及び実務: 区分所有法、標準管理規約、マンション管理適正化法等(約26問)
- 管理組合の運営の円滑化に関する事項: 管理組合の会計、税務等(約5問)
- マンションの建物及び附属施設の構造及び設備: 建築構造、設備、長期修繕計画等(約9問)
- マンションの管理の適正化の推進に関する法律: マンション管理適正化法(約10問)
試験時間は2時間で、集中力を維持することが重要です。
必要な勉強時間(約500時間)
一般的に、マンション管理士試験の合格に必要な勉強時間は約500時間とされています。
- 法律初学者: 600-800時間
- 宅建士や管理業務主任者の有資格者: 300-400時間
1日2-3時間勉強する場合、約6-8ヶ月の準備期間が必要です。
他資格との難易度比較
他の国家資格と比較すると、マンション管理士の難易度は以下の位置づけです。
| 資格 | 合格率 | 難易度 |
|---|---|---|
| 行政書士 | 10-15% | 同程度 |
| マンション管理士 | 8-12% | 高い |
| 管理業務主任者 | 20-25% | やや易しい |
| 宅地建物取引士 | 15-17% | やや易しい |
マンション管理士は合格率が低く、難関資格に分類されます。
マンション管理士試験の合格率と合格基準
過去10年の合格率推移(8-12.7%)
過去10年の合格率は以下の通りです。
| 年度 | 合格率 |
|---|---|
| 2015年度 | 8.2% |
| 2016年度 | 8.0% |
| 2017年度 | 9.0% |
| 2018年度 | 7.9% |
| 2019年度 | 8.2% |
| 2020年度 | 8.6% |
| 2021年度 | 9.9% |
| 2022年度 | 11.5% |
| 2023年度 | 10.1% |
| 2024年度 | 12.7% |
(出典: 公益財団法人マンション管理センター)
2024年度の合格率12.7%(過去10年で最高)
2024年度の合格率は12.7%と、過去10年で最高を記録しました。しかし、依然として10人に1人程度しか合格できない難関資格です。
合格ラインの決定方法
合格ラインは、試験問題の難易度により毎年変動します。一般的には、50問中35-38問(正答率70-76%)が合格ラインとされています。
絶対評価ではなく、受験者全体の成績分布により決定されるため、難易度が高い年は合格ラインが下がることがあります。
合格率が低い理由
合格率が低い理由は以下の通りです。
- 出題範囲が広い: 法令、実務、建築、設備、会計等、多岐にわたる知識が必要
- 法改正が頻繁: 毎年法改正があり、最新情報への対応が必須
- 記念受験者が多い: 合格率を下げる要因の一つ
- 独占業務がない: モチベーション維持が難しい
効果的な勉強方法と過去問活用のポイント
過去問10年分を繰り返し解く重要性
過去問は10年分を繰り返し解くのが効果的です。8-9年前の問題も本試験に出題されることがあるため、幅広く演習することが重要です。
過去問は公益財団法人マンション管理センターの公式サイトから無料でダウンロードできます。
春に最新の法改正対応テキストを購入
春(4-5月)に最新の法改正に対応した基本書と過去問集を購入し、その日から過去問演習を開始するのが理想的です。
法改正情報は毎年更新されるため、古いテキストは使わないようにしましょう。
基本書と過去問の併用学習
過去問だけでの合格は困難です。基本書で理解を深めながら、過去問で知識を定着させる「併用学習」が推奨されます。
- 基本書: 理論・背景の理解
- 過去問: 出題形式・頻出論点の把握
暗記ではなく理解を重視した学習が合格への近道です。
試験時間2時間を意識した集中力トレーニング
試験時間は2時間(120分)で、50問を解く必要があります。1問あたり約2.4分のペースです。
本番を想定した模擬試験を繰り返し、時間配分と集中力を鍛えましょう。テレビや音楽のない環境で勉強することも重要です。
独学vs通信講座の選択
独学での合格は可能ですが、以下の場合は通信講座の利用を検討しましょう。
- 法律初学者: 基礎知識がない場合、講義で体系的に学ぶ方が効率的
- 時間がない: 要点を絞った学習で効率化
- モチベーション維持が難しい: サポート体制がある通信講座が有利
費用は5-10万円程度が一般的です。
管理業務主任者とのダブル受験
管理業務主任者とマンション管理士は試験範囲が重複しているため、ダブル受験が効率的です。
- 管理業務主任者試験: 毎年12月(マンション管理士の約1ヶ月後)
- 試験範囲の重複率: 約60-70%
先にマンション管理士を受験し、その1ヶ月後に管理業務主任者を受験する流れが一般的です。
マンション管理士資格取得後のキャリアと求人状況
マンション管理士の仕事内容(コンサルティング、管理規約策定、修繕計画等)
マンション管理士の具体的な業務内容は以下の通りです。
- 管理組合へのコンサルティング: 運営方法のアドバイス、総会のサポート
- 管理規約の策定・改定: 規約の作成・見直し
- 修繕計画の立案: 長期修繕計画の策定、大規模修繕の実施サポート
- トラブル解決: 住民間のトラブルや管理会社との紛争解決
ただし、実務経験がないと試験知識だけでコンサルティング業務は困難です。
主な就職先(管理会社、建築会社、不動産会社)
マンション管理士の資格を活かせる主な就職先は以下の通りです。
- マンション管理会社: 管理組合のサポート業務
- 建築会社: 大規模修繕の企画・提案
- 不動産会社: マンション売買時のコンサルティング
- 独立開業: 管理組合向けのコンサルタント(少数)
独立開業よりも、企業に勤務しながら資格を活かすケースが一般的です。
平均年収(約450万円、330-550万円)
平均年収は約450万円(330-550万円)と、国家資格としては低めです。
- 企業勤務: 400-500万円
- 独立開業: 300-600万円(実績により大きく変動)
マンション管理士だけで高収入を得ることは難しく、他の資格(宅建士、建築士等)との組み合わせが推奨されます。
「やめとけ」「役に立たない」と言われる理由
マンション管理士が「やめとけ」「役に立たない」と言われる理由は以下の通りです。
- 独占業務がない: 資格がなくても同じ仕事ができる
- 年収が低い: 高難易度に対してコストパフォーマンスが悪い
- 需要が限定的: 多くの管理組合はマンション管理士の必要性を感じていない
- 実務経験が必要: 試験合格だけでは即戦力になれない
資格取得者の75.8%が「働いたことがない」現状
公益財団法人マンション管理センターの調査によると、資格取得者の75.8%が「マンション管理士として働いたことがない」と回答しています。
これは、独占業務がなく、資格を持っているだけでは仕事が得られないことを示しています。
将来の需要見通し(マンションの老朽化に伴う需要増加の可能性)
一方で、マンションの老朽化に伴い、将来的には需要増加の可能性があります。
- 築30年以上のマンションが急増(2022年末時点で約250万戸)
- 大規模修繕や建て替えの需要が増加
- 管理組合の高齢化により、専門家のサポートが必要
長期的な視点で資格を取得する価値はあると考えられます。
まとめ:マンション管理士資格が向いている人
マンション管理士試験は合格率8-12%台の難関資格で、約500時間の勉強が必要です。過去問10年分の繰り返しと基本書の併用学習が効果的な勉強法です。
資格取得後は管理会社、建築会社、不動産会社での勤務が一般的ですが、独占業務がないため「役に立たない」と言われることもあります。平均年収は約450万円と国家資格としては低めです。
マンション管理士資格が向いているのは、以下のような方です。
- マンション管理業界でキャリアアップを目指す方
- 管理業務主任者とのダブルライセンスを狙う方
- 長期的な視点でマンション管理の専門性を高めたい方
- 独立開業を視野に入れている方(実務経験必須)
一方で、すぐに収入を上げたい、独占業務のある資格が欲しいという方には、他の資格(宅建士、行政書士等)の方が適している可能性があります。
資格の有用性は個人のキャリアプランにより異なります。信頼できるキャリアカウンセラーに相談しながら、自分に合った選択をしましょう。
