マンションに地震保険は必要か
マンションを所有している方や購入を検討している方にとって、「地震保険に入るべきか」「保険料はいくらかかるのか」という疑問は切実です。
この記事では、マンションにおける地震保険の必要性、補償内容、保険料相場、加入判断のポイントを、財務省・金融庁・損害保険料率算出機構の公式情報を元に解説します。
マンション特有の専有部分・共用部分の違いや、住宅ローン残債との関係を理解し、適切な加入判断ができるようになります。
この記事のポイント
- 地震保険は火災保険とセットでのみ加入可能、地震による損害は火災保険では補償されない
- マンションの地震保険加入率は約7割(2024年度:70.4%)で22年連続上昇中
- 保険料は建物の構造(イ構造・ロ構造)と所在地で決まり、全保険会社で統一
- 保険金額は火災保険の30〜50%が上限で、建物5,000万円・家財1,000万円が限度
- 住宅ローン残債が多い場合や地震リスクが高い地域では加入の必要性が高い
マンションに地震保険が必要とされる背景
地震による被害実態(阪神・淡路大震災、東日本大震災)
ほけんの窓口によると、阪神・淡路大震災や東日本大震災では、多くのマンションが倒壊せずとも壁・天井・家財に大きな被害を受けました。
鉄筋コンクリート造のマンションでも、以下のような損害が発生しています。
- 壁・天井のひび割れ: 修繕費用が数十万円~数百万円
- 家財の破損: 家具・家電の転倒・破損による買い替え費用
- 給排水設備の損傷: 共用部分だけでなく専有部分の配管も被害
これらの修繕費用は個人負担となるため、地震保険による備えが重要視されています。
マンションの地震保険加入率の推移
損害保険料率算出機構によると、2024年度の地震保険付帯率は70.4%で初めて7割を超えました。
| 年度 | 付帯率 |
|---|---|
| 2022年度 | 69.4% |
| 2024年度 | 70.4% |
| 上昇年数 | 22年連続上昇 |
(出典: 損害保険料率算出機構)
特に宮城県は東日本大震災の影響で付帯率が89.4%と最も高く、被災経験が加入判断に影響していることがわかります。
地震保険の基礎知識
地震保険とは(火災保険との違い)
SUUMOジャーナルによると、地震保険は火災保険とセットでのみ加入できる保険です。
火災保険と地震保険の違い
| 項目 | 火災保険 | 地震保険 |
|---|---|---|
| 補償対象 | 火災・風災・水災等 | 地震・噴火・津波 |
| 加入方法 | 単独で加入可能 | 火災保険とセット |
| 補償額 | 建物の時価全額 | 火災保険の30〜50% |
(出典: SUUMOジャーナル)
重要: 地震による火災・倒壊・津波の損害は、火災保険では補償されません。地震保険に加入していない場合、これらの損害は全額自己負担となります。
補償の対象(地震・噴火・津波)
地震保険は以下の原因による損害を補償します。
- 地震: 建物の倒壊・傾斜、壁のひび割れ、家財の破損
- 噴火: 噴火による建物・家財の損害
- 津波: 津波による建物・家財の流失・損傷
これらの原因による火災も地震保険の補償対象です。
保険金額の上限(建物5,000万円・家財1,000万円)
SUUMOジャーナルによると、地震保険の保険金額は火災保険の30〜50%の範囲内で設定します。
上限は以下の通りです。
- 建物: 5,000万円
- 家財: 1,000万円
例えば、火災保険で建物を3,000万円に設定している場合、地震保険は900万円~1,500万円の範囲で設定できます。
損害区分(全損・大半損・小半損・一部損)
地震保険の支払額は、損害の程度により4段階に区分されます。
| 損害区分 | 損害の程度 | 支払額 |
|---|---|---|
| 全損 | 主要構造部の損害額が時価の50%以上 | 保険金額の100% |
| 大半損 | 主要構造部の損害額が時価の40〜50%未満 | 保険金額の60% |
| 小半損 | 主要構造部の損害額が時価の20〜40%未満 | 保険金額の30% |
| 一部損 | 主要構造部の損害額が時価の3〜20%未満 | 保険金額の5% |
(出典: SUUMOジャーナル)
損害認定は専門家(損害保険代理店の調査員)が行い、区分により支払額が大きく異なるため、被災時には速やかに保険会社に連絡することが重要です。
マンションにおける地震保険の補償内容
専有部分と共用部分の違い
ソニー損保によると、マンションには「専有部分」と「共用部分」があり、地震保険の加入主体が異なります。
| 区分 | 内容 | 保険加入主体 |
|---|---|---|
| 専有部分 | 各住戸の内部(壁・天井・床・設備) | 個人 |
| 共用部分 | エントランス・廊下・階段・外壁 | 管理組合 |
| 家財 | 家具・家電・衣類等 | 個人 |
(出典: ソニー損保)
専有部分の修繕費用や家財の補償は個人で備える必要があるため、区分所有者は個別に地震保険に加入すべきです。
管理組合の保険との関係
管理組合が加入する地震保険は、共用部分(エントランス・廊下・外壁等)のみを補償します。
専有部分の壁のひび割れや給排水設備の損傷、家財の破損は、個人で加入した地震保険でないと補償されません。
「マンション全体で地震保険に入っているから大丈夫」という誤解が多いため、管理組合の保険内容を確認し、個人での加入を検討することが重要です。
支払われる保険金の計算方法
支払われる保険金は、損害区分により以下のように計算されます。
例: 地震保険金額を1,000万円に設定している場合
- 全損: 1,000万円(100%)
- 大半損: 600万円(60%)
- 小半損: 300万円(30%)
- 一部損: 50万円(5%)
全損でも保険金額の100%が上限であり、火災保険の30〜50%の範囲で設定しているため、建て替え費用を全額カバーできない点に注意が必要です。
地震保険の保険料相場と決まり方
保険料の決定要素(所在地・構造)
ソニー損保によると、地震保険料は以下の2つの要素で決まります。
- 建物の所在地(都道府県): 地震リスクが高い地域ほど保険料が高い
- 建物の構造(イ構造・ロ構造): 耐火性能が高いほど保険料が安い
地震保険料は全保険会社で統一されており、どこで契約しても補償内容・保険料は同じです。
イ構造とロ構造の保険料差
ソニー損保によると、建物の構造により保険料が大きく異なります。
- イ構造: 鉄骨・コンクリート造等の耐火建築物(保険料が安い)
- ロ構造: 木造等の非耐火建築物(保険料が高い)
マンションは通常イ構造に該当し、保険料は年間7,300円~27,500円(保険金額1,000万円あたり、都道府県により差)です。
耐震等級による割引制度
ソニー損保によると、耐震基準を満たすと以下の割引が適用されます。
| 割引制度 | 割引率 | 適用条件 |
|---|---|---|
| 耐震等級3 | 50% | 耐震等級3の住宅性能評価を取得 |
| 耐震等級2 | 30% | 耐震等級2の住宅性能評価を取得 |
| 耐震等級1 | 10% | 耐震等級1の住宅性能評価を取得 |
| 免震建築物 | 50% | 免震建築物の認定を取得 |
(出典: ソニー損保)
割引適用には証明書の提出が必要です。
地震保険料控除(所得税・住民税)
地震保険料控除により、以下の税軽減が可能です。
- 所得税: 最高5万円
- 住民税: 最高2.5万円
年末調整または確定申告で申請することで、税負担を軽減できます。
2024年の保険改定内容
ソニー損保によると、2024年10月に火災保険が全国平均13%値上げされました。
主な改定内容は以下の通りです。
- 火災保険料: 全国平均13%値上げ
- 水災補償: 初めて地域別5段階のリスク区分導入(市区町村ごとに保険料差が発生)
- 地震保険付帯率: 70.4%で過去最高を更新
契約内容の見直しを検討することが推奨されます。
マンションで地震保険に加入する判断基準
住宅ローン残債がある場合
ほけんの窓口によると、住宅ローン残債が多い場合は地震保険の必要性が高いです。
理由:
- 地震で被災しても、住宅ローンの返済は継続する
- 修繕費用とローン返済の二重負担が発生する
- 地震保険があれば、保険金で修繕費用やローン返済を補える
特にローン残債が物件の時価を上回る「オーバーローン」状態の場合、地震保険の加入は強く推奨されます。
地域の地震リスクを考慮
地域の地震リスクは保険料にも反映されていますが、過去の被災状況や今後の地震発生確率も考慮すべきです。
地震リスクが高いとされる地域:
- 太平洋側(南海トラフ地震のリスク)
- 関東地方(首都直下地震のリスク)
- 東北地方(過去の被災経験)
地域の地震リスクについては、気象庁や地震調査研究推進本部の公式情報を参照することを推奨します。
資産状況・貯蓄額との比較
地震保険に加入するか否かは、資産状況・貯蓄額との比較で判断することも重要です。
加入を検討すべきケース:
- 貯蓄額が修繕費用(数百万円)を下回る
- 収入が不安定で、急な出費に対応できない
- 複数の不動産を所有しており、リスク分散したい
加入の優先度が低いケース:
- 貯蓄額が十分にあり、修繕費用を自己負担できる
- 住宅ローンを完済しており、負債がない
自身の資産状況を踏まえて、地震保険と自己負担のバランスを検討しましょう。
地震保険でカバーできない範囲の理解
地震保険には以下の限界があります。
- 補償額は火災保険の30〜50%が上限: 全損時でも建て替え費用を全額カバーできない
- 地震後の生活費は補償されない: 仮住まい費用等は別途備える必要
- 損害認定の区分により支払額が変動: 一部損の場合は保険金額の5%のみ
これらの限界を理解した上で、貯蓄や他の保険(生活再建費用保険等)との組み合わせを検討することが重要です。
まとめ:マンションの地震保険加入のポイント
マンションの地震保険は、地震・噴火・津波による損害を補償する保険で、火災保険とセットでのみ加入できます。2024年度の付帯率は70.4%で、22年連続上昇中です。
専有部分の修繕費用や家財の補償は個人で備える必要があり、管理組合の保険だけでは不十分です。保険料は建物の所在地と構造で決まり、全保険会社で統一されています。
住宅ローン残債が多い場合や地震リスクが高い地域では、地震保険の加入を強く推奨します。ただし、補償額は火災保険の30〜50%が上限であり、全損時でも建て替え費用を全額カバーできない点に注意が必要です。
信頼できる損害保険代理店やファイナンシャルプランナーに相談しながら、自身の資産状況・住宅ローン残債・地域のリスクを総合的に判断して加入を検討しましょう。
