外国資本による日本の土地取得が注目される背景
ニュースで「外国人が日本の土地を買っている」と報じられることがあります。特に北海道での土地取得が注目されていますが、実際の規模や影響はどの程度なのでしょうか。
この記事では、外国資本による日本の土地取得の実態を、林野庁や北海道庁などの公的データを基に解説します。また、2022年施行の重要土地等調査法や、2024年の規制強化の動きについても整理します。
客観的なデータと法律の仕組みを理解することで、この問題の全体像を把握できるようになります。
この記事のポイント
- 2006年から2022年までに約9,466ヘクタールの森林が外国人または外資系企業に購入された(林野庁データ)
- 2023-2024年の重要土地調査法指定区域で中国が203件(54.7%)と最多
- 北海道では2021年末時点で外資所有の森林面積が3,153ヘクタール、2012年から10年で約3倍に拡大
- 2022年9月に重要土地等調査法が施行され、重要施設周辺の土地売買に届出義務が導入
- 2024年12月に国民民主党が外国人土地取得規制法案を再提出、水源・農地・森林への管理強化を目指す
(1) 日本の外国人土地取得規制の現状
日本では、外国人による不動産購入に大きな制限や規制はありません。不動産投資TOKYOリスタイルによると、日本はGATS(サービスの貿易に関する一般協定)に署名し、外国人の土地取引を「無条件」で認めています。
外国人土地法の現状
1925年制定の外国人土地法は、外国人の土地取得に制限を設けることができる法律ですが、現在はほぼ機能していません。具体的な制限が政令で定められていないためです。
GATS署名の影響
日本はWTO(世界貿易機関)のGATSに署名しており、外国人が日本人と同様に土地を取引できる環境を保障しています。これは国際的な貿易自由化の一環ですが、安全保障や水源保護の観点から懸念が議論されています。
(2) 諸外国との比較(カナダ・シンガポール・中国等)
日本経済新聞によると、諸外国では規制強化が進んでいます。
| 国 | 規制内容 |
|---|---|
| シンガポール | 2023年に外国人購入者に対する印紙税を30%から60%に引き上げ |
| カナダ | 外国人による一部住宅の購入を2年にわたり全面禁止 |
| オーストラリア | 外国人による一部住宅の購入を2年にわたり全面禁止 |
| 中国 | 土地所有権はすべて国家と農民集団に属し、外国人は買えない |
| 日本 | 外国人の土地取得に大きな制限なし(重要土地調査法により一部届出義務) |
Bloombergによると、日本は世界的に見ても外国人の土地購入規制が緩いとされています。
外国人による日本の土地取得の実態と統計データ
外国人による日本の土地取得は、どの程度の規模なのでしょうか。公的データを基に実態を確認しましょう。
(1) 林野庁データ(2006年〜2022年)
現代ビジネスによると、林野庁のデータでは、2006年から2022年までに約9,466ヘクタールの森林が外国人または外資系企業に購入されています。
面積のイメージ
- 9,466ヘクタール = 東京ドーム約2,023個分
- 年平均で約558ヘクタール(東京ドーム約119個分)
(2) 重要土地調査法指定区域での購入実態(2023年〜2024年)
現代ビジネスによると、2023-2024年の重要土地調査法指定区域での外国人・外国法人の購入は371件でした。
国別の内訳
| 国 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 中国 | 203件 | 54.7% |
| その他 | 168件 | 45.3% |
| 合計 | 371件 | 100% |
中国が半数以上を占めています。
(3) 国別の購入件数と面積
林野庁のデータでは、国別の詳細な面積は公表されていませんが、北海道庁などの地方自治体が独自に調査を行っています。
北海道での外国資本による土地取得の具体例
北海道は、外国資本による土地取得が特に注目されている地域です。具体的なデータと事例を見ていきましょう。
(1) 北海道庁のデータ(2001年〜2021年)
The HEADLINEによると、2021年末時点で外資が所有する森林面積は合計3,153ヘクタールです。2012年から2021年の10年間で約3倍に拡大しました。
推移の詳細
- 2012年: 約1,000ヘクタール(推定)
- 2021年: 3,153ヘクタール
- 増加率: 約3倍
訪日ラボによると、北海道庁が統計を取り始めた2001年から2018年までに38市町村で累計2,725ヘクタールの土地が取得されています。2018年には中国(香港、マカオ含む)が13件、約91ヘクタール(東京ドーム約20個分)を取得しました。
(2) 星野リゾートトマム買収事例(2015年)
致知出版社によると、2015年に占冠村の星野リゾートトマム(1,000ヘクタール超、東京ドーム213個分)が中国資本に183億円で買収されました。
事例の概要
- 所在地: 北海道勇払郡占冠村
- 面積: 1,000ヘクタール超(東京ドーム213個分)
- 買収額: 183億円
- 買収年: 2015年
- 買収主: 中国資本
この事例は、外国資本による大規模なリゾート施設買収として注目されました。
(3) 航空自衛隊千歳基地周辺の事例
Wedge ONLINEによると、航空自衛隊千歳基地近くの土地が中国資本に取得され、安全保障上の懸念が議論されました。
安全保障上の懸念
重要施設(自衛隊基地、原発、空港等)周辺の土地が外国資本に取得されることで、以下のような懸念が指摘されています。
- 施設の監視・情報収集の可能性
- 施設機能を阻害する行為のリスク
- 有事の際の影響
これらの懸念に対応するため、2022年に重要土地等調査法が施行されました。
安全保障・水源・食料安全保障への影響と懸念
外国資本による土地取得は、安全保障、水源保護、食料安全保障の観点から懸念が議論されています。
(1) 重要施設周辺の土地取得による安全保障上の懸念
時事ドットコムによると、重要施設周辺の土地取得により、以下のような安全保障上の懸念があります。
具体的な懸念
- 施設の監視: 自衛隊基地や原発の活動を監視される可能性
- 機能阻害行為: 施設の機能を妨害する行為が行われる可能性
- 電波妨害: 通信施設や航空管制への妨害
- 有事の際の影響: 緊急時に施設へのアクセスが妨げられる可能性
(2) 水源地周辺の森林取得による影響
現代ビジネスによると、水源地周辺の森林取得への懸念が指摘されています。
水源地取得の影響
- 水質への影響: 森林の管理不足により水質が悪化する可能性
- 水量への影響: 大規模な開発により水源が枯渇する可能性
- 水資源の確保: 将来的に水資源が外国資本に管理される可能性
ただし、日本の水資源は法律により公的管理が原則であり、私有地であっても水資源を独占的に利用することは制限されています。
(3) 農地・森林取得と食料安全保障
外国資本による農地・森林の取得は、食料安全保障の観点からも議論されています。
食料安全保障への影響
- 農地の減少: 外資による農地買収が農業生産に影響を与える可能性
- 森林の管理: 森林が適切に管理されず、林業生産に影響を与える可能性
- 食料輸入への依存: 国内の農地・森林が減少し、食料輸入への依存が高まる可能性
ただし、農地については農地法により、農業従事者以外の取得が原則制限されています。
重要土地等調査法と規制強化の動き
2022年に重要土地等調査法が施行され、重要施設周辺の土地取得に一定の規制が導入されました。さらに、2024年には規制強化の動きが活発化しています。
(1) 重要土地等調査法の概要(2022年9月施行)
外国人が日本で不動産を購入する際の規制によると、2022年9月に重要土地等調査規制法が施行されました。
法律の目的
重要施設(自衛隊基地、原発、空港等)の機能を阻害する行為を防止し、安全保障を確保することが目的です。
法律の仕組み
楽待によると、重要土地調査法は日本人・外国人ともに土地取得を直接禁止するものではありません。機能阻害行為が確認された場合に勧告・命令を行う仕組みです。
(2) 注視区域・特別注視区域の指定
重要土地等調査法では、以下の区域が指定されます。
注視区域
- 定義: 重要施設の周囲1キロや国境離島のうち、機能を阻害する行為が行われる可能性がある区域
- 義務: 土地売買時に届出が義務付けられる
特別注視区域
- 定義: 注視区域の中でも特に機能阻害のおそれが高い区域
- 義務: 一定以上の面積の土地売買時に事前届出が必要
届出の内容
- 土地の所在地・面積
- 購入者の氏名・住所
- 利用目的
これらの情報を基に、政府が機能阻害行為の有無を調査します。
(3) 外国人土地取得規制法案の動き(2024年12月)
新・国民民主党によると、2024年12月に国民民主党が「外国人土地取得規制法案」を衆議院に再提出しました。
法案の内容
- 対象: 水源、農地、森林など幅広い土地への管理強化
- 目的: 重要土地調査法では対象外の土地(水源地、農地、森林)への規制強化
下村博文政策ブログによると、2024年3月に岸田首相が「外国人の土地取得規制の検討を進めたい」と発言しており、規制強化の議論が進んでいます。
法案の見通し
法案の成立時期や内容は未定です。水源、農地、森林への規制強化が実現するかは、今後の国会審議次第です。
まとめ:今後の規制の方向性と課題
外国資本による日本の土地取得は、林野庁データで2006年から2022年までに約9,466ヘクタールの森林が購入され、北海道では2012年から2021年の10年で外資所有森林面積が約3倍に拡大しました。2023-2024年の重要土地調査法指定区域では中国が203件(54.7%)と最多です。
2022年9月に重要土地等調査法が施行され、重要施設周辺の土地売買に届出義務が導入されましたが、水源、農地、森林などは対象外です。2024年12月に国民民主党が外国人土地取得規制法案を再提出し、水源・農地・森林への管理強化を目指していますが、法案成立の見通しは未定です。
今後の規制の方向性については、安全保障、水源保護、食料安全保障の観点から議論が続くと考えられます。不動産取引や土地取得を検討される方は、最新の法律や規制の動向を確認し、必要に応じて弁護士や宅地建物取引士などの専門家への相談をご検討ください。
注記: 本記事の情報は2025年1月時点のものです。法律や規制は改正される可能性があるため、最新情報は農林水産省、国土交通省などの公式サイトでご確認ください。
