動産と不動産の違い:民法の定義から理解する
契約書や法律用語で「動産」「不動産」という言葉を見かけたとき、「具体的に何が違うのか」と疑問を持つ方は少なくありません。
この記事では、2025年時点の民法の定義に基づいて動産と不動産の違いを明確に解説し、具体例を豊富に提示します。法務省の民法条文を根拠に、不動産と動産の区別、境界が曖昧なケース(立木・庭石・エアコン等)の判断基準も詳しく説明します。
法律・不動産の基礎知識を学びたい方、契約書で「動産」「不動産」という言葉の違いを正確に理解したい方に役立つ内容です。
この記事のポイント
- 民法86条により、不動産は土地及びその定着物、動産は不動産以外の物と定義される
- 不動産の具体例:土地・建物・マンション・駐車場等、動産の具体例:家具・家電・車・現金・株券等
- 立木は原則動産だが登記すれば不動産、庭石は土地に定着していれば不動産
- エアコンは取り外し可能なら動産、取り外し困難なら不動産(付合)
- 不動産は登記が対抗要件、動産は占有が対抗要件という違いがある
民法が定める不動産と動産の定義
民法第86条により、不動産と動産は以下のように定義されます。
不動産の定義:
- 土地及びその定着物
動産の定義:
- 不動産以外の物
「定着物」とは、土地に継続的に固着し、その状態で使用されることが取引上の性質とされる物です。建物・樹木・石垣・橋・移動困難な庭石等が該当します。
法務局の不動産登記制度によると、不動産は登記により権利関係を公示できますが、動産は登記制度がありません(一部例外を除く)。
不動産の具体例
不動産の具体例を以下に示します。
| 種類 | 具体例 | 説明 |
|---|---|---|
| 土地 | 宅地、農地、山林、原野 | 地表の一定範囲 |
| 建物 | 一戸建て、マンション、店舗、工場 | 土地に定着した構造物 |
| 定着物 | 庭石、立木(登記済み)、石垣 | 土地に継続的に固着した物 |
| インフラ | 橋、トンネル、鉄道線路 | 公共性の高い土地定着物 |
(出典: 民法第86条)
マンションの扱い: マンションは建物として不動産です。区分所有法により、専有部分(各住戸)と共用部分(エントランス・廊下等)に分かれますが、いずれも不動産として登記されます。
駐車場の扱い: 土地としての駐車場は不動産です。ただし、駐車場に設置された機械式駐車設備(パレット等)は取り外し可能な場合は動産となります。
動産の具体例
動産の具体例を以下に示します。
| 種類 | 具体例 | 説明 |
|---|---|---|
| 家財 | 家具、家電、衣類、食器 | 日常生活で使用する物 |
| 乗り物 | 自動車、バイク、自転車 | 移動手段 |
| 金銭・証券 | 現金、小切手、株券、債券 | 財産的価値を持つ物 |
| 設備 | 取り外し可能なエアコン、照明 | 建物に付属するが分離可能な物 |
(出典: 民法第86条)
自動車の扱い: 民法上は動産ですが、道路運送車両法により登録制度があります。自動車抵当法により抵当権設定も可能で、実務上は不動産に近い扱いを受けます。
預貯金の扱い: 通帳・キャッシュカードは動産ですが、預金債権そのものは債権であり動産ではありません。クレアールの解説によると、この区別を誤ると実務上の問題が生じます。
判断が難しいケース:定着物の境界線
動産と不動産の境界が曖昧なケースがあります。以下で代表的な事例を解説します。
立木:原則動産、登記すれば不動産
立木は原則として動産です。ただし、立木ニ関スル法律により立木登記をすれば不動産となります。
庭木・街路樹等の小規模な樹木は動産、森林・果樹園等の大規模な立木は登記により不動産とするのが一般的です。
庭石:土地に定着していれば不動産
庭石は土地に継続的に固着し、移動困難な場合は土地の定着物として不動産です。一方、移動可能な飾り石は動産となります。
LegalForceの解説によると、定着性の有無が判断基準です。
エアコン:取り外し可能なら動産、取り外し困難なら不動産
エアコンは取り外し可能な場合は動産です。ただし、民法第242条の付合により、建物に結合して分離困難になった場合は不動産の構成部分となります。
付合とは: 動産が不動産に付合(結合)して分離困難になった場合、不動産の構成部分となる民法上の概念です。エアコンの取り扱いで実務上問題になることがあります。
不動産売買契約時には、エアコン・照明等の付帯設備が売買対象に含まれるか明示することが重要です。
不動産と動産の法的な違い
不動産と動産には以下の法的な違いがあります。
登記制度の有無
不動産:
- 登記制度があり、権利関係を公示できる
- 登記が対抗要件(第三者に権利を主張するための要件)
動産:
- 原則として登記制度なし(自動車・船舶は例外)
- 占有が対抗要件
法務局の不動産登記制度により、不動産は所有者・抵当権等の権利関係を公示できます。
即時取得の有無
動産:
- 民法第192条の即時取得が適用される
- 善意無過失で平穏公然に動産を取引により取得した場合、即座に所有権を得る
不動産:
- 即時取得の制度なし
- 登記により権利関係を確認する必要がある
即時取得とは、動産を善意無過失で取引により取得した場合、たとえ前所有者が無権利者でも即座に所有権を得る制度です。動産取引の安全性を保護する目的があります。
時効取得の期間
不動産・動産とも時効取得が適用されますが、期間が異なります。
- 善意無過失かつ平穏公然に占有: 10年で時効取得
- それ以外: 20年で時効取得
LegalForceの解説によると、不動産・動産の区別により時効取得期間は変わりませんが、占有の継続性の立証方法が異なります。
税制の違い
不動産:
- 不動産取得税、固定資産税、都市計画税等の税金が課税される
- 相続税・贈与税の評価額は固定資産税評価額を基準
動産:
- 不動産取得税・固定資産税は課税されない
- 相続税・贈与税の評価額は時価が基準
不動産の税制は複雑であり、国税庁の公式サイトで最新情報を確認することが推奨されます。
まとめ:動産と不動産の区別を正確に理解する
動産と不動産は民法第86条により明確に区別されます。不動産は土地及びその定着物、動産は不動産以外の物です。
判断が難しいケース(立木・庭石・エアコン等)では、定着性の有無が判断基準となります。立木は登記すれば不動産、庭石は土地に定着していれば不動産、エアコンは取り外し可能なら動産です。
不動産と動産の違いは法的影響が大きく、登記制度の有無、即時取得の適用、時効取得の期間、税制等が異なります。契約書や法律文書で「動産」「不動産」という言葉を見たときは、この記事の内容を参考に正確に理解しましょう。
個別具体的な法律相談が必要な場合は、弁護士・司法書士等の専門家への相談を推奨します。
