他人の土地に20年住めば時効取得できる?法的根拠を確認
「他人の土地に20年住めば自分のものになる」という話を聞いたことがある方は少なくないでしょう。親族や他人の土地に長期間居住している場合、法的にどうなるのか気になる方もいるはずです。
この記事では、民法第162条(取得時効)の法的根拠を基に、取得時効の成立要件、実際に成立するケース・しないケース、時効取得の手続きと費用、正当な借地権設定の方法を、法務省の公式情報を元に解説します。
単に20年住むだけでは時効取得は成立せず、3つの要件を満たす必要がある点を理解できます。
この記事のポイント
- 取得時効が成立するには3要件(所有の意思・平穏公然の占有・10年または20年)を満たす必要がある
- 善意無過失なら10年、悪意または有過失なら20年で時効取得の可能性がある
- 借地契約がある場合や所有者の承諾がある場合は時効取得しない
- 時効が完成しても時効援用の意思表示と登記手続きが必要
- 正当な方法として借地権設定(借地借家法による保護)を推奨
取得時効とは何か
取得時効とは、民法第162条により、一定期間(10年または20年)、所有の意思を持って平穏公然に占有を継続した場合に、所有権を取得できる制度です。
「他人の土地に20年住めば自分のものになる」という俗説は、この取得時効の規定に基づくものですが、単に20年住むだけでは成立しません。3つの要件を満たす必要があります。
取得時効の成立要件|3つの条件を満たす必要がある
取得時効の成立要件に関する解説によると、以下の3つの要件を満たす必要があります。
①所有の意思:自分の土地として占有
所有の意思とは、自己の所有物として排他的に支配しようとする意思です。占有取得の原因となる事実によって外形的・客観的に判断されます。
例えば、他人の土地に家を建てて住んでいる場合、外形的には「自分の土地として占有している」と判断される可能性があります。ただし、借地契約がある場合や所有者の承諾を得ている場合は、所有の意思がないと判断されます。
②平穏・公然の占有:暴力・隠匿なし
平穏の占有とは、暴行・脅迫等の手段を用いずに占有することです。公然の占有とは、占有を隠匿せず、公に行うことです。民法186条1項により、平穏・公然の占有は推定されます。
他人の土地に家を建てて住んでいる場合、通常は平穏・公然の占有と判断されます。
③継続的占有:10年または20年
占有開始時の認識により、時効期間が異なります。善意無過失(自己の所有物であると信じ、かつそう信じることに過失がない)なら10年、悪意または有過失(他人の所有物であることを知っている、または知らないことに過失がある)なら20年です。
占有が中断された場合(請求・差押え・承認等)、時効期間がリセットされます(現行法では「時効の完成猶予・更新」)。
善意無過失なら10年、悪意なら20年で時効取得
取得時効の期間は占有開始時の認識により異なります。
| 占有開始時の認識 | 時効期間 | 判断基準 |
|---|---|---|
| 善意無過失 | 10年 | 自己の所有物であると信じ、かつそう信じることに過失がない |
| 悪意または有過失 | 20年 | 他人の所有物であることを知っている、または知らないことに過失がある |
(参考: 善意と悪意の判断基準)
善意無過失(10年):自分の土地と信じ、過失なし
善意無過失とは、占有開始時に自己の所有物であると信じ、かつそう信じることに過失がない状態です。例えば、隣地との境界を誤認し、自己の土地と信じて占有していた場合、善意無過失と判断される可能性があります。
善意・悪意の判断は外形的・客観的に行われます。「知らなかった」と主張するだけでは善意とは認められず、客観的に見て「知らないことに過失がなかった」と判断される必要があります。
悪意または有過失(20年):他人の土地と知っている、または過失あり
悪意または有過失とは、他人の所有物であることを知っている、または知らないことに過失がある状態です。他人の土地と知りつつ家を建てて住んでいる場合、悪意と判断されます。
「他人の土地に20年住めば自分のものになる」という俗説は、この悪意による20年の時効取得を指していますが、3つの要件を満たす必要がある点を理解しておくことが重要です。
時効取得が成立するケース|具体例で理解する
実際に時効取得が成立するケースを具体例で示します。
境界の誤認(善意無過失・10年)
隣地との境界を誤認し、自己の土地と信じて占有していた場合、善意無過失による10年の時効取得が成立する可能性があります。
例えば、相続した土地の境界が曖昧で、隣地の一部を自分の土地と誤認して使用していた場合などです。ただし、登記簿や測量図を確認すれば境界が分かる状況であれば、過失ありと判断される可能性があります。
相続後の長期放置(悪意・20年)
他人の土地と知りつつ、相続後に長期間占有していた場合、悪意による20年の時効取得が成立する可能性があります。
例えば、親族が他人の土地に家を建てて住んでいたことを知っていながら、相続後もそのまま20年以上住み続けた場合などです。
時効完成後も登記が必要
時効取得後の登記手続きに関する解説によると、時効が完成しても自動的に所有権が移転するわけではありません。時効援用の意思表示と登記手続きが必要です。
最高裁判例(昭和33年8月28日等)により、時効完成後に第三者が現れた場合、登記なくして対抗できない点が確立されています。
時効取得が成立しないケース|よくある誤解
以下のケースでは時効取得が成立しません。
借地契約がある場合(所有の意思なし)
借地契約を結んでいる場合、占有者は所有の意思がないため時効取得は成立しません。時効取得が成立しないケースによると、借地契約は借地借家法により保護される正当な権利であり、時効取得を主張する必要はありません。
借地契約がある場合、契約に基づいて土地を使用する権利が認められており、所有権を取得する必要はないということです。
所有者の承諾がある場合(所有の意思なし)
所有者の承諾を得て占有している場合、所有の意思がないため時効取得は成立しません。親族間で「住んでいいよ」と言われて住んでいる場合、所有者の黙認が「承諾」と判断され、所有の意思が否定される可能性があります。
占有が中断された場合(時効の完成猶予・更新)
請求・差押え・承認等により、時効期間がリセットされます(現行法では「時効の完成猶予・更新」)。所有者から「土地を返してください」という請求があった場合、時効期間がリセットされる可能性があります。
時効取得の手続きと費用|時効援用から登記まで
時効取得の手続きと費用によると、以下の手順で進めます。
時効援用の意思表示
時効の利益を受ける意思表示を行います。内容証明郵便等で所有者に対して「時効取得を主張します」という意思表示を送ります。
時効が完成しても、援用しなければ効果は発生しません。
所有者と協力して登記
所有者の協力が得られれば、共同で所有権移転登記を行います。登記費用(登録免許税・司法書士報酬等)は数十万円程度です。
所有者が協力しない場合は訴訟
所有者が協力しない場合、時効取得を主張する訴訟を提起し、判決を基に単独で登記します。訴訟費用(弁護士費用・裁判費用等)は数十万円~数百万円程度かかる可能性があります。
正当な借地権設定が推奨|時効取得のリスクと対策
時効取得を前提とした土地利用は、所有者とのトラブルを助長するため推奨されません。正当な方法として、借地権設定(借地借家法による保護)を推奨します。
所有者の承諾を得て借地契約を結び、対価(地代)を支払うことで、長期的な土地利用が可能になります。借地借家法により借地人の権利が保護されるため、所有者が一方的に契約を解除することは困難です。
個別具体的な法律相談は弁護士に依頼すべき点を明記します。時効取得を主張する場合は、弁護士に相談し、訴訟リスクや費用を確認することをおすすめします。
まとめ:他人の土地に20年住んでも自動的には取得できない
「他人の土地に20年住めば自分のものになる」という俗説は誤解であり、3つの要件(所有の意思・平穏公然の占有・10年または20年)を満たす必要があります。善意無過失なら10年、悪意または有過失なら20年で時効取得の可能性がありますが、借地契約がある場合や所有者の承諾がある場合は時効取得しません。
時効が成立しても時効援用の意思表示と登記手続きが必要で、所有者が協力しない場合は訴訟を提起する必要があります。正当な方法として借地権設定を推奨し、所有者の承諾を得て契約を結ぶことで長期的な土地利用が可能になります。
個別具体的な法律相談は弁護士に依頼し、訴訟リスクや費用を確認しましょう。
