土地・建物の相続税を理解するために
親の土地・建物を相続する際、「相続税はいくらかかるのか」という不安を抱える方は少なくありません。相続税は評価額の計算方法が複雑で、特に土地と建物では評価の仕組みが異なるため、正確な知識が必要です。
この記事では、国税庁の公式情報を元に、土地・建物の相続税評価方法、基礎控除、小規模宅地等の特例、計算手順を具体的に解説します。2025年時点の最新制度に基づき、読者の皆様がおおよその税額を試算できるよう支援します。
この記事のポイント
- 土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価する
- 基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら相続税は課税されない
- 小規模宅地等の特例を使えば、居住用宅地330㎡まで80%減額可能
- 相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月以内、相続登記は3年以内(義務化)
- 複雑なケースや高額な遺産がある場合は税理士に相談することが重要
土地の評価方法:路線価方式と倍率方式
土地の相続税評価額は、原則として「路線価方式」または「倍率方式」で計算します。国税庁が毎年7月に公表する路線価・倍率表を使用します。
路線価方式(都市部の土地)
路線価方式は、路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額(路線価)を基に評価する方法です。主に都市部の土地に適用されます。
計算式:
土地の評価額 = 路線価 × 地積(㎡)× 各種補正率
具体例:
路線価30万円/㎡、地積100㎡の土地の場合:
30万円 × 100㎡ = 3,000万円(補正なしの場合)
各種補正率(奥行価格補正、形状補正等)により、実際の評価額は調整されます。路線価は国税庁の路線価図で確認できます。
倍率方式(地方・郊外の土地)
倍率方式は、固定資産税評価額に国税局長が定める倍率を乗じて評価する方法です。路線価が設定されていない地域(地方・郊外)に適用されます。
計算式:
土地の評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
具体例:
固定資産税評価額1,000万円、倍率1.1の土地の場合:
1,000万円 × 1.1 = 1,100万円
倍率は国税庁の倍率表で確認できます。固定資産税評価額は、毎年送付される固定資産税納税通知書に記載されています。
建物の評価方法:固定資産税評価額
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額をそのまま使用します。土地のような路線価方式はありません。
計算式:
建物の評価額 = 固定資産税評価額
具体例:
固定資産税評価額1,500万円の建物の場合:
評価額 = 1,500万円
固定資産税評価額は、市区町村が3年ごとに見直しを行います。一般的に、建物の時価(実勢価格)の60-70%程度とされています。
相続税の基礎控除と税率
相続税は、遺産総額が基礎控除を超える場合に課税されます。国税庁が定める基礎控除額と税率を確認しましょう。
基礎控除の計算
基礎控除額:
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
具体例:
- 法定相続人が2人(配偶者+子1人)の場合: 3,000万円 + 600万円 × 2 = 4,200万円
- 法定相続人が3人(配偶者+子2人)の場合: 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
遺産総額が基礎控除以下なら、相続税は課税されません。ただし、小規模宅地等の特例を適用する場合は、基礎控除以下でも申告が必要です。
相続税の税率
相続税は累進課税で、取得金額が大きいほど税率が上がります。
| 法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
(出典: 国税庁)
小規模宅地等の特例で大幅減額
小規模宅地等の特例は、相続税の負担を大幅に軽減できる重要な制度です。国税庁が定める要件を満たせば、居住用宅地で最大80%の減額が可能です。
特例の概要
居住用宅地(特定居住用宅地等):
- 減額割合: 80%
- 適用面積: 330㎡まで
事業用宅地(特定事業用宅地等):
- 減額割合: 80%
- 適用面積: 400㎡まで
貸付事業用宅地:
- 減額割合: 50%
- 適用面積: 200㎡まで
適用要件(居住用宅地の場合)
居住用宅地で特例を適用するには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 配偶者が取得する場合: 要件なし(無条件で適用)
- 同居親族が取得する場合: 相続開始前から同居し、相続税申告期限まで居住・所有を継続
- 別居親族が取得する場合: 相続開始前3年以内に持ち家に居住していない等の要件を満たす(家なき子特例)
具体的な節税効果
例: 路線価30万円/㎡、地積200㎡の居住用土地の場合
- 特例なし: 30万円 × 200㎡ = 6,000万円
- 特例あり: 6,000万円 × 20%(80%減額)= 1,200万円
評価額が4,800万円も減額され、相続税の負担が大幅に軽減されます。
相続税の計算手順(ステップバイステップ)
相続税の計算は以下の手順で行います。
ステップ1: 遺産総額を算出
土地・建物・預貯金・有価証券等のすべての財産を評価し、合計します。
例:
- 土地: 3,000万円(路線価方式)
- 建物: 1,500万円(固定資産税評価額)
- 預貯金: 1,000万円
- 合計: 5,500万円
ステップ2: 基礎控除を差し引く
例: 法定相続人3人(配偶者+子2人)の場合
基礎控除: 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
課税遺産総額: 5,500万円 - 4,800万円 = 700万円
ステップ3: 法定相続分で按分
課税遺産総額を法定相続分で按分します。
例: 配偶者1/2、子それぞれ1/4
- 配偶者: 700万円 × 1/2 = 350万円
- 子1: 700万円 × 1/4 = 175万円
- 子2: 700万円 × 1/4 = 175万円
ステップ4: 税額を計算
各相続人の取得金額に税率を適用します。
- 配偶者: 350万円 × 10% = 35万円
- 子1: 175万円 × 10% = 17.5万円
- 子2: 175万円 × 10% = 17.5万円
- 合計税額: 70万円
ステップ5: 各人の税額を按分
実際の相続割合に応じて税額を按分します(省略可能な場合あり)。
配偶者の税額軽減: 配偶者は1.6億円または法定相続分相当額まで相続税が軽減されるため、この例では配偶者の税額はゼロになります。
相続税以外の手続き:相続登記の義務化
相続税の申告とは別に、不動産を相続した場合は相続登記が必要です。法務省により、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
相続登記の期限と罰則
期限: 不動産を相続したことを知った日から3年以内
罰則: 正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料
相続登記の手続き
相続登記は、法務局に以下の書類を提出します。
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書(遺産分割した場合)
- 固定資産税評価証明書
手続きは司法書士に依頼するのが一般的で、費用は数万円~十数万円程度です。
相続税の申告期限と納付方法
相続税の申告期限は、相続開始(被相続人の死亡)を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
申告が必要なケース
- 遺産総額が基礎控除を超える場合
- 小規模宅地等の特例を適用する場合(基礎控除以下でも申告必要)
納付方法
相続税は原則として現金一括納付です。納付が困難な場合、延納(分割払い)や物納(相続財産による納付)も認められていますが、要件が厳しいです。
延滞税: 申告期限を過ぎると延滞税・無申告加算税が課されるため、早めに手続きを進めることが重要です。
まとめ:専門家への相談が成功の鍵
土地・建物の相続税は、評価方法(路線価方式・倍率方式・固定資産税評価額)、基礎控除、小規模宅地等の特例を理解すれば、おおよその税額を試算できます。
ただし、実際の計算は複雑で、個別の事情により異なるため、高額な遺産がある場合や複雑なケースでは、税理士に相談することを強くおすすめします。
相続税の申告期限は10ヶ月、相続登記は3年以内です。早めに専門家(税理士、司法書士)に相談し、計画的に手続きを進めましょう。小規模宅地等の特例を活用することで、相続税の負担を大幅に軽減できます。
