住宅ローンを繰り上げ返済してはいけない理由とは

公開日: 2025/10/27

住宅ローンの繰り上げ返済は本当に得策なのか

住宅ローンの返済中、手元に余剰資金があると「繰り上げ返済すべきか」と悩む方は少なくありません。「借金は早く返すほど得」という考えは一般的ですが、住宅ローンに関しては必ずしも正しいとは限りません。

この記事では、住宅ローンを繰り上げ返済してはいけない大きな理由と、状況別の判断基準を、国税庁の住宅ローン控除情報を元に解説します。

この記事のポイント

  • 住宅ローン控除(年末残高の0.7%)を満額受けられなくなる可能性がある
  • 手元資金の流動性が低下し、急な出費(教育費・医療費等)に対応できなくなる
  • 超低金利下では、繰り上げ返済よりも投資で資産を増やせる可能性がある
  • 高金利ローンや精神的負担が大きい場合は繰り上げ返済が有効
  • 総合的に判断し、必要に応じてファイナンシャルプランナーに相談することが重要

繰り上げ返済してはいけない大きな理由3つ

住宅ローンの繰り上げ返済には、意外なデメリットやリスクが潜んでいます。

住宅ローン控除の減少

国税庁によると、住宅ローン控除は**年末時点のローン残高の0.7%**を所得税・住民税から最大13年間控除できる制度です。

繰り上げ返済を行うと、年末残高が減少するため、控除額も減少します

シミュレーション例

  • 年末残高3,000万円の場合、控除額は21万円(3,000万円 × 0.7%)
  • 500万円を繰り上げ返済すると、年末残高2,500万円、控除額は17.5万円(2,500万円 × 0.7%)
  • 3.5万円の控除額減少

住宅ローン控除期間中(最大13年間)は、繰り上げ返済による利息軽減効果と控除額減少を比較する必要があります。

手元資金の流動性低下

繰り上げ返済に手元資金を充てると、急な出費に対応できなくなるリスクがあります。

  • 教育費: 子どもの進学で数百万円が必要になる
  • 医療費: 突然の病気や怪我で高額医療費が発生
  • 失業・収入減: 収入が途絶えた場合の生活費
  • 住宅修繕: 設備故障や災害による修繕費

住宅金融支援機構によると、繰り上げ返済後に再度借り入れることは困難です。手元に最低でも生活費の6ヶ月分を残しておくことが推奨されます。

超低金利下での機会コスト

現在の住宅ローン金利は変動金利で0.3-0.5%台と超低金利です。この金利水準では、繰り上げ返済よりも投資で資産を増やせる可能性があります。

比較例

  • 住宅ローン金利:0.5%
  • NISA等の投資で期待リターン:3-5%(長期平均)
  • 差額:2.5-4.5%

ただし、投資にはリスクがあり、元本割れの可能性もあります。金融商品取引法により、「絶対儲かる」等の断定表現は禁止されています。リスクとリターンを理解した上で、分散投資を検討することが重要です。

繰り上げ返済すべきケース・すべきでないケース

繰り上げ返済は、個人の状況により適否が異なります。以下の判断基準を参考にしてください。

繰り上げ返済すべきケース

以下のような状況では、繰り上げ返済が有効です。

  • 高金利ローン: 固定金利1.5%以上等、金利が高い場合は利息軽減効果が大きい
  • 精神的負担が大きい: 借金があることで不安を感じ、生活の質が低下している
  • 住宅ローン控除期間終了後: 控除期間が終了した場合は、繰り上げ返済のデメリットが少ない
  • 退職金を受け取った: 退職金で一括返済し、老後の負担を軽減したい

繰り上げ返済すべきでないケース

以下のような状況では、繰り上げ返済を避けるべきです。

  • 住宅ローン控除期間中: 控除額減少と利息軽減効果を比較し、控除額減少が大きい場合は避ける
  • 手元資金が少ない: 生活費の6ヶ月分未満しか残らない場合は避ける
  • 超低金利ローン: 変動金利0.5%台等、金利が非常に低い場合は投資を検討
  • 教育費等の大きな出費が控えている: 近い将来に大きな出費が見込まれる場合は避ける

繰り上げ返済の種類と効果

住宅金融支援機構によると、繰り上げ返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。

種類 内容 利息軽減効果 メリット
期間短縮型 毎月の返済額を変えずに返済期間を短縮 大きい 総利息を大幅に軽減
返済額軽減型 返済期間を変えずに毎月の返済額を減らす 小さい 家計の負担を即座に軽減

(出典: 住宅金融支援機構

期間短縮型は利息軽減効果が大きく、返済額軽減型は家計の負担を即座に軽減できます。ただし、どちらも手元資金が減少するリスクは同じです。

団体信用生命保険(団信)の保障額減少

住宅ローン契約者が死亡・高度障害時にローン残債が保険で完済される「団体信用生命保険(団信)」に加入している場合、繰り上げ返済でローン残債が減ると、保障額も減少します

  • ローン残債3,000万円、団信保障額3,000万円
  • 500万円を繰り上げ返済すると、ローン残債2,500万円、団信保障額2,500万円
  • 500万円の保障額減少

若い世帯や家族が多い世帯では、団信の保障額減少が家族の生活に影響を与える可能性があります。

まとめ:繰り上げ返済は総合的に判断する

住宅ローンの繰り上げ返済は、住宅ローン控除の減少、手元資金の流動性低下、超低金利下での機会コストという3つの大きなデメリットがあります。

一方で、高金利ローンや精神的負担が大きい場合は、繰り上げ返済が有効です。繰り上げ返済すべきかどうかは、ローン金利、住宅ローン控除期間、手元資金、将来の出費予定等を総合的に判断する必要があります。

最終的には「ケースバイケース」であり、個別の状況により適否が異なります。判断に迷う場合は、ファイナンシャルプランナー等の専門家に相談することをおすすめします。

よくある質問

Q1住宅ローン控除期間中は繰り上げ返済すべきではないですか?

A1必ずしもそうとは限りません。住宅ローン控除は年末残高の0.7%が控除されますが、繰り上げ返済で残高が減ると控除額も減少します。ただし、高金利ローン(1.5%以上等)の場合は、利息軽減効果が控除額減少を上回る可能性があります。個別にシミュレーションして判断することが重要です。

Q2手元資金はいくら残しておくべきですか?

A2最低でも生活費の6ヶ月分を手元に残しておくことが推奨されます。急な出費(教育費、医療費、失業等)に対応できるよう、流動性の高い資金を確保しておくことが重要です。繰り上げ返済後に再度借り入れることは困難なため、慎重に判断してください。

Q3変動金利の場合は繰り上げ返済すべきですか?

A3変動金利が0.5%台等の超低金利の場合、繰り上げ返済よりも投資で資産を増やせる可能性があります。ただし、投資にはリスクがあり、元本割れの可能性もあります。また、将来的に金利が上昇するリスクもあるため、金利動向を注視しながら判断することが重要です。

Q4期間短縮型と返済額軽減型、どちらが良いですか?

A4期間短縮型は利息軽減効果が大きく、返済額軽減型は家計の負担を即座に軽減できます。総利息を抑えたい場合は期間短縮型、毎月の返済負担を減らしたい場合は返済額軽減型が適しています。ただし、どちらも手元資金が減少するリスクは同じです。