住宅ローンの抵当権とは
住宅ローンを利用してマイホームを購入する際、「抵当権」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。しかし、抵当権の正確な意味や、設定・抹消の手続きについて詳しく知っている方は少ないかもしれません。
この記事では、住宅ローンの抵当権の基本的な仕組み、設定時と抹消時の手続き、かかる費用について、法務局・財務省の公式情報を元に解説します。
住宅購入を検討している方や、住宅ローン完済が近い方が、抵当権について正しく理解できるようになります。
この記事のポイント
- 抵当権は金融機関が融資の担保として不動産に設定する権利で、返済不能時に競売で債権回収が可能
- 設定登記は融資実行時に必須で、登録免許税と司法書士報酬を合わせて数万~十数万円の費用が発生
- 完済後も抵当権は自動抹消されず、抹消登記は任意だが売却・借り換え時には必須
- 抹消登記の費用は1-2万円程度で、司法書士に依頼するのが一般的
抵当権の基本的な仕組み
抵当権とは、金融機関が融資の担保として不動産(土地・建物)に設定する権利のことです。借入者が返済できなくなった場合、金融機関はその不動産を競売にかけて、売却代金から債権を回収できます。
民法第369条~第398条では、抵当権の定義・効力・順位が規定されています。住宅ローンを借りる際、金融機関は必ず購入する不動産に抵当権を設定します。これは融資実行の必須条件であり、設定しないで融資を受けることはほぼ不可能です。
抵当権と根抵当権の違い
住宅ローンで設定されるのは通常「抵当権」ですが、事業融資では「根抵当権」が使われることがあります。両者の違いは以下の通りです。
| 項目 | 抵当権 | 根抵当権 |
|---|---|---|
| 担保する債権 | 特定の債権(住宅ローン) | 極度額までの反復融資 |
| 主な用途 | 住宅ローン | 事業融資 |
| 完済時の扱い | 抹消登記が必要 | 極度額の範囲で再融資可能 |
住宅購入の場面では、基本的に「抵当権」が設定されると理解しておけば問題ありません。
抵当権の効力と順位
抵当権には「順位」があり、第1順位の抵当権者(通常は住宅ローンを貸した金融機関)が、競売時に優先して弁済を受けられます。
例えば、3000万円の住宅ローンを借りて購入した不動産が2000万円で競売にかけられた場合、第1順位の抵当権者(金融機関)が2000万円を優先的に受け取り、残りの1000万円は回収できません。このように、抵当権は金融機関にとって重要な担保手段となっています。
抵当権設定の手続きと費用
住宅ローンを利用する場合、融資実行時に抵当権設定登記を行う必要があります。この手続きには、登録免許税と司法書士報酬がかかります。
設定のタイミング(融資実行時)
抵当権設定登記は、融資が実行される日(通常は不動産の引き渡し日)に行われます。金融機関は融資金を振り込むと同時に、司法書士が法務局で登記申請を行います。この登記が完了するまで、融資は実行されません。
登録免許税の計算例(0.4%または0.1%軽減)
抵当権設定登記には、登録免許税(国税)がかかります。税率は原則として債権額(借入額)の0.4%ですが、住宅ローンの場合は0.1%に軽減されます(令和9年3月31日まで)。
計算例:
- 借入額3000万円の場合
- 本則税率0.4%: 12万円
- 軽減税率0.1%: 3万円
この軽減措置は期限付きのため、住宅購入を検討している方は期限を確認しておくことをおすすめします。
司法書士報酬の相場(5-10万円)
抵当権設定登記は専門的な手続きのため、通常は司法書士に依頼します。報酬相場は5-10万円程度です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 登録免許税(借入額3000万円の場合) | 3万円 |
| 司法書士報酬 | 5-10万円 |
| 合計 | 8-13万円 |
金融機関が指定する司法書士に依頼するのが一般的で、費用は融資諸費用に含まれることが多いです。
抵当権抹消の手続きと費用
住宅ローンを完済しても、抵当権は自動的には抹消されません。抹消登記は債務者が任意で行う手続きですが、放置すると売却や借り換えの際に支障が出るため、完済後は速やかに手続きすることをおすすめします。
必要書類(金融機関から受領)
完済後、金融機関から以下の書類を受け取ります。
- 抵当権解除証書(弁済証書)
- 登記済証または登記識別情報通知
- 委任状
- 金融機関の資格証明書(登記事項証明書)
これらの書類は抹消登記に必須のため、大切に保管してください。
法務局での申請手続き
抹消登記は、不動産の所在地を管轄する法務局で申請します。申請書に必要事項を記入し、上記の書類と一緒に提出します。
申請後、1-2週間程度で登記が完了します。完了後は登記事項証明書を取得し、抵当権が抹消されていることを確認しましょう。
司法書士に依頼する場合の費用(0.5-1.5万円)
抹消登記も司法書士に依頼するのが一般的です。費用の内訳は以下の通りです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 登録免許税(1000円/不動産1個) | 2000円(土地・建物) |
| 司法書士報酬 | 0.5-1.5万円 |
| 合計 | 0.7-1.7万円 |
登録免許税は不動産1個につき1000円のため、土地と建物で合計2000円です。
自分で手続きする方法(4ステップ)
抹消登記は自分で行うことも可能です。手順は以下の通りです。
- 金融機関から書類を受領: 完済後、抹消書類一式を受け取る
- 申請書を作成: 法務局のひな形を参考に記入
- 法務局に提出: 窓口または郵送で申請
- 登記完了を確認: 1-2週間後に登記事項証明書を取得
ただし、書類に不備があると受理されないため、専門知識がない場合は司法書士に依頼することをおすすめします。法務局には無料相談窓口(予約制)もあるため、不安な方は事前に相談するとよいでしょう。
抵当権に関する注意点
抵当権の設定・抹消について、知っておくべき注意点をまとめます。
完済後も自動抹消されない(放置しても罰則なし)
住宅ローンを完済しても、抵当権は自動的に消えません。登記簿には「抵当権」の記載が残ったままとなります。
放置しても法的な罰則はありませんが、次のような場面で抹消が必須となります。
- 不動産を売却する場合: 買主が抵当権付きの物件を購入することはまずないため、売却前に抹消が必要
- 住宅ローンを借り換える場合: 新しい金融機関が第1順位の抵当権を設定するため、旧抵当権の抹消が必要
- 相続が発生した場合: 抵当権が残っていると相続登記が煩雑になる
このため、完済後は速やかに抹消登記を行うことをおすすめします。
売却・借り換え・相続時は抹消必須
前述の通り、抵当権が残ったままでは売却・借り換え・相続時に支障が出ます。特に売却を検討している場合、抹消登記には1-2週間かかるため、早めに手続きを始めることが重要です。
抹消手続きを過度に簡単に説明しない
「抹消登記は簡単」と説明するサイトもありますが、実際には専門知識が必要です。申請書の記入ミスや書類不備があると、法務局で受理されません。
自分で手続きする場合は、法務局の無料相談窓口を活用するか、司法書士に依頼することを検討してください。費用は1-2万円程度ですが、確実に手続きを完了できるメリットがあります。
まとめ
住宅ローンの抵当権は、金融機関が融資の担保として不動産に設定する権利です。設定登記は融資実行時に必須で、登録免許税と司法書士報酬を合わせて数万~十数万円の費用がかかります。
完済後も抵当権は自動抹消されず、抹消登記は任意の手続きです。ただし、売却・借り換え・相続時には抹消が必須となるため、完済後は速やかに手続きすることをおすすめします。抹消登記の費用は1-2万円程度で、司法書士に依頼するのが一般的です。
抵当権の設定・抹消について不明な点がある場合は、法務局の無料相談窓口や司法書士に相談しましょう。
