住宅ローン返済中に障害者になったら?団信保障と対処法

公開日: 2025/11/11

住宅ローン返済中に障害者になったらどうなるのか

住宅ローン返済中に病気や事故で障害を負ってしまった場合、「ローン返済はどうなるのか」「団信で免除されるのか」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、住宅ローン返済中に障害者となった場合の団体信用生命保険(団信)の保障内容、公的支援制度、返済困難時の対処法を、住宅金融支援機構厚生労働省の公式情報を元に解説します。

団信の保障は限定的ですが、障害年金や金融機関への相談など、実践的な対処法を把握することで、不安を軽減できます。

この記事のポイント

  • 団信の基本保障は「死亡」または「高度障害状態」のみで、一般的な障害では保障されない
  • 高度障害状態の定義は極めて厳格(両眼失明、両手足喪失等)で、身体障害者手帳1-3級でも該当しない場合が多い
  • うつ病等の精神障害は団信の通常保障の対象外
  • 障害年金・傷病手当金等の公的支援制度を活用できる
  • 返済困難時は金融機関へのリスケジュール相談が有効

団体信用生命保険(団信)の保障内容

死亡・高度障害状態の定義

団体信用生命保険(団信)は、住宅ローン契約者が死亡または高度障害状態になった場合、保険金でローン残債を完済する保険です。多くの金融機関で加入が融資条件となっています。

ただし、団信の基本保障は「死亡」または「高度障害状態」のみです。ここでいう「高度障害状態」の定義は極めて厳格で、住宅金融支援機構によると以下のような状態を指します。

高度障害状態に該当する具体例

住宅金融支援機構によると、団信で債務弁済される「高度障害状態」は以下の7つに限定されています。

  • 両眼の視力を全く永久に失ったもの
  • 言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
  • 中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
  • 両上肢とも手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
  • 両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
  • 1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
  • 1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの

一般的な障害では保障されない理由

団信の高度障害状態の定義は非常に厳しく、身体障害者手帳1-3級を取得しても、団信の高度障害状態に該当しない場合が多いのが実態です。

障害者手帳と団信の高度障害状態は別の基準であり、障害者手帳を持っているだけでは住宅ローンが免除されるわけではない点に注意が必要です。

3大疾病・8大疾病特約で保障される条件

3大疾病特約の内容と保障条件

団信の基本保障では保障されない疾病に備えるため、3大疾病特約を付加できる場合があります。

3大疾病特約は、がん・急性心筋梗塞・脳卒中の診断または一定状態になった場合にローン残債が免除される特約です。金利上乗せは0.2-0.3%程度です。

ただし、保障条件は厳格です。例えば、がんの場合は診断確定が必要で、心筋梗塞・脳卒中の場合は60日以上の労働制限等の条件があります。

8大疾病特約の内容と保障条件

8大疾病特約は、3大疾病に加えて以下の5つの疾病を保障します。

  • 高血圧症
  • 糖尿病
  • 慢性腎不全
  • 肝硬変
  • 慢性膵炎

金利上乗せは0.3-0.4%程度です。保障条件は各金融機関で異なるため、加入時に必ず確認してください。

特約を付ける際の注意点

3大疾病・8大疾病特約を付けていても、うつ病等の精神障害は対象外です。精神障害による就業不能は、団信の通常保障でも特約でもカバーされないのが一般的です。

また、特約の保障条件は厳格なため、診断されただけでは保障されない場合があります。加入前に約款をよく読み、どのような状態で保障されるのかを確認することが重要です。

障害を負った場合に利用できる公的支援制度

障害年金制度の概要

団信の保障外でも、障害年金制度を活用できる場合があります。

障害年金は、厚生労働省が定める制度で、病気・ケガで生活・仕事が制限される場合に支給される公的年金です。

障害年金には以下の2種類があります。

種類 対象者 等級 支給額(2025年度目安)
障害基礎年金 国民年金加入者 1-2級 1級:約97万円/年
2級:約78万円/年
障害厚生年金 厚生年金加入者 1-3級 報酬比例額+配偶者加給

障害等級の認定は、医師の診断書を元に日本年金機構が判断します。住宅ローン返済が困難になった場合、早期に年金事務所へ相談することをおすすめします。

傷病手当金

健康保険に加入している会社員等は、病気・ケガで働けなくなった場合に傷病手当金を受給できます。

傷病手当金は、最長1年6ヶ月間、給与の約2/3が支給されます。ただし、退職後は受給できない場合があるため、在職中に申請することが重要です。

生活福祉資金貸付制度

社会福祉協議会が提供する生活福祉資金貸付制度は、低所得世帯・障害者世帯向けの低金利(または無利子)の生活支援貸付です。

住宅ローン返済には直接使えませんが、生活費の補填として活用できる場合があります。詳細は各自治体の社会福祉協議会にお問い合わせください。

返済が困難になった場合の対処法

金融機関へのリスケジュール(条件変更)相談

返済が困難になった場合、最初に検討すべきは金融機関へのリスケジュール(条件変更)相談です。

みずほ銀行によると、リスケジュールには以下の選択肢があります。

  • 返済期間の延長(月々の返済額を減らす)
  • 一定期間の返済猶予(利息のみ支払い)

リスケは金融機関との合意に基づく条件変更のため、信用情報に「延滞」として記録されません(ただし条件変更の事実は記録される場合があります)。

返済期間の延長

返済期間を延長することで、月々の返済額を減らすことができます。ただし、返済期間が長くなる分、総返済額(利息)は増加します。

返済期間の延長は、収入が一時的に減少したが今後回復する見込みがある場合に有効です。

一定期間の返済猶予

一定期間(例:6ヶ月〜1年)、元本返済を猶予し、利息のみを支払う方法もあります。

返済猶予は、傷病手当金や障害年金の受給開始までの「つなぎ」として活用できます。ただし、猶予期間中も利息は発生するため、長期的な解決策ではありません。

任意売却と自己破産

長期的に返済不能となった場合、任意売却や自己破産も選択肢となります。

  • 任意売却: 金融機関の同意を得て、競売より高値で自宅を売却する方法
  • 自己破産: 裁判所の手続きにより、住宅ローンを含む債務を免除してもらう方法

これらは最終手段であり、信用情報に記録されるため、今後の借入が困難になります。専門家(弁護士・司法書士)への相談が不可欠です。

まとめ:早期の相談と公的支援の活用を

住宅ローン返済中に障害を負った場合、団信の保障は「高度障害状態」のみで非常に限定的です。身体障害者手帳を取得しても、必ずしも住宅ローンが免除されるわけではありません。

ただし、障害年金・傷病手当金等の公的支援制度や、金融機関へのリスケジュール相談により、返済を継続できる場合があります。特に障害年金は早期申請が重要です。

返済困難を一人で抱え込まず、金融機関・年金事務所・自治体の福祉窓口・専門家(弁護士・司法書士・ファイナンシャルプランナー)へ速やかに相談することをおすすめします。

早期に適切な対処法を選択することで、住宅を守れる可能性が高まります。

よくある質問

Q1どの程度の障害で団信の保障が受けられますか?

A1団信の基本保障は「高度障害状態」のみで、両眼失明、両手足喪失、中枢神経系障害により終身介護が必要等、極めて重度の障害に限定されます。身体障害者手帳1-3級を取得しても該当しない場合が多く、障害者手帳と団信の高度障害状態は別の基準です。一般的な障害では保障されないため、公的支援制度(障害年金・傷病手当金)の活用が現実的です。

Q2うつ病など精神障害になった場合、団信で保障されますか?

A2うつ病等の精神障害は団信の通常保障の対象外です。一部金融機関で精神障害を対象とする特約がありますが、極めて限定的です。精神障害で就業不能となった場合は、公的支援(障害年金、傷病手当金)の活用や、金融機関へのリスケジュール相談が現実的な選択肢となります。早期に年金事務所や金融機関へ相談してください。

Q3返済猶予(リスケ)は信用情報に記録されますか?

A3金融機関との合意に基づくリスケは、信用情報に「延滞」としては記録されません。ただし、条件変更の事実は記録される場合があります。延滞・滞納と異なり、ブラックリスト入りではないため、今後の借入への影響は延滞よりも小さいですが、借入審査で不利になる可能性はあります。リスケを検討する場合は、金融機関に詳細を確認してください。

Q4障害を負った後、住宅ローンの借り換えは可能ですか?

A4障害を負った後、新規の団信審査に通らないため、借り換えは実質不可能です。団信加入が融資条件となっている金融機関がほとんどのため、現在のローンを継続するか、フラット35等の団信なしで借り換えできる金融機関を探す必要がありますが、選択肢は限定的です。現在のローンの条件変更(リスケ)を優先的に検討してください。

Q5団信に加入していない場合、どうなりますか?

A5フラット35等で団信に加入していない場合、障害を負っても返済義務は継続します。返済不能時は自宅を失うリスクがあるため、公的支援制度の活用や金融機関への早期相談が不可欠です。障害年金・傷病手当金・生活福祉資金貸付制度等を組み合わせることで、返済を継続できる場合があります。自治体の福祉窓口や専門家へ相談してください。