住宅ローンと債務整理の関係
住宅ローン以外の借金返済に苦しむ中で、債務整理を検討する際の最大の懸念は「自宅を手放したくない」ということではないでしょうか。
この記事では、債務整理の種類(任意整理・個人再生・自己破産)によって住宅ローンへの影響がどう異なるか、家を残せる可能性がある方法を、法務省や法テラスの公式情報を元に解説します。
個別具体的な法律相談は弁護士のみが行える行為(非弁行為の禁止)ですが、一般的な情報提供として、各手続きの特徴と専門家相談の重要性をお伝えします。
この記事のポイント
- 個人再生の住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を使えば、家を残しながら他の債務を大幅減額(原則5分の1)できる
- 任意整理は整理する借金を選べるため、住宅ローンを対象外にすれば家を残せる
- 自己破産では原則として住宅は処分されるが、返済不能な場合の最終手段となる
- 債務整理による信用情報への影響は、任意整理は完済後5年、個人再生・自己破産は7年で記録が抹消される
- 専門家(弁護士・司法書士)への相談が必須で、個別事情により最適解が異なる
個人再生の住宅ローン特則とは
住宅ローン特則の仕組み
個人再生は、裁判所を通じて借金を大幅に減額(原則5分の1)し、3-5年で分割返済する債務整理手続です。
その中で、住宅ローン特則(住宅資金特別条項)は、民事再生法196条に基づき、住宅ローンを従来通り返済し続けることで自宅を処分されずに済む制度です。
重要な点:住宅ローン自体は減額されません。減額されるのは他の債務(カードローン・消費者金融等)のみです。住宅ローンは今まで通り返済を継続する必要があります。
適用要件(5つの条件)
住宅ローン特則を利用するには、以下の5つの要件を全て満たす必要があります。
| 要件 | 内容 | 
|---|---|
| ①住宅の所有 | 本人が所有する住宅であること | 
| ②居住用 | 床面積の半分以上が居住用であること | 
| ③住宅ローンの抵当権 | 住宅ローンの抵当権が設定されていること | 
| ④代位弁済から6ヶ月以内 | 保証会社による代位弁済から6ヶ月以内であること | 
| ⑤借金総額5000万円以下 | 住宅ローンを除く借金が5000万円以下であること | 
特に④の「代位弁済から6ヶ月以内」は重要です。代位弁済とは、住宅ローンの返済が滞った際に保証会社が債務者に代わって金融機関に一括返済することで、代位弁済から6ヶ月以上経過すると住宅ローン特則は使えなくなるため、早期の申立てが必要です。
個人再生の手続きの流れ
申立て準備と必要書類
個人再生の手続きは以下の流れで進みます。
- 弁護士・司法書士への相談: 債務状況の整理、手続き可否の判断
- 申立て書類の準備: 収入証明、債権者一覧、住宅ローン契約書、家計簿等
- 裁判所への申立て: 必要書類を提出
裁判所の公式資料によると、必要書類は多岐にわたるため、専門家のサポートが不可欠です。
裁判所での審理から認可まで
申立て後の流れは以下の通りです。
- 再生計画案の提出: 3-5年での返済計画を作成
- 債権者の意見聴取: 債権者が再生計画に同意するかを確認
- 再生計画の認可・不認可決定: 裁判所が認可すれば、計画通りに返済開始
費用と期間
個人再生の費用は以下が目安です。
| 項目 | 金額 | 
|---|---|
| 弁護士費用 | 30-50万円 | 
| 裁判所費用(個人再生委員への報酬) | 15-25万円 | 
| 合計 | 45-75万円 | 
手続期間は6-12ヶ月程度かかります。費用は分割払いが可能な場合もあるため、弁護士に相談してください。
任意整理で家を残す方法
任意整理の特徴(整理対象を選べる)
任意整理は、債権者と直接交渉して利息カットや返済期間の延長を行う債務整理手続です。最大の特徴は整理する借金を選べることです。
裁判所を通さないため、家族に内緒にしやすいというメリットもあります。
住宅ローンを整理対象から除外
任意整理では、住宅ローンを整理対象から除外し、カードローンや消費者金融だけを整理することで、家を残せます。
東京スタートアップ法律事務所の解説によると、住宅ローン以外の借金が整理されることで月々の返済額が減り、結果的に住宅ローンの返済が楽になります。
ただし、任意整理のデメリットとして、減額幅が個人再生より小さい(利息カットのみで元本は減額されない場合が多い)点と、5年程度の信用情報への影響がある点に注意が必要です。
自己破産と住宅の関係
自己破産すると住宅はどうなるか
自己破産は、裁判所を通じて全ての借金の支払義務を免除してもらう手続です。原則として住宅は処分される(売却して債権者に配当される)ため、家を残すことはできません。
ただし、住宅ローン残高が売却価格を大幅に上回るオーバーローン状態の場合、破産管財人が売却を見送るケースもあります。この場合でも最終的には債権者(金融機関)が競売にかける可能性が高いため、家を残せる保証はありません。
自己破産を選ぶべきケース
自己破産を選ぶべきケースは以下の通りです。
- 住宅ローン以外の借金が多額で返済不能
- 収入が不安定で個人再生の返済計画を実行できない
- 既に住宅を手放す覚悟ができている
メリット: 全債務の免責(支払義務がなくなる) デメリット: 7-10年の信用情報への影響、一定の資格制限(弁護士、税理士、警備員等は一時的に就けない)
債務整理が信用情報に与える影響
手続き別の影響期間
債務整理を行うと、信用情報機関(CIC・JICC・KSC)に記録が登録されます。いわゆる「ブラックリスト」と呼ばれる状態です。
司法書士法人みつ葉グループの解説によると、手続き別の影響期間は以下の通りです。
| 手続き | 記録抹消までの期間 | 
|---|---|
| 任意整理 | 完済後5年 | 
| 個人再生 | 手続き開始から7年 | 
| 自己破産 | 手続き開始から7-10年 | 
ブラックリスト登録後の生活への影響
ブラックリスト登録期間中は以下の影響があります。
- 新規借入不可(住宅ローン・自動車ローン・クレジットカード等)
- 保証人になれない
- 一部の賃貸契約で不利(保証会社の審査が通らない場合がある)
ただし、影響は金融取引に限られ、就職・結婚・選挙権等には影響しません。
専門家への相談と次のステップ
住宅ローンと債務整理の関係は複雑で、個別事情により最適解が異なります。
各債務整理手続きの選択基準:
- 家を残したい → 個人再生(住宅ローン特則)または任意整理(住宅ローン除外)
- 返済不能 → 自己破産
- 家族に内緒にしたい → 任意整理(裁判所不要)
相談窓口:
- 法テラス: 無料相談、費用の立替・分割払い可能
- 弁護士会・司法書士会: 各地域で無料相談会を実施
- 債務額140万円以下: 司法書士(費用が安い)
- 債務額140万円超: 弁護士を推奨
個別具体的な法律相談は弁護士のみが行える行為です。必ず専門家の診断を受けた上で、ご自身の状況に最適な手続きを選択してください。
早期の相談が解決への第一歩です。一人で悩まず、まずは無料相談を利用しましょう。
