住み替え売却の全体スケジュール
新築マンションから新居へ住み替える際、売却と購入を並行して進める必要があります。準備から引き渡しまでの期間は通常3-6ヶ月程度ですが、売却と購入のタイミング調整が重要です。
住み替えには「売り先行」と「買い先行」の2つの方法があり、それぞれメリット・デメリットがあります。自分の状況に合った方法を選択し、計画的にスケジュールを立てることが、スムーズな住み替えの鍵となります。
(1) 準備から決済までの期間目安
住み替えで新築マンションを売却する場合の標準的なスケジュールは以下の通りです:
ステップ | 期間目安 | 主な作業内容 |
---|---|---|
準備期間 | 1ヶ月 | 住宅ローン残債確認、売却・購入方針決定、複数の不動産会社に査定依頼 |
売却活動 | 2-3ヶ月 | 媒介契約締結、物件情報公開、内覧対応、価格交渉 |
売買契約 | - | 契約締結、手付金受領、引き渡し日の調整 |
新居購入 | 並行して進行 | 物件探し、住宅ローン審査、売買契約 |
決済・引き渡し | 契約から1-2ヶ月 | 残代金決済、抵当権抹消、所有権移転登記、鍵の引き渡し |
国土交通省「不動産の売却の流れ」によれば、不動産売却には通常3-6ヶ月かかります。住み替えの場合、新居購入も並行して進めるため、さらに綿密なスケジュール管理が必要です。
(2) 売り先行と買い先行の違い
住み替えには、売却と購入の順序によって2つの方法があります:
売り先行:
現在のマンションを先に売却してから新居を購入する方法。
メリット:
- 売却代金が確定してから新居を購入できるため、資金計画が立てやすい
- 住宅ローン残債がある場合、売却代金で完済してから新居のローンを組める
- ダブルローン(2つの住宅ローンを同時に抱える)のリスクがない
デメリット:
- 仮住まいが必要になる場合がある(引越し費用・賃料の負担)
- 新居が見つからないうちに売却すると、長期間の仮住まいが必要になる可能性
買い先行:
新居を先に購入してから現在のマンションを売却する方法。
メリット:
- 新居を決定してから引っ越せるため、生活の見通しが立てやすい
- 仮住まいが不要(引越しが1回で済む)
- じっくりと新居を探せる
デメリット:
- 一時的にダブルローン(2つの住宅ローン)を抱える可能性がある
- 買い替えローンの審査が厳しい(年収基準が高い)
- 旧マンションが売れるまで、返済負担が大きい
どちらを選ぶべきかは、住宅ローン残債の状況、資金余裕度、引越しの緊急性などによって異なります。
売却と購入の順序決定(準備期間)
住み替えを成功させるには、準備期間に売却・購入の順序を決定し、資金計画を立てることが重要です。
(1) 住宅ローン残債と売却価格の確認
住宅ローン残債の確認:
金融機関から送付される「残高証明書」で、現在の残債額を確認します。インターネットバンキングでも確認できる場合があります。
売却価格の査定:
複数の不動産会社に査定を依頼し、売却価格の目安を把握します。一括査定サイトを利用すると、複数社に同時に査定依頼できます。
アンダーローンかオーバーローンかを確認:
- アンダーローン:売却価格 > 住宅ローン残債(売却代金で完済可能)
- オーバーローン:売却価格 < 住宅ローン残債(売却代金では完済できない)
オーバーローンの場合、買い替えローンを利用して残債を新居のローンに組み込む方法がありますが、審査が厳しくなります。
(2) 売り先行のメリット・デメリット
メリット:
- 売却代金が確定するため、新居の予算が明確になる
- 住宅ローン残債を完済してから新居のローンを組めるため、審査が通りやすい
- ダブルローンのリスクがない
デメリット:
- 仮住まいが必要になる場合がある(引越し費用・賃料の負担)
- 仮住まい期間中、家具の保管場所が必要になる場合がある
- 新居が見つからないうちに売却すると、長期間の仮住まいが必要になる
向いている人:
- 住宅ローン残債が多い人
- 資金計画を重視する人
- 仮住まいの負担を許容できる人
(3) 買い先行のメリット・デメリット
メリット:
- 新居を決定してから引っ越せるため、生活の見通しが立てやすい
- 仮住まいが不要(引越しが1回で済む)
- じっくりと新居を探せる
デメリット:
- 一時的にダブルローン(2つの住宅ローン)を抱える可能性がある
- 買い替えローンの審査が厳しい(年収基準が高い)
- 旧マンションが売れるまで、返済負担が大きい
- 売却を急ぐあまり、安値で売却してしまうリスク
向いている人:
- 住宅ローン残債が少ない、または完済している人
- 資金余裕度が高い人
- 仮住まいの負担を避けたい人
査定依頼と販売戦略(1ヶ月)
売却活動を開始する前に、複数の不動産会社に査定を依頼し、販売戦略を立てます。
(1) 複数の不動産会社に査定依頼
査定の種類:
- 机上査定(簡易査定):物件情報をもとに、過去の取引事例から価格を算出します。1-3日程度で結果が出ます。
- 訪問査定(詳細査定):不動産会社の担当者が物件を実際に訪問し、詳細に調査して価格を算出します。1週間程度で結果が出ます。
査定依頼のポイント:
- 最低3社以上に査定を依頼してください
- 査定価格だけでなく、販売戦略や担当者の対応も比較してください
- 一括査定サイトを利用すると、複数社に同時に査定依頼できます
(2) 残債がある場合の売却可能額の確認
住宅ローン残債がある場合、売却代金で完済できるかを確認します。
アンダーローンの場合:
売却代金で住宅ローンを完済し、残った金額を新居の購入資金に充てられます。
オーバーローンの場合:
売却代金では住宅ローンを完済できないため、以下の方法があります:
- 自己資金で不足分を補填する
- 買い替えローンを利用する(残債を新居のローンに組み込む)
買い替えローンは、審査が厳しく、年収基準が高いため、事前に金融機関に相談することをお勧めします(住宅金融支援機構「住宅ローンと買い替えローン」参照)。
(3) 買い替えローンの事前相談
買い替えローン:
現在の住宅ローン残債を新居の購入資金に組み込める特殊なローン商品。
メリット:
- オーバーローンの場合でも、自己資金なしで買い替えが可能
- 売却と購入のタイミングを合わせやすい
デメリット:
- 審査が厳しい(年収基準が高い)
- 借入額が大きくなるため、返済負担が増える
- 金利が通常の住宅ローンより高い場合がある
事前相談のポイント:
- 売却活動を開始する前に、金融機関に買い替えローンの利用可能性を確認してください
- 複数の金融機関を比較し、最も有利な条件を選んでください
売却活動と契約締結(2-3ヶ月)
不動産会社と媒介契約を締結し、売却活動を開始します。
(1) 内覧対応と空室準備
内覧対応:
購入希望者が物件を見学する「内覧」は、売却活動の重要なステップです。
内覧準備のポイント:
- 部屋を整理整頓し、清潔に保つ
- 不要な家具は処分または収納する
- 明るい雰囲気を作る(カーテンを開ける、照明をつける)
- 臭いに注意する(ペット、タバコ、生活臭など)
空室準備:
売り先行の場合、引越し後に空室の状態で内覧対応することもあります。空室の方が広く見え、購入希望者の印象が良くなる傾向があります。
(2) 売買契約と重要事項説明
売買契約:
購入希望者と売買条件が合意に達したら、売買契約を締結します。
重要事項説明:
宅地建物取引士が、物件の詳細や契約条件について買主に説明します。売主も同席し、説明内容を確認します。
契約時の書類:
- 売買契約書
- 重要事項説明書
- 登記事項証明書
- 印鑑証明書(売主)
- 実印(売主)
(3) 手付金受領と引き渡し日の調整
手付金:
売買契約時に、買主から売主に支払われる金額。一般的に売買代金の5-10%程度です。
引き渡し日の調整:
売買契約から引き渡しまでの期間は、通常1-2ヶ月程度です。買主の住宅ローン審査の進捗や、引越しの準備状況に合わせて調整します。
住み替えの場合の注意点:
- 新居の引き渡し日と旧マンションの引き渡し日を同日に設定できれば、仮住まいが不要になります
- 同日決済を希望する場合、売買契約時に引き渡し日を明確にすることが重要です
新居購入とのタイミング調整
住み替えで最も重要なのが、旧マンションの売却と新居の購入のタイミング調整です。
(1) 決済日の同日設定
同日決済:
旧マンションの決済(引き渡し)と新居の決済(引き渡し)を同じ日に行う方法。
メリット:
- 仮住まいが不要
- 引越しが1回で済む
- ダブルローンの期間がゼロ
スケジュール例:
- 午前10時:旧マンションの決済(残代金受領、抵当権抹消、所有権移転登記)
- 午後2時:新居の決済(残代金支払い、抵当権設定、所有権移転登記)
注意点:
- 司法書士が両方の決済の登記手続きを調整する必要があります
- 旧マンションの買主と新居の売主の都合を合わせる必要があり、調整が難しい場合があります
- 金融機関の営業時間内に両方の決済を完了する必要があります
(2) 仮住まいが必要な場合の対応
同日決済が難しい場合、仮住まいが必要になります。
仮住まいの種類:
- 賃貸マンション・アパート:数ヶ月~1年程度の短期契約
- マンスリーマンション:1ヶ月単位で契約できる家具付きマンション
- 実家・親戚宅:一時的に居候させてもらう
仮住まいのコスト:
- 敷金・礼金(賃貸の場合)
- 家賃(月10万円~)
- 引越し費用(旧マンション→仮住まい→新居の2回分)
- 家具の保管費用(トランクルームなど)
コスト削減のポイント:
- 仮住まい期間をできるだけ短くする
- マンスリーマンションを利用して、敷金・礼金を節約する
- 家具は最小限にし、保管費用を抑える
(3) つなぎ融資の活用
つなぎ融資:
新居の購入資金を一時的に借りる短期ローン。旧マンションの売却代金で返済します。
利用シーン:
- 新居の引き渡し日が、旧マンションの引き渡し日より早い場合
- 売却代金が確定していないが、先に新居を購入したい場合
メリット:
- 売却代金の入金を待たずに新居を購入できる
- 同日決済が難しい場合でも、スムーズに住み替えができる
デメリット:
- 金利が住宅ローンより高い(年利2-4%程度)
- 返済期間が短いため、負担が大きい
決済・引き渡しと税務手続き
売買契約後、決済・引き渡しを行い、税務手続きを完了します。
(1) 残代金決済と抵当権抹消
残代金決済:
買主から売主に残代金(売買代金 - 手付金)が支払われます。通常、金融機関で行われます。
決済時の持ち物:
- 登記識別情報(権利証)
- 実印
- 印鑑証明書(3ヶ月以内)
- 身分証明書
- 固定資産税納税通知書
- 住宅ローンの残高証明書(残債がある場合)
抵当権抹消:
住宅ローンを完済すると、金融機関が抵当権を抹消します。司法書士が抵当権抹消登記を行います。
(2) 譲渡所得税の計算と特例
新築マンションを売却して利益が出た場合、譲渡所得税が課税されます(国税庁「譲渡所得の計算方法」参照)。
譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 収入金額 - 取得費 - 譲渡費用
居住用財産の3,000万円特別控除:
マイホームを売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。所有期間の要件はありません。
所有期間10年超の軽減税率:
所有期間が10年を超える場合、6,000万円以下の部分に14.21%の軽減税率が適用されます(3,000万円特別控除と併用可能)。
確定申告:
売却した年の翌年2月16日~3月15日に確定申告を行います。特例を適用する場合は必ず申告してください。
(3) 譲渡損失の損益通算
新築マンションを売却して損失が出た場合、一定の要件を満たせば、給与所得等と損益通算できます(国税庁「マイホームを買い換えた場合の特例」参照)。
要件:
- 所有期間が5年超(売却した年の1月1日時点で判定)
- 売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得すること
- 新居で住宅ローンを組むこと(10年以上の返済期間)
損益通算の仕組み:
譲渡損失を給与所得等と相殺することで、所得税・住民税を軽減できます。控除しきれない損失は、翌年以降3年間繰り越せます。
確定申告:
譲渡損失の損益通算を受ける場合も、確定申告が必要です。
まとめ
住み替えで新築マンションを売却する際は、売却と購入のタイミング調整が最も重要です。売り先行と買い先行のどちらを選ぶかは、住宅ローン残債の状況や資金余裕度によって異なります。
重要なポイント:
- 準備期間(1ヶ月):住宅ローン残債確認、売却・購入方針決定、複数社に査定依頼
- 売却活動(2-3ヶ月):媒介契約、内覧対応、価格交渉、売買契約
- タイミング調整:同日決済が理想、仮住まいが必要な場合はコスト試算、つなぎ融資の活用
- 決済・税務手続き:残代金決済、抵当権抹消、譲渡所得税の計算、譲渡損失の損益通算
住み替えは、売却と購入を並行して進めるため、複雑なスケジュール管理が必要です。不動産会社や司法書士と密に連絡を取り、計画的に進めることで、スムーズな住み替えが実現できます。