住み替えマンション売却、自分に合った進め方を見つけよう
マンションの住み替えを考えるとき、「今の家を先に売るべきか、新居を先に買うべきか」と悩む方は少なくありません。住み替えには売り先行・買い先行・同時進行の3つの方法があり、それぞれ異なるスケジュールと資金計画が必要です。
本記事では、住み替え時のマンション売却の流れとスケジュールを実務視点で解説します。3つの方法の違いを理解し、自分に合った住み替え計画を立てる参考にしてください。
この記事でわかること:
- 売り先行・買い先行・同時進行の3つの住み替え方法の違い
- 各方法のスケジュールと流れの詳細
- 住み替えで利用できる税制優遇と資金計画のポイント
- つなぎ融資・住み替えローンなどの資金調達方法
- 住み替え特有の注意点とリスク対策
1. 住み替えマンション売却の3つの方法
(1) 売り先行・買い先行・同時進行の違い
住み替えには3つの主な方法があります。それぞれの特徴を理解し、自分の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
方法 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
売り先行 | 現在の住まいを先に売却 | 資金計画が立てやすい | 仮住まいが必要な場合あり |
買い先行 | 新居を先に購入 | 引越し1回で済む | 二重ローンのリスク |
同時進行 | 売却と購入を並行 | 効率的 | タイミング調整が難しい |
売り先行は、現在のマンションを売却してから新居を購入する方法です。売却代金が確定するため資金計画が立てやすく、新居購入の予算を正確に把握できます。ただし、売却から新居購入まで期間が空く場合は仮住まいが必要で、引越し費用が2回分かかります。
買い先行は、新居を先に購入してから現在のマンションを売却する方法です。引越しが1回で済み、じっくり新居を探せるメリットがあります。一方、売却までの期間は二重ローンの負担や、売却価格が想定より低くなるリスクがあります。
同時進行は、売却と購入の契約・引渡しを同時期に行う方法です。効率的で費用を抑えられますが、売却と購入のタイミング調整が難しく、不動産会社の協力が不可欠です。
(2) 自分に合った方法の見極め方
住み替え方法の選択は、資金状況と優先順位によって決まります。
売り先行が向いている方:
- 住宅ローン残債が多く、売却代金を新居購入資金に充てたい
- 新居購入の予算が不確定で、売却価格を見てから決めたい
- 二重ローンの負担を避けたい
買い先行が向いている方:
- 十分な自己資金があり、売却代金がなくても新居購入できる
- 仮住まいの手間や引越し2回の費用を避けたい
- 新居の物件探しに時間をかけたい
同時進行が向いている方:
- タイミング調整に柔軟に対応できる
- 信頼できる不動産会社のサポートがある
- 引越し費用や仮住まい費用を最小限にしたい
2. 売り先行のスケジュールと流れ
(1) 査定から売買契約までの期間
売り先行の場合、まず現在のマンションの査定から始めます。複数の不動産会社に査定を依頼し、相場を把握することが重要です。査定には1〜2週間程度かかります。
査定後、媒介契約を締結し、売却活動を開始します。一般的な売却活動期間は3〜6ヶ月です。購入希望者が現れたら、条件交渉を経て売買契約を締結します。
売り先行の主な流れ:
- 査定依頼(1〜2週間)
- 媒介契約締結
- 売却活動開始(3〜6ヶ月)
- 購入希望者との条件交渉
- 売買契約締結
- 引渡し準備(契約から1〜3ヶ月)
宅地建物取引業法により、媒介契約には専属専任媒介・専任媒介・一般媒介の3種類があります。売り先行の場合、積極的な売却活動を期待できる専属専任媒介または専任媒介が選ばれることが多いです。
(2) 仮住まいの準備と費用
売却後すぐに新居が見つからない場合、仮住まいが必要になります。仮住まいには賃貸住宅を利用するのが一般的で、以下の費用がかかります。
仮住まいの主な費用:
- 敷金・礼金(家賃の2〜4ヶ月分)
- 月々の家賃
- 引越し費用(2回分)
- 家具・家電の一時保管費用(必要に応じて)
例えば、家賃15万円の賃貸に3ヶ月住む場合、敷金礼金30万円+家賃45万円+引越し費用(往復)40万円=約115万円が目安となります。仮住まい期間はできるだけ短くすることが費用削減のポイントです。
(3) 売却代金の受け取りから新居購入まで
売買契約時に手付金(売却価格の5〜10%)を受け取り、引渡し時に残代金を受け取ります。売却代金を受け取った後、新居の購入活動を本格化させます。
新居購入のスケジュールは、物件探しから契約・引渡しまで通常2〜4ヶ月です。売却代金を頭金として活用できるため、資金計画が立てやすくなります。
3. 買い先行のスケジュールと流れ
(1) 新居購入から決済までの期間
買い先行では、まず新居の購入活動から始めます。物件探しから売買契約まで通常1〜3ヶ月、契約から引渡しまで1〜2ヶ月かかります。
買い先行の主な流れ:
- 新居の物件探し(1〜3ヶ月)
- 売買契約締結
- 住宅ローン審査・承認(2〜4週間)
- 引渡し・決済(契約から1〜2ヶ月)
- 引越し
- 現在のマンション売却活動開始
新居の引渡し後、現在のマンションの売却活動を開始します。売却期間中は二重にローンを抱える可能性があるため、資金計画を慎重に立てる必要があります。
(2) 住み替えローンとつなぎ融資
買い先行の場合、現在のマンションにローン残債がある場合、住み替えローンやつなぎ融資の利用を検討します。
住み替えローンは、現在のローン残債を新居のローンに上乗せして借りられる商品です。金融庁の情報によると、住み替えローンは審査が厳しく、通常の住宅ローンより金利が0.1〜0.3%高い傾向があります。
つなぎ融資は、売却代金を新居購入資金に充てる場合、売却完了までの期間を埋めるための短期融資です。金利は年1.5〜3.5%程度、融資手数料が融資額の1〜2%かかります。
例えば、3000万円を3ヶ月借りる場合の目安:
- 利息: 約20万円(年利2.5%で計算)
- 融資手数料: 30〜60万円
- 合計: 50〜80万円
売却までの期間が長引くほど利息負担が増えるため、できるだけ早期の売却を目指すことが重要です。
(3) 二重ローンのリスクと対策
買い先行の最大のリスクは、現在のマンションが売れるまで二重ローンを抱えることです。月々の返済額が2倍になるため、資金計画に余裕が必要です。
二重ローンのリスク対策:
- 売却期間の目安を短めに設定し、価格設定を適正にする
- 売却活動を新居購入前から開始する(条件付き契約など)
- 返済資金を十分に確保しておく
- 売却価格が想定より低くなるリスクを織り込む
売却予定価格で売れない場合、新居購入計画の見直しが必要になることもあります。不動産会社と密に連絡を取り、市場動向を把握しながら柔軟に対応することが大切です。
4. 同時進行を成功させる秘訣
(1) 売却と購入の契約タイミング
同時進行では、売却と購入の契約タイミングを合わせることが重要です。理想的には、両方の売買契約を同じ週に締結し、引渡し日も近い日程に調整します。
契約タイミングがずれると、仮住まいが必要になったり、二重ローンが発生したりするリスクがあります。不動産会社に売却と購入の同時進行を事前に伝え、スケジュール調整のサポートを依頼しましょう。
(2) 引渡し日の調整方法
引渡し日の調整は同時進行の成否を左右します。以下のような調整方法があります。
引渡し日調整のポイント:
- 売却の引渡し日を新居購入の引渡し日の直前に設定
- 売却先・購入先の双方に同時進行を事前説明
- 万が一の場合の特約条項を契約書に盛り込む
- 引越し日程を柔軟に調整できるようにしておく
実務上、売却と購入の引渡し日を完全に同じ日にするのは難しいため、1週間程度の余裕を見ておくことが一般的です。
(3) 媒介契約の選び方
同時進行の場合、売却と購入の両方を同じ不動産会社に依頼することで、スケジュール調整がスムーズになります。宅地建物取引業法により、媒介契約には専属専任媒介・専任媒介・一般媒介がありますが、同時進行では専任系の契約を選ぶことで、不動産会社が積極的に調整を行ってくれます。
複数の不動産会社を使う場合は、売却担当と購入担当が密に連携できる体制を作ることが重要です。
5. 住み替えで使える税金優遇制度
(1) 3000万円特別控除と買い替え特例の選択
住み替え時のマンション売却では、国税庁が定める税制優遇を活用できます。主な制度は「3000万円特別控除」と「買い替え特例」ですが、併用はできません。
3000万円特別控除:
- 居住用財産の譲渡所得から3000万円まで控除
- 譲渡益が3000万円以下なら完全非課税
- 適用要件: 居住用として使用、所有期間の制限なし
買い替え特例(特定の居住用財産の買換え特例):
- 譲渡益への課税を次回売却時まで繰り延べ
- 適用要件: 所有期間10年超、居住期間10年以上など
- 次回売却時に今回分も含めて課税される
国税庁の公式サイト「特定の居住用財産の買換え特例」によると、譲渡益が3000万円以下なら3000万円控除を選ぶことで完全非課税となります。一方、譲渡益が大きく、次回の売却予定がない場合は買い替え特例が有利です。
(2) 譲渡所得税の計算例
譲渡所得税の計算例を見てみましょう。
【例】5000万円で購入したマンションを6000万円で売却
- 譲渡価格: 6000万円
- 取得費: 5000万円
- 譲渡費用(仲介手数料等): 200万円
- 譲渡所得: 6000万円 - 5000万円 - 200万円 = 800万円
3000万円控除を適用:
- 課税対象: 800万円 - 3000万円 = 0円(控除額が譲渡所得を上回るため非課税)
所有期間が5年超の長期譲渡の場合、税率は所得税15.315%+住民税5%=20.315%です。所有期間が5年以下の短期譲渡の場合は所得税30.63%+住民税9%=39.63%と高くなるため、所有期間の判定日(売却年の1月1日時点で5年超かどうか)には注意が必要です。
(3) 確定申告の手続き
3000万円特別控除や買い替え特例を適用する場合、譲渡した年の翌年2月16日〜3月15日に確定申告が必要です。
確定申告に必要な書類:
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書のコピー
- 登記事項証明書
- 特例適用の場合は住民票など
税務署または国税庁のe-Taxで手続きできます。不安な場合は税理士への相談も検討しましょう。
6. 住み替え時の資金計画の立て方
(1) 売却予想額と購入予算のバランス
住み替えの資金計画では、売却予想額と購入予算のバランスを慎重に見積もることが重要です。
資金計画のチェックポイント:
- 売却予想額は査定価格の90〜95%で見積もる(値引き交渉を考慮)
- 諸費用(仲介手数料、税金、引越し費用等)を忘れずに計上
- 売却代金の受取時期と新居購入資金の支払時期を確認
- 予備資金を確保しておく
例えば、3000万円で売却予定のマンションの場合:
- 売却予想額: 2850万円(95%で見積もり)
- 仲介手数料: 約100万円(3%+6万円+消費税)
- その他諸費用: 50万円
- 手取り額: 約2700万円
この手取り額を新居購入の頭金に充てる計画を立てます。
(2) ローン残債がある場合の対処
現在のマンションにローン残債がある場合、売却代金で完済できるかを確認します。
ローン残債 < 売却代金の場合:
- 売却代金で完済し、残りを新居購入資金に充当できる
ローン残債 > 売却代金の場合:
- 自己資金で不足分を補填する
- 住み替えローンで残債を新居ローンに上乗せする
住み替えローンは審査が厳しく、金利も高めです。自己資金での補填が難しい場合は、売却価格の見直しや購入予算の調整を検討します。
(3) 諸費用の見積もり
住み替えには売却・購入それぞれに諸費用がかかります。
売却時の諸費用:
- 仲介手数料: 売却価格の約3%+6万円+消費税
- 抵当権抹消費用: 1〜3万円
- 譲渡所得税(利益が出た場合)
- 引越し費用: 10〜30万円
購入時の諸費用:
- 仲介手数料: 購入価格の約3%+6万円+消費税
- 登記費用: 30〜50万円
- 住宅ローン諸費用: 融資額の2〜3%
- 不動産取得税
- 引越し費用: 10〜30万円
仮住まいを利用する場合は、さらに仮住まい費用が加算されます。諸費用は売却価格・購入価格のそれぞれ5〜10%を目安に見積もりましょう。
まとめ
住み替え時のマンション売却は、売り先行・買い先行・同時進行の3つの方法があり、それぞれ異なるスケジュールと資金計画が求められます。売り先行は資金計画が立てやすい反面、仮住まいが必要な場合があります。買い先行は引越しが1回で済みますが、二重ローンのリスクがあります。同時進行は効率的ですが、タイミング調整が難しいです。
税制優遇では、3000万円特別控除と買い替え特例を活用できますが、併用はできません。所有期間による税率の違いや確定申告の手続きも理解しておきましょう。資金計画では、売却予想額を保守的に見積もり、諸費用を忘れずに計上することが大切です。
住み替えは大きなライフイベントです。不動産会社や税理士など専門家のサポートを受けながら、自分に合った方法で計画を進めましょう。