住み替えによる土地購入、何から始める?
既存の住まいを売却しながら新しい土地を購入する「住み替え」は、売却と購入のタイミング調整、資金計画、仮住まいの手配など、通常の土地購入よりも複雑な流れになります。旧居の住宅ローンが残っている場合や、売却資金を新居の購入に充てたい場合は、特に綿密な計画が必要です。
この記事では、住み替えに伴う土地購入の全体的な流れとスケジュール、タイミング調整のポイント、住み替えローンや買い替え特約などの実務的な手続きを、国土交通省や金融庁の情報に基づいて解説します。
この記事のポイント
- 住み替えには「売り先行」「買い先行」「同時進行」の3つの方法があり、資金状況や住み替え時期によって選択する
- 買い替え特約を利用することで、旧居の売却が不成立の場合に土地購入契約を白紙解除できる
- 住み替えローンは旧居のローン残債と新規購入資金をまとめて借りられるが、審査は厳しめ
- 売却と購入を同日決済する場合、登記手続きや資金移動のスケジュール管理が重要
- 土地購入後も境界確定・測量・建築確認申請などの準備期間が必要
1. 住み替えで土地を購入する基本的な流れ
(1) 住み替え完了までの全体スケジュール
住み替えによる土地購入は、以下のような流れで進みます(国土交通省の不動産売買の流れを参考)。
ステップ | 内容 | 所要期間目安 |
---|---|---|
1. 計画立案 | 売り先行・買い先行の選択、資金計画の策定 | 1〜2週間 |
2. 旧居の売却準備 | 査定、不動産会社選定、売却活動開始 | 1〜2ヶ月 |
3. 土地探し | 希望エリア・条件での物件探し、現地見学 | 1〜3ヶ月 |
4. 旧居の売買契約 | 買主との条件交渉、売買契約締結 | 2週間〜1ヶ月 |
5. 土地の売買契約 | 重要事項説明、売買契約、手付金支払い | 1〜2週間 |
6. 住宅ローン手続き | 住み替えローンまたは通常ローンの審査・契約 | 3週間〜1ヶ月 |
7. 決済・引き渡し | 残代金決済、所有権移転登記、鍵の受領 | 1日(同日決済の場合) |
8. 建築準備 | 境界確定、測量、建築確認申請 | 2〜3ヶ月 |
住み替え全体では、計画開始から新居への入居まで最短6ヶ月〜1年程度を見込む必要があります。
(2) 売り先行・買い先行の選び方
住み替えには大きく3つのパターンがあります。
売り先行
- 旧居を先に売却し、その資金で土地を購入する方法
- メリット:資金計画が立てやすい、二重ローンを避けられる
- デメリット:仮住まいが必要になる場合がある、土地探しに時間的制約
- 向いている人:ローン残債がある、資金に余裕がない
買い先行
- 土地を先に購入し、後から旧居を売却する方法
- メリット:じっくり土地を選べる、仮住まい不要
- デメリット:二重ローンや仮住まい費用が発生する可能性
- 向いている人:資金に余裕がある、理想の土地を妥協したくない
同時進行(同日決済)
- 旧居の売却と土地購入を同日に決済する方法
- メリット:仮住まい不要、二重ローン回避
- デメリット:タイミング調整が難しい、スケジュール管理が複雑
- 向いている人:不動産会社のサポート体制が整っている場合
(3) 通常の土地購入との違いと注意点
住み替えでの土地購入は、通常の土地購入と以下の点で異なります。
- 資金調達のタイミング:旧居の売却代金を購入資金に充てる場合、売却と購入のタイミング調整が必須
- 住宅ローンの扱い:旧居のローン残債がある場合、住み替えローンやつなぎ融資の利用を検討
- 契約条件:買い替え特約(売却条件付き契約)の設定により、旧居が売れない場合の解除権を確保
- 引き渡し時期:仮住まいの有無や新居の建築スケジュールに合わせた調整が必要
2. 旧居売却と土地購入のタイミング調整
(1) 買い替え特約の設定と活用
買い替え特約とは、旧居の売却が一定期間内に成立しなかった場合、土地購入契約を白紙解除できる特約です(民法の解除条件付き契約として設定)。
買い替え特約の内容
- 期限:通常3〜6ヶ月程度(売主との交渉による)
- 条件:「○月○日までに旧居が○○万円以上で売却できない場合」など具体的に記載
- 効果:条件不成立時、手付金が全額返還され、ペナルティなしで解約可能
注意点
- 売主にとってはリスクがあるため、人気エリアの土地では受け入れられない場合もある
- 特約期限までに旧居を確実に売却する計画が必要
- 不動産会社と緊密に連携し、売却活動を積極的に進める
(2) 売却と購入を同日決済する方法
同日決済は、旧居の売却と土地購入の残代金決済を同じ日に行う方法です。
同日決済の流れ
- 午前中に旧居の決済・所有権移転登記申請
- 売却代金を受領
- 午後に土地購入の決済(売却代金を購入資金に充当)
- 土地の所有権移転登記申請
メリット
- 仮住まいが不要(引越しを1回で済ませられる)
- 二重ローン期間が発生しない
- つなぎ融資の利用が不要
難しい点
- 売却と購入の決済日を完全に合わせる必要がある
- 銀行や司法書士のスケジュール調整が複雑
- どちらかのスケジュールが遅れると全体が狂う
(3) 仮住まいが必要になるケース
以下のような場合、仮住まい(賃貸物件や親族宅など)が必要になることがあります。
- 売り先行で、売却後すぐに土地が見つからない場合
- 土地購入後、建物が完成するまでの期間(注文住宅の場合)
- 同日決済が調整できず、旧居の引き渡しが先になった場合
仮住まい費用(敷金・礼金・家賃・引越し費用2回分)も資金計画に含めておく必要があります。
3. 住み替えローンと資金計画
(1) 住み替えローンの仕組みと審査
住み替えローンは、旧居の住宅ローン残債と新規土地購入資金(および建築資金)をまとめて借りられる商品です(金融庁の監督下で各金融機関が提供)。
住み替えローンの特徴
- 借入額:旧居のローン残債 + 新規土地購入価格 + 建築費用
- 担保:新規購入する土地・建物
- 金利:通常の住宅ローンより若干高めの場合もある
審査のポイント
- 借入額が大きくなるため、返済能力の審査が厳しい
- 年収、勤続年数、他の借入状況などを総合的に判断
- 旧居の売却見込み価格と残債のバランスも考慮される
(2) 二重ローン期間の資金計画
買い先行の場合、土地購入後も旧居のローンが残っている「二重ローン期間」が発生します。
二重ローン期間の負担例
- 旧居のローン返済:月10万円
- 新規ローン返済:月15万円
- 合計:月25万円(旧居売却まで)
この期間の返済能力を金融機関が審査するため、十分な収入や預貯金の証明が必要です。
(3) つなぎ融資の活用方法
つなぎ融資は、旧居の売却代金が入金されるまでの短期間、一時的に資金を借りる融資です。
つなぎ融資が必要なケース
- 土地購入の決済日が旧居の売却決済日より先の場合
- 建築の着工金・中間金の支払いが必要な場合
注意点
- 金利が通常ローンより高め(年2〜4%程度)
- 借入期間は数ヶ月〜1年程度
- 旧居の売却が確実に見込める場合のみ利用可能
4. 重要事項説明と売買契約
(1) 重要事項説明の確認ポイント
土地の売買契約前には、宅地建物取引士による重要事項説明が義務付けられています(宅地建物取引業法第35条)。
住み替えで特に確認すべき項目
- 土地の権利関係(所有権、抵当権の有無)
- 都市計画法・建築基準法上の制限(建ぺい率、容積率、用途地域)
- インフラ整備状況(上下水道、ガス、電気の引き込み状況)
- 埋蔵文化財包蔵地や土壌汚染の有無
- 周辺環境(騒音、日照、眺望など)
(2) 売買契約書の記載内容
売買契約書には以下の内容が記載されます。
- 売買代金と支払い方法(手付金、中間金、残代金の金額・支払日)
- 土地の面積・境界(実測か公簿か)
- 引き渡し時期
- 買い替え特約の有無と条件
- 契約解除の条件(ローン特約、瑕疵担保責任など)
(3) 手付金の支払いとローン特約
手付金
- 売買代金の5〜10%程度を契約時に支払う
- 残代金決済時に売買代金の一部に充当される
- 契約解除時の扱いは契約書で確認
ローン特約
- 住宅ローンが承認されなかった場合、契約を白紙解除できる特約
- 住み替えローンの場合も必ず付ける
- 特約の期限(通常契約後3〜4週間)までにローン審査を完了させる必要がある
5. 決済・引き渡しと登記手続き
(1) 残代金決済の流れ
残代金決済は、売買代金の残額を支払い、土地の所有権を移転する重要な手続きです。
決済当日の流れ
- 売主・買主・仲介業者・司法書士・金融機関担当者が集まる
- 登記に必要な書類の確認(権利証、印鑑証明書など)
- 残代金の支払い(ローン実行と同時)
- 固定資産税・都市計画税の精算
- 鍵の引き渡し
- 司法書士が法務局で所有権移転登記を申請
(2) 旧居と新規土地の同日決済
同日決済の場合、午前中に旧居の売却決済、午後に土地購入の決済を行うのが一般的です。
スケジュール例
- 9:00〜10:30:旧居の決済(売却代金受領、所有権移転登記申請)
- 11:00〜12:00:売却代金を購入用口座に移動
- 13:00〜14:30:土地購入の決済(購入代金支払い、所有権移転登記申請)
司法書士や金融機関との綿密な事前調整が不可欠です。
(3) 所有権移転登記の手続き
所有権移転登記は、法務局で土地の名義を売主から買主に変更する手続きです。
登記に必要な書類
- 売主:権利証(登記識別情報)、印鑑証明書、固定資産評価証明書
- 買主:住民票、印鑑証明書、ローン契約書(抵当権設定の場合)
登記費用(登録免許税、司法書士報酬)は買主負担が一般的で、合計で数十万円程度かかります。
6. 購入後の建築準備と税務手続き
(1) 境界確定と測量の実施
土地購入後、建築を始める前に境界確定と測量を行う場合があります。
- 隣地所有者との境界を確定し、境界標を設置
- 土地家屋調査士に依頼(費用:30〜80万円程度)
- 所要期間:1〜2ヶ月
売買契約時に「実測売買」か「公簿売買」かを確認し、実測売買の場合は売主側で測量を実施済みの場合もあります。
(2) 建築確認申請までの準備
土地購入後、注文住宅を建てる場合は以下の準備が必要です。
- ハウスメーカー・工務店・設計事務所の選定
- 地盤調査の実施
- 設計プランの作成
- 建築確認申請の提出
- 建築確認済証の取得(申請から2〜4週間)
建築確認が下りてから着工となるため、土地購入から着工まで最短でも2〜3ヶ月程度を見込む必要があります。
(3) 不動産取得税の申告と納付
土地を取得すると、不動産取得税が課税されます。
- 税率:固定資産評価額の3%(2027年3月31日まで)
- 軽減措置:住宅用地の場合、一定の条件で軽減あり
- 納付:取得後6ヶ月〜1年以内に納税通知書が届く
軽減措置を受けるには、各都道府県の税事務所に申告が必要な場合があるため、購入後早めに確認しましょう。
まとめ:住み替え土地購入は計画的なスケジュール管理がカギ
住み替えに伴う土地購入は、旧居の売却と新規土地の購入を同時並行で進める必要があり、通常の土地購入よりも複雑です。資金計画、タイミング調整、契約条件の設定など、事前の綿密な計画が成功のカギとなります。
住み替え土地購入のポイント
- 売り先行・買い先行・同時進行のメリット・デメリットを理解し、自分の状況に合った方法を選ぶ
- 買い替え特約や住み替えローンを活用し、リスクを軽減する
- 不動産会社、金融機関、司法書士と緊密に連携し、スケジュール管理を徹底する
- 土地購入後の建築準備期間も含めた全体スケジュールを立てる
住み替えは人生の大きなイベントです。信頼できる不動産会社に相談しながら、無理のない計画で進めていきましょう。
よくある質問
Q1. 住み替えは売り先行と買い先行、どちらがよいですか?
資金に余裕があれば買い先行で理想の土地をじっくり探すことができます。一方、ローン残債がある場合や資金に余裕がない場合は、売り先行で確実に旧居を売却してから購入する方が安全です。仮住まいを避けたい場合は同日決済を目指すこともできますが、タイミング調整の難易度は高くなります。
Q2. 買い替え特約とはどのようなものですか?
買い替え特約とは、旧居の売却が成立しない場合に土地購入契約を白紙解除できる特約です。買主を保護する仕組みですが、売主にとってはリスクがあるため、人気エリアでは合意が得られない場合もあります。特約には期限(通常3〜6ヶ月程度)が設定され、その期限内に旧居が売却できることが条件となります。
Q3. 住み替えローンの審査は厳しいですか?
住み替えローンは、旧居のローン残債と新規土地購入資金をまとめて借りるため、借入額が大きくなり、審査は通常のローンよりも厳しい傾向があります。安定した収入と十分な返済能力が求められるため、事前に金融機関に相談し、返済シミュレーションを行うことをおすすめします。
Q4. 土地購入後すぐに建築を始められますか?
土地を購入しても、すぐに建築を始められるわけではありません。境界確定、測量、地盤調査、建築確認申請などの準備が必要で、最短でも引渡しから2〜3ヶ月後の着工となります。住み替え計画を立てる際は、建築期間も含めた全体スケジュールを管理することが重要です。