投資用マンション購入時の登記を適切に進める方法
投資用マンションを購入する際、登記手続きは居住用マンションと基本的には同じですが、税制面や経費計上の違いを理解しておく必要があります。特に、登録免許税の軽減措置が適用されないこと、法人名義での登記の選択肢、登記費用の経費計上方法など、投資用物件特有の注意点があります。この記事では、投資用マンション購入時の登記について、個人名義と法人名義の違い、税務処理、賃借人入居中の登記実務を解説します。
この記事のポイント
- 投資用マンションは登録免許税の軽減措置が適用されない(2.0%)
- 個人名義と法人名義の選択で登記手続きと税制が異なる
- 登記費用はすべて不動産所得の必要経費として計上可能
- 賃借人入居中の物件は賃借権の引き継ぎを確認
- 区分所有建物特有の登記制度は居住用と同じ
1. 投資用マンション購入と登記の基礎知識
(1) マンション(区分所有建物)の登記制度とは
投資用マンションも、居住用マンションと同じ区分所有建物として登記されます(法務局「区分所有建物の登記について」)。区分所有建物とは、一棟の建物が複数の独立した部分に分かれ、それぞれが別の所有者に属する建物のことです。
マンションの登記は以下のように分かれています:
専有部分: 各住戸(101号室、102号室など)
- 区分所有者が単独で所有する部分
- 登記簿上、「専有部分の建物の表示」に記載
共用部分: エントランス、廊下、階段、エレベーター、外壁など
- 区分所有者全員が共同で所有する部分
- 専有部分の持分割合に応じて共有
敷地権: マンションの土地は建物と一体化して「敷地権」として登記されるのが一般的
(2) 投資用物件の登記で知っておくべき重要ポイント
投資用マンションの登記で、居住用と異なる重要なポイントは以下の通りです:
税制面の違い:
- 登録免許税の軽減措置が適用されない: 居住用は0.3%に軽減されるが、投資用は2.0%
- 登記費用を必要経費として計上可能: 登録免許税、司法書士報酬など
その他の違い:
- 投資用ローンの金利が居住用より高い(抵当権設定登記は同じ)
- 賃借人入居中の場合、賃借権の引き継ぎが必要
- 法人名義での登記の選択肢がある
2. 投資用物件購入時の登記手続きの実務フロー
(1) 法務局での所有権移転登記申請の流れ
投資用マンション購入時の登記手続きは、居住用と同じ流れです。決済日当日の流れは以下の通りです(法務局「不動産登記の申請手続について」):
- 売主・買主が決済場所に集まる
- 購入代金の支払い・受領
- 売主から買主へ必要書類を引き渡す
- 司法書士が書類を確認し、法務局へ登記申請
- 登記完了(通常1~2週間後)
投資用物件でも、司法書士が登記申請を行うのが一般的です。
(2) 必要書類と準備期間
買主(個人名義の場合)が準備する書類:
書類名 | 取得場所 | 有効期限 | 備考 |
---|---|---|---|
住民票 | 市区町村役場 | 発行から3ヶ月以内 | マイナンバー記載なしのもの |
印鑑証明書 | 市区町村役場 | 発行から3ヶ月以内 | 実印登録が必要 |
実印 | - | - | 印鑑証明書と同じもの |
本人確認書類 | - | - | 運転免許証など |
住宅ローン関連書類 | 金融機関 | - | ローン利用時のみ |
買主(法人名義の場合)が準備する書類:
- 法人の登記簿謄本(発行から3ヶ月以内)
- 法人の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
- 代表者印
- 法人実印
- 取締役会議事録または株主総会議事録(不動産購入の決議)
(3) 登記完了までのスケジュール
登記申請から完了までは通常1~2週間程度かかります。登記完了後、司法書士から以下の書類が渡されます:
- 登記識別情報(権利証)
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 決済関連書類一式
これらの書類は不動産の所有を証明する重要な書類なので、大切に保管してください。
3. 個人名義と法人名義の登記の違い
(1) 個人名義で登記する場合の手続き
個人名義のメリット:
- 登記手続きが比較的簡単
- 法人設立費用・維持費が不要
- 小規模投資に適している
個人名義のデメリット:
- 所得税の累進課税(最高45%+住民税10%)
- 経費計上の範囲が法人より狭い
- 投資用ローンの金利が法人より高い場合がある
個人名義の場合、登記手続きは居住用マンションと同じです。
(2) 法人名義で登記する場合の追加書類と注意点
法人名義のメリット:
- 法人税率が一定(最大23.2%+地方税)
- 経費計上の範囲が広い(役員報酬、退職金など)
- 相続対策になる(株式として相続)
法人名義のデメリット:
- 法人設立費用が必要(株式会社:約25万円、合同会社:約10万円)
- 法人維持費が必要(税理士報酬、法人住民税など)
- 登記手続きが複雑
法人名義の登記で追加で必要な書類:
- 法人の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 法人の印鑑証明書
- 取締役会議事録または株主総会議事録
- 代表者の本人確認書類
法人名義を選ぶべき目安:
- 年間家賃収入が1,000万円を超える場合
- 複数物件を購入する予定がある場合
- 相続対策を考えている場合
法人名義か個人名義かの選択は、税制、融資条件、将来の売却計画などを総合的に判断する必要があるため、税理士に相談することをお勧めします。
4. 投資用ローン利用時の抵当権設定登記
(1) 抵当権設定登記の手順と必要書類
投資用ローンを利用する場合、所有権移転登記と同時に抵当権設定登記を行います。抵当権設定登記は、金融機関がマンションを担保として設定し、万が一ローンが返済できなくなった場合に、マンションを売却して貸付金を回収できるようにするための登記です。
抵当権設定登記の必要書類:
- 金銭消費貸借契約書(金融機関との間で締結)
- 抵当権設定契約書
- 印鑑証明書(買主)
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
抵当権設定登記の登録免許税:
- 原則:借入額 × 0.4%
- 軽減措置適用(居住用):借入額 × 0.1%
- 投資用は軽減措置適用外で0.4%
計算例(借入額3,000万円の場合):
- 投資用:3,000万円 × 0.4% = 12万円
(2) 金融機関との調整ポイント
投資用ローンは居住用ローンより金利が高く、審査も厳しい傾向があります。登記手続きで金融機関と調整すべきポイントは以下の通りです:
- ローン実行のタイミング: 決済日当日に実行されるよう調整
- 抵当権設定の範囲: 専有部分と敷地権の両方に設定されるか確認
- 火災保険の加入: 金融機関が指定する火災保険に加入(質権設定)
- 登記完了後の書類提出: 登記事項証明書を金融機関に提出
投資用ローンの審査では、物件の収益性(想定家賃収入)が重視されるため、購入前に収支計画を立てておくことが重要です。
5. 登記にかかる費用・税金と経費計上
(1) 登録免許税の計算方法(軽減措置は適用外)
投資用マンション購入時の登録免許税は、居住用の軽減措置が適用されません(国税庁「不動産を取得したときの税金」)。
所有権移転登記の登録免許税:
- 投資用:固定資産税評価額 × 2.0%
- 居住用(軽減措置適用):固定資産税評価額 × 0.3%
計算例(固定資産税評価額2,000万円の場合):
- 投資用:2,000万円 × 2.0% = 40万円
- 居住用(軽減措置適用):2,000万円 × 0.3% = 6万円
(2) 不動産取得税の計算
不動産取得税は、不動産を取得した際に都道府県に納める税金です。投資用マンションの場合、以下のように計算されます:
不動産取得税の計算:
- 建物:固定資産税評価額 × 3%(一定の軽減措置あり)
- 土地(敷地権):固定資産税評価額 × 1/2 × 3%(軽減措置適用時)
計算例(建物評価額1,000万円、土地評価額1,000万円の場合):
- 建物:1,000万円 × 3% = 30万円
- 土地:1,000万円 × 1/2 × 3% = 15万円
- 合計:45万円
軽減措置の適用要件は複雑なため、不動産会社や税理士に確認することをお勧めします。
(3) 司法書士報酬の相場と経費計上
司法書士報酬は、一般的に5万円~15万円程度です。投資用物件の場合、以下の内訳が一般的です:
- 所有権移転登記:3万円~5万円
- 抵当権設定登記:2万円~5万円
- その他(登記簿取得、調査など):1万円~3万円
経費計上:
投資用マンションの登記費用は、すべて不動産所得の必要経費として計上できます(国税庁「不動産所得と必要経費」)。具体的には:
- 登録免許税:必要経費
- 司法書士報酬:必要経費
- 不動産取得税:必要経費
賃貸開始年度の経費として一括計上するのが一般的です。
(4) 登記費用の減価償却と税務処理
登記費用のうち、登録免許税や司法書士報酬は一括で経費計上するのが一般的です。ただし、取得価額に含めて減価償却することも可能です。
税務処理の選択肢:
- 一括経費計上: 賃貸開始年度に全額を経費計上(一般的)
- 取得価額に含める: 建物の取得価額に含めて減価償却(償却期間が長くなる)
どちらの方法を選ぶかは、その年の収益状況や税金計画によります。税理士に相談して、最適な方法を選びましょう。
6. 賃借人入居中の物件購入時の登記実務
(1) 賃借権の引き継ぎと登記
投資用マンションを購入する際、賃借人が既に入居している(オーナーチェンジ物件)場合があります。この場合、賃借権は新しい所有者に自動的に引き継がれます。
賃借権の引き継ぎ:
- 賃貸借契約は新所有者に承継される(借地借家法の規定)
- 賃借人の同意は不要
- 敷金・保証金も新所有者が引き継ぐ
登記手続き:
賃借権自体は登記されないのが一般的ですが、所有権移転登記により、新しい所有者(賃貸人)が登記されます。賃借人との賃貸借契約は、登記とは別に引き継がれます。
(2) 入居者への通知と登記手続き
賃借人入居中の物件を購入した場合、以下の手続きを行います:
- 賃借人への通知: 所有者が変わったことを書面で通知
- 登記事項証明書の提示: 新しい所有者であることを証明
- 家賃振込先の変更: 新しい口座への振込を依頼
- 敷金・保証金の引き継ぎ確認: 売主から敷金を受領
登記完了後の手続き:
登記完了後、司法書士から登記事項証明書を受け取ったら、コピーを賃借人に送付して、新しい所有者であることを証明します。これにより、賃借人との信頼関係を築くことができます。
まとめ
投資用マンション購入時の登記は、居住用と基本的には同じ手続きですが、登録免許税の軽減措置が適用されない点が大きな違いです。登録免許税は固定資産税評価額の2.0%、抵当権設定登記の登録免許税は借入額の0.4%となります。
個人名義と法人名義の選択では、税制や融資条件、将来の売却計画を総合的に判断する必要があります。登記費用はすべて不動産所得の必要経費として計上でき、賃貸開始年度の経費として一括計上するのが一般的です。
賃借人入居中の物件を購入する場合、賃借権は自動的に引き継がれますが、所有者変更の通知と登記事項証明書の提示を行うことで、賃借人との信頼関係を築くことができます。投資用マンションの登記は専門的な知識が求められるため、司法書士や税理士に相談し、適切な手続きを行うことをお勧めします。