投資用戸建ての固定資産税・都市計画税の基礎知識
投資用戸建てを売却する際、固定資産税・都市計画税の負担期間や精算方法を理解しておくことが重要です。賃貸住宅として利用していれば住宅用地特例が適用され、固定資産税は不動産所得の必要経費として控除できます。売却時の日割り精算金は譲渡対価に含まれる点にも注意が必要です。
この記事の要点
- 固定資産税・都市計画税は毎年1月1日時点の登記簿上の所有者が納税義務者
- 賃貸住宅なら投資用でも住宅用地特例が適用され、200㎡以下は固定資産税評価額1/6に軽減
- 引渡し時に日割り精算するのが慣習(関東は1月1日起算、関西は4月1日起算)
- 固定資産税は不動産所得の必要経費として全額控除可能
- 買主から受け取った精算金は譲渡対価に含まれ、譲渡所得税の計算対象となる
(1) 固定資産税・都市計画税とは
固定資産税
- 課税主体:市町村(東京23区は都)
- 課税対象:土地・家屋・償却資産
- 標準税率:1.4%(自治体により異なる場合あり)
- 納期:年4回(4月・7月・12月・2月が一般的)
都市計画税
- 課税主体:市町村(都市計画区域内のみ)
- 課税対象:土地・家屋
- 税率上限:0.3%
- 目的:都市計画事業・土地区画整理事業の費用
出典:総務省「固定資産税の概要」、総務省「都市計画税の概要」
(2) 投資用不動産における課税の仕組み
投資用戸建ての固定資産税・都市計画税は、居住用と同じ仕組みで課税されます。
課税の基本
- 固定資産税評価額 × 税率(1.4%)= 固定資産税
- 固定資産税評価額 × 税率(0.3%以下)= 都市計画税
- 賃貸住宅として利用していれば住宅用地特例が適用
(3) 納税義務の発生時期
固定資産税・都市計画税の納税義務は、毎年1月1日時点の登記簿上の所有者に発生します。
投資用売却時のタイミング
- 2025年7月に投資用戸建てを売却
- 2025年1月1日時点:自分が所有 → 自分が納税義務者(1年分の納税義務)
- 7月に引渡し → 日割り精算で買主が7月以降の負担分を支払う
年の途中で売却しても、1月1日時点の所有者が1年分を納税し、実務では引渡し時に日割り精算するのが慣習です。
投資用と居住用の固定資産税の違い
(1) 住宅用地の特例と賃貸住宅
投資用でも、賃貸住宅として利用していれば住宅用地特例が適用されます。
住宅用地の特例
- 小規模住宅用地(200㎡以下の部分)
- 固定資産税:課税標準 × 1/6
- 都市計画税:課税標準 × 1/3
- 一般住宅用地(200㎡超の部分)
- 固定資産税:課税標準 × 1/3
- 都市計画税:課税標準 × 2/3
この特例により、賃貸住宅として利用している投資用戸建ても、土地の税負担が大幅に軽減されます。
(2) 投資用でも適用される軽減措置
投資用戸建てでも、以下の軽減措置が適用されます。
適用される措置
- 住宅用地の特例(200㎡以下:1/6、200㎡超:1/3)
- 評価額の経年減価(建物は年々評価額が減少)
適用されない措置
- 新築住宅の減額措置(3年間1/2)→ 居住用のみ適用
- 居住用財産の3,000万円特別控除 → 譲渡所得税の特例で投資用は対象外
(3) 空室期間と特例適用
賃貸住宅として利用している限り、住宅用地特例は適用されます。
特例適用の条件
- 賃貸住宅として利用していること(入居者の有無は問わない)
- 建物が存在すること
特例が適用されないケース
- 建物を取り壊し、更地にした場合
- 長期間空室で、賃貸募集も行っていない場合(自治体の判断による)
空室期間が長い場合は、賃貸募集の証拠(不動産会社との契約書など)を保管しておくことをおすすめします。
投資用戸建て売却時の固定資産税精算
(1) 日割り精算の実務
引渡し時に固定資産税・都市計画税を日割り計算し、買主が売主に残日数分を支払うのが一般的な慣習です。
日割り精算の計算式
買主負担額 = 年税額 × (引渡し日から年末までの日数) / 365日
計算例
- 年税額:20万円(固定資産税16万円 + 都市計画税4万円)
- 引渡し日:2025年7月1日(1月1日起算の場合)
- 残日数:184日(7/1~12/31)
買主負担額 = 20万円 × 184 / 365 = 約10.1万円
(2) 関東(1/1起算)と関西(4/1起算)の違い
日割り精算の起算日は地域により慣習が異なります。
地域 | 起算日 | 計算期間 |
---|---|---|
関東 | 1月1日 | 1月1日~12月31日 |
関西 | 4月1日 | 4月1日~翌年3月31日 |
関西(4月1日起算)の計算例
- 年税額:20万円
- 引渡し日:2025年7月1日
- 残日数:274日(7/1~翌年3/31)
買主負担額 = 20万円 × 274 / 365 = 約15万円
同じ引渡し日でも、起算日により買主負担額が約5万円異なります。売買契約書で起算日を必ず確認しましょう。
(3) 精算金の税務上の扱い
買主から受け取った固定資産税の精算金は、税務上「譲渡対価」に含まれます。
税務処理
- 精算金の受け取り:譲渡所得の収入金額に算入
- 売却までの固定資産税:不動産所得の必要経費に算入
計算例
- 売却価格:3,000万円
- 固定資産税精算金:10万円(買主から受領)
- 譲渡所得の収入金額:3,000万円 + 10万円 = 3,010万円
精算金を受け取った場合は、確定申告時に譲渡所得の収入金額に加算する必要があります。
固定資産税の経費計上と確定申告
(1) 不動産所得の必要経費への算入
投資用戸建ての固定資産税・都市計画税は、不動産所得の必要経費として全額控除できます。
必要経費に算入できる費用
- 固定資産税・都市計画税
- 修繕費
- 減価償却費
- 管理費
- 借入金利子
- 保険料
(2) 売却年度の固定資産税の扱い
売却年度の固定資産税は、売却日までの分を必要経費に算入できます。
経費計上の方法
- 売却日までの固定資産税:不動産所得の必要経費
- 売却日以降の固定資産税(精算金):譲渡所得の収入金額に算入
計算例
- 年税額:20万円
- 売却日:2025年7月1日
- 1月1日~6月30日の分(181日):20万円 × 181 / 365 = 約9.9万円 → 必要経費
- 7月1日~12月31日の分(184日):20万円 × 184 / 365 = 約10.1万円 → 精算金として譲渡所得の収入金額に算入
(3) 経費計上のタイミング
固定資産税は、納税通知書が届いた年度の必要経費として計上します。
経費計上のタイミング
- 納税通知書が届いた年度(4~6月頃)
- 実際の納付時期(年4回の分割払い)は関係なし
例:2025年度の固定資産税
- 2025年4月:納税通知書受領 → 2025年分の必要経費として計上
- 2025年6月~2026年2月:分割納付(4回)→ 納付時期は経費計上に影響しない
賃貸中物件の売却と固定資産税
(1) 賃貸中の売却タイミング調整
賃貸中の投資用戸建てを売却する場合、固定資産税の負担を考慮してタイミングを調整することも可能です。
タイミング調整の例
- 12月末までに売却完了:翌年度の固定資産税負担なし
- 1月以降に売却:1月1日時点で所有 → もう1年分の納税義務(日割り精算で実質的な負担は軽減)
(2) 入居者への影響
賃貸中の売却(オーナーチェンジ)では、入居者への直接的な影響はありません。
入居者への影響
- 賃貸借契約は新オーナーに自動承継される
- 家賃の振込先が変更になる可能性あり(書面通知が必要)
- 固定資産税の負担は入居者には関係なし(オーナー間で精算)
(3) オーナーチェンジと固定資産税
オーナーチェンジでの売却では、固定資産税の精算は通常の売却と同じです。
精算の流れ
- 売主が1年分の固定資産税を納税
- 引渡し時に日割り計算し、買主が残日数分を売主に支払う
- 精算金は譲渡対価に含まれる
賃貸借契約の引継ぎとは別に、固定資産税の精算を行います。
投資用売却時の税務処理と注意点
(1) 譲渡所得税との関係
投資用戸建て売却時、譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得税の計算
譲渡所得 = 収入金額(売却価格 + 精算金)- 取得費 - 譲渡費用
税率
- 短期譲渡所得(5年以下):39.63%(所得税30.63% + 住民税9%)
- 長期譲渡所得(5年超):20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)
投資用は居住用の3,000万円特別控除が使えないため、譲渡所得税の負担が大きくなる傾向があります。
(2) 精算金の譲渡対価への算入
固定資産税の精算金は、譲渡所得の収入金額に算入されます。
計算例
- 売却価格:3,000万円
- 固定資産税精算金:10万円
- 取得費:2,500万円
- 譲渡費用:100万円
譲渡所得 = (3,000万円 + 10万円) - 2,500万円 - 100万円 = 410万円
譲渡所得税(長期譲渡の場合)= 410万円 × 20.315% = 約83万円
精算金を含めないと税額が変わるため、確定申告時には注意が必要です。
(3) 税理士への相談ポイント
投資用戸建て売却時の税務処理は複雑なため、以下の場合は税理士への相談をおすすめします。
税理士への相談が推奨されるケース
- 固定資産税の経費計上と精算金の処理を正確に行いたい場合
- 譲渡所得税の計算が複雑な場合(複数物件の売却、取得費の証明書類が不足など)
- 減価償却費の計算や取得費の算出に不安がある場合
- 確定申告で誤りがあった場合の修正申告
税理士費用は5~15万円程度ですが、適切な税務処理により数十万円以上の税負担軽減が見込めることも多く、投資対効果は高いといえます。
まとめ
投資用戸建て売却時の固定資産税・都市計画税は、1月1日時点の所有者が納税義務者となり、引渡し時に日割り精算するのが慣習です。賃貸住宅なら投資用でも住宅用地特例が適用され、200㎡以下は固定資産税評価額1/6に軽減されます。
固定資産税は不動産所得の必要経費として全額控除でき、売却日までの分は経費計上可能です。買主から受け取った精算金は譲渡対価に含まれ、譲渡所得税の計算対象となります。
日割り精算の起算日は関東1月1日、関西4月1日と地域により異なり、同じ引渡し日でも負担額が変わります。投資用は居住用の3,000万円特別控除が使えないため、譲渡所得税の負担が大きくなる傾向があり、税理士への相談が推奨されます。