住み替え時の中古戸建て売却と相場調査の重要性
家族のライフステージの変化に伴い、住み替えを検討する方は多いでしょう。子供の成長で部屋数が足りなくなったり、親の介護で二世帯住宅が必要になったり、リモートワークの普及で郊外への移住を考えたりと、住み替えの理由は様々です。住み替えでは、現在の中古戸建てを売却し、新しい住まいを購入する必要があるため、適正な売却相場を把握することが資金計画の第一歩となります。
この記事でわかること
- 住み替え時の売却と購入のタイミング調整方法
- 公的データベースを活用した相場調査の具体的手順
- 住み替え売却で利用できる税制優遇措置
- つなぎローンやダブルローンなど資金計画の注意点
(1) 売却と購入のタイミング調整
住み替えの最大の特徴は、「売却」と「購入」の両方を進める必要がある点です。タイミング調整を誤ると、以下のような問題が発生します。
売却と購入のタイミングによる課題
| パターン | メリット | デメリット | 
|---|---|---|
| 売却先行 | 資金計画が確実、売り急がなくて済む | 仮住まいが必要(家賃・引越し費用が2回) | 
| 購入先行 | 引越しが1回で済む、じっくり新居を探せる | ダブルローンのリスク、売却を急ぐ必要 | 
| 同時決済 | 理想的だが実現困難 | タイミング調整の難易度が高い | 
どのパターンを選ぶかによって、売却相場の調査方法や価格設定戦略が変わってきます。売却先行なら時間的余裕があるため相場価格で売却できる可能性が高く、購入先行なら早期売却を優先するため相場より5〜10%安値になることも覚悟する必要があります。
(2) 築年数と土地価格中心の評価
中古戸建ての売却価格は、土地と建物を別々に評価して合算されます。特に築20年を超える木造戸建ての場合、建物の評価がほぼゼロになることも多く、売却価格の大半は土地の価値で決まります。
中古戸建ての評価ポイント
- 築年数: 木造戸建ての法定耐用年数は22年。築20年超は建物評価が大幅減少
- 土地の立地: 最寄り駅からの距離、学校・商業施設などの周辺環境
- 土地の形状: 正方形・長方形が理想。不整形地は減額要因
- 接道状況: 幅員4m以上の公道に2m以上接道が基本。角地は+10〜15%
住み替えで新しい住まいを購入する際、現在の住まいの売却代金が重要な資金源となるため、「楽観的な相場」ではなく「現実的な相場」を把握することが重要です。
住み替え売却の相場を調べる
住み替えでは、売却相場を正確に把握することで、次の住まいの購入予算を現実的に計画できます。ここでは、公的データベースを活用した具体的な調査方法を解説します。
(1) 公的データで相場を把握
国土交通省 不動産取引価格情報検索
最も信頼性が高いのは、国土交通省が提供する「不動産取引価格情報検索」です。実際の成約価格データから、地域別・築年数別の戸建て売却相場を調べることができます。
活用手順:
- 国土交通省のサイトにアクセス
- 物件の所在地(都道府県・市区町村)を選択
- 「宅地(土地と建物)」を選択し、直近1年の取引を検索
- 自分の物件と類似する条件(築年数・土地面積・最寄り駅など)で絞り込み
調査のポイント
- 類似物件の成約価格の最高値・最低値・平均値を確認
- 築年数が近い物件の価格帯を重点的にチェック
- 土地面積あたりの単価(坪単価)を計算して比較
このデータベースで「現実的な成約価格帯」を把握したら、その金額を基に新居の購入予算を計算しましょう。例えば、相場が3,000万円なら、実際の成約価格は2,850〜2,950万円程度になる可能性が高いです。
(2) 成約事例からの価格設定
REINS Market Information(レインズマーケットインフォメーション)
不動産流通機構が運営する「REINS Market Information」では、直近1年の実際の成約価格を確認できます。不動産会社が実際に扱った取引情報なので、よりリアルタイムな相場感を掴めます。
住み替え売却における価格設定の考え方
住み替えでは、売却代金が次の住まいの購入資金になるため、「希望価格」ではなく「確実に売れる価格」を設定することが重要です。
【売却先行の場合】
相場価格: 3,000万円
売出価格: 3,150万円(相場+5%で交渉余地)
成約価格: 2,900〜3,000万円(じっくり交渉可能)
購入予算: 2,900万円を前提に新居を探す
【購入先行の場合】
相場価格: 3,000万円
売出価格: 2,950万円(相場−2〜3%で早期成約狙い)
成約価格: 2,750〜2,850万円(通常より5〜10%安)
購入予算: 2,750万円を前提に新居を決める
購入先行の場合は売却を急ぐことになるため、相場より低めの価格設定が現実的です。新居の購入予算は「最も低い想定成約価格」を基準に計算しましょう。
住み替え売却の税金を理解する
住み替えに伴う売却でも、通常の不動産売却と同様に譲渡所得税がかかります。ただし、住み替えに適した税制優遇措置も用意されています。
(1) 譲渡所得税の計算方法
国税庁の情報によると、譲渡所得税は以下のように計算されます。
基本的な計算式
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
税率
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下): 39.63%(所得税30.63% + 住民税9%)
- 長期譲渡所得(所有期間5年超): 20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)
所有期間の判定
所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定されます。例えば、2020年6月に購入し2025年7月に住み替えで売却した場合、実際には5年1ヶ月所有していますが、売却年の1月1日(2025年1月1日)時点では4年7ヶ月となるため「短期譲渡」に該当します。
短期と長期で税率が約2倍違うため、住み替えのタイミングを数ヶ月調整できるなら、長期譲渡になるまで待つことも検討しましょう。
(2) 3000万円特別控除の活用
マイホーム(居住用財産)を売却する場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。住み替えに伴う売却でもこの特例は利用できます。
適用条件
- 自分が住んでいた家を売却すること
- 住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却すること
- 売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと
住み替え時の注意点
この特例は非常に有利ですが、「住宅ローン控除」との併用ができません。新居で住宅ローン控除を受ける場合は、どちらが得かを計算する必要があります。
例えば、譲渡所得が500万円の場合:
- 3000万円特別控除を利用: 譲渡所得税ゼロ
- 住宅ローン控除を利用: 10年間で最大400万円の税額控除(条件による)
短期的には3000万円特別控除の方が確実に節税できますが、長期的には住宅ローン控除の方が総額で大きくなる可能性もあります。税理士に相談して判断することをおすすめします。
(3) 譲渡損失の繰越控除
住み替えで売却価格が購入価格を下回り損失が出た場合、「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」という税制優遇を利用できます。
制度の内容
- 譲渡損失を給与所得など他の所得から控除できる
- 控除しきれなかった損失は、翌年以降最大3年間(合計4年間)繰り越して控除可能
- 住み替えで新たに住宅ローンを組む場合に利用できる
適用条件
- 所有期間が5年超であること(売却した年の1月1日時点で判定)
- 売却する住宅に住宅ローン残高があるか、新居で新たに住宅ローンを組むこと
- 新居の床面積が50㎡以上であること
この制度を利用すれば、売却で損失が出ても給与所得から控除できるため、所得税・住民税の還付を受けられます。住み替えで損失が出そうな場合は、税理士に相談して適用可能かを確認しましょう。
売却タイミングの判断方法
住み替えでは、売却と購入のどちらを先行させるか、またいつ売却を開始するかが重要な判断ポイントです。
(1) 価格トレンドの分析
不動産価格指数の活用
国土交通省が毎月公表する「不動産価格指数(住宅)」は、戸建て住宅の価格動向を示す客観的なデータです。この指数を確認することで、現在の市場が上昇傾向か下降傾向かを判断できます。
確認ポイント
- 直近1年間の指数の推移(上昇・横ばい・下降)
- 地域別の動向(売却する地域と購入する地域の両方を確認)
- 季節性(2〜3月、9〜10月が繁忙期で成約しやすい)
市場が上昇傾向にあれば、売却を少し待つことで高値で売れる可能性があります。逆に下降傾向であれば、早めに売却を決断する方が得策です。
(2) 売却先行と購入先行の選択
売却と購入のどちらを先行させるかは、以下の要素を考慮して判断しましょう。
売却先行が向いているケース
- 住宅ローン残債が多く、売却代金で完済する必要がある
- 売却代金を新居の頭金に充てる計画である
- 時間的余裕があり、希望価格での売却を優先したい
購入先行が向いているケース
- 自己資金が豊富で、ダブルローンの負担に耐えられる
- 希望エリアに良い物件が出ており、逃したくない
- 子供の学校や仕事の都合で引越し時期が決まっている
同時決済を目指す場合
理想は「売却決済日」と「購入決済日」を同じ日にする「同時決済」ですが、実現は容易ではありません。不動産会社に相談し、売買のスケジュールを調整してもらう必要があります。
住み替えの資金計画と注意点
住み替えでは、売却と購入のタイミングによって様々なコストが発生します。資金計画を立てる際の注意点を解説します。
(1) つなぎローンとダブルローン
つなぎローン
つなぎローンは、新居の購入代金を先に借りて、旧住宅の売却代金が入ったら一括返済する短期借入です。購入先行で同時決済ができない場合に利用します。
つなぎローンの特徴
- 金利: 年2〜4%と高め(通常の住宅ローンの2倍程度)
- 期間: 数ヶ月〜1年程度
- 利息: 数十万円かかることもある
例えば、2,000万円を3ヶ月借りた場合(金利3%):
利息 = 2,000万円 × 3% × 3/12 = 15万円
ダブルローン
ダブルローンは、旧住宅のローンと新住宅のローンが重複する状態です。購入先行で旧住宅が売れるまでの期間、二重の返済負担が発生します。
例えば、旧住宅のローン返済が月8万円、新住宅のローン返済が月10万円の場合、売却が完了するまで月18万円の返済負担となります。
(2) 仮住まいコストの考慮
売却先行の場合、仮住まいが必要になります。仮住まいには以下のコストがかかります。
仮住まいのコスト
- 家賃: 月10〜20万円(地域による)
- 敷金・礼金: 家賃の2〜3ヶ月分
- 引越し費用: 2回分(旧住宅→仮住まい、仮住まい→新住宅)で30〜50万円
仮住まい期間が3ヶ月の場合:
家賃: 15万円 × 3ヶ月 = 45万円
敷金・礼金: 15万円 × 3ヶ月 = 45万円
引越し費用: 40万円
合計: 130万円
仮住まいコストは売却代金から差し引く必要があるため、新居の購入予算を計算する際に忘れずに考慮しましょう。
(3) 資金ショートを防ぐ価格設定
住み替えで最も避けたいのは「資金ショート」です。旧住宅が想定より安く売れて、新居の購入代金が不足する事態を防ぐため、以下の対策が重要です。
資金ショート対策
- 保守的な相場設定: 成約価格は相場の90〜95%と想定
- 諸費用の計算: 仲介手数料・登記費用・税金など売却価格の5〜7%を見込む
- 予備費の確保: 想定外の支出に備えて100〜200万円の予備費
例えば、相場3,000万円の物件を売却する場合:
想定成約価格: 2,850万円(相場の95%)
諸費用: 180万円(6%)
手取り金額: 2,670万円
予備費: 200万円を残す
新居購入に使える金額: 2,470万円
このように保守的に計算し、新居の購入予算を決めることで、資金ショートを防げます。
まとめ
住み替え時の中古戸建て売却では、以下のポイントを押さえて相場調査と資金計画を進めましょう。
- 公的データで現実的な相場を把握: 国土交通省の不動産取引価格情報やREINSで成約事例を確認
- 売却と購入のタイミングを検討: 売却先行か購入先行か、家族の状況と資金状況で判断
- 税制優遇措置を活用: 3,000万円特別控除や譲渡損失の繰越控除を確認
- つなぎローンや仮住まいコストを計算: 資金計画に組み込んで予算を立てる
- 保守的な価格設定: 資金ショートを防ぐため、成約価格は相場の90〜95%と想定
住み替えは売却と購入の両方が関わる複雑なプロセスですが、適正な相場を把握し、現実的な資金計画を立てれば、スムーズに進められます。
