相続したマンション売却で知っておきたいローン・金利の基礎知識
相続したマンションを売却する際、被相続人の住宅ローンが残っている場合の処理や、相続特有の税制について、多くの方が疑問を持たれます。団体信用生命保険の有無、相続登記と抵当権抹消の順序、譲渡所得税の特例など、相続売却には通常の売却とは異なる注意点があります。
この記事では、相続したマンション売却時の住宅ローン処理、団信の役割、税制優遇措置について、公的機関のデータを基に詳しく解説します。
この記事でわかること
- 被相続人の住宅ローン残債の扱いと団信の確認方法
- 団信による弁済と相続人の返済義務
- 取得費加算の特例と空き家特例(3,000万円控除)
- 遺産分割協議と売却タイミングの関係
- 相続登記と抵当権抹消の順序
相続売却マンションのローン・金利関連事項
被相続人の住宅ローン残債の扱い
相続したマンションに被相続人の住宅ローンが残っている場合、まず確認すべきは団体信用生命保険(団信)の有無です。
団信の有無による違い
| 状況 | 残債の扱い | 相続人の対応 | 
|---|---|---|
| 団信あり | 保険で完済される | 残債なし、抵当権抹消手続きのみ | 
| 団信なし | 債務も相続される | 相続人が返済義務を負う | 
金融庁の「住宅ローンの相続」によれば、団信が付保されている場合、被相続人の死亡により保険金でローンが完済され、相続人に返済義務は発生しません。
団信未付保の場合
- 相続人が残債を引き継ぐ
- 売却代金で完済するか、相続放棄を検討
- 売却価格が残債を下回る場合、不足分を自己資金で補填が必要
団体信用生命保険の確認(付保されているか)
相続発生時に、まず金融機関に団信の付保状況を確認します。
確認手順
- 金融機関への連絡: 被相続人が借入していた金融機関に死亡の事実を連絡
- 団信の確認: 団信が付保されているか確認
- 保険金請求: 団信ありの場合、金融機関が保険金請求を行う
- 完済証明: 保険金でローンが完済されたことの証明書を受領
- 抵当権抹消: 完済後、抵当権抹消登記を実施
必要書類
- 死亡診断書
- 戸籍謄本(被相続人と相続人の関係がわかるもの)
- 住民票の除票(被相続人)
- 相続人の印鑑証明書
団信の保険金支払いには、通常1〜2ヶ月程度かかります。
団体信用生命保険と相続時の債務
団信による弁済と相続人の返済義務
団信が付保されている場合、相続人に返済義務は発生しません。
団信による弁済の流れ
- 被相続人の死亡
- 相続人が金融機関に連絡
- 金融機関が保険会社に保険金請求
- 保険金でローン完済
- 抵当権抹消
- 相続人が無担保のマンションを相続
団信の種類と保障内容
| 団信の種類 | 保障内容 | 
|---|---|
| 一般団信 | 死亡・高度障害時にローン完済 | 
| 3大疾病団信 | がん・脳卒中・急性心筋梗塞でもローン完済 | 
| 8大疾病団信 | 上記に加え5つの生活習慣病も保障 | 
被相続人がどの団信に加入していたかは、金融機関に確認する必要があります。
団信未付保の場合の債務相続
団信が付保されていない場合、相続人は債務も相続します。
対応の選択肢
- 売却代金で完済: マンションを売却し、その代金でローンを完済
- 自己資金で完済: 相続人が自己資金で完済し、無担保のマンションを相続
- 相続放棄: 債務が多い場合、相続放棄を検討
- 限定承認: 相続財産の範囲内で債務を引き継ぐ
相続放棄の注意点
- 相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述
- 相続放棄すると、マンションだけでなく全ての相続財産を放棄
- 他の相続人がいる場合、その人に相続権が移る
法務省の「遺産分割協議と不動産売却」によれば、債務が相続財産を上回る場合、相続放棄または限定承認を検討することが推奨されています。
相続売却マンションの税制と金利の関係
取得費加算の特例活用(相続税申告期限3年以内)
国税庁の「相続税の取得費加算の特例」によれば、相続税を支払った人が相続財産を一定期間内に売却した場合、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できます。
特例の適用条件
- 相続または遺贈により財産を取得した人
- 相続税を納付している
- 相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却
取得費加算額の計算
取得費加算額 = 支払った相続税額 × (売却したマンションの相続税評価額 ÷ 相続財産の合計額)
具体例
- 相続税: 500万円
- マンションの相続税評価額: 2,000万円
- 相続財産の合計額: 5,000万円
- 取得費加算額: 500万円 × (2,000万円 ÷ 5,000万円)= 200万円
この200万円を譲渡所得の取得費に加算できるため、譲渡所得が減り、税負担が軽減されます。
空き家特例の適用条件(3,000万円控除)
国税庁の「空き家特例」によれば、被相続人が居住していた家屋を相続人が売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。
適用条件
- 被相続人が1人で居住していた家屋(マンションも対象)
- 1981年5月31日以前に建築された家屋、または耐震基準を満たすもの
- 相続開始の直前まで被相続人が居住
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却価格が1億円以下
- 家屋を取り壊して売却するか、耐震リフォーム後に売却
控除額
- 最大3,000万円を譲渡所得から控除
- 譲渡所得が3,000万円以下なら、譲渡所得税はゼロ
マンションの場合の注意点
- マンションは「区分所有建物」のため、家屋部分のみが対象
- 耐震基準を満たす必要がある(1981年6月1日以降の建築なら通常は満たす)
- 取り壊しができないため、耐震基準を満たしているか確認が重要
空き家特例と取得費加算の特例は併用できないため、どちらが有利か計算して選択する必要があります。
遺産分割協議と売却タイミング
遺産分割協議の完了が売却の前提
法務省の「遺産分割協議と不動産売却」によれば、不動産売却には相続人全員の同意が必要です。
遺産分割協議の流れ
- 相続人の確定: 戸籍謄本で相続人を確認
- 遺産分割協議: 相続人全員で遺産の分け方を話し合い
- 遺産分割協議書の作成: 合意内容を書面化、相続人全員が署名・押印
- 相続登記: マンションの名義を相続人に変更
- 売却手続き: 名義変更後に売却
遺産分割協議が整わない場合
- 調停・審判で解決
- 売却できないため、管理費・修繕積立金の負担が続く
- 固定資産税も相続人が負担
代償金の支払いと売却代金
遺産分割で特定の相続人がマンションを取得する場合、他の相続人に代償金を支払うケースがあります。
代償金の仕組み
- 相続人Aがマンションを取得
- 相続人B・Cに代償金を支払う
- マンションを売却し、その代金から代償金を支払う
具体例
- マンション評価額: 3,000万円
- 相続人: A・B・Cの3人(法定相続分1/3ずつ)
- Aがマンションを取得、B・Cに各1,000万円の代償金を支払う
- マンション売却価格: 2,800万円
- 代償金支払い: B・Cに各933万円(売却価格の1/3)
代償金を売却代金から支払う場合、売却価格が想定より低いと代償金が不足するリスクがあります。
相続売却で注意すべき金利・ローン事項
相続不動産の取得費計算
国税庁の「相続不動産の売却」によれば、相続したマンションの取得費は、被相続人が取得した時の価格を引き継ぎます。
取得費の計算
- 被相続人の取得価格: 購入時の価格 - 減価償却費
- 相続時の価格ではない
- 購入時の契約書が残っていない場合、売却価格の5%を取得費とする
減価償却費の計算
- 非事業用の場合: 取得価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
- マンション(鉄筋コンクリート造)の償却率: 0.015
具体例
- 被相続人の取得価格: 3,000万円(30年前)
- 減価償却費: 3,000万円 × 0.9 × 0.015 × 30年 = 1,215万円
- 取得費: 3,000万円 - 1,215万円 = 1,785万円
譲渡所得の計算
- 売却価格: 2,500万円
- 取得費: 1,785万円
- 譲渡費用: 100万円(仲介手数料など)
- 譲渡所得: 2,500万円 - 1,785万円 - 100万円 = 615万円
- 譲渡所得税: 615万円 × 20.315%(長期譲渡) = 約124.9万円
取得費加算の特例や空き家特例を活用することで、税負担を大幅に軽減できます。
相続登記と抵当権抹消の順序
相続したマンションを売却する際の登記手続きの順序は以下の通りです。
登記手続きの流れ
- 相続登記: 被相続人から相続人への所有権移転登記
- 抵当権抹消: ローンが完済されている場合、抵当権抹消登記
- 所有権移転登記: 相続人から買主への所有権移転登記
団信で完済された場合
- 相続登記(被相続人 → 相続人)
- 抵当権抹消(団信の保険金で完済)
- 売買による所有権移転登記(相続人 → 買主)
団信未付保で売却代金で完済する場合
- 相続登記(被相続人 → 相続人)
- 売買による所有権移転登記(相続人 → 買主)と同時に抵当権抹消
登記費用
- 相続登記: 登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)+ 司法書士報酬(5〜10万円)
- 抵当権抹消: 登録免許税(不動産1個につき1,000円)+ 司法書士報酬(1〜2万円)
相続登記は2024年4月から義務化され、相続開始を知った日から3年以内に登記しないと過料(10万円以下)が科される可能性があります。
主要金融機関の商品比較と選び方
相続したマンションを売却する場合、通常は新たに住宅ローンを組むことはありませんが、以下のケースでは金融商品の知識が必要です。
金融商品が関係するケース
- 残債がある場合のつなぎ融資: 売却代金で完済するまでの短期融資
- 代償金の支払い: 代償金を支払うための借入
- 相続人が住み続ける場合: 他の相続人の持分を買い取るための住宅ローン
つなぎ融資の特徴
- 金利: 2〜4%(通常の住宅ローンより高い)
- 期間: 3〜6ヶ月程度
- 用途: 売却代金受領前の残債完済
代償金支払いのための借入
- 無担保ローン(フリーローン): 金利3〜10%
- 住宅ローン(持分買取): 金利0.3〜2.0%(相続人が住み続ける場合)
相続売却では、税制優遇措置を最大限活用し、税負担を軽減することが重要です。専門家(税理士・司法書士・不動産会社)に相談しながら、最適な売却プランを立てましょう。
まとめ
相続したマンションを売却する際は、団信の有無、税制優遇措置、遺産分割協議、相続登記など、通常の売却とは異なる注意点があります。
重要なポイントは以下の通りです。
- 団信の確認: 団信ありなら保険で完済、相続人の負担なし。未付保なら債務も相続
- 税制優遇: 取得費加算の特例(3年以内)または空き家特例(3,000万円控除)を活用
- 遺産分割協議: 相続人全員の同意が売却の前提、代償金の扱いに注意
- 相続登記: 2024年4月から義務化、3年以内に登記しないと過料の可能性
- 取得費計算: 被相続人の取得価格を引き継ぐ、減価償却費を差し引く
相続売却は手続きが複雑で、税負担も大きくなる可能性があります。税理士や司法書士、不動産会社などの専門家に相談し、最適な売却戦略を立てることをおすすめします。
よくある質問
被相続人の住宅ローンが残っている場合、相続人が返済しなければいけませんか?
団信(団体信用生命保険)が付保されていれば、保険金でローンが完済され、相続人の負担はありません。団信未付保の場合は債務も相続するため、相続人に返済義務があります。この場合、売却代金でローンを完済するか、相続放棄を検討する必要があります。売却価格が残債を下回る場合、不足分を自己資金で補填する必要があります。
相続税を支払った後に売却すると税金が安くなると聞きましたが本当ですか?
本当です。取得費加算の特例により、相続税の申告期限から3年以内に売却すれば、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算でき、税負担が軽減されます。例えば、相続税500万円、マンションの相続税評価額2,000万円、相続財産合計5,000万円の場合、200万円を取得費に加算できます。この特例を活用するには、期限内に売却することが重要です。
複数の相続人がいる場合、全員の同意がないと売却できませんか?
できません。不動産売却には相続人全員の同意が必要です。遺産分割協議で売却を決定し、代表者が手続きを行うか、共同名義で売却契約を結びます。遺産分割協議が整わない場合、調停・審判で解決する必要がありますが、その間は売却できず、管理費・修繕積立金・固定資産税の負担が続きます。早期に協議をまとめることが重要です。
空き家特例とはどのような制度ですか?
被相続人が居住していた家屋を相続人が売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できる制度です。マンションも対象ですが、1981年6月1日以降の建築(耐震基準を満たす)、相続開始から3年以内の売却、売却価格1億円以下などの条件があります。譲渡所得が3,000万円以下なら譲渡所得税はゼロになるため、大幅な税負担軽減が可能です。取得費加算の特例とは併用できないため、どちらが有利か計算して選択しましょう。
