マンション売却で知っておきたい住宅ローン金利の基礎
マンション売却を検討する際、多くの方が気になるのが住宅ローンの残債処理と金利の関係です。変動金利と固定金利の違い、繰上返済手数料、つなぎ融資の活用など、売却時には金利に関するさまざまな選択肢と注意点があります。
この記事では、マンション売却時の住宅ローン金利・商品比較、残債処理の実務、繰上返済手数料の比較について、公的機関のデータを基に詳しく解説します。
この記事でわかること
- マンション売却時に金利が影響する場面と残債処理の流れ
- 変動金利と固定金利の特徴と売却時の注意点
- 繰上返済手数料の金融機関別比較と一括返済の実務
- つなぎ融資・住み替えローンの金利水準と利息負担
- 金利動向と売却タイミングの関係
マンション売却時の住宅ローン金利の基礎知識
売却時に金利が影響する場面
マンション売却では、以下の場面で住宅ローンの金利が影響します。
主な影響場面
- 残債の一括返済: 売却代金でローンを完済する際、繰上返済手数料が発生
- つなぎ融資: 売却前に新居を購入する場合、つなぎ融資の金利負担(1.5〜3.0%)
- 住み替えローン: 残債がある状態で新居を購入する際の金利上乗せ
- 固定金利期間中の解約: 固定金利特約期間中の一括返済で違約金が発生する場合あり
全国銀行協会の「住宅ローンの基礎知識」によれば、売却時の金利負担を最小限に抑えるためには、事前に繰上返済手数料や違約金を確認しておくことが重要です。
残債処理と抵当権抹消の流れ
マンション売却時の住宅ローン残債処理の基本的な流れは以下の通りです。
処理の流れ
- 残債確認: 金融機関にローン残高を照会(売却決定時)
- 繰上返済申込: 売却代金決済日の1〜2週間前に一括返済を申込
- 決済当日: 売却代金でローンを完済
- 抵当権抹消: 完済後、金融機関から抵当権抹消書類を受領
- 登記手続き: 司法書士が抵当権抹消登記を実施
抵当権抹消の費用
- 登録免許税: 不動産1物件につき1,000円
- 司法書士報酬: 1〜2万円程度
住宅金融支援機構の資料によれば、抵当権抹消は売却代金決済と同時に行うのが一般的で、買主への引渡し前に完了させる必要があります。
変動金利と固定金利の特徴と売却時の影響
変動金利の仕組みとメリット・デメリット
全国銀行協会のデータによれば、変動金利は市場金利に連動して半年ごとに見直されます。
変動金利の特徴
- 金利水準: 0.3〜0.5%(2025年1月現在)
- 金利見直し: 半年ごと
- 返済額の変更: 5年ごと(5年ルール)
- 返済額の上限: 前回の1.25倍まで(1.25倍ルール)
メリット
- 初期金利が低く、返済負担が軽い
- 金利が上がらなければ、総返済額が最も少ない
- 繰上返済手数料が無料の商品が多い
デメリット
- 金利上昇リスクがある
- 売却タイミングで金利が上がっていると、残債が想定より多い可能性
固定金利の仕組みとメリット・デメリット
固定金利は、一定期間金利が変わらないタイプです。
固定金利の特徴
- 金利水準: 10年固定1.0〜1.5%、35年固定1.8〜2.0%(2025年1月現在)
- 固定期間: 2年・3年・5年・10年・全期間など選択可能
- 固定期間終了後: 変動金利または再固定を選択
メリット
- 返済額が確定し、残債計算がしやすい
- 金利上昇リスクがない
- 売却時期を計画的に決められる
デメリット
- 変動金利より金利が高い
- 固定期間中の一括返済で違約金が発生する場合がある
- 繰上返済手数料が変動金利より高いことが多い
日本銀行の「住宅ローン金利の推移」によれば、過去5年の金利推移は低水準で推移していますが、2024年以降は緩やかな上昇傾向が見られます。
売却時の金利タイプ別注意点
売却時の金利タイプ別の注意点は以下の通りです。
| 金利タイプ | 売却時の注意点 | 
|---|---|
| 変動金利 | 金利上昇局面では残債が想定より多い可能性。繰上返済手数料は無料が多い | 
| 10年固定 | 固定期間中の一括返済で違約金が発生する場合あり。事前に確認が必須 | 
| 全期間固定 | 残債計算がしやすく売却計画が立てやすい。繰上返済手数料は要確認 | 
金融庁の「繰上返済手数料の比較」によれば、売却時の金利負担を抑えるには、繰上返済手数料が無料または低額の商品を選ぶことが推奨されています。
売却時のローン一括返済と繰上返済手数料
繰上返済手数料の金融機関別比較
繰上返済手数料は金融機関により大きく異なります。
主要金融機関の繰上返済手数料(全額繰上返済)
| 金融機関 | 変動金利 | 固定金利 | 
|---|---|---|
| 三菱UFJ銀行 | 16,500円(窓口)、無料(ネット) | 33,000円(窓口)、16,500円(ネット) | 
| 三井住友銀行 | 22,000円(窓口)、5,500円(ネット) | 33,000円(窓口)、11,000円(ネット) | 
| みずほ銀行 | 33,000円(窓口)、無料(ネット) | 33,000円(窓口)、11,000円(ネット) | 
| 住信SBIネット銀行 | 無料 | 無料 | 
| auじぶん銀行 | 無料 | 無料 | 
| 楽天銀行 | 無料 | 無料 | 
出典: 各金融機関の公式サイト(2025年1月現在)
ポイント
- ネット銀行は繰上返済手数料が無料のところが多い
- メガバンクでもネット手続きなら手数料が安い
- 固定金利は変動金利より手数料が高い傾向
固定金利期間中の中途解約違約金
固定金利特約期間中に一括返済する場合、違約金が発生することがあります。
違約金の仕組み
- 固定金利期間中の一括返済: 金融機関が想定していた利息収入が失われるため違約金を請求
- 違約金の額: 金融機関により異なり、数万円〜数十万円のケースも
- 計算方法: 残債×一定率、または固定期間残月数に応じた計算
具体例
- 10年固定金利、5年経過時点で売却
- 残債: 2,500万円
- 違約金: 2,500万円 × 1% = 25万円(金融機関により異なる)
金融庁の資料によれば、固定金利期間中の売却を検討する場合、事前に金融機関に違約金の有無と金額を確認することが必須です。
一括返済のタイミングと実務手続き
一括返済の実務手続きは以下の流れで進めます。
手続きの流れ
- 売却決定: 買主との売買契約締結
- 残債照会: 金融機関にローン残高を照会(決済日1〜2ヶ月前)
- 繰上返済申込: 決済日の1〜2週間前に一括返済を申込
- 必要書類の準備: 繰上返済申込書、印鑑証明書など
- 決済当日: 売却代金でローンを完済
- 抵当権抹消書類受領: 金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受領
注意点
- 一括返済の申込期限は金融機関により異なる(1週間前〜2週間前)
- 決済日と一括返済日を合わせる必要がある
- 繰上返済手数料は売却代金から支払う
売却関連の融資商品(つなぎ融資・住み替えローン)
つなぎ融資の金利と利用条件
住宅金融支援機構の「つなぎ融資・住み替えローン」によれば、つなぎ融資は売却代金受領前に新居購入資金を借りる短期融資です。
つなぎ融資の特徴
- 金利: 1.5〜3.0%(通常の住宅ローンより高い)
- 期間: 3〜6ヶ月程度
- 返済方法: 期間中は利息のみ返済、期限到来時に元金を一括返済
- 融資額: 旧マンションの売却見込み額の範囲内
利用条件
- 旧マンションの売却が確実に見込まれること
- 新居購入の住宅ローン審査に通っていること
- つなぎ融資と新居の住宅ローンを同じ金融機関で借りること(通常)
住み替えローンの仕組みと金利水準
住み替えローンは、旧マンションの残債を新居のローンに上乗せして借りる商品です。
仕組み
- 旧マンション残債: 2,000万円
- 旧マンション売却価格: 1,800万円
- 不足額: 200万円
- 新居購入価格: 3,500万円
- 住み替えローン総額: 3,500万円 + 200万円 = 3,700万円
金利水準
- 通常の住宅ローンと同水準、または若干高め
- 変動金利: 0.4〜0.7%
- 固定金利: 1.6〜2.3%
審査条件
- 年収基準が厳しめ(500万円以上が目安)
- 新居の担保評価が高いこと
- 返済負担率が30〜35%以内
利息負担の具体的計算例
つなぎ融資の利息負担を具体的に計算してみましょう。
ケース1: 短期間のつなぎ融資
- 借入額: 3,000万円
- 金利: 2.0%
- 期間: 4ヶ月
- 利息: 3,000万円 × 2.0% × 4/12 = 約20万円
ケース2: 長期化したつなぎ融資
- 借入額: 3,000万円
- 金利: 2.5%
- 期間: 8ヶ月
- 利息: 3,000万円 × 2.5% × 8/12 = 約50万円
つなぎ融資は期間が長引くほど利息負担が増大するため、旧マンションの売却スケジュールを慎重に見極める必要があります。
金利動向と売却タイミングの関係
過去5年の金利推移データ
日本銀行の「住宅ローン金利の推移」によれば、過去5年の金利推移は以下の通りです。
変動金利の推移
- 2020年1月: 0.5〜0.6%
- 2021年1月: 0.4〜0.5%
- 2022年1月: 0.4〜0.5%
- 2023年1月: 0.3〜0.5%
- 2024年1月: 0.3〜0.5%
- 2025年1月: 0.3〜0.5%
固定金利(10年)の推移
- 2020年1月: 0.8〜1.2%
- 2021年1月: 0.7〜1.1%
- 2022年1月: 0.8〜1.2%
- 2023年1月: 1.0〜1.4%
- 2024年1月: 1.0〜1.5%
- 2025年1月: 1.0〜1.5%
金利は2020年から2022年にかけて低水準で推移していましたが、2023年以降は緩やかな上昇傾向が見られます。
金利上昇局面での売却判断
金利上昇局面では、以下の点を考慮して売却判断を行います。
変動金利の場合
- 金利上昇により残債が想定より多くなる可能性
- 早めの売却で金利負担を抑える
- 繰上返済手数料が無料なら、タイミングを柔軟に選べる
固定金利の場合
- 残債が確定しているため、売却計画が立てやすい
- 固定期間中の売却は違約金に注意
- 固定期間終了前後での売却がコスト面で有利
市場動向との関係
- 金利上昇局面: 不動産価格が下落する傾向、早めの売却が有利な場合も
- 金利低下局面: 買い手が増え、不動産価格が上昇する傾向
全国銀行協会の資料によれば、金利動向と不動産市場の動向を総合的に判断し、売却タイミングを決めることが推奨されています。
残債がある場合の売却実務と注意点
売却価格が残債を下回る場合の対応
売却価格がローン残債を下回る場合(オーバーローン)、以下の対応が必要です。
対応方法
- 自己資金で補填: 不足分を預貯金などで一括返済
- 無担保ローンで対応: 不足分を無担保ローン(フリーローンなど)で借りる
- 住み替えローン: 新居購入時に不足分を上乗せして借りる
- 金融機関との交渉: 分割返済などを相談(承認されない場合も多い)
具体例
- ローン残債: 2,500万円
- 売却価格: 2,200万円
- 不足額: 300万円
不足額300万円を自己資金で補填できない場合、無担保ローン(金利3〜10%)で借りる必要があります。
注意点
- オーバーローン状態では、抵当権を抹消できないため売却不可
- 事前に金融機関に相談し、対応策を確認する
- 住み替えローンは審査が厳しく、年収や勤続年数の基準が高い
抵当権抹消のタイミングと費用
抵当権抹消は、ローン完済後に行う登記手続きです。
タイミング
- 売却代金決済と同時に行うのが一般的
- 買主への引渡し前に完了させる必要あり
- 司法書士が立ち会い、即日で手続き完了
費用
- 登録免許税: 不動産1物件につき1,000円
- 司法書士報酬: 1〜2万円程度
- 合計: 1.1〜2.1万円程度
必要書類
- 金融機関から受領: 抵当権抹消登記申請書、登記済証または登記識別情報通知、委任状
- 本人が準備: 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
住宅金融支援機構の資料によれば、抵当権抹消は売却代金決済と同日に行うため、事前に司法書士と金融機関に日程調整を行うことが重要です。
まとめ
マンション売却時の住宅ローン処理では、金利タイプ、繰上返済手数料、つなぎ融資の活用、残債処理の方法など、さまざまな選択肢と注意点があります。
重要なポイントは以下の通りです。
- 金利タイプ: 変動金利は繰上返済手数料無料が多く売却時に有利、固定金利は違約金に注意
- 繰上返済手数料: ネット銀行は無料が多い、メガバンクはネット手続きで節約可能
- つなぎ融資: 金利1.5〜3.0%、期間が長引くと利息負担が増大
- 残債処理: 売却価格が残債を下回る場合、自己資金または無担保ローンで補填が必要
- 抵当権抹消: 売却代金決済と同時に行い、費用は1.1〜2.1万円程度
マンション売却は金利負担や手数料を考慮した計画的な準備が必要です。金融機関や不動産会社と密に連携し、最適な売却プランを立てましょう。
よくある質問
繰上返済手数料はどの銀行が安いですか?
ネット銀行は繰上返済手数料が無料のところが多く、住信SBIネット銀行、auじぶん銀行、楽天銀行などが代表例です。メガバンクでもネット手続きなら手数料が安くなり、三菱UFJ銀行や みずほ銀行は変動金利なら無料です。固定金利は変動金利より手数料が高い傾向があるため、売却時の諸費用として事前に確認が必要です。
固定金利期間中に売却すると違約金がかかりますか?
固定金利特約期間中の一括返済では、違約金が発生する場合があります。違約金の額は金融機関により異なり、数万円から数十万円のケースもあります。計算方法は残債×一定率、または固定期間残月数に応じた計算が一般的です。売却を検討する場合、事前に金融機関に違約金の有無と金額を確認することが必須です。
つなぎ融資の利息負担はどのくらいですか?
例えば3,000万円を金利2.0%、期間4ヶ月借りた場合、利息は約20万円です。期間が8ヶ月に長引くと利息は約50万円となり、期間が長いほど負担が増大します。つなぎ融資の金利は通常の住宅ローン(0.3-0.5%)より高く1.5-3.0%程度のため、旧マンションの売却スケジュールを慎重に見極め、できるだけ短期間で売却することが重要です。
売却価格が残債を下回る場合はどうすればいいですか?
不足分を自己資金で補填するか、無担保ローン(フリーローンなど)で対応します。例えば、ローン残債2,500万円、売却価格2,200万円の場合、不足額300万円を補填する必要があります。住み替えを検討している場合、新居購入時に不足分を上乗せする「住み替えローン」も選択肢ですが、審査が厳しく年収500万円以上が目安です。金融機関との事前相談が必須です。
