住み替えマンション購入時の相続税・贈与税の基礎
住み替えでマンションを購入する際、親からの資金援助を検討している方も多いのではないでしょうか。親や祖父母からの住宅購入資金の贈与には、最大1,000万円まで非課税となる特例があり、うまく活用することで大幅な節税が可能です。この記事では、住み替え時に利用できる相続税・贈与税の特例と注意点を解説します。
この記事のポイント:
- 住宅取得資金贈与の非課税特例で最大1,000万円まで贈与税が非課税
- 相続時精算課税制度を使えば2,500万円まで贈与税が非課税(相続時に精算)
- 売却先行・購入先行のタイミングで資金の流れが変わる
- 旧居売却時の3,000万円特別控除と贈与税非課税は併用可能
- 贈与を受けた翌年3月15日までに確定申告が必須
(1) 相続税と贈与税の基本的な仕組み
相続税:
相続税は、被相続人(亡くなった方)の財産を相続した際に課される税金です。国税庁によると、基礎控除額は以下の通りです。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が3人の場合、基礎控除額は4,800万円となり、相続財産がこれを超えた部分に相続税が課税されます。
贈与税:
贈与税は、個人から財産をもらったときに課される税金です。暦年課税の基礎控除は年110万円で、これを超える部分に贈与税が課税されます。
ただし、住宅購入資金の贈与には特例があり、親や祖父母からの贈与であれば最大1,000万円まで非課税となります。
(2) 住み替えと買い替えの違い
住み替えには、転勤、子供の成長、親との同居など様々な理由があります。
住み替えのパターン:
- 売却先行:旧居を売却してから新居を購入(仮住まいが必要)
- 購入先行:新居を購入してから旧居を売却(資金に余裕が必要)
- 同時進行:売却と購入を同時に行う(タイミング調整が重要)
住み替えのタイミングによって、親からの資金援助の必要性や金額が変わります。売却代金で新居購入資金の全額を賄えない場合、親からの贈与や住宅ローンを組み合わせることになります。
親からの資金援助と住宅取得資金贈与の非課税特例
(1) 住宅取得資金贈与の非課税特例(最大1,000万円)
親や祖父母から住宅購入資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税となる特例があります。
国税庁によると、非課税枠は以下の通りです。
非課税枠(2024年1月1日以降):
- 省エネ等住宅:1,000万円
- 一般住宅:500万円
省エネ等住宅とは、省エネ基準適合住宅、耐震等級2以上または免震建築物、バリアフリー住宅などを指します。
計算例:
親から1,500万円の住宅購入資金贈与を受けた場合(省エネ等住宅)
- 非課税枠:1,000万円
- 課税対象:1,500万円 − 1,000万円 = 500万円
- 暦年課税の基礎控除:110万円
- 贈与税の課税対象:500万円 − 110万円 = 390万円
- 贈与税額:390万円 × 15% − 10万円 = 48.5万円
非課税枠を活用することで、大幅な節税が可能です。
(2) 適用要件(床面積・所得制限・新築/中古の違い)
住宅取得資金贈与の非課税特例を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
受贈者の要件:
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上
- 贈与者の直系卑属(子・孫)
- 贈与を受けた年の所得が2,000万円以下(床面積40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)
住宅の要件:
- 床面積が40㎡以上240㎡以下
- 中古住宅の場合、新耐震基準に適合(1982年1月1日以降建築、または耐震基準適合証明書等あり)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住開始または居住見込み
住み替えで購入するマンションがこれらの要件を満たすか、事前に確認することが重要です。
(3) 贈与のタイミング(契約時・引渡時)と申告手続き
贈与のタイミングは、住宅の取得時期によって制限されます。
贈与の時期:
- 住宅の取得契約締結前に贈与を受けることが原則
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに新居に居住開始または居住見込みであること
申告手続き:
贈与税が非課税となる場合でも、確定申告は必須です。
- 申告期限:贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日
- 申告先:受贈者の住所地の税務署
- 必要書類:贈与税申告書、戸籍謄本、売買契約書の写し、登記事項証明書など
申告を忘れると非課税特例が適用されず、通常の贈与税が課税されるため注意が必要です。
相続時精算課税制度と住み替え資金計画
(1) 相続時精算課税制度の仕組み(2,500万円まで非課税)
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、2,500万円まで贈与税が非課税となる制度です。
制度の特徴:
- 累計2,500万円まで贈与税が非課税
- 2,500万円を超えた部分は一律20%の贈与税
- 相続時に贈与額を相続財産に加算して相続税を計算
- 一度選択すると撤回不可(暦年課税に戻れない)
計算例:
親から3,000万円の住宅購入資金贈与を受けた場合
- 非課税枠:2,500万円
- 課税対象:3,000万円 − 2,500万円 = 500万円
- 贈与税:500万円 × 20% = 100万円
相続時に、この3,000万円が相続財産に加算されて相続税が計算されます。既に支払った贈与税100万円は相続税から控除されます。
(2) 暦年贈与との選択判断基準
相続時精算課税制度と暦年贈与は、どちらか一方を選択する必要があります。
相続時精算課税が有利なケース:
- 短期間で大きな金額を贈与したい
- 将来の相続財産が基礎控除額以下になる見込み
- 親の年齢が高く、相続が近い可能性がある
暦年贈与が有利なケース:
- 長期間にわたって少しずつ贈与したい
- 将来の相続財産が大きく、相続税が課税される見込み
- 親の年齢が若く、長期的な贈与計画が可能
どちらが有利かは、親の財産額、相続税の見込み、贈与する金額などによって異なります。税理士に相談してシミュレーションすることをお勧めします。
(3) 住み替えローンと贈与資金の併用パターン
住み替え時には、売却代金、親からの贈与、住宅ローンを組み合わせて資金計画を立てることが一般的です。
併用パターン例:
新居購入価格:5,000万円の場合
- 旧居売却代金:3,000万円
- 親からの贈与:1,000万円(非課税枠内)
- 住宅ローン:1,000万円
このように組み合わせることで、住宅ローンの借入額を減らし、将来の返済負担を軽減できます。
住み替え特有の売却・購入タイミングと税制優遇
(1) 売却先行・購入先行による贈与税の影響
住み替えのタイミングによって、資金の流れが変わります。
売却先行の場合:
- 旧居を売却(売却代金を取得)
- 仮住まいに転居
- 親から贈与を受ける
- 売却代金+贈与資金+住宅ローンで新居を購入
購入先行の場合:
- 親から贈与を受ける
- 贈与資金+つなぎ融資で新居を購入
- 新居に転居
- 旧居を売却し、売却代金でつなぎ融資を返済
どちらの場合も、贈与税の非課税特例は適用できます。ただし、贈与のタイミングは「住宅の取得契約締結前」が原則であるため、購入先行の方がタイミング調整しやすい場合があります。
(2) 旧居売却益と新居購入の資金計画
旧居の売却益は、新居購入資金として自由に使えます。
資金計画の例:
- 旧居購入価格:3,000万円
- 旧居売却価格:4,000万円
- 売却益:1,000万円(諸費用控除後)
- 新居購入価格:5,500万円
資金計画:
- 旧居売却代金:4,000万円
- 親からの贈与:1,000万円(非課税枠内)
- 住宅ローン:500万円
このように、売却益を新居購入資金に充てることで、住宅ローンの借入額を抑えられます。
(3) 買換え特例と贈与税非課税の併用可否
旧居売却時の特例(3,000万円特別控除や買換え特例)と、新居購入時の贈与税非課税特例は、別の税金(譲渡所得税と贈与税)に関する制度のため、併用可能です。
併用可能な組み合わせ:
- 旧居売却:3,000万円特別控除を適用(譲渡所得税ゼロ)
- 新居購入:住宅取得資金贈与の非課税特例を適用(贈与税ゼロ)
- 新居購入:住宅ローン控除を適用(所得税・住民税の控除)
これらを組み合わせることで、住み替え全体の税負担を大幅に軽減できます。
小規模宅地等の特例と住み替え購入
(1) 相続した土地を売却して住み替える場合
親から相続した土地や実家を売却し、その売却代金で住み替えマンションを購入するケースもあります。
このケースでの税金:
- 相続時:相続税(小規模宅地等の特例で評価額最大80%減)
- 売却時:譲渡所得税(3,000万円特別控除で軽減可能)
- 購入時:贈与税(親から追加資金援助を受ける場合)
各段階で適切な特例を活用することで、税負担を抑えられます。
(2) 小規模宅地等の特例(評価額最大80%減額)の適用要件
小規模宅地等の特例は、相続税の計算時に、一定の土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
特例の要件(居住用宅地の場合):
- 被相続人の居住用宅地であること
- 面積330㎡まで適用
- 配偶者または同居親族が相続すること
- 相続税の申告期限まで所有・居住継続すること
評価額の例:
- 相続時の土地評価額:5,000万円(330㎡)
- 小規模宅地等の特例適用後:5,000万円 × 20% = 1,000万円
- 評価減額:4,000万円
この特例により、相続税を大幅に軽減できます。
(3) 相続財産を元手にマンション購入する際の注意点
相続した財産を売却してマンションを購入する場合、以下の点に注意が必要です。
注意点:
- 小規模宅地等の特例は相続時に適用(売却前に相続税申告が必要)
- 売却時の譲渡所得税は別途発生(3,000万円特別控除で軽減可能)
- 相続財産の売却代金の使途は自由(マンション購入でも問題なし)
- 複数の相続人がいる場合、遺産分割協議が必要
相続財産を活用する場合は、相続税・譲渡所得税の両方を考慮した計画が必要です。
確定申告の流れと必要書類
(1) 贈与税申告の手続き(翌年3月15日期限)
住宅取得資金贈与の非課税特例を受けるには、贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日に確定申告が必要です。
申告の流れ:
- 贈与税申告書の作成
- 必要書類の準備
- 税務署への提出(窓口・郵送・e-Tax)
- 審査・承認
贈与税がゼロになる場合でも、申告は必須です。申告を忘れると非課税特例が適用されず、通常の贈与税が課税されます。
(2) 住宅取得資金贈与の非課税の添付書類
贈与税申告時には、以下の書類を添付する必要があります。
必要書類:
- 贈与税申告書
- 戸籍謄本(贈与者と受贈者の関係を証明)
- 売買契約書の写し
- 登記事項証明書
- 住民票の写し
- 省エネ等住宅の証明書(該当する場合)
- 新耐震基準適合証明書(中古住宅の場合)
これらの書類を漏れなく準備することが重要です。
(3) 住宅ローン控除との併用申告
住宅ローンを利用する場合、住宅ローン控除の確定申告も同時に行います。
併用申告の流れ:
- 贈与税申告(2月1日〜3月15日)
- 所得税の確定申告(2月16日〜3月15日)
- 住宅ローン控除の申請を確定申告に含める
注意点:
- 贈与を受けた資金で住宅ローンを返済した部分は、住宅ローン控除の対象外
- 住宅購入価格のうち贈与資金の割合に応じて、住宅ローン控除額が減額される場合がある
税理士に相談して、最適な申告方法を確認することをお勧めします。
まとめ
住み替えでマンションを購入する際、親や祖父母からの資金援助を受ける場合、住宅取得資金贈与の非課税特例を活用することで最大1,000万円まで贈与税が非課税になります。相続時精算課税制度を使えば2,500万円まで非課税となりますが、相続時に精算される点に注意が必要です。
旧居売却時の3,000万円特別控除と新居購入時の贈与税非課税特例は別の税金に関する制度のため併用可能です。売却先行・購入先行のどちらでも贈与税非課税特例は適用できますが、贈与のタイミングは住宅の取得契約締結前が原則です。
贈与を受けた場合は、贈与税がゼロになる場合でも翌年3月15日までに確定申告が必須です。申告を忘れると非課税特例が適用されないため、忘れずに手続きを行いましょう。住み替えの資金計画は複雑なため、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。