相続土地住み替え売却|空き家特例・取得費加算選択ガイド

公開日: 2025/10/12

相続土地を住み替え売却する際の税金の基礎知識

相続した土地を売却して住み替える場合、相続税と譲渡所得税が関係します。特に実家を解体して土地のみ売却するケースでは、空き家特例の活用が重要です。

この記事のポイント:

  • 空き家の3,000万円特別控除は建物解体後も適用可能
  • 昭和56年5月31日以前建築が条件(旧耐震基準)
  • 相続後3年以内の売却が必要
  • 取得費加算の特例との選択適用(併用不可)
  • 小規模宅地等の特例は相続税軽減、売却時には取得費加算額に影響

(1) 相続税と譲渡所得税の違い

相続税:

被相続人の死亡により財産を取得した際に課される税金です(国税庁 - 相続税のあらまし)。

譲渡所得税:

不動産を売却した際の利益(譲渡所得)に対して課される税金です。

税金 課税タイミング 税率
相続税 相続時 10%〜55%(累進課税)
譲渡所得税 売却時 短期39.63%、長期20.315%

(2) 実家の土地(建物解体後)売却の特徴

実家を相続し、建物を解体して土地のみ売却する場合:

  • 建物の解体費用は譲渡費用として計上可能
  • 空き家の3,000万円特別控除が適用される可能性
  • 旧耐震基準の建物(昭和56年5月31日以前建築)が対象

(3) 住み替え売却の税務の複雑性

相続土地の住み替え売却では、以下の特例を検討する必要があります:

  • 空き家の3,000万円特別控除
  • 取得費加算の特例
  • 小規模宅地等の特例(相続時)

これらの特例の適用要件やタイミングを理解することが重要です。

相続税の計算と土地の評価方法

(1) 相続税の基礎控除

相続税には基礎控除があり、相続財産の総額が基礎控除額以下なら相続税はかかりません。

基礎控除額の計算式:

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数

計算例:

法定相続人数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円

(2) 路線価方式と倍率方式

土地の相続税評価額は、以下の方法で算出します(国土交通省 - 土地の評価方法):

路線価方式:

  • 路線価 × 面積
  • 市街地の土地に適用
  • 路線価は時価の約80%が目安

倍率方式:

  • 固定資産税評価額 × 倍率
  • 路線価が定められていない地域に適用

(3) 土地の評価額の確認方法

路線価の確認:

国税庁のウェブサイト「路線価図・評価倍率表」で確認できます。毎年7月に公表されます。

固定資産税評価額の確認:

市区町村から送られる固定資産税の納税通知書で確認できます。

(4) 相続税申告期限(10ヶ月以内)

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。

空き家特例の適用(建物解体後の土地売却)

(1) 空き家の3,000万円特別控除の概要

被相続人が住んでいた家を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できます。

主な要件:

  • 昭和56年5月31日以前に建築(旧耐震基準)
  • 相続開始直前まで被相続人が1人で居住
  • 売却価格1億円以下
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
  • 耐震基準に適合、または建物を解体して売却

(2) 建物解体後の土地売却での適用

建物を解体して土地のみ売却する場合でも、空き家特例は適用されます。むしろ旧耐震基準の建物の場合、以下の選択肢があります:

  1. 耐震改修を行い耐震基準適合証明を取得
  2. 建物を解体して更地で売却

耐震改修は費用が高額になる場合が多いため、解体して売却する方が現実的なケースが多いです。

(3) 昭和56年5月31日以前建築要件

この日付は、建築基準法の新耐震基準が施行された日です。それ以前に建築された建物は旧耐震基準で建てられているため、空き家特例の対象になります。

建築年の確認方法:

  • 登記事項証明書で確認
  • 固定資産税の課税明細書で確認

(4) 相続後3年以内の売却要件

空き家特例は、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。

計算例:

  • 相続開始: 2022年1月15日
  • 3年を経過する日: 2025年1月14日
  • 売却期限: 2025年12月31日まで

この期限を過ぎると特例を使えないため、売却時期の計画が重要です。

取得費加算の特例との選択

(1) 取得費加算の特例とは

相続税を支払った場合、その一部を譲渡所得の取得費に加算できる特例です。

取得費加算額の計算式:

取得費加算額 = 相続税額 × (譲渡した土地の相続税評価額 / 相続財産総額)

(2) 3年10ヶ月以内の売却要件

取得費加算の特例は、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内(約3年10ヶ月以内)に売却する必要があります。

(3) 空き家特例との選択適用

空き家の3,000万円特別控除と取得費加算の特例は、選択適用です。両方を同時に使うことはできません。

(4) どちらを選ぶべきか

判断の目安:

譲渡益の金額 有利な特例 理由
3,000万円以下 空き家特例 全額非課税になる
3,000万円超 ケースバイケース 取得費加算額と比較

一般的には空き家特例(3,000万円まで非課税)の方が有利です。ただし、相続税が高額な場合は取得費加算の方が有利なケースもあります。

税理士に相談して、具体的な数字でシミュレーションすることをおすすめします。

小規模宅地等の特例の影響

(1) 小規模宅地等の特例の概要

相続した土地が居住用宅地の場合、小規模宅地等の特例により評価額を最大80%減額できます(国税庁 - 小規模宅地等の特例)。

(2) 居住用330㎡の評価減

特定居住用宅地等の特例:

  • 減額率: 80%
  • 適用面積: 330㎡まで
  • 要件: 被相続人の居住用宅地、配偶者または同居親族が相続

計算例:

  • 土地評価額: 5,000万円(300㎡)
  • 特例適用後: 5,000万円 × 20% = 1,000万円
  • 減額: 4,000万円

(3) 特例適用後の取得費への影響

小規模宅地等の特例は相続税の軽減制度であり、売却時の譲渡所得税には直接影響しません。

ただし、相続税が少ない分、取得費加算の特例を使う場合の加算額も少なくなります。

(4) 売却時の注意点

小規模宅地等の特例を適用した場合でも、空き家の3,000万円特別控除や取得費加算の特例は使えます。

相続時と売却時で別の特例を使うことができます。

相続手続きと申告の流れ

(1) 相続登記の義務化(3年以内)

2024年4月から相続登記が義務化されました。

義務化の内容:

  • 相続開始を知った日から3年以内に登記
  • 正当な理由なく期限を過ぎると過料10万円

相続した土地を売却する場合、まず相続登記を完了させる必要があります。

(2) 相続税申告(10ヶ月以内)

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。

手続きの流れ:

  1. 相続開始(被相続人の死亡)
  2. 遺産分割協議
  3. 相続税の申告・納税(10ヶ月以内)
  4. 相続登記(3年以内)

(3) 譲渡所得税の確定申告

土地を売却した場合、翌年の確定申告(2月16日〜3月15日)が必要です。

必要書類:

  • 確定申告書第三表(分離課税用)
  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書のコピー
  • 相続税の申告書のコピー(取得費加算の特例を使う場合)
  • 建物解体証明書(空き家特例を使う場合)
  • 登記事項証明書

(4) 建物解体のタイミング

空き家特例を使う場合、建物解体のタイミングは以下の点に注意が必要です:

  • 相続開始後に解体
  • 売却前に解体(更地で売却)
  • 相続開始から3年以内に売却

解体費用は譲渡費用として計上できるため、領収書を保管しましょう。

まとめ

相続した土地を売却して住み替える場合、空き家の3,000万円特別控除が最も効果的な節税策です。昭和56年5月31日以前建築の建物を解体して相続後3年以内に売却すれば、譲渡所得から3,000万円を控除できます。

取得費加算の特例との選択適用ですが、一般的には空き家特例の方が有利です。ただし、相続税が高額な場合は取得費加算の方が有利なケースもあるため、税理士に相談してシミュレーションすることをおすすめします。

相続登記は2024年4月から義務化され、3年以内の手続きが必要です。相続税の申告期限(10ヶ月以内)、売却期限(3年以内)を意識した計画的な対応が重要です。

よくある質問

Q1: 相続した実家を解体して土地を売却します。税金対策はありますか?

A: 昭和56年5月31日以前建築の家を解体し相続後3年以内に売却すれば、空き家の3,000万円特別控除が使えます。譲渡所得が3,000万円以下なら譲渡所得税は非課税になります。取得費加算特例との選択適用なので、どちらが有利か税理士に相談しましょう。

Q2: 建物を解体してからでも空き家特例は使えますか?

A: 使えます。むしろ旧耐震基準の建物(昭和56年5月31日以前建築)は、耐震基準適合証明を取得するか解体する必要があります。解体費用は譲渡費用として計上できるため、領収書を保管してください。相続開始後に解体し、更地で売却することが条件です。

Q3: 空き家特例と取得費加算特例はどちらを選ぶべきですか?

A: 一般的には空き家特例(3,000万円まで非課税)の方が有利です。譲渡所得が3,000万円以下なら全額非課税になります。ただし、相続税が高額な場合は取得費加算が有利なケースもあります。併用不可なので、具体的な数字で税理士にシミュレーションしてもらうことをおすすめします。

Q4: 小規模宅地等の特例を受けていると売却時の税金も安くなりますか?

A: 小規模宅地等の特例は相続税の軽減制度で、売却時の譲渡所得税には直接影響しません。ただし、相続税が少ない分、取得費加算の特例を使う場合の加算額も少なくなります。空き家特例は小規模宅地特例とは別に使えるため、相続時と売却時で別々の特例を活用できます。

Q5: 相続登記はいつまでにすればよいですか?

A: 2024年4月から義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科されます。相続した土地を売却する場合、まず相続登記を完了させる必要があります。登記事項証明書は売却時の確定申告にも必要なので、早めに手続きを行いましょう。

よくある質問

Q1相続した実家を解体して土地を売却します。税金対策はありますか?

A1昭和56年5月31日以前建築の家を解体し相続後3年以内に売却すれば、空き家の3,000万円特別控除が使えます。譲渡所得が3,000万円以下なら譲渡所得税は非課税になります。取得費加算特例との選択適用なので、どちらが有利か税理士に相談しましょう。

Q2建物を解体してからでも空き家特例は使えますか?

A2使えます。むしろ旧耐震基準の建物(昭和56年5月31日以前建築)は、耐震基準適合証明を取得するか解体する必要があります。解体費用は譲渡費用として計上できるため、領収書を保管してください。相続開始後に解体し、更地で売却することが条件です。

Q3空き家特例と取得費加算特例はどちらを選ぶべきですか?

A3一般的には空き家特例(3,000万円まで非課税)の方が有利です。譲渡所得が3,000万円以下なら全額非課税になります。ただし、相続税が高額な場合は取得費加算が有利なケースもあります。併用不可なので、具体的な数字で税理士にシミュレーションしてもらうことをおすすめします。

Q4小規模宅地等の特例を受けていると売却時の税金も安くなりますか?

A4小規模宅地等の特例は相続税の軽減制度で、売却時の譲渡所得税には直接影響しません。ただし、相続税が少ない分、取得費加算の特例を使う場合の加算額も少なくなります。空き家特例は小規模宅地特例とは別に使えるため、相続時と売却時で別々の特例を活用できます。

Q5相続登記はいつまでにすればよいですか?

A52024年4月から義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科されます。相続した土地を売却する場合、まず相続登記を完了させる必要があります。登記事項証明書は売却時の確定申告にも必要なので、早めに手続きを行いましょう。

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