住み替え土地購入と相続税・贈与税の基礎知識
住み替えで土地を購入する際、親からの資金援助や相続資金を活用するケースは少なくありません。しかし、贈与税や相続税の課税関係を正しく理解しないまま進めると、予期せぬ税負担が発生する可能性があります。
この記事のポイント
- 贈与税の基礎控除は年110万円、住宅取得等資金の非課税特例を活用すれば最大1,000万円まで非課税
- 相続時精算課税制度は2,500万円まで非課税だが、一度選択すると暦年課税に戻れない
- 小規模宅地等の特例は最大80%減額だが、住み替え直後は居住要件を満たさない可能性あり
- 土地の相続税評価額は路線価方式または倍率方式で算定、実勢価格の約80%が目安
- 税理士への相談タイミングは資金計画の段階が最適
(1) 相続税の基礎控除と税率
相続税は、相続により財産を取得した場合に課される国税です。国税庁によると、基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算されます。
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
相続税の税率は10%~55%の累進課税で、課税遺産総額が大きいほど税率も高くなります。住み替え先の土地を将来相続する場合、評価額が基礎控除を超えると相続税が発生します。
(2) 贈与税の基礎控除(年110万円)
贈与税は個人から財産をもらった場合に課される国税で、国税庁によると基礎控除は年110万円です。この金額を超える贈与には贈与税が課税されます。
贈与税の税率(一般税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
土地購入資金として親から500万円の援助を受けた場合、(500万円 - 110万円) × 15% - 10万円 = 48.5万円の贈与税が発生します。
(3) 住み替えのタイミングと税負担
住み替えのタイミングによって、贈与税と相続税の合計負担が変わることがあります。例えば、親の健康状態や年齢を考慮し、生前贈与と相続のどちらが有利か慎重に検討する必要があります。
贈与税の基礎控除は年110万円と少額のため、土地購入資金を一括で贈与すると多額の税負担が生じやすい点に注意が必要です。
親からの資金援助と贈与税
(1) 贈与税の計算方法
贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除110万円を差し引いた残額に対して課税されます。計算式は以下の通りです。
贈与税額 = (贈与財産の合計額 - 110万円) × 税率 - 控除額
複数の人から贈与を受けた場合も、受け取った側で合計して計算します。
(2) 暦年贈与の活用
基礎控除110万円を活用し、複数年にわたって少額ずつ贈与する方法を「暦年贈与」と呼びます。例えば、毎年100万円ずつ5年間贈与すれば、合計500万円を非課税で贈与できます。
ただし、定期贈与と認定されないよう、贈与のたびに契約書を作成し、贈与の都度、受贈者の口座に振り込むなどの対策が必要です。
(3) 住宅取得等資金の非課税特例
住宅取得等資金の贈与税非課税特例を活用すれば、一定額まで非課税で贈与を受けられます。2024年1月1日以降の贈与では、省エネ等住宅の場合は最大1,000万円、それ以外の住宅の場合は最大500万円まで非課税です。
この特例を受けるには、受贈者が18歳以上であること、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であることなどの要件があります。詳細は税理士に相談することをおすすめします。
相続時精算課税制度の活用
(1) 制度の仕組み(2,500万円非課税)
国税庁によると、相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対して財産を贈与した場合、累計2,500万円まで贈与税を非課税とする制度です。
2,500万円を超えた部分については、一律20%の贈与税が課税されます。そして、贈与者が亡くなった際に、相続財産と贈与財産を合計して相続税を計算し、すでに支払った贈与税を控除します。
(2) 選択要件と注意点
相続時精算課税制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与については、暦年課税に戻ることができません。一度選択すると一生適用されるため、慎重な判断が必要です。
選択するには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、所轄税務署に「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。
(3) 暦年課税との比較
項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
---|---|---|
基礎控除 | 年110万円 | 累計2,500万円 |
税率 | 10%~55%(累進) | 一律20%(超過分) |
相続時の扱い | 相続財産に含まない | 相続財産に含む |
戻れるか | - | 戻れない |
一度に大きな金額を贈与する場合は相続時精算課税が有利ですが、複数年にわたり少額ずつ贈与する場合は暦年課税が有利です。
小規模宅地等の特例の適用要件
(1) 特例の概要(最大80%減額)
国税庁によると、小規模宅地等の特例は、居住用宅地の評価額を最大80%減額できる特例です。330㎡まで適用可能で、例えば評価額5,000万円の土地であれば、1,000万円に減額できます。
この特例は、相続税の負担を大幅に軽減できるため、住み替え先の土地を相続する場合には必ず確認したい制度です。
(2) 居住要件の確認
小規模宅地等の特例を受けるには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 配偶者が相続する場合(無条件で適用)
- 同居親族が相続し、相続税の申告期限まで引き続き居住し、かつ所有している場合
- 別居親族が相続する場合(一定の要件あり)
同居親族の場合、相続開始前から相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)まで継続して居住していることが求められます。
(3) 住み替え直後の適用可否
住み替え直後は、被相続人または相続人が居住していることが要件を満たさない可能性があります。例えば、親が住み替え先に引っ越した直後に相続が発生した場合、居住期間が短いため特例が適用されないことがあります。
住み替えのタイミングによっては、小規模宅地等の特例の居住要件を満たさない可能性があるため、事前に税理士に相談することが重要です。
土地の相続税評価額の算定方法
(1) 路線価方式による評価
国税庁によると、路線価方式は、国税庁が毎年公表する道路に面した土地の1㎡あたりの評価額(路線価)に基づいて評価する方法です。
計算式は以下の通りです。
評価額 = 路線価 × 補正率 × 面積
路線価は実勢価格の約80%が目安とされています。補正率は、土地の形状や間口、奥行きなどに応じて調整されます。
(2) 倍率方式による評価
路線価が定められていない地域では、倍率方式で評価します。固定資産税評価額に国税庁が定める倍率を乗じて計算します。
評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
倍率は地域ごとに異なり、国税庁のウェブサイトで確認できます。
(3) 評価額の変動要因
土地の評価額は、取得時期や路線価の変動により大きく変わります。路線価は毎年7月1日に公表され、その年の1月1日時点の価格を基準としています。
住み替えのタイミングにより、贈与税と相続税の合計負担が変わるため、評価額の変動要因を理解しておくことが重要です。
配偶者控除と相続税対策
(1) 配偶者の税額軽減措置
国税庁によると、配偶者が相続した財産のうち、1億6,000万円または配偶者の法定相続分のいずれか多い金額までは相続税が課税されません。
この制度により、配偶者が住み替え先の土地を相続した場合、多くのケースで相続税負担が軽減されます。
(2) 適用要件と控除額
配偶者控除を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 法律上の配偶者であること(内縁関係は対象外)
- 相続税の申告期限までに遺産分割が確定していること
- 相続税の申告書を提出すること
申告書を提出しない場合、配偶者控除は適用されないため注意が必要です。
(3) 一次相続・二次相続の考慮
配偶者控除は一次相続(最初の親の相続)では有利ですが、二次相続(残された親の相続)では子に相続税が集中するため、トータルの税負担が増えることがあります。
一次相続で配偶者がすべて相続すると、二次相続時に基礎控除が減り、相続税負担が大きくなる可能性があります。一次相続・二次相続の両方をシミュレーションし、最適な遺産分割を検討することが重要です。
まとめ
住み替え時の土地購入における相続税・贈与税の基礎知識について解説しました。
- 贈与税の基礎控除は年110万円、住宅取得等資金の非課税特例を活用すれば最大1,000万円まで非課税
- 相続時精算課税制度は2,500万円まで非課税だが、一度選択すると暦年課税に戻れない
- 小規模宅地等の特例は最大80%減額だが、住み替え直後は居住要件を満たさない可能性あり
- 土地の相続税評価額は路線価方式または倍率方式で算定、実勢価格の約80%が目安
- 配偶者控除は1億6,000万円または法定相続分まで非課税
親からの資金援助や相続資金を活用して住み替え先の土地を購入する場合、税制優遇措置を正しく理解し、最適なタイミングと方法を選択することが重要です。税理士への相談タイミングは資金計画の段階が最適です。