相続戸建て住み替え売却|3000万円控除vs取得費加算完全比較

公開日: 2025/10/12

相続戸建てを住み替え売却する際の税金の基礎知識

相続した戸建てに居住した後、住み替えのために売却する場合、相続税と譲渡所得税という2つの税金に注意する必要があります。本記事では、相続戸建ての住み替え売却に特化した税務知識を、国税庁の公式情報を基に詳しく解説します。

この記事で分かること:

  • 相続税と譲渡所得税の違いと計算方法
  • 3000万円特別控除と取得費加算特例の選択基準
  • 小規模宅地等の特例が売却時の税金に与える影響
  • 相続から3年10ヶ月以内の売却における税務メリット
  • 相続登記・相続税申告・譲渡所得税申告の流れとタイミング

(1) 相続税と譲渡所得税の違い

相続戸建ての売却では、2つの異なる税金が関係します。

2つの税金の違い:

項目 相続税 譲渡所得税
課税タイミング 相続時 売却時
課税対象 相続した財産の価値 売却による利益
基礎控除 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数 なし(特別控除は別途)
申告期限 相続開始から10ヶ月以内 売却した年の翌年3月15日まで
税率 10%~55%(累進課税) 所有期間5年超で20.315%

国税庁の解説によれば、相続税は相続財産全体に対して課税される一方、譲渡所得税は売却時の利益(譲渡所得)に対して課税されます。

(2) 相続後に居住した場合の税務上の特徴

相続した戸建てに一定期間居住してから売却する場合、以下の税務上の特徴があります。

相続後居住のポイント:

  • 実際に居住していれば、居住用財産の3,000万円特別控除が適用可能
  • 被相続人の所有期間を引き継ぐため、相続直後の売却でも長期譲渡所得の税率が適用される可能性が高い
  • 相続から3年10ヶ月以内なら取得費加算特例も選択可能(3,000万円控除との併用不可)

(3) 住み替え売却の複雑性

相続戸建ての住み替え売却は、通常の売却より複雑な税務判断が必要です。

複雑性の要因:

  1. 相続税と譲渡所得税の両方を考慮する必要がある
  2. 複数の特例の選択適用(3,000万円控除 vs 取得費加算特例)
  3. 小規模宅地等の特例の適用状況による影響
  4. 売却時期(相続から3年10ヶ月以内か否か)による有利不利

相続税の計算と評価方法

(1) 相続税の基礎控除

国税庁の解説によれば、相続税には基礎控除があり、相続財産がこの額以下なら相続税はかかりません。

相続税の基礎控除額:

基礎控除 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人数)

法定相続人数別の基礎控除額:

法定相続人数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円

相続財産(現金・預金・不動産・有価証券など)の合計額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告は不要です。

(2) 戸建ての評価方法

相続税における戸建ての評価は、土地と建物を別々に評価します。

戸建ての相続税評価:

  • 土地: 路線価方式または倍率方式で評価(一般的に時価の80%程度)
  • 建物: 固定資産税評価額で評価(時価の60~70%程度)

評価例(時価5,000万円の戸建て):

項目 時価 相続税評価額
土地 3,500万円 約2,800万円(80%)
建物 1,500万円 約1,000万円(固定資産税評価額)
合計 5,000万円 約3,800万円

(3) 固定資産税評価額の確認

建物の相続税評価額は固定資産税評価額と同額です。固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書で確認できます。

固定資産税納税通知書の確認ポイント:

  • 「価格」欄または「評価額」欄に記載された金額
  • 土地と建物の評価額が別々に記載されている
  • 3年に1度評価替えが行われる

(4) 相続税申告期限(10ヶ月以内)

相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内です。

申告期限の例:

  • 被相続人の死亡日: 2024年3月15日
  • 申告期限: 2025年1月15日

期限内に申告しない場合、無申告加算税(最大20%)や延滞税が課される可能性があります。

3000万円特別控除と取得費加算特例の選択

(1) 居住用財産3000万円特別控除

国税庁の解説によれば、マイホーム(居住用財産)を売却した場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。

3000万円特別控除の効果:

譲渡所得が3,000万円以下であれば、税額が0円になります。

計算例:

  • 売却価格: 5,000万円
  • 取得費: 2,500万円(被相続人の購入価格を引継ぎ)
  • 譲渡費用: 200万円
  • 譲渡所得: 5,000万円 - 2,500万円 - 200万円 = 2,300万円
  • 3,000万円特別控除適用後: 2,300万円 - 3,000万円 = 0円(税額なし)

(2) 相続後居住した場合の適用要件

相続した戸建てに居住してから売却する場合、以下の要件を満たせば3,000万円特別控除が適用できます。

主な適用要件:

  • 自己が居住していた住宅であること(相続後に実際に居住)
  • 居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
  • 売却先が配偶者や直系血族など特別な関係者でないこと
  • 前年・前々年にこの特例を受けていないこと

居住実態の要件:

住民票を移し、実際に生活の本拠として使用していたことが必要です。単に住民票を移しただけでは不十分で、実質的な居住実態が求められます。

(3) 取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)

国税庁の解説によれば、相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できます。

取得費加算の計算式:

取得費加算額 = 相続税額 × (譲渡した財産の相続税評価額 / 相続財産の総額)

計算例:

  • 相続税総額: 1,000万円
  • 相続財産総額: 8,000万円(相続税評価額)
  • 売却した戸建ての相続税評価額: 4,000万円
  • 取得費加算額: 1,000万円 × (4,000万円 / 8,000万円) = 500万円

この500万円を取得費に加算できます。

適用期限の計算:

  • 被相続人の死亡日: 2024年3月15日
  • 相続税申告期限: 2025年1月15日(死亡から10ヶ月後)
  • 取得費加算特例の期限: 2027年1月15日(申告期限から3年後)

正確には「相続開始から3年10ヶ月以内」です。

(4) どちらを選ぶべきか

3,000万円特別控除と取得費加算特例は併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。

選択基準:

状況 有利な特例 理由
譲渡所得が3,000万円以下 3,000万円控除 税額が完全に0円になる
譲渡所得が小さく相続税が高額 取得費加算 3,000万円控除の枠を使い切れない
譲渡所得が3,000万円超 両方計算して比較 ケースバイケース

一般的な判断:

ほとんどのケースでは3,000万円特別控除の方が有利です。ただし、相続税が非常に高額で取得費加算額が大きい場合、または譲渡所得が小さい場合は、取得費加算の方が有利になることがあります。

小規模宅地等の特例の影響

(1) 小規模宅地等の特例の概要

国税庁の解説によれば、小規模宅地等の特例は、相続時に居住用宅地の評価額を最大80%減額できる制度です。

小規模宅地等の特例(特定居住用宅地):

  • 対象面積: 330㎡まで
  • 減額割合: 80%
  • 適用要件: 配偶者または同居親族が取得し、一定期間保有・居住

適用例:

  • 土地の相続税評価額: 4,000万円(400㎡)
  • 特例適用: 330㎡まで80%減額
  • 減額後評価額: 330㎡分が800万円 + 70㎡分が700万円 = 1,500万円
  • 減額効果: 2,500万円

(2) 特例適用後の取得費の考え方

小規模宅地等の特例は相続税の軽減制度であり、売却時の譲渡所得税の計算には直接影響しません。

重要なポイント:

  • 売却時の取得費は、被相続人が購入した際の価格を引き継ぐ
  • 小規模宅地等の特例で評価額が減額されても、取得費は変わらない
  • 相続税評価額と取得費は別物

取得費の引継ぎ例:

  • 被相続人の購入価格: 3,000万円(30年前)
  • 相続税評価額: 4,000万円 → 特例適用後1,500万円
  • 売却時の取得費: 3,000万円(被相続人の購入価格を引継ぎ)

(3) 売却時の譲渡所得計算への影響

小規模宅地等の特例を適用していても、売却時の譲渡所得の計算方法は通常と同じです。

譲渡所得の計算(特例適用済みのケース):

  • 売却価格: 5,500万円
  • 取得費: 3,000万円(被相続人の購入価格)
  • 譲渡費用: 200万円
  • 譲渡所得: 5,500万円 - 3,000万円 - 200万円 = 2,300万円

間接的な影響:

小規模宅地等の特例で相続税が減額されると、取得費加算特例を選択する場合の加算額も少なくなります。このため、取得費加算特例より3,000万円特別控除の方がより有利になる傾向があります。

売却時期と税務戦略

(1) 相続から3年10ヶ月以内の売却

相続から3年10ヶ月以内に売却する場合、取得費加算特例の選択肢があります。

3年10ヶ月以内のメリット:

  • 取得費加算特例が利用可能(3,000万円控除との選択)
  • 税理士と相談して最も有利な特例を選択できる

3年10ヶ月以内のデメリット:

  • 相続手続きや感情的な整理が不十分な状態での売却になる可能性
  • 市場状況を見極める時間が短い

(2) 居住期間と税務上のメリット

相続した戸建てに居住することで、税務上のメリットがあります。

居住のメリット:

  • 3,000万円特別控除が確実に適用可能
  • 住み心地を確認してから売却を判断できる
  • 空き家にせず管理負担を軽減

居住期間の考え方:

3,000万円特別控除に最低居住期間の要件はありませんが、実質的な居住実態が必要です。数ヶ月でも実際に生活していれば適用可能ですが、短期間の形式的な居住は認められません。

(3) 売却タイミングの判断基準

売却タイミングは、税務だけでなく市場状況や生活設計も考慮して判断します。

判断基準のチェックリスト:

  • 相続税の申告・納付は完了したか
  • 相続登記は完了したか(義務化により3年以内必須)
  • 居住を継続するか、売却するか決まったか
  • 不動産市場の状況は良好か
  • 取得費加算特例の期限(3年10ヶ月)は過ぎていないか
  • 税理士に税務シミュレーションを依頼したか

(4) 税理士への相談タイミング

相続戸建ての売却では、早めに税理士に相談することをお勧めします。

相談すべきタイミング:

  1. 相続発生時: 相続税の概算と今後の税務スケジュールを確認
  2. 相続税申告前: 小規模宅地等の特例の適用を検討
  3. 売却検討時: 3,000万円控除と取得費加算特例のどちらが有利か試算
  4. 売却決定後: 譲渡所得税の確定申告準備

税理士に確認すべきこと:

  • どちらの特例が有利か(税額シミュレーション)
  • 売却時期による税額の違い
  • 必要書類と申告手続きの流れ
  • 居住実態の証明方法

相続手続きと申告の流れ

(1) 相続登記の義務化(3年以内)

2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科されます。

相続登記の流れ:

  1. 遺産分割協議の実施(相続人全員で合意)
  2. 遺産分割協議書の作成
  3. 必要書類の収集(戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書など)
  4. 法務局への登記申請

登記費用の目安:

  • 登録免許税: 固定資産税評価額の0.4%
  • 司法書士報酬: 5万円~10万円

(2) 相続税申告(10ヶ月以内)

相続財産が基礎控除額を超える場合、相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告が必要です。

相続税申告の流れ:

  1. 相続財産の評価(不動産、預金、有価証券など)
  2. 債務・葬儀費用の確認
  3. 基礎控除額の計算
  4. 小規模宅地等の特例の検討
  5. 相続税額の計算
  6. 税務署への申告・納税

申告が必要かどうかの目安:

法定相続人2人の場合、基礎控除額は4,200万円です。相続財産(相続税評価額)がこれを超える場合は申告が必要です。

(3) 譲渡所得税の確定申告

戸建てを売却した年の翌年3月15日までに、譲渡所得税の確定申告が必要です。

確定申告の流れ:

  1. 譲渡所得の計算(売却価格 - 取得費 - 譲渡費用)
  2. 特例の選択(3,000万円控除 or 取得費加算)
  3. 税額の計算
  4. 確定申告書の作成・提出
  5. 税金の納付(3月15日まで)

申告時の必要書類:

  • 売買契約書(売却時・購入時)
  • 仲介手数料の領収書
  • 登記事項証明書
  • 相続税の申告書(取得費加算特例を使う場合)
  • 住民票(3,000万円控除を使う場合)

(4) 必要書類の準備

相続から売却まで、多くの書類が必要となります。早めに準備しましょう。

主な必要書類:

手続き 必要書類
相続登記 戸籍謄本、住民票、遺産分割協議書、固定資産評価証明書
相続税申告 相続財産の評価資料、債務関連資料、戸籍謄本
譲渡所得税申告 売買契約書、領収書、登記事項証明書、住民票

書類保管のポイント:

  • 被相続人の購入時の契約書は必ず保管(取得費の証明に必須)
  • 相続税の申告書は売却時まで保管(取得費加算の計算に必要)
  • デジタル化してクラウドに保存すると紛失リスクが減少

まとめ:相続戸建ての住み替え売却で押さえるべきポイント

相続した戸建てに居住した後、住み替えのために売却する場合、税務上の複雑な判断が必要です。

重要ポイント:

  • 相続税と譲渡所得税は別物で、それぞれ申告期限が異なります
  • 相続後に実際に居住していれば3,000万円特別控除が適用可能です
  • 取得費加算特例は相続から3年10ヶ月以内の売却で利用可能(3,000万円控除と選択)
  • 小規模宅地等の特例は相続税の軽減制度で、売却時の譲渡所得税には直接影響しません
  • 一般的には3,000万円特別控除の方が有利なケースが多いですが、税理士に試算を依頼しましょう
  • 相続登記は3年以内、相続税申告は10ヶ月以内、譲渡所得税申告は売却翌年3月15日までが期限です

相続という人生の大きな節目で不動産を売却する際は、税理士などの専門家に早めに相談し、最適な税務戦略を立てることで、税負担を最小限に抑えることができます。

よくある質問

Q1相続した戸建てに住んでから売却します。3000万円控除は使えますか?

A1相続後に実際に居住し、自宅として使用していた場合は居住用財産の3,000万円特別控除が適用できます。居住実態の証明には住民票の移動だけでなく、実際に生活の本拠として使用していたことが必要です。居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば適用可能です。

Q23000万円控除と取得費加算特例はどちらを選ぶべきですか?

A2一般的には3,000万円控除の方が有利です。譲渡所得が3,000万円以下なら税額が完全に0円になります。ただし、相続税が非常に高額で譲渡所得が小さい場合は、取得費加算特例の方が有利なケースもあります。両特例は併用できないため、税理士に両方の税額シミュレーションを依頼して比較することをお勧めします。

Q3小規模宅地等の特例を受けていると、売却時の税金も安くなりますか?

A3小規模宅地等の特例は相続税の軽減制度で、売却時の譲渡所得税には直接影響しません。売却時の取得費は被相続人が購入した際の価格を引き継ぐため、特例で評価額が減額されても取得費は変わりません。ただし、相続税が少なくなる分、取得費加算特例を選択する場合の加算額も少なくなるため、間接的に3,000万円控除の方がより有利になる傾向があります。

Q4相続から何ヶ月以内に売却すれば取得費加算特例が使えますか?

A4相続発生日から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。正確には、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月後)から3年後までです。例えば、2024年3月15日に相続が開始した場合、申告期限は2025年1月15日、取得費加算特例の期限は2027年1月15日となります。この期限を過ぎると特例は使えません。

Q5相続登記はいつまでにすればよいですか?

A52024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科されます。売却する場合は相続登記が完了していないと売却できないため、早めに手続きを進めることをお勧めします。登記には戸籍謄本、住民票、遺産分割協議書、固定資産評価証明書などが必要です。

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