投資マンション売却の引き渡し・オーナーチェンジ完全ガイド

公開日: 2025/10/14

投資用マンション売却時の引き渡しの特殊性

投資用マンションを売却する場合、居住用マンションとは異なり、入居者がいる状態での引き渡し(オーナーチェンジ)が一般的です。賃貸借契約の引継ぎ、敷金・保証金の承継、賃料精算など、投資物件特有の手続きが必要になります。入居者への通知や管理会社との調整も含め、スムーズな引き渡しのポイントを押さえましょう。

この記事のポイント

  • オーナーチェンジは賃借人の承諾不要で賃貸借契約が新オーナーへ自動承継される
  • 敷金返還義務は引き渡し日以降、買主(新オーナー)が承継
  • 引き渡し月の賃料は日割り計算で精算(引き渡し日の前日までは売主、当日以降は買主)
  • 入居者へのオーナー変更通知は引き渡し後速やかに送付(賃料振込先を明記)
  • 管理会社の契約は買主が引継ぎまたは変更を選択

1. 投資用マンション売却の引き渡し実務の特殊性

(1) 居住用マンションとの引き渡し手続きの違い

投資用マンションと居住用マンションの引き渡しの主な違い:

項目 居住用マンション 投資用マンション(オーナーチェンジ)
売主の状況 居住者本人 不在オーナー
引越し 必要 不要(入居者がそのまま居住)
賃貸借契約 なし 新オーナーへ自動承継
敷金・保証金 なし 新オーナーへ返還義務が移転
入居者への通知 不要 オーナー変更通知が必須
管理会社 管理組合のみ 賃貸管理会社+管理組合

(2) 入居者がいる状態での売却(オーナーチェンジ)

オーナーチェンジは、賃借人が居住中のまま投資用マンションの所有者が変わることを指します:

オーナーチェンジの特徴

  • 賃借人の承諾は不要(民法改正により自動承継)
  • 賃貸借契約は新オーナーへそのまま引き継がれる
  • 敷金返還義務も新オーナーが負う
  • 入居者への通知義務あり(オーナー変更と賃料振込先の変更)

法務省によれば、賃貸借契約は不動産の所有権移転と同時に新オーナーへ自動的に承継されます(法務省民事局「投資用不動産の売買と賃借人の権利」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji02_00099.html)。

(3) 空室物件として売却する場合の選択肢

入居者がいない空室物件として売却する場合:

空室売却のメリット

  • 買主が自由にリフォーム・リノベーションできる
  • 賃貸募集条件を買主が設定できる
  • 賃貸借契約の引継ぎ手続きが不要

空室売却のデメリット

  • 賃料収入がないため売却価格が下がる傾向
  • 買主にとって投資利回りが不透明

オーナーチェンジの方が投資家向けに売りやすく、価格も安定する傾向があります。

2. オーナーチェンジ物件の賃貸借契約引継ぎ

(1) 賃貸借契約の地位が新オーナーへ自動承継

民法改正により、賃貸借契約は所有権移転と同時に新オーナーへ自動的に引き継がれます:

引継ぎ内容

  • 賃料額・賃貸期間・更新条件
  • 特約事項(ペット飼育可否、楽器使用制限など)
  • 敷金・保証金の返還義務
  • 原状回復義務の範囲

賃借人の承諾は不要ですが、オーナー変更通知を送る必要があります。

(2) 敷金・保証金返還義務の引継ぎ

敷金は旧オーナーから新オーナーへ当然に引き継がれます:

敷金引継ぎの流れ

  1. 引き渡し当日、旧オーナーが新オーナーへ敷金相当額を支払う
  2. 賃借人の退去時、新オーナーが原状回復費を精算して返還
  3. 賃借人への通知は不要(自動承継)

注意点

  • 敷金は賃借人の財産であり、所有者変更で消滅しない
  • 決済時に敷金相当額の受け渡しを必ず確認

(3) 賃貸借契約書と重要事項説明書の引き渡し

引き渡し当日、旧オーナーは新オーナーに以下の書類を引き渡します:

必須書類

  • 賃貸借契約書(入居者全員分)
  • 重要事項説明書
  • 入居申込書・審査資料
  • 家賃保証会社の契約書(利用している場合)
  • 賃料入金履歴(過去1年分程度)

これらの書類は、新オーナーが賃貸経営を継続するために必須です。

3. 入居者への通知と賃料・敷金の精算

(1) オーナー変更通知の送付タイミングと方法

引き渡し後、速やかに入居者へオーナー変更通知を送付します:

通知内容

  • 新オーナーの氏名・住所・連絡先
  • 賃料振込先の変更(銀行名・支店名・口座番号・名義)
  • 変更日(引き渡し日)
  • 敷金が新オーナーへ承継されたこと

送付方法

  • 書面で郵送(内容証明郵便が望ましい)
  • 管理会社経由で通知

(2) 賃料振込先変更の案内と引き渡し日の調整

賃料振込先の変更は、引き渡し日以降の賃料から適用されます:

タイミング調整

  • 引き渡し日が月初:翌月分から新振込先
  • 引き渡し日が月中:当月分は日割り精算、翌月分から新振込先

入居者への通知は、引き渡し後速やかに(遅くとも1週間以内に)送付することが重要です。

(3) 当月分賃料の日割り精算方法

引き渡し月の賃料は、引き渡し日を基準に日割り計算で精算します:

精算例

  • 月額賃料: 10万円
  • 引き渡し日: 15日
  • 当月日数: 30日

売主受領分: 10万円 × 14日 / 30日 = 46,667円 買主受領分: 10万円 × 16日 / 30日 = 53,333円

決済時に、買主が売主に46,667円を支払います。

4. 管理会社との調整と必要書類の準備

(1) 管理委託契約の解約または引継ぎ

賃貸管理会社の契約は、買主が引継ぎまたは変更を選択します:

引継ぎの場合

  • 管理委託契約の名義変更のみ
  • 管理会社への手数料は継続
  • 入居者との関係は変わらず

変更の場合

  • 旧契約を解約(通常1~3ヶ月前に通知)
  • 入居者情報を新管理会社へ引き継ぐ
  • 入居者へ管理会社変更を通知

国土交通省によれば、管理会社変更時は入居者への丁寧な説明が重要です(国土交通省「賃貸借契約の承継と敷金の取り扱い」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000024.html)。

(2) 入居者情報と賃貸契約一覧の提供

旧オーナーは新オーナーに以下の情報を提供します:

入居者情報

  • 入居者氏名・連絡先
  • 入居開始日・契約更新日
  • 賃料額・敷金額
  • 特約事項・トラブル履歴

賃貸契約一覧(レントロール)

  • 全部屋の入居状況・賃料・敷金
  • 空室期間・募集条件
  • 過去の賃料改定履歴

(3) 修繕履歴と設備保証書の引き渡し

建物・設備の修繕履歴と保証書も重要な引継ぎ書類です:

  • 給湯器・エアコンの交換履歴
  • 配管・防水工事の実施履歴
  • 設備の保証書・取扱説明書
  • 管理組合の総会議事録

5. 引き渡し当日の流れと賃貸収支の引継ぎ

(1) 決済場所と参加者(管理会社同席の有無)

引き渡し当日は、金融機関の応接室で決済を行います(所要時間2~3時間):

参加者

  • 売主・買主
  • 司法書士
  • 不動産仲介業者
  • 賃貸管理会社(同席する場合あり)
  • 金融機関担当者(住宅ローンがある場合)

(2) 所有権移転登記と賃貸契約書類の引き渡し

引き渡し当日の流れ:

  1. 登記書類の確認(司法書士)
  2. 残代金の支払い(買主→売主)
  3. 管理費・修繕積立金の精算
  4. 賃料・敷金の精算
  5. 賃貸契約書類の引き渡し(売主→買主)
  6. 管理組合への所有者変更届の提出
  7. 所有権移転登記の申請(司法書士が法務局へ)

(3) 敷金・前払い賃料の精算と受け渡し

決済時の精算項目:

項目 精算方法
敷金 旧オーナー→新オーナーへ全額引き渡し
当月賃料 日割り計算で精算(買主→売主)
前払い賃料 引き渡し日以降分を買主→売主
管理費・修繕積立金 日割り計算で精算

国土交通省によれば、管理費・修繕積立金の精算も引き渡し時に実施します(国土交通省「マンション引き渡し時の管理組合手続き」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html)。

6. 引き渡し後の税務申告と確定申告

(1) 譲渡所得の計算と減価償却費の取り扱い

投資用マンション売却時の譲渡所得計算:

譲渡所得の計算式 譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

取得費の計算 取得費 = 購入価格 - 減価償却費累計額 + 取得時諸費用

減価償却費の計算

  • 建物部分のみ減価償却(土地は対象外)
  • 耐用年数: RC造47年、木造22年
  • 計算方法: 定額法または定率法

(2) 引き渡し時期と課税年度の関係

譲渡所得の課税年度は、引き渡し日(所有権移転日)で決まります:

  • 12月中旬に引き渡し→今年度の所得として申告
  • 1月上旬に引き渡し→翌年度の所得として申告

年末近くの引き渡しは、税金の支払い時期に影響するため注意が必要です。

(3) 必要書類の準備と税理士への相談タイミング

確定申告に必要な書類:

  • 売買契約書(売却時・購入時の両方)
  • 仲介手数料などの領収書
  • 登記事項証明書
  • 減価償却費の計算資料
  • 固定資産税評価証明書

国税庁によれば、投資用不動産の譲渡所得は確定申告が必須です(国税庁「投資用不動産売却時の確定申告」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/jouto.htm)。

税理士への相談は、売却前(税額シミュレーション)と引き渡し後(確定申告書作成)の2回がおすすめです。

まとめ

投資用マンション売却の引き渡しは、オーナーチェンジが一般的で、賃貸借契約が新オーナーへ自動承継されます。賃借人の承諾は不要ですが、オーナー変更通知を引き渡し後速やかに送付し、賃料振込先を明記する必要があります。

敷金返還義務は引き渡し日以降、買主が承継し、引き渡し月の賃料は日割り計算で精算します。管理会社の契約は買主が引継ぎまたは変更を選択し、賃貸契約書類や入居者情報を新オーナーへ引き渡します。

譲渡所得税は翌年2-3月に確定申告が必要で、減価償却費の計算が重要です。税理士への相談で正確な税額を算出し、スムーズな引き渡しを実現しましょう。

よくある質問

Q1入居者がいる状態で売却する場合、入居者の承諾は必要ですか?

A1賃借人の承諾は不要です。民法改正により、賃貸借契約は所有権移転と同時に新オーナーへ自動的に引き継がれます。ただし、引き渡し後に入居者へオーナー変更通知を送る必要があります。通知には新オーナーの氏名・連絡先と賃料振込先を明記し、書面で郵送(内容証明郵便が望ましい)または管理会社経由で通知します。

Q2敷金は売主と買主のどちらが返還責任を負いますか?

A2引き渡し日以降は買主(新オーナー)が敷金返還義務を承継します。決済時に、旧オーナーから新オーナーへ敷金相当額を引き渡します。賃借人の退去時は、新オーナーが原状回復費を精算して返還します。敷金は賃借人の財産であり、所有者変更で消滅しないため、決済時に敷金相当額の受け渡しを必ず確認することが重要です。

Q3引き渡し月の賃料は誰が受け取るのですか?

A3引き渡し日の前日までは売主、当日以降は買主が受け取る権利があります。決済時に日割り計算で精算するのが一般的です。例えば、月額賃料10万円、引き渡し日が15日、当月日数30日の場合、売主受領分は46,667円(14日分)、買主受領分は53,333円(16日分)となり、買主が売主に46,667円を支払います。

Q4管理会社の契約はどうなりますか?

A4買主が同じ管理会社と契約するか、別の会社に変更するかで対応が異なります。引継ぎの場合は管理委託契約の名義変更のみで、管理会社への手数料は継続します。変更の場合は旧契約を解約(通常1~3ヶ月前に通知)し、入居者情報を新管理会社へ引き継ぎ、入居者へ管理会社変更を通知します。いずれも引き渡し日までに調整が必要です。

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