住み替えでマンションを売却したときの確定申告を完璧に理解する
住み替えでマンションを売却した場合、譲渡所得が発生すれば確定申告が必要です。3,000万円特別控除・買換え特例・譲渡損失の繰越控除など複数の特例があり、どれを選ぶかで税負担が大きく変わります。また、新居の住宅ローン控除との併用制限もあるため、長期的な視点での判断が重要です。
この記事でわかること
- 住み替えでマンション売却時の確定申告が必要なケースと申告期限
- 譲渡所得の計算方法(取得費の減価償却・所有期間の判定)
- 3,000万円特別控除と買換え特例の選択基準と併用制限
- 譲渡損失が出た場合の損益通算・繰越控除の活用方法
- 新居の住宅ローン控除との関係と長期的な試算の必要性
住み替えによるマンション売却の基礎知識
住み替えの定義と流れ
住み替え(買い替え)とは、現在の住居を売却して新しい住居を購入することです。マンションから戸建て、戸建てからマンションなど、物件種別が変わる場合も含まれます。
住み替えの主なパターン
- 売却先行:旧居を売却してから新居を購入(資金計画が明確)
- 購入先行:新居を購入してから旧居を売却(じっくり新居探しが可能)
- 同時決済:旧居の売却と新居の購入を同日に実施(仮住まい不要)
確定申告が必要なケース
以下のいずれかに該当する場合、確定申告が必要です(国税庁「マイホームを売ったときの特例」より)。
- 譲渡所得(利益)が発生した場合
- 3,000万円特別控除や買換え特例を適用する場合(控除後の所得がゼロでも申告必須)
- 譲渡損失の損益通算・繰越控除を適用する場合
会社員で給与所得のみの方も、不動産売却があれば自分で確定申告が必要です。
申告期限(翌年2月16日~3月15日)
マンションを売却した年の翌年2月16日~3月15日が申告期間です。
例:2024年に売却した場合 → 2025年2月16日~3月15日に申告
期限を過ぎると、無申告加算税(本税の15-20%)と延滞税が課されます。また、特例が適用できなくなる可能性もあります。期限厳守が重要です。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得の計算式
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
売却価格:買主から受け取った金額(固定資産税の精算金含む)
取得費:マンションの購入価格 + 購入時の諸費用 - 建物の減価償却費
譲渡費用:売却のために直接かかった費用(仲介手数料・登記費用等)
取得費の範囲と不明時の概算取得費5%
取得費に含められる費用(国税庁「譲渡所得の計算方法」より)
- 購入代金(土地・建物)
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用(登録免許税・司法書士報酬)
- 不動産取得税
- リフォーム費用(一定のもの)
建物の減価償却
マンション(鉄筋コンクリート造)の建物部分は、経年劣化するため減価償却が必要です。
減価償却費 = 建物購入価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
鉄筋コンクリート造マンションの償却率:0.015(非事業用、耐用年数70年)
取得費が不明な場合
購入時の売買契約書等がない場合、概算取得費として売却価格の5%を取得費とします。ただし、税負担が極めて大きくなるため、可能な限り契約書等を探すことをお勧めします。
探索方法
- 自宅の書類保管場所を再確認
- 管理組合や管理会社に問い合わせ
- 購入時の仲介会社に写しを依頼
- 相続・贈与で取得した場合、被相続人の契約書を探す
譲渡費用の範囲
譲渡費用として認められる主な項目
- 仲介手数料
- 印紙税(売買契約書)
- 登記費用(抵当権抹消等)
- 測量費
- 立退料(賃貸中の場合)
譲渡費用として認められない項目
- 修繕費・リフォーム費用(売却のためでない)
- 引越し費用
- 固定資産税・管理費
所有期間の判定
譲渡所得は、所有期間によって税率が異なります。
区分 | 所有期間 | 税率 |
---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63%(所得税30.63%+住民税9%) |
長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
所有期間の判定:譲渡した年の1月1日時点で5年超か否かで判定します(取得日・売却日ではありません)。
例:2018年7月購入、2024年6月売却の場合 → 2024年1月1日時点で5年6ヶ月だが、判定は1月1日時点なので短期譲渡(5年以下)
住み替え時の控除・特例の選択
3000万円特別控除
居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(国税庁「マイホームを売ったときの特例」より)。
主な適用要件
- 自分が住んでいた住宅であること
- 住まなくなってから3年後の12月31日までに売却
- 売却先が配偶者や親子など特別な関係でないこと
- 前年・前々年に同特例を適用していないこと
計算例
譲渡所得3,500万円、所有期間7年(長期)の場合
- 3,000万円控除後:3,500万円 - 3,000万円 = 500万円
- 税額:500万円 × 20.315% = 約101万円
控除がない場合:3,500万円 × 20.315% = 約711万円 → 約610万円の節税
買換え特例(課税の繰延べ)
買換え特例は、旧居より高額な新居に買い換えた場合、譲渡益への課税を将来に繰り延べられる制度です(国税庁「特定のマイホームを買い換えたときの特例」より)。
主な適用要件
- 売却価格1億円以下
- 所有期間10年超、居住期間10年以上
- 新居の床面積50㎡以上
- 売却年の前年から翌年までに新居を取得
仕組み
- 新居の購入価格 ≧ 旧居の売却価格 → 譲渡益全額を繰延べ
- 新居の購入価格 < 旧居の売却価格 → 差額分のみ課税
重要:買換え特例は課税の繰延べであり、免除ではありません。新居を将来売却する際、旧居の譲渡益も合算して課税されます。
譲渡損失の繰越控除
住み替えで売却損が出た場合、一定の要件を満たせば、給与所得等と損益通算でき、控除しきれない損失は翌年以降3年間繰り越せます(国税庁「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」より)。
主な要件
- 所有期間5年超
- 売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得
- 新居に住宅ローン(10年以上)がある
計算例
売却損1,000万円、給与所得500万円の場合
- 損益通算後の所得:500万円 - 1,000万円 = 0円(マイナス500万円)
- 所得税・住民税:0円
- 残りのマイナス500万円は翌年以降3年間繰越可能
どちらが有利か(事前試算の重要性)
ケース | 有利な選択 |
---|---|
譲渡益3,000万円以下 | 3,000万円控除(課税なし) |
譲渡益3,000万円超、新居が高額 | 買換え特例(繰延べ)または税理士に試算依頼 |
譲渡損失あり | 損益通算・繰越控除 |
新居の住宅ローン控除を優先したい場合
3,000万円控除を使うと新居の住宅ローン控除が3年間使えなくなるため、長期的な税負担を試算する必要があります。税理士に相談することをお勧めします。
確定申告の手続きと必要書類
譲渡所得の内訳書
不動産の売却・取得の詳細を記入する明細書です。売買契約書をもとに、売却価格・取得費・譲渡費用を記載します。
売買契約書(旧居・新居)
旧居
- 売買契約書(今回の売却)
- 売買契約書(購入時)
- 仲介手数料の領収書(売却時・購入時)
新居
- 売買契約書(買換え特例・損益通算適用の場合)
- 住宅ローンの年末残高証明書(損益通算の場合)
登記事項証明書
旧居・新居の登記事項証明書(謄本)を添付します。法務局で取得(1通600円、オンライン申請なら500円)します。
仲介手数料の領収書
取得費・譲渡費用の証明に使います。紛失すると計上できないため、必ず保管してください。
e-Taxでの申告手順
e-Taxを利用すると、自宅からオンラインで申告できます。
手順
- 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」にアクセス
- e-Taxで申告を選択
- マイナンバーカードでログイン
- 画面の指示に従って給与所得・譲渡所得を入力
- 添付書類をPDFでアップロード
- 送信
メリット
- 税務署に行く必要がない
- 24時間いつでも申告可能
- 還付金の振込が早い(3週間程度)
住宅ローン控除との併用制限
3000万円控除を選ぶと3年間制限
旧居売却で3,000万円控除を適用すると、新居の住宅ローン控除が3年間使えなくなります(売却年の前後2年間)。
例:2024年に売却して3,000万円控除を適用 → 2022年~2026年に購入した新居の住宅ローン控除は適用不可
買換え特例を選ぶと適用不可期間
買換え特例を選択した場合も、新居の住宅ローン控除との併用に制限がある場合があります。詳細は税理士に確認してください。
長期的な試算の必要性
試算例
旧居の譲渡益2,000万円、新居の住宅ローン控除が年間20万円×10年間の場合
パターンA:3,000万円控除を適用
- 旧居の税額:0円(控除で非課税)
- 新居の住宅ローン控除:3年間使えない → 60万円損失
- 合計:60万円の損失
パターンB:買換え特例を適用
- 旧居の税額:0円(繰延べ)
- 新居の住宅ローン控除:200万円(10年間)
- 合計:200万円の節税(ただし将来売却時に課税)
どちらが有利かは、将来の売却計画も含めて総合的に判断する必要があります。
売却と購入のタイミング調整
先行売却と先行購入の選択
売却先行
- メリット:資金計画が明確、つなぎ融資不要
- デメリット:仮住まい費用、引越し2回
購入先行
- メリット:じっくり新居探し可能
- デメリット:ダブルローン、旧居が売れないリスク
つなぎ融資の活用
購入先行の場合、旧居の売却代金が入る前に新居を購入するため、つなぎ融資を利用することがあります。
つなぎ融資の仕組み
- 新居購入時につなぎ融資を借り入れ
- 旧居売却後、売却代金でつなぎ融資を完済
- 新居の本ローンに切り替え
費用:つなぎ融資の金利(年2-3%程度)+ 事務手数料
仮住まいと二重ローンのリスク
仮住まいのコスト
- 賃料:月10万円×6ヶ月 = 60万円
- 引越し費用:2回分(20万円×2 = 40万円)
- 合計:約100万円
二重ローンのコスト
- 旧居のローン:月10万円×6ヶ月 = 60万円
- 新居のローン:月12万円×6ヶ月 = 72万円
- 合計:約132万円
仮住まいと二重ローンのどちらがコスト面で有利かは、ローン残高や売却スピードによって異なります。
必要書類のチェックリスト
3ヶ月前〜
- 旧居の売買契約書(購入時)の所在確認
- 新居探し開始
1ヶ月前〜
- 旧居の査定依頼
- 媒介契約締結
契約時
- 旧居の売買契約書(売却時)作成
- 新居の売買契約書作成
決済時
- 登記事項証明書取得
- 仲介手数料の領収書保管
確定申告時(翌年2-3月)
- 譲渡所得の内訳書作成
- 売買契約書・領収書を添付して申告
まとめ
住み替えでマンションを売却した際の確定申告は、譲渡所得の計算・特例の選択・新居の住宅ローン控除との関係など、複雑な判断が必要です。
重要ポイント
- 確定申告は翌年2月16日~3月15日が期限(厳守)
- 3,000万円控除と買換え特例は選択適用(併用不可)
- 3,000万円控除を使うと新居の住宅ローン控除が3年間使えない
- 譲渡損失がある場合、損益通算・繰越控除で給与所得と相殺可能
- 取得費が不明な場合、概算取得費(売却価格の5%)となり税負担が大きい
長期的な税負担を試算し、必要に応じて税理士に相談することをお勧めします。国税庁の確定申告書等作成コーナーを活用すれば、e-Taxで自分でも申告可能です。
よくある質問
Q1. 住み替えでマンションを売却する場合、確定申告は必要ですか?
A. 譲渡所得が発生した場合は確定申告が必要です。また、3,000万円特別控除や買換え特例を適用する場合も、譲渡所得がゼロになっても確定申告が必須です。申告期限は売却した年の翌年2月16日~3月15日です。期限を過ぎると無申告加算税が課されます。
Q2. 3,000万円特別控除と買換え特例はどちらが有利ですか?
A. ケースバイケースです。3,000万円控除は今回で完結しますが、新居の住宅ローン控除が3年間使えなくなります。買換え特例は課税を将来に繰り延べるだけで、次回売却時に課税されます。長期的な視点で試算が必要です。税理士に相談することをお勧めします。
Q3. 取得費が分からない場合はどうすればいいですか?
A. 取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算できます。ただし、これは税負担が増えるため、可能な限り購入時の売買契約書などを探すことをお勧めします。管理組合や購入時の仲介会社に問い合わせると、写しが残っている場合があります。
Q4. 住み替えで損失が出た場合はどうなりますか?
A. 一定の要件を満たせば、譲渡損失を給与所得など他の所得と損益通算でき、控除しきれない損失は翌年以降3年間繰り越せます。ただし、所有期間5年超、新居に住宅ローンがあるなどの条件があります。詳細は国税庁サイトで要件を確認してください。