投資売却マンションの確定申告|計算・減価償却・書類

公開日: 2025/10/18

投資用マンション売却の確定申告の基礎

投資用マンションを売却した場合、譲渡所得税の確定申告が必要となります。居住用マンションとは異なり、投資用不動産には3,000万円特別控除などの居住用財産の特例が適用されないため、税負担が大きくなる傾向があります。本記事では、投資用マンション売却時の税額計算方法、減価償却費の取得費調整、短期・長期譲渡の税率差、確定申告の手続きと必要書類を実務的に解説します。

この記事で分かること:

  • 投資用マンション売却時の譲渡所得税の計算方法と居住用との違い
  • 減価償却累計額を取得費から差し引く理由と計算方法
  • 短期譲渡(税率39.63%)と長期譲渡(税率20.315%)の税率差
  • 確定申告の手続きと必要書類(譲渡所得の内訳書・減価償却費の計算資料等)
  • よくある申告ミスと対策(減価償却費の計算ミス・所有期間の判定間違い等)

(1) 投資用と居住用の違い

投資用マンション売却と居住用マンション売却の最大の違いは、居住用財産の特例が適用されないことです。

項目 投資用マンション 居住用マンション
3,000万円特別控除 適用不可 適用可能
10年超所有軽減税率 適用不可 適用可能
買換え特例 適用不可 適用可能
減価償却費の調整 必要(取得費から差し引く) 不要(居住用は減価償却しない)

重要なポイント: 投資用マンションは、賃貸経営中に減価償却費を経費計上しているため、売却時は取得費から減価償却累計額を差し引く必要があります。これにより譲渡所得が大きくなり、税負担が増えます。

出典:国税庁 - 譲渡所得の計算方法

(2) 確定申告が必要なケース

投資用マンションを売却した場合、利益が出ても損失が出ても確定申告が必要です。

確定申告が必要なケース:

  • 譲渡所得(売却益)が発生した場合 → 譲渡所得税を納付
  • 譲渡損失(売却損)が発生した場合 → 他の譲渡所得と損益通算可能

申告期限: 売却した年の翌年2月16日〜3月15日の間に確定申告を行います。

(3) 不動産所得と譲渡所得の違い

投資用マンションの賃貸経営で発生する収入は不動産所得、売却で発生する利益は譲渡所得として、それぞれ別に申告します。

項目 不動産所得 譲渡所得
発生タイミング 賃貸経営中の家賃収入 売却時の売却益
税率 累進課税(5%〜45%) 分離課税(20.315%または39.63%)
申告方法 毎年の確定申告 売却した年の確定申告
必要経費 管理費・修繕費・減価償却費等 仲介手数料・測量費・立退き費用等

出典:国税庁 - 不動産所得の必要経費

譲渡所得の計算方法

(1) 譲渡所得の計算式

投資用マンション売却の譲渡所得は、以下の計算式で求めます。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

計算例:

  • 売却価格:4,000万円
  • 取得費:2,500万円(購入価格3,000万円 - 減価償却累計額500万円)
  • 譲渡費用:150万円(仲介手数料等)
  • 譲渡所得:4,000万円 - 2,500万円 - 150万円 = 1,350万円

(2) 取得費の範囲

取得費には、以下の費用が含まれます。

取得費に含まれるもの:

  • 購入価格(建物・土地の代金)
  • 購入時の仲介手数料
  • 登記費用(登録免許税・司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • 印紙税
  • 測量費
  • 減価償却累計額を差し引く(重要)

注意点: 投資用マンションは、賃貸経営中に減価償却費を経費計上しているため、売却時は取得費から減価償却累計額を差し引く必要があります。

出典:国税庁 - 譲渡所得の計算方法

(3) 譲渡費用の範囲

譲渡費用には、売却のために直接かかった費用が含まれます。

譲渡費用に含まれるもの:

  • 売却時の仲介手数料
  • 売買契約書の印紙税
  • 測量費(売却のために実施した場合)
  • 立退き費用(売却のために借主に支払った場合)
  • 建物の取り壊し費用(売却のために取り壊した場合)

譲渡費用に含まれないもの:

  • 抵当権抹消費用(売却とは直接関係ない)
  • 賃貸経営中の修繕費(不動産所得の必要経費)
  • 引っ越し費用

(4) 賃貸中の売却での立退き費用

賃貸中のマンションを売却する場合、借主に支払った立退き費用は売却のために直接要した費用として譲渡費用に含めることができます。

譲渡費用に含められるケース:

  • 売却のために借主に立退きを求め、立退き料を支払った場合
  • 売却条件として「空室引渡し」が必要だった場合

不動産所得の必要経費となるケース:

  • 賃貸経営の一環として借主が退去し、立退き料を支払った場合(売却とは無関係)

減価償却費と取得費の調整

(1) 減価償却費とは

減価償却費は、建物の経年劣化を経費として計上する額です。投資用マンションの賃貸経営中、毎年の確定申告で減価償却費を必要経費として計上します。

減価償却の仕組み:

  • 建物は時間の経過とともに価値が減少する
  • その価値の減少分を毎年の経費として計上できる
  • 土地は減価償却の対象外(経年劣化しないため)

出典:国税庁 - 減価償却資産の償却方法の届出

(2) 減価償却累計額の計算

減価償却累計額は、過去に計上した減価償却費の合計です。

計算例(建物価格2,000万円、RC造マンション、耐用年数47年の場合):

  • 償却率:0.022(定額法)
  • 年間減価償却費:2,000万円 × 0.022 = 44万円
  • 10年間の減価償却累計額:44万円 × 10年 = 440万円

中古マンションの耐用年数: 中古で購入した場合、耐用年数は以下の計算式で求めます。

耐用年数 = 法定耐用年数 - 経過年数 + 経過年数 × 0.2

(3) 取得費から減価償却累計額を差し引く理由

投資用マンションは、賃貸経営中に減価償却費を経費計上することで税負担を軽減しています。その分、売却時には取得費から減価償却累計額を差し引く必要があります。

理由:

  • 減価償却費を経費計上した分、所得税・住民税が減少している
  • 売却時に減価償却累計額を取得費から差し引くことで、税の精算を行う

計算例:

  • 購入価格:3,000万円(建物2,000万円、土地1,000万円)
  • 減価償却累計額:500万円(10年間の累計)
  • 売却時の取得費:3,000万円 - 500万円 = 2,500万円

(4) 減価償却計算のミスによる影響

減価償却費の計算を誤ると、取得費が過大または過小になり、譲渡所得税の申告ミスにつながります。

よくあるミス:

  • 減価償却累計額を差し引かずに取得費を計算 → 譲渡所得が過小になり、追徴課税のリスク
  • 減価償却費の計算を誤り、累計額が過大 → 譲渡所得が過大になり、税負担が増える

短期譲渡と長期譲渡の税率差

(1) 短期譲渡所得(5年以下):税率39.63%

所有期間が5年以下の投資用マンションを売却した場合、短期譲渡所得として税率39.63%が適用されます。

税率の内訳:

  • 所得税:30%
  • 復興特別所得税:0.63%(所得税の2.1%)
  • 住民税:9%
  • 合計:39.63%

計算例(譲渡所得1,000万円の場合):

  • 税額:1,000万円 × 39.63% = 396.3万円

出典:国税庁 - 長期譲渡所得の税額の計算

(2) 長期譲渡所得(5年超):税率20.315%

所有期間が5年超の投資用マンションを売却した場合、長期譲渡所得として税率20.315%が適用されます。

税率の内訳:

  • 所得税:15%
  • 復興特別所得税:0.315%(所得税の2.1%)
  • 住民税:5%
  • 合計:20.315%

計算例(譲渡所得1,000万円の場合):

  • 税額:1,000万円 × 20.315% = 203.15万円

税率差の影響: 同じ譲渡所得1,000万円でも、短期譲渡と長期譲渡で約193万円の税額差が発生します。

(3) 所有期間の判定方法(売却年1月1日時点)

所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で行います。

判定例:

  • 2020年4月1日に購入、2025年6月1日に売却
  • 判定日:2025年1月1日
  • 所有期間:2020年4月1日〜2025年1月1日 = 4年9ヶ月 → 短期譲渡(5年以下)

注意点: 実際の所有期間が5年を超えていても、売却年の1月1日時点で5年以下であれば短期譲渡となります。

(4) 税率差による売却タイミングの考え方

短期譲渡(39.63%)と長期譲渡(20.315%)の税率差は約19%にも及びます。所有期間が5年に近い場合、売却タイミングを調整することで税負担を大幅に軽減できる可能性があります。

タイミング調整の例:

  • 2020年2月に購入した物件を2025年12月に売却予定
  • 2025年12月に売却 → 判定日2025年1月1日 → 所有期間4年11ヶ月 → 短期譲渡
  • 2026年1月に売却 → 判定日2026年1月1日 → 所有期間5年11ヶ月 → 長期譲渡
  • 1ヶ月遅らせるだけで税率が約19%低下

注意: 売却タイミングは税制だけでなく、市場環境や資金計画も考慮する必要があります。税率差のみで判断せず、総合的に検討しましょう。

確定申告の手続きと必要書類

(1) 譲渡所得の内訳書

投資用マンション売却時の確定申告では、譲渡所得の内訳書を作成します。

記載内容:

  • 売却価格
  • 取得費(購入価格 - 減価償却累計額)
  • 譲渡費用
  • 譲渡所得の計算
  • 短期・長期の区分

内訳書は、国税庁のホームページからダウンロードできます。

出典:国税庁 - 確定申告書等作成コーナー

(2) 売買契約書と取得時の書類

確定申告には、以下の書類が必要です。

書類名 用途 備考
売却時の売買契約書(コピー) 売却価格の証明 原本は保管
取得時の売買契約書(コピー) 取得費の証明 原本は保管
仲介手数料等の領収書 譲渡費用の証明 コピー提出
登記事項証明書 所有期間の証明 法務局で取得

(3) 減価償却費の計算資料

投資用マンション売却では、減価償却費の計算資料が重要です。

必要な資料:

  • 過去の確定申告書(減価償却費の計上履歴)
  • 減価償却費の計算明細書
  • 建物の購入価格と土地の購入価格の内訳
  • 耐用年数と償却率

注意点: 減価償却費の計算を誤ると、取得費が過大または過小になり、申告ミスにつながります。不安な場合は税理士に相談しましょう。

(4) 賃貸経営中の収支記録

賃貸経営中の収支記録も保管しておくことが推奨されます。

保管すべき記録:

  • 賃貸収入の明細(家賃・更新料等)
  • 必要経費の領収書(管理費・修繕費・減価償却費等)
  • 過去の確定申告書(不動産所得の申告履歴)

これらの記録は、減価償却費の計算や立退き費用の扱いを説明する際に役立ちます。

(5) 申告期限と提出先

申告期限: 売却した年の翌年2月16日〜3月15日

提出先: 納税地(住所地)の所轄税務署

提出方法:

  • 税務署窓口に直接提出
  • 郵送で提出
  • e-Tax(電子申告)

e-Taxを利用すれば、自宅から申告でき、添付書類の提出も省略できるため便利です。

よくある申告ミスと対策

(1) 減価償却費の計算ミス

よくあるミス:

  • 減価償却累計額を差し引かずに取得費を計算
  • 土地も含めて減価償却費を計算(土地は減価償却の対象外)
  • 耐用年数や償却率を誤って計算

対策:

  • 過去の確定申告書で減価償却費の計上履歴を確認
  • 建物と土地の購入価格を正確に分ける
  • 不安な場合は税理士に相談

(2) 所有期間の計算間違い

よくあるミス:

  • 購入日から売却日までの実際の期間で判定(誤り)
  • 売却年の1月1日時点での判定を忘れる

対策:

  • 所有期間は売却年の1月1日時点で判定することを確認
  • 登記事項証明書で取得日を正確に確認

(3) 居住用特例を誤って適用

よくあるミス:

  • 投資用マンションに3,000万円特別控除を適用(誤り)
  • 一部を自己居住していた場合の按分計算を忘れる

対策:

  • 投資用マンションは居住用財産の特例が適用されないことを確認
  • 自己居住と賃貸を併用していた場合は、按分計算が必要

(4) 譲渡費用の計上漏れ

よくあるミス:

  • 仲介手数料以外の譲渡費用を計上し忘れる
  • 立退き費用を譲渡費用に含めるべきケースで、不動産所得の必要経費に計上

対策:

  • 売却のために直接かかった費用をリストアップ
  • 測量費・立退き費用・印紙税等も譲渡費用に含める
  • 領収書を保管し、申告時に添付

まとめ

投資用マンション売却時の確定申告では、居住用財産の特例(3,000万円特別控除等)が適用されないため、税負担が大きくなる傾向があります。譲渡所得の計算では、取得費から減価償却累計額を差し引く必要があり、これを忘れると申告ミスにつながります。

短期譲渡(所有期間5年以下)と長期譲渡(所有期間5年超)では税率が約19%も異なるため、売却タイミングの調整により税負担を大幅に軽減できる可能性があります。所有期間の判定は売却年の1月1日時点で行うため、実際の所有期間が5年を超えていても短期譲渡となる場合があるので注意が必要です。

確定申告には、譲渡所得の内訳書、売買契約書、減価償却費の計算資料などが必要です。減価償却費の計算ミスや所有期間の判定間違いなど、よくある申告ミスを避けるため、不安な場合は税理士に相談することが推奨されます。

賃貸経営中の収支記録や過去の確定申告書を保管しておくことで、売却時の申告がスムーズになります。e-Tax(電子申告)を利用すれば、自宅から申告でき、添付書類の提出も省略できるため便利です。

よくある質問

Q1投資用マンション売却でも3000万円特別控除は使えますか?

A1投資用(賃貸用)マンションは居住用財産ではないため、3,000万円特別控除は適用できません。居住用財産の特例(3,000万円特別控除、10年超所有軽減税率、買換え特例等)は自己居住用にのみ適用されます。投資用マンションは通常の譲渡所得税(短期39.63%または長期20.315%)が適用されます。

Q2減価償却費はどう計算に影響しますか?

A2投資用マンションは賃貸経営中に減価償却費を経費計上しているため、売却時は取得費から減価償却累計額を差し引く必要があります。これにより譲渡所得が大きくなり、税負担が増えます。例えば、購入価格3,000万円で減価償却累計額が500万円の場合、売却時の取得費は2,500万円となります。

Q3所有期間5年の判定はいつ時点ですか?

A3売却した年の1月1日時点での所有期間で判定します。5年以下は短期譲渡(税率39.63%)、5年超は長期譲渡(税率20.315%)となります。実際の所有期間が5年を超えていても、売却年の1月1日時点で5年以下であれば短期譲渡となるため、売却タイミングに注意が必要です。

Q4賃貸中に売却する場合、立退き費用は譲渡費用に含められますか?

A4売却のために借主に支払った立退き費用は、売却に直接要した費用として譲渡費用に含めることができます。ただし、通常の賃貸経営の一環として借主が退去し、立退き料を支払った場合(売却とは無関係)は、不動産所得の必要経費となります。売却目的かどうかで扱いが異なります。

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