住み替えで戸建てを売却したときの確定申告を完璧に理解する
住み替えで戸建てを売却した場合、譲渡所得が発生すれば確定申告が必要です。特に、3,000万円特別控除・買換え特例・譲渡損失の繰越控除など複数の特例があり、どれを選ぶかで税負担が大きく変わります。また、新居の住宅ローン控除との併用制限もあるため、長期的な視点での判断が重要です。
この記事でわかること
- 住み替えで戸建て売却時の確定申告が必要なケースと申告期限
- 譲渡所得の計算方法(取得費・譲渡費用・所有期間の判定)
- 3,000万円特別控除と買換え特例の選択基準と併用制限
- 譲渡損失が出た場合の損益通算・繰越控除の活用方法
- 新居の住宅ローン控除との関係と長期的な試算の必要性
住み替えで戸建てを売却した際の確定申告の基礎知識
確定申告が必要なケース
以下のいずれかに該当する場合、確定申告が必要です。
- 譲渡所得(利益)が発生した場合
- 3,000万円特別控除や買換え特例を適用する場合(控除後の所得がゼロでも申告必須)
- 譲渡損失の損益通算・繰越控除を適用する場合
会社員で給与所得のみの方も、不動産売却があれば自分で確定申告が必要です。
住み替え時の特例の全体像
住み替えで戸建てを売却する場合、以下の特例が利用できます(国税庁「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」より)。
特例 | 適用条件 | 効果 |
---|---|---|
3,000万円特別控除 | 居住用財産の売却 | 譲渡所得から3,000万円控除 |
買換え特例 | 買換え資産が高額 | 譲渡益の課税を将来に繰延べ |
譲渡損失の繰越控除 | 売却損+住宅ローン残高 | 給与所得等と損益通算、3年間繰越 |
重要な注意点:3,000万円控除と買換え特例は選択適用(併用不可)です。どちらが有利かは、譲渡益の額や新居の購入価格によって異なります。
新居の住宅ローン控除との関係
旧居売却で3,000万円控除を適用すると、新居の住宅ローン控除が3年間使えなくなります(売却年の前後2年間)。
一方、買換え特例を選択した場合、新居の住宅ローン控除との併用が可能な場合があります。長期的な税負担を試算し、どちらが有利か判断する必要があります。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得の基本計算式
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
売却価格:買主から受け取った金額(固定資産税の精算金含む)
取得費:戸建ての購入価格 + 購入時の諸費用 - 建物の減価償却費
譲渡費用:売却のために直接かかった費用(仲介手数料・測量費・登記費用等)
取得費の範囲と不明時の概算取得費5%
取得費に含められる費用(国税庁「譲渡所得の計算のしかた」より)
- 購入代金(土地・建物)
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用(登録免許税・司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 建物の建築代金・設計料(新築の場合)
- 増改築・リフォーム費用(一定のもの)
建物の減価償却
建物は経年劣化するため、取得費から減価償却費を差し引きます。
減価償却費 = 建物購入価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
木造戸建ての償却率:0.031(非事業用、耐用年数33年)
取得費が不明な場合
購入時の売買契約書等がない場合、概算取得費として売却価格の5%を取得費とします。ただし、税負担が極めて大きくなるため、可能な限り契約書等を探すことをお勧めします。
譲渡費用の範囲
譲渡費用として認められる主な項目
- 仲介手数料
- 印紙税(売買契約書)
- 登記費用(抵当権抹消等)
- 測量費
- 建物解体費(更地渡しの場合)
- 立退料(賃貸中の場合)
譲渡費用として認められない項目
- 修繕費・リフォーム費用(売却のためでない)
- 引越し費用
- 固定資産税
短期・長期譲渡所得の税率
譲渡所得は、所有期間によって税率が異なります(国税庁「譲渡所得の計算のしかた」より)。
区分 | 所有期間 | 税率 |
---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63%(所得税30.63%+住民税9%) |
長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
所有期間の判定:譲渡した年の1月1日時点で5年超か否かで判定します(取得日・売却日ではありません)。
例:2018年7月購入、2024年6月売却の場合 → 2024年1月1日時点で5年6ヶ月だが、判定は1月1日時点なので短期譲渡(5年以下)
適用できる特別控除と買換え特例
3,000万円特別控除の適用要件
居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
主な適用要件
- 自分が住んでいた住宅であること
- 住まなくなってから3年後の12月31日までに売却
- 売却先が配偶者や親子など特別な関係でないこと
- 前年・前々年に同特例を適用していないこと
計算例
譲渡所得3,500万円、所有期間7年(長期)の場合
- 3,000万円控除後:3,500万円 - 3,000万円 = 500万円
- 税額:500万円 × 20.315% = 約101万円
控除がない場合:3,500万円 × 20.315% = 約711万円 → 約610万円の節税
買換え特例の仕組みと要件
買換え特例は、旧居より高額な新居に買い換えた場合、譲渡益への課税を将来に繰り延べられる制度です(国税庁「特定の居住用財産の買換え特例」より)。
主な適用要件
- 売却価格1億円以下
- 所有期間10年超、居住期間10年以上
- 新居の床面積50㎡以上
- 売却年の前年から翌年までに新居を取得
仕組み
- 新居の購入価格 ≧ 旧居の売却価格 → 譲渡益全額を繰延べ
- 新居の購入価格 < 旧居の売却価格 → 差額分のみ課税
重要:買換え特例は課税の繰延べであり、免除ではありません。新居を将来売却する際、旧居の譲渡益も合算して課税されます。
どちらを選ぶべきか(有利判定)
ケース | 有利な選択 |
---|---|
譲渡益3,000万円以下 | 3,000万円控除(課税なし) |
譲渡益3,000万円超、新居が高額 | 買換え特例(繰延べ) |
譲渡益3,000万円超、新居が低額 | 税理士に試算依頼 |
新居の住宅ローン控除を優先したい場合
3,000万円控除を使うと新居の住宅ローン控除が3年間使えなくなるため、買換え特例を選ぶ方が有利な場合があります。ただし、買換え特例も住宅ローン控除との併用に制限があるケースがあるため、税理士に相談することをお勧めします。
併用不可の注意点
- 3,000万円特別控除と買換え特例は選択適用(同時に使えない)
- 3,000万円控除を使うと、新居の住宅ローン控除が3年間使えない
- 買換え特例を使うと、将来の売却時に課税が繰り延べられるだけ
売却損が出た場合の損益通算
損益通算の仕組み
住み替えで売却損が出た場合、一定の要件を満たせば、給与所得等と損益通算できます(国税庁「譲渡損失が生じた場合の損益通算及び繰越控除」より)。
例:売却損1,000万円、給与所得500万円の場合
- 損益通算後の所得:500万円 - 1,000万円 = 0円(マイナス500万円)
- 所得税・住民税:0円
- 残りのマイナス500万円は翌年以降3年間繰越可能
適用要件(住宅ローン残高等)
主な要件
- 所有期間5年超
- 売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得
- 新居に住宅ローン(10年以上)がある
- 旧居に売却時点で住宅ローン残高がある、または新居取得のためのローンがある
注意点:売却損の全額ではなく、住宅ローン残高 - 売却価格が損益通算の対象です。
繰越控除(3年間)の活用
損益通算で控除しきれなかった損失は、翌年以降3年間繰り越せます。
例:売却損2,000万円、給与所得500万円の場合
- 売却年:500万円 - 2,000万円 = マイナス1,500万円 → 所得税・住民税0円
- 翌年:給与所得500万円 - 1,500万円 = マイナス1,000万円 → 所得税・住民税0円
- 翌々年:給与所得500万円 - 1,000万円 = マイナス500万円 → 所得税・住民税0円
- 3年後:給与所得500万円 - 500万円 = 0円 → 所得税・住民税0円
最長4年間(売却年+3年間)、所得税・住民税が0円になる可能性があります。
必要な添付書類
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書(旧居・新居)
- 登記事項証明書(旧居・新居)
- 住宅ローンの年末残高証明書(新居)
- 住宅借入金等の残高証明書(旧居、売却時点)
必要書類の準備
確定申告書第三表
譲渡所得は分離課税のため、確定申告書第一表・第二表に加えて第三表を提出します。
譲渡所得の内訳書
不動産の売却・取得の詳細を記入する明細書です。売買契約書をもとに、売却価格・取得費・譲渡費用を記載します。
売買契約書・領収書
旧居
- 売買契約書(今回の売却)
- 売買契約書(購入時)
- 仲介手数料の領収書(売却時・購入時)
- 登記費用の領収書
新居
- 売買契約書(買換え特例・損益通算適用の場合)
買換え特例適用時の追加書類
- 新居の登記事項証明書
- 買換え資産の明細書
- 居住開始日を証明する書類(住民票等)
損益通算時の添付書類
- 新居の住宅ローン年末残高証明書
- 旧居の住宅ローン残高証明書(売却時点)
- 居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
確定申告の手続きと期限
申告期限(翌年2月16日~3月15日)
不動産を売却した年の翌年2月16日~3月15日が申告期間です。期限を過ぎると、無申告加算税(本税の15-20%)と延滞税が課されます。
例:2024年に売却した場合 → 2025年2月16日~3月15日に申告
申告書の記入方法
手順
- 譲渡所得の内訳書を作成(売却価格・取得費・譲渡費用を記入)
- 確定申告書第三表に譲渡所得を記入
- 特例適用の場合、該当欄にチェック
- 第一表・第二表に合算した所得を記入
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、画面の指示に従って入力するだけで自動計算されます。
オンライン申告(e-Tax)の活用
e-Taxを利用すると、自宅からオンラインで申告できます。マイナンバーカードとICカードリーダー(またはスマホ)があれば、24時間いつでも申告可能です。
メリット
- 税務署に行く必要がない
- 還付金の振込が早い(3週間程度)
- 添付書類の提出が一部省略可能
よくある申告ミスと対策
ミス | 正しい対応 |
---|---|
取得費の計算で減価償却を忘れる | 建物は減価償却後の額を取得費とする |
所有期間の判定を売却日で行う | 譲渡年の1月1日時点で判定 |
特例の併用制限を知らずに申告 | 3,000万円控除と買換え特例は選択適用 |
控除後の所得がゼロで申告しない | 特例適用には確定申告が必須 |
まとめ
住み替えで戸建てを売却した際の確定申告は、譲渡所得の計算・特例の選択・新居の住宅ローン控除との関係など、複雑な判断が必要です。
重要ポイント
- 3,000万円控除と買換え特例は選択適用(併用不可)
- 3,000万円控除を使うと新居の住宅ローン控除が3年間使えない
- 譲渡損失がある場合、損益通算・繰越控除で給与所得と相殺可能
- 確定申告は翌年2月16日~3月15日が期限(厳守)
- 特例適用には、控除後の所得がゼロでも確定申告が必須
長期的な税負担を試算し、必要に応じて税理士に相談することをお勧めします。国税庁の確定申告書等作成コーナーを活用すれば、自分でも申告可能です。
よくある質問
Q1. 3,000万円控除と買換え特例はどちらが有利ですか?
A. 譲渡益が3,000万円以下なら3,000万円控除が有利(課税なし)です。譲渡益が大きく新居が高額な場合は買換え特例で課税繰延が有利な場合もありますが、買換え特例は繰延であり免除ではありません。税理士に具体的な試算を依頼すべきです。
Q2. 旧居の3,000万円控除と新居の住宅ローン控除は併用できますか?
A. 原則併用不可です。旧居売却で3,000万円控除を使うと、新居購入の住宅ローン控除が3年間使えません(売却年の前後2年間)。逆も同様です。どちらが有利か計算が必要です。買換え特例なら住宅ローン控除との併用が可能な場合もあります。
Q3. 売却損が出た場合はどうなりますか?
A. 一定の要件(住宅ローン残高等)を満たせば、給与所得等と損益通算できます。控除しきれない損失は翌年以降3年間繰越可能です。ただし新居購入と同一年または前年に売却した場合等、要件が複雑です。国税庁サイトで要件を確認すべきです。
Q4. 買換え特例を使うと将来どうなりますか?
A. 課税が繰り延べられるだけで免除ではありません。新居を将来売却する際、旧居の譲渡益も合算して課税されます。長期保有前提なら有利ですが、短期売却予定なら3,000万円控除の方が有利な場合もあります。将来の売却計画も考慮すべきです。
Q5. 確定申告を忘れた場合はどうなりますか?
A. 期限後申告となり、無申告加算税(本税の15-20%)と延滞税が課されます。特例を使えなくなる可能性もあります。気づいた時点で速やかに申告すべきです。期限内に申告できない場合は、税務署に相談し延長手続きを検討してください。